神戸地方裁判所 昭和52年(行ウ)31号 判決 1984年4月18日
神戸市灘区水道筋二丁目二四番地
原告
稲泉実豊
右訴訟代理人弁護士
持田穣
同
羽柴修
同市同区泉通二丁目一番地
被告
灘税務署長
右指定代理人
田中治
同
池田文生
同
国友純司
同
幸田郁夫
同
藤本貞雄
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対して昭和五〇年七月二日付けでした、原告の昭和四七年分所得税の更正処分のうち、所得金額二六〇万円、税額二六万一一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
2 被告が原告に対して昭和五〇年七月二日付けでした、原告の昭和四八年分所得税の更正処分のうち、所得金額一二五三万四〇〇〇円、税額四二四万三〇〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件各処分に至る経緯
(一) 原告は、不動産仲介業を営む者であるが、昭和四七年分及び昭和四八年分(以下、「本件係争各年分」ともいう。)の各所得税につき、いずれも法定期限内に被告に対し、それぞれ別表(一)及び(二)の各確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和五〇年七月二日付けで別表(一)及び(二)の各更正欄記載のとおりの更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。
(二) そこで、原告は、昭和五〇年九月二日付けで被告に対し、本件係争各年分の所得税について異議申立てをしたところ、被告は、同年一二月一日付けで昭和四七年分についてはこれを棄却したものの、昭和四八年分については、別表(二)異議決定欄記載のとおり、これを一部取り消す旨の決定をした(右取消し後の重加算税賦課決定処分を以下、「本件重加算税賦課決定処分」という。)。
(三) 更に、原告は、昭和五一年一月六日付けで訴外国税不服審判所(以下、「国税不服審判所」という。)長に対し、本件係争各年分の所得税について審査請求をしたところ、同所長は、昭和五二年八月二日付けで昭和四七年分についてはこれを棄却したものの、昭和四八年分については、別表(二)審査裁決欄記載のとおり、これを一部取り消す旨の裁決をした(前記昭和四七年分の更正処分と右裁決によって取り消された後の昭和四八年分の更正決定とを合わせて、以下、「本件各更正処分」、昭和四七年分の過少申告加算税賦課決定処分と右裁決によって取り消された後の昭和四八年分の過少申告加算税賦課決定処分とを合わせて、以下、「本件各過少申告加算税賦課決定処分」という。そして、本件各更正処分、本件各過少申告加算税賦課決定処分及び本件重加算税賦課決定処分を合わせて、以下、「本件各処分」という。)。
2 本件各処分の違法
しかし、次に述べるとおり、本件各処分は違法であり、取り消しを免れない。
(一) 本件各更正処分について
(1) 昭和四七年分について
右更正処分には、以下のとおり、原告の昭和四七年分の必要経費を過少に計上した違法が存在する。
(イ) 支払手数料について
原告は、別表(三)記載の支払手数料のほか、次に述べる支払手数料合計三一五万円を昭和四七年中に支出しているから、その合計は、六四四万円となる。
<1> 西に対する一七五万円の支払について
原告は、昭和四七年に神戸市兵庫区(当時、現在は同市北区)有野町二郎字乞喰谷八九八-一ほかの山林(以下、「有野町の物件」という。)の売買の仲介(売主訴外前中義光(以下、「前中」という。)ほか五名、買主訴外兵庫栄養専門学校(以下、「兵庫栄養専門学校」という。))をして、同校から五三六万七八三〇円の仲介手数料を取得したが、同年一二月二七日、右売買に関与した訴外西伝太郎(以下、「西」という。)に対し、右仲介手数料の中から一七五万円を手数料として支払った。
すなわち、原告は、兵庫栄養専門学校側の仲介人として右売買の成立に関与したので、これによって前記のとおりの仲介手数料を取得したが、そのうち一七九万円を訴外温井俊児ほか二名に手数料として支払ったのち、その残額を西と原告とでほぼ折半することにして、西に対し、一七五万円を交付したものである。
ところが、被告は、このうちの六〇万円を支払手数料として認めたものの、残る一一五万円はこれを認めなかった。
よって、必要経費としては、一七五万円全額が認められるべきである。
<2> 柴原及び堀に対する各二〇万円の支払いについて
原告は、神戸市兵庫区滝山町の不動産(以下、「滝山町の物件」という。)の売買の仲介(売主訴外松元志げ(以下、「松元」という。)ほか二名、買主訴外平和産業株式会社(以下、「平和産業」という。))をしたが、その際右売買に関与した訴外柴原正一(以下、「柴原」という。)及び同堀喜八郎(以下、「堀」という。)に対し、それぞれ二〇万円を手数料として支払った。
すなわち、原告は、右売買をまとめるについて、隣接地の所有者である訴外上野政一との交渉を右売買に関与していた業者とは別に、堀に担当させたことにより、同人に対して二〇万円を支払ったものである。また、柴原は、右売買の成立に当たって仲介の労をとったため、原告が他の業者とともに、同人に二〇万円を支払ったものである。
よって、これらの各二〇万円は、いずれも支払手数料として必要経費に計上されるべきものである。
<3> 前中に対する一〇〇万円の支払いについて
前中は、前記有野町の物件の売主の一人であったが、昭和四七年一二月二五日の右物件の売買代金支払期日の当日になって、売渡しに異議を唱えはじめたため、原告は、やむなく、原告が兵庫栄養専門学校から得た前記仲介手数料の中から、「価格調整金返戻金」の名目で一〇〇万円を右前中に支払ったものである。
以上のとおり、右一〇〇万円は、原告の取得した手数料から原告の負担において支払われたものであるから、支払手数料として必要経費に計上されるべきである。
(ロ) 調査費用について
<1> 雇用人に対する六〇万円の支払いについて
訴外山家清治及び同藤原ハナ(以下、それぞれ「山家」及び「藤原」という。)は、いずれも昭和四〇年ころから現在に至るまで、訴外中山太一郎及び同中村正夫(以下、それぞれ「中山」及び「中村」という。)は、いずれも昭和四七年だけ、それぞれ原告が使用人として雇い入れ、不動産売買の仲介等原告の補助的業務に従事させているものである。
ところで、原告は、同人らの賃金については、固定給を支払うのではなく、売買が成立した時点における出来高に応じてその賃金を支払っているのであるが、それとは別に、月々交通費又は調査費を支払っている。そして、昭和四七年中には、山家に対して二五万円、藤原に対して一五万円、中山及び中村に対して各一〇万円を支払った。
<2> 渡辺に対する一〇〇万円の支払いについて
訴外渡辺徳盛(以下、「渡辺」という。)は、大阪市に本社を有する訴外株式会社大和殖産の常務取締役であったところ、昭和四七年から昭和四八年にかけて、原告とともに神戸市須磨区多井畑字野土一三番地ほかの田畑約一五〇〇〇坪(以下、「多井畑の物件」という。)の土地買収計画を実施した。そして、右渡辺は、昭和四七年二月ころから、神戸市須磨区所在の旅館寿楼に宿泊して、右買収の準備のために企画設計、調査測量、現地交渉などを開始したが、原告は、昭和四七年度中の渡辺の右調査のための宿泊代合計一〇〇万円を支払った。
ところで、不動産仲介業にあっては、その仲介にかかる売買契約が成立してはじめて、手数料などの収入があるのであって、その準備段階においては何らの収入も得られない。そして、右の売買計画においては、売買当事者間の仲介を行うのは原告となっていたこともあって、原告が同年一二月一日付けで渡辺との間で交わした業務提携のための覚書(以下、「本件覚書」という。)においては、多井畑の物件の買収準備費用として支払った前記一〇〇万円は、原告の負担とすることとされた。
<3> 従って、右<1>及び<2>を合計した一六〇万円は、調査費用として必要経費に計上されるべきである。
(ハ) 印紙代について
原告は、前記有野町の物件の売買の際、自ら印紙代四万円を負担した。
よって、右四万円も必要経費に計上されるべきである。
(2) 昭和四八年分について
右更正処分には、以下のとおり、原告の昭和四八年分の収入金額を過大に計上するとともに、必要経費を過少に計上した違法が存在する。
(イ) 受取手数料について
訴外浜田毅(以下、「浜田」という。)は、東京都中野区に居住する者であるところ、同人は、その所有にかかる神戸市須磨区須磨寺三丁目所在の約一三〇坪の宅地及びその地上建物(以下、「須磨寺の物件」という。)の売買の仲介を昭和四八年初めころ、原告に依頼した。
そこで、原告は、浜田に代わって原告自身又は第三者に依頼して、右物件の売買契約を成立させるために右土地の測量、購入希望者との交渉をし、更に、打合わせなどのために何度も東京まで往復したが、結局、右物件については売買契約が成立するには至らなかった。
しかし、原告は、浜田に代わって前記旅費及び依頼人に対する費用等合計七〇万円以上を出捐していたので、浜田から右立替金の弁済として、七〇万円を受領したのである。
よって、右七〇万円は、原告の収入として計上されるべきではない。
(ロ) 旅費交通費について
被告は、昭和四八年分における原告の必要経費としての旅費交通費を二五四万円としている。
しかし、実際の旅費交通費は二七八万五〇〇〇円であるから、更に二四万五〇〇〇円が認められるべきである。
(ハ) 支払手数料について
原告は、被告が認めている八二〇万円の支払手数料のほか、次に述べる支払手数料合計一五〇〇万円を昭和四八年中に支出しているから、支払手数料は、合計で二三二〇万円が認められるべきである。
<1> 高原に対する五〇〇万円の支払いについて
原告は、昭和四八年五月二四日、訴外高原丘風こと柳屋雅之助(以下、「高原」という。)に対し、原告が仲介をした神戸市垂水区多聞町字小束山八六八-六八ほか五筆の不動産(以下、「小束山の物件」という。)の売買(売主訴外中井清(以下、「中井」という。)、買主訴外住友不動産株式会社)に関し、中井から売買手数料として受領した二五〇〇万円の中から右売買に関与した高原に対し、支払手数料として五〇〇万円を支払った。
<2> 渡辺に対する一〇〇〇万円の支払いについて
原告と渡辺とは、両名間の本件覚書第四条に基づき、神戸市須磨区蟻が谷埋立造成土砂搬入事業を将来両名で共同して行うこと及び当時渡辺が関係していた訴外有園建設株式会社(以下、「有園建設」という。)を右事業に関与させること並びに共同事業による利益は、原告と渡辺とで折半することを合意した。そして、原告は、右約定に基づいて、渡辺に対し、小束山の物件に関して得た手数料のうち一〇〇〇万円を支払うことを約した。
そこで、原告は、右約定に従い、同月二六日ころ、渡辺に対して一〇〇〇万円を支払った。
(3) 従って、原告の昭和四七年分及び昭和四八年分の各総所得金額は、それぞれ別表(四)及び(五)の各原告主張額欄記載のとおり、二四八万七二七四円及び一二二〇万〇一八二円であるから、本件各更正処分中、右の各金額を超える所得金額を認めた部分は、いずれも違法である。
(二) 本件各過少申告加算税賦課決定処分について
原告の本件係争各年分の各総所得金額は、それぞれ前述のとおりであるが、これらは、いずれも原告が本件係争各年分の各所得税についてした各確定申告額を下回るものである。
従って、原告が本件係争各年分の各所得税について過少申告をしたという事実は存在しないから、被告のした本件各過少申告加算税賦課決定処分は、いずれも違法である。
(三) 本件重加算税賦課決定処分の違法について
(1) 被告は、原告が前記高原に対する五〇〇万円の支払手数料について、所得計算の基礎となる事実を仮装し、これに基づいて不当に所得税額を免れようとしたものであるとして、本件重加算税賦課決定処分を行った。
(2) しかしながら、高原に対する手数料の支払いは現実にされているから、被告は、この点について事実誤認をしている。
(3) よって、本件重加算税賦課決定処分は違法である。
3 以上のとおりであるから、原告は、本件各更正処分のうち、確定申告額を超える額に関する部分、本件各過少申告加算税賦課決定処分及び本件重加算税賦課決定処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項の事実は認める。
2 請求原因第2項について
(一) 同項冒頭部分の主張は争う。
(二) 同項(一)について
(1) 同(1)について
(イ) 同冒頭部分の主張は争う。
(ロ) 同(イ)について
<1> 同冒頭部分の主張は争う。
<2> 同<1>第一段のうち、原告が西に対して支払った手数料が一七五万円であるとの点は否認し、その余の事実は認める。同第二段の事実は否認する。同第三段の事実は認める。同第四段の主張は争う。
<3> 同<2>の事実は否認する。
<4> 同<3>のうち、前中が有野町の物件の売主の一人であること及び前中に対して一〇〇万円が支払われたことは認めるが、これを原告の負担において支払ったとの点は否認し、その余は争う。
(ハ) 同(ロ)及び(ハ)の各事実はいずれも否認する。
(2) 同(2)について
(イ) 同冒頭部分の主張は争う。
(ロ) 同(イ)のうち、原告が浜田から七〇万円を受領したことは認めるが、その趣旨が立替金の返済であるとの点は否認し、その余は争う。
(ハ) 同(ロ)前段の事実は認める。同後段のうち、実際の旅費交通費が二七八万五〇〇〇円であるとの点は否認し、その余の主張は争う。
(ニ) 同(ハ)について
<1> 同冒頭部分の主張は争う。
<2> 同<1>のうち、高原が小束山の物件の売買に関与したこと及び原告が同人に五〇〇万円を支払ったことは否認する。
<3> 同<2>は否認する。
(4) 同(3)の主張は争う。
(二) 同項(二)の主張は争う。
(三) 同項(三)の(1)の事実は認め、同(2)及び(3)の各主張はいずれも争う。
三 被告の主張
1 本件各処分に至る経緯について
(一) 原告は、肩書住所地において「出雲商事」の屋号で不動産仲介業を営む者であるが、本件係争各年分の所得税に関する確定申告書を法定期限内に被告に対して提出した。右申告内容は、別表(一)及び(二)の各確定申告欄記載のとおりである。
(二) 被告職員は、昭和四八年一〇月ころから原告に対する所得税調査を始め、原告方に再三赴き、原告に対して帳簿書類の提示を求めた。しかし、原告は、昭和四九年一二月ころ、原告の妻を通じて昭和四八年分の事業に関する領収書等の断片的資料を提示しただけで、終始多忙等を理由に調査に応じなかったので、被告職員は、やむなく原告の取引先等への反面調査を行って、原告の係争各年分の事業所得金額を算定した。その結果、被告は、原告の申告所得金額を過少と認め、昭和五〇年七月二日付けで原告に対して別表(一)及び(二)の各更正欄記載のとおりの処分を行った。
(三) 原告は、右更正処分等を不服として、同年九月二日付けで異議申立てをし、その調査の際に昭和四七年分の収支計算書のほか、原処分調査時に提示のなかった資料の一部を提示した。そこで、異議審理庁である被告は、再調査を行い、同年一二月一日付けで、昭和四七年分については請求を棄却し、昭和四八年分については別表(二)の異議決定欄記載のとおり、原処分の一部を取り消す旨の異議決定をした。
(四) 原告は、右異議決定を不服として昭和五一年一月六日付けで国税不服審判所長に対して審査請求を行い、この調査審理の段階で本件係争各年分の不動産取引台帳等を提出した。そこで、同所長は、調査審理の結果、昭和五二年八月二日付けで、昭和四七年分については請求を棄却し、昭和四八年分については別表(二)審査裁決欄記載のとおり、異議決定後の額の一部を取り消す旨の裁決をした。
2 本件各処分の適法性について
(一) 本件各更正処分について
(1) 昭和四七年分について
(イ) 収入金額について
原告の昭和四七年分の収入金額(受取手数料)は、一二四七万三八三〇円である。
(ロ) 必要経費について
<1> 原告の同年分の必要経費のうち、租税公課、旅費交通費、通信費、接待交際費、損害保険料、修繕費、消耗品費、減価償却費、用紙代及び地代家賃は、それぞれ別表(四)の被告主張額欄記載のとおりであり、その合計は、一九〇万六五五六円である。
<2> 支払手数料について
<イ> 西に対する一七五万円について
原告が有野町の物件の売買に関し、西に手数料として交付した金額は、六〇万円であり、同人に一七五万円を支払った事実は存在しない。
<ロ> 柴原に対する二〇万円について
柴原は、元訴外安宅興産株式会社(訴外安宅産業株式会社の子会社で不動産部門を担当していた会社、以下、「安宅興産」という。)の社員であり、滝山町の物件の売買については、右売買の買主である平和産業側の仲介人である安宅興産の社員として、右売買に関与したものである。このことに照らせば、原告が柴原に手数料を支払う理由は全くなく、更に、同人が二〇万円を受け取ったことを証明する何らかの書証も存在しない。
よって、原告が柴原に二〇万円を支払った事実は存在しない。
<ハ> 堀に対する二〇万円について
堀は、滝山町の物件の売買には関与しておらず、原告が堀に二〇万円を支払った事実も存在しない。
<ニ> 前中に対する一〇〇万円について
原告が前中に支払った一〇〇万円は、前中において、有野町の物件中同人所有の神戸市兵庫区(当時、現在は北区)有野町二郎乞喰谷八九九番一山林を兵庫栄養専門学校に売り渡した際の譲渡代金の一部であり、同人は、これを同校の代理人である原告から受け取ったものである。
よって、右一〇〇万円は、原告が負担して支払った手数料ではない。
<ホ> その他、原告が同年中に支払った手数料は、別表(三)記載のとおりであり、その合計は三二九万円である。
<ヘ> 従って、原告の同年分の必要経費としての支払手数料は、三八九万円である。
<3> 調査費用について
<イ> 山家に対する二五万円について
原告が山家に対して調査費用として支払った旨主張する二五万円は、宝塚市鹿塩字高丸一の土地の売買(売主訴外伸洋産業有限会社、買主同兵庫不動産株式会社)の仲介に山家が関与したことから、原告において同人に支払った仲介手数料一七五万円の一部である。
すなわち、右の一七五万円のうち一五〇万円は同年八月二九日に、二五万円は同年一二月二五日にそれぞれ支払われているが、この後者の支払いが、原告が本件において主張する二五万円である。そして、右一七五万円は、いずれも別表(三)記載1のとおり、支払手数料として経費に計上されているものである。
よって、原告の右主張は理由がない。
<ロ> 藤原に対する一五万円について
原告が藤原に調査費用を支払ったことを具体的に基礎付ける資料はない。また、仮に原告が同人に対して右金員を支払った事実があるとしても、右支払年度を特定することはできない。
よって、いずれにしても、右一五万円は、昭和四七年分の必要経費として計上されるべきものではない。
<ハ> 中山及び中村に対する各一〇万円について
原告において、右両名に対してそれぞれ一〇万円を支払ったことを裏付ける資料はない。また、中村については、原告のもとで仕事をしていたのかどうかも不明である。
よって、右各金員は、必要経費として計上されるべきものではない。
<ニ> 渡辺に対する一〇〇万円について
多井畑の物件の買収は、豊田グループの不動産会社である訴外富士工務店(以下、「富士工務店」という。)がこれを渡辺に依頼し、同人の名義で土地買収が進められたものであるが、同人は、右業務を原告にも依頼し、両名が共同して買収手続にあたったものである。
右の経緯及び渡辺と原告の立場からみても明らかなように、渡辺としては、右業務遂行に必要な費用は、当然右富士工務店から支払ってもらえる筋合いの費用であり、これを原告が渡辺のために支払ったというようなことは、到底考えられない。
また、仮に、原告が渡辺のために一〇〇万円の費用を支払ったとしても、これらの金員は、仮払金又は立替金というべきものであり、最終的には手数料と差引き精算される性格のものである。ところが、原告は、昭和四八年に多井畑の物件の買収に関し、渡辺に対し手数料四〇〇万円を支払っているが、その際買収に要した費用の精算をした事実はない。
よって、これらの事実によると、前記一〇〇万円は、原告の主張するような業務遂行のための費用とは考えられない。
<ホ> 以上のとおりであるから、昭和四七年分の必要経費として計上されるべき調査費用は、存在しない。
<4> 印紙代について
通常、不動産売買契約書に貼付する印紙代は、売買の当事者が負担するものであるところ、原告が有野町の物件についてのみ印紙代を負担しなければならない特別の理由は存しない。
よって、仮に、右売買の際の印紙代を原告が支払ったとしても、必要計費として計上されるべきものではない。
<5> 従って、原告の同年分の必要経費は、右<1>及び<2>の各金額を合計した五七九万六五五六円である。
(ハ) 原告は、昭和四七年中には、事業所得以外の所得はなかった。
(ニ) よって、原告の昭和四七年分の総所得金額は、前記(イ)から(ロ)の金額を控除した六六七万七二七四円である。
(2) 昭和四八年分について
(イ) 収入金額について
<1> 原告は、昭和四八年中に小束山の物件(四〇〇〇万円)及び多井畑の物件(七八〇万円)に関し、合計四七八〇万円の手数料を受け取った。
<2> 原告は、浜田所有の神戸市垂水区清水が丘一丁目一七九ノ一二八山林(以下、「消水が丘の物件」という。)を昭和四八年六月一四日に訴外株式会社ニッチ(代表者原告、以下、「ニッチ」という。)に売却した際の仲介手数料として浜田から七〇万円を受領した。
<3> よって、原告の同年分の収入金額は、前記<1>及び<2>の金額を合計した四八五〇万円である。
(ロ) 必要経費について
<1> 原告の昭和四七年分の必要経費のうち、接待交際費、減価償却費、事務費、処理費及び謝礼は、それぞれ別表
(五)被告主張欄記載のとおりであり、その合計は、九七一万二〇一八円である。
<2> 旅費交通費について
被告の主張額である二五四万円は、昭和四九年一一月二〇日に被告職員が調査のため原告宅へ臨場した際、原告の提示したメモ書き資料から作成した調査メモに基づいて算出したものである。
よって、被告の右算出には何ら誤りはない。
<3> 支払手数料について
<イ> 原告は、昭和四八年中に支払手数料として渡辺に四〇〇万円、訴外西村菊次ほか七名に四二〇万円をそれぞれ支払っている。
<ロ> 高原に対する五〇〇万円について
原告は、同年中に神戸市灘区水道筋六丁目二番地居住の高原に対して小束山の物件に係る支払手数料として五〇〇万円を支払ったと申し立て、その領収書を提示した。
しかし、被告が調査したところ、高原が前記場所に居住していた事実も右物件の仲介に関与した事実もなく、原告において高原が右手数料を預金したと主張する神港信用金庫六甲支店(現在、日新信用金庫六甲支店、以下、「神港信金六甲支店」という。)の同人名義の普通預金口座には同年五月二四日付けで五〇〇万円が入金された事実は存在するが、右口座は、原告の架空名義預金口座である。
よって、原告が高原に対して五〇〇万円の手数料を支払った事実は存在しない。
<ハ> 渡辺に対する一〇〇〇万円について
原告が渡辺に対して小束山の物件の売買の仲介手数料として、一〇〇〇万円を支払った事実は存在しない。
<ニ> よって、原告の同年分の必要経費としての支払手数料は、八二〇万円である。
<4> 従って、原告の同年分の必要経費は、前記<1>ないし<3>の各金額を合計した二〇四五万二〇一八円である。
(ハ) 給与所得金額について
原告は、昭和四八年中にニッチから九万七二〇〇円の給与所得を得ている。
(ニ) よって、原告の昭和四八年分の総所得金額は、収入金額である前記(イ)の受取手数料から同(ロ)の必要経費を控除した事業所得金額に同(ハ)の給与所得金額を加えた二八一四万五一八二円である。
(3) 以上のとおりであるから、前述した本件係争各年分の総所得金額の範囲内でされた本件各更正処分は適法である。
(二) 本件各過少申告加算税賦課決定処分について
被告は、原告が本件係争各年分につき、それぞれ前記各総所得金額に対する所得税の確定申告をしなければならなかったにもかかわらず、これをしなかったので、国税通則法(以下、「通則法」という。)六五条一項に基づき、過少申告加算税を賦課決定したものである。
よって、本件各過少申告加算税賦課決定処分には違法はない。
(三) 本件重加算税賦課決定処分について
(1) 前記(一)の(2)の(ロ)の<3>の<ロ>において述べたとおり、原告が高原に対して五〇〇万円を支払った事実は存在しない。
(2) よって、高原に対する五〇〇万円の支払手数料は架空のものというほかはなく、原告は、所得計算の基礎となる事実を仮装し、その仮装したところに基づいて不当に所得税額を免れようとしたものというべきである。
(3) そこで、被告は、原告の行為が通則法六八条一項に該当するものと認定し、昭和四八年分の所得について、右仮装金額五〇〇万円に対する重加算税の基礎となる税額二七五万円を算出し、この金額に三〇パーセントを乗じた金額である八二万五〇〇〇円の重加算税の賦課決定処分をしたものである。
(4) 従って、被告のした右処分には違法がない。
3 以上のとおりであるから、本件各処分はいずれも適法であり、原告の主張は理由がない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張第1項について
(一) 同項(一)の事実は認める。
(二) 同項(二)のうち、被告が昭和五〇年七月二日付けでそのような処分をしたことは認め、その余の事実は否認する。
(三) 同項(三)のうち、原告が同年九月二日付けで異議申立てをしたこと及び被告が同年一二月一日付けでそのような異議決定をしたことは認め、その余の事実は否認する。
(四) 同項(四)のうち、原告が昭和五一年一月六日付けで審査請求をしたこと及び国税不服審判所長が昭和五二年八月二日付けでそのような裁決をしたことは認め、その余の事実は否認する。
2 被告の主張第2項について
(一) 同項(一)について
(1) 同(1)について
(イ) 同(イ)の事実は認める。
(ロ) 同(ロ)について
<1> 同<1>の事実は認める。
<2> 同<2>の<イ>の事実は否認する。同<ロ>及び<ハ>は争う。同<ニ>のうち、前中が兵庫栄養専門学校に対して被告主張の山林を売却したこと及びその際原告が同校の代理人であったことは認め、その余の事実は否認する。同<ホ>の事実は認める。同<ヘ>の主張は争う。
<3> 同<3>ないし<5>は、いずれも争う。
(ハ) 同(ハ)の事実は認める。
(ニ) 同(ニ)の主張は争う。
(2) 同(2)について
(イ) 同(イ)の<1>の事実は認める。同<2>の事実は否認する。同<3>の主張は争う。
(ロ) 同(ロ)について
<1> 同<1>の事実は認める。
<2> 同<2>前段の事実は否認し、同後段の主張は争う。
<3> 同<3>の<イ>の事実は認める。同<ロ>第一段の事実は認め、同第二段の事実は否認し、同第三段の主張は争う。同<ハ>の事実は否認する。同<ニ>の主張は争う。
<4> 同<4>の主張は争う。
(ハ) 同(ハ)の事実は認める。
(ニ) 同(ニ)の主張は争う。
(3) 同(3)の主張は争う。
(二) 被告の主張第2項(二)の主張は争う。
(三) 同項(三)について
(1) 同(1)は争う。
(2) 同(2)の主張は争う。
(3) 同(3)のうち、被告がそのような処分をしたことは認め、その余の事実は否認する。
(4) 同(4)の主張は争う。
3 被告の主張第3項の主張は争う。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 原告が肩書住所地で「出雲商事」の屋号で不動産仲介業を営んでいること及び請求原因第1項の事実(本件各処分の存在)は、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件各処分の適否について
そこで、本件各処分が適法であるかどうかについて検討を行うこととする。
1 必要経費について
(一) 課税標準たる所得の存在及びその額については、課税庁たる被告に立証責任があるものと解されるところ、所得の額は収入金額からこれに対応する必要経費を控除して算出するものであるから、必要経費の存否及びその額についても、その立証責任は被告にあるものと解さざるを得ない。
もつとも、必要経費の支出に関連する事実は納税者たる原告が直接支配する生活現象のもとにおいて生起する事実であり、右事実を主張、立証することは、原告にとって有利かつ容易であるが、被告においてそれが一定の額を超えないことを立証するのは困難であることに照らすならば、被告が収入金額から経験則上通常予想される必要経費を控除して算出した所得金額を立証すれば、所得の額についての被告の立証が一応尽されたものとみて、原告において特別の必要経費の存在又は被告が控除した額以上に通常の経費を要したことを証明しない限り、右所得額の証明があったものと解するのが相当である。
(二) そこで、これを本件についてみるのに、被告が原告の本件係争各年分の所得金額を算出するのに当たって、別表(四)及び(五)の各被告主張額欄記載の各必要経費を控除していることは当事者間に争いがなく、これによれば、被告において、原告の通常必要とする経費の控除をしているものと認めることができる。
2 本件各更正処分について
(一) 昭和四七年分について
(1) 受取手数料について
原告の昭和四七年分の収入金額(受取手数料)が一二四七万三八三〇円であることは、当事者間に争いがない。
(2) 必要経費について
(イ) 支払手数料
<1> 西に対する支払について
原告は、昭和四七年中に有野町の物件の売買に関して西に一七五万円の手数料を支払った旨主張し、原告本人尋問の結果(第一回、以下、特に記載しない場合は第一回を指す。)中には右主張に沿う部分があるほか、甲第三号証には、西が有野町の物件の売買手数料として、同年一二月二七日付けで一七五万円を受領した旨の記載がある。
しかしながら、証人池田文生の証言(以下、「池田証言」という。)により真正に成立したものと認められる乙第二、第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第九号証及び原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
原告は、兵庫栄養専門学校が神戸市兵庫区(現在は北区)有野町において土地を買収するにつき、同校の依頼を受けて、昭和四七年初めころから地主との交渉を始めていたが、地元の有力者である西に対し、地主との交渉を依頼し、これを承諾した同人の説得工作が功を奏したこともあって、同年一二月二五日に有野町の物件の売買(売主前中ほか五名、買主兵庫栄養専門学校)が成立した(右売買については、当事者間に争いがない。)。
そこで、原告は、西の右功績に報いるために、自己が兵庫栄養専門学校から受領した仲介手数料の中から手数料の名目で西に金員を交付したが、その額は多くとも一〇〇万円を超えるものではなかった(原告が西に手数料を交付したことは、当事者間に争いがない。)
以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲他の証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
なお、原告は、甲第三号証につき、金額は自分が書いたが、西が署名押印したものであって、真正に成立したものである旨述べているが、前掲乙第二、第三号証、第九号証の各記載内容及び原告は、後記認定のとおり、有野町の物件の売買に関し、兵庫栄養専門学校が負担し、自己が同校の代理人として支払った前中に対する追加代金一〇〇万円についても、これを自己が負担したものであるとして必要経費に計上していた点に照らせば、原告の右供述はにわかに信用できず、他に甲第三号証の成立を認めるに足りる証拠はない。そして、他に西に対する一七五万円の支払いの事実を認めるに足りる証拠はない。
よって、本件において原告が西に対して支払った手数料は、多くても一〇〇万円を超えることはなかったとみるべきである。
<2> 柴原に対する二〇万円について
原告は、滝山町の物件の売買に際し、仲介の労にあたった柴原に対して二〇万円を支払った旨主張し、原告本人尋問の結果中には、右主張に沿う部分があるほか、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一号証(滝山町の物件についての売買契約書)によれば、滝山町の物件の売買(売主松元志げほか二名、買主平和産業)について、原告らとともに柴原が仲介入として関与したことが認められる。
しかしながら、右原告の供述のほかに、柴原に対する金員支払いの事実を証明するような帳簿、領収書等の証拠書類は存在しない。他方、前掲乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、柴原は、総合商社であった安宅産業株式会社の子会社で、同社の不動産部門を担当していた安宅興産の業務として、右売買に関与したものであることが認められるから、柴原が原告のために右売買に関与したものとは考えられず、更に、右乙第一号証によれば、右売買には、原告と柴原のほかに三社の不動産仲介業者が関与していることが認められるが、原告が手数料を支払ったと主張しているのは、柴原だけであり、これらの点に照らせば、柴原に対してのみ手数料を支払わなければならない必要性を認めることはできない。
よって、柴原に二〇万円の手数料を支払ったとする原告の供述は、にわかに信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
<3> 堀に対する二〇万円について
原告は、滝山町の物件の売買に際し、隣接地の所有者との交渉に当たった堀に対して二〇万円の手数料を支払った旨主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるほか、甲第二号証(前掲乙第一号証の控え)には、滝山町の物件の仲介をした前記不動産仲介業者らに並んで「神戸市兵庫区下沢通四丁目七-一堀喜八郎」という記載がある。
しかしながら、滝山町の売買契約書の原本の写しである前掲乙第一号証には堀の住所、氏名は記載されておらず、更に、原告本人尋問の結果によれば、右の堀の住所氏名は後日原告が記入したものであることが認められる。そして、原告から堀に対する二〇万円の支払いの事実を証明するような帳簿、領収書等の証拠書類は存在しない。
よって、これらの事実に照らせば、堀に謝礼として二〇万円を支払ったとする原告の供述はにわかに信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
<4> 前中に対する一〇〇万円について
原告は、前記有野町の物件についての売買が成立した際に、同物件の所有者の一人であり、右売買に異を唱えた前中に対して自己が受領した手数料の中から一〇〇万円をやむなく支払った旨主張し、原告本人尋問の結果(第二回)中には右主張に沿う部分が存在するほか、右一〇〇万円の授受の点は、当事者間に争いがない。
しかしながら、成立につき争いのない乙第三四号証(原本の存在についても争いがない。)、第三九、第四〇号証、及び第四一号証の二、池田証言によって真正に成立したものと認められる乙第三五号証及び第四一号証の一、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認めうる乙第三七号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
前中は、原告の仲介によって、その所有にかかる神戸市兵庫区(現在は北区)有野町二郎字乞喰谷八九九番一山林五八八九平方メートル及び同番二山林六五四平方メートル(いずれも前記有野町の物件の一部)を昭和四七年一一月三〇日に兵庫栄養専門学校に代金四九四八万一五〇〇円で売り渡す旨の売買契約(乙第三四号証は、その売買契約書の写し)を締結したが、右代金の支払日である同年一二月二五日に至り、両者の間で売買代金を一〇〇万円追加する旨の合意が成立した。
そこで、同日、同校側の仲介業者であり、同校の代理人(この点は当事者間に争いがない。)でもあった原告から前中に対して現金四九四八万一五〇〇円及び一〇〇万円の小切手が交付され、同人が右一〇〇万円について発行した領収証(乙第四一号証の二)は、兵庫栄養専門学校に交付されており、右一〇〇万円は最終的には同校が負担した。
以上のような事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲他の証拠に照らせばにわかに信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
よって、原告が前中に対して自己の負担において一〇〇万円を支払ったものとは認められない。
<5> 別表(三)の1ないし5記載の支払手数料(合計三二九万円)については、当事者間に争いがない。
<6> 従って、原告の昭和四七年分の支払手数料は、四二九万円を上回ることはないものと認められる。
(ロ) 調査費用
<1> 山家に対する二五万円について
原告は、昭和四七年中に調査費用として、山家に数回にわたり合計二五万円を支払ったと主張し、証人山家清治の証言(以下、「山家証言」という。)及び原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるほか、山家証言によって真正に成立したものと認められる甲第八号証は、山家が原告から二五万円を領収した旨の領収証である。
しかしながら、そもそも数回の支払いについて後日これを一括して一通の領収証を作成すること自体不自然であり、また、山家証言中には、同人が一回ごとの調査費用のおおよその支給時期及びその金額すら記憶しておらず、同人の仲介によって物件が売れた場合にも、調査費用と手数料との精算は、その時々によって行われたり、行われなかったりしていたとの供述もある。更に、成立に争いのない甲第一号証によれば、原告は、国税不服審判所における審理の段階においては、単に山家、藤原、中山及び中村に対する支払調査費用の合計が六〇万円であると主張しただけであって、右の各人に対してそれぞれいつ、どれだけの支給をしたのかという詳細な点については何ら主張、立証をしておらず、前掲甲第八号証もこの時点では提出されなかった(同号証の作成日付けは昭和四七年一二月一〇日であって、本件各処分より前であるから、右日付けどおりに作成されていれば、当然提出できたはずである。)ことが認められるほか、本件訴訟においても原告は山家に対する個々の調査費用の支払いにつき、裏付けとなる帳簿その他の資料は全く提出していない。
よって、これらの諸点に照らすならば、原告が山家に対して二五万円を支払ったとする前掲甲第八号証の記載、山家証言及び原告の供述は信用することができず、他に右支払いの事実を認めるに足りる証拠はない。
<2> 藤原に対する一五万円について
原告は、同年中に藤原に対し、調査費用として合計一五万円を支払った旨主張する。そして、証人藤原ハナの証言(以下、「藤原証言」という。)及びこれによって真正に成立したものと認められる甲第九号証の記載並びに原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、その内容はあいまいであるうえ、これを裏付けるような帳簿、領収書等の証拠書類は存在せず、かえって、池田証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証、第六号証の一、二、藤原証言(後記信用しない部分を除く)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
藤原は、同年当時出雲商事に籍を置き、同社の従業員という名目で不動産業、とりわけ、山林売買の仲介に従事していたが、それは、同人が宅地建物取引業法所定の免許を有していなかったことによるものであり、実際には自己の計算によって宅地建物取引業を営み、その経費も自己で負担していた。そして、物件の売買等が成立した場合には、いわば名義借料として仲介手数料のうちの一定割合を原告に支払っていた。もっとも、藤原が山林の調査のため何回か松江に赴き、その交通費及び旅館代等として原告から金員を受け取ったことはあるが、その時期は昭和四八年中のことである。
右のような事実が認められ、藤原証言及び原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分並びに前掲甲第九号証の記載は、前掲他の証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、右認定事実に前述した審査請求段階における主張内容をも合わせ考えると、昭和四七年中に原告が藤原に対して調査費用一五万円を支払ったとする前掲各証拠はたやすく信用することができず、他に、右事実を認めるに足りる証拠は存在しない。
<3> 中山に対する一〇万円について
原告は、昭和四七年中に中山に対し、調査費用として一〇万円を支払った旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、これを裏付ける帳簿、領収書等の証拠書類は存在しない。
そして、かえって、池田証言によって真正に成立したものと認められる乙第四号証によれば、次の事実が認められる。
中山は、同年当時出雲商事に籍を置き、同社の従業員という名目で不動産業に従事していたが、それは同人が宅地建物取引業法所定の免許を有していなかったことによるものであり、実際には自己の計算によって宅地建物取引業を営み、その経費も自己で負担していた。そして、物件の売買等が成立した場合には、いわば名義借料として原告に受取手数料の一割を支払っていた。もっとも、中山が出雲商事と対等の地位に立って行う仕事の場合には、双方で受取手数料を折半する旨の合意が成立していた。
以上のような事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲他の証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、右認定事実に前述した審査請求段階における主張内容をも合わせ考えると、原告が同年中に中山に対して調査費用一〇万円を支払ったとする原告の供述はたやすく信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠は存在しない。
<4> 中村に対する一〇万円について
原告は、昭和四七年中に中村に対し、調査費用として一〇万円を支払った旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、その供述内容はあいまいであるうえ、本件全証拠によっても、中村がどのような形で原告又は出雲商事と関係し、どのような調査のために右一〇万円を支払ったのかも明らかでなく、右支出を裏付けるような帳簿、領収書等は存在しない。そして、右の事実に前述した審査請求段階における主張内容をも合わせ考えると、原告が同年中に中村に対して調査費用一〇万円を支払ったとする原告の供述はたやすく信用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
<5> 渡辺に対する一〇〇万円について
原告は、昭和四七年中に渡辺に対して、同人が多井畑の物件の買収準備のための設計企画、調査測量及び現地交渉などに要した宿泊代等合計一〇〇万円を支払った旨主張し、証人渡辺徳盛の証言(以下、「渡辺証言」という。)及び原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分がある。
しかしながら、渡辺証言(後記信用しない部分を除く)、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一七号証、同尋問結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、多井畑の物件の買収は、トヨタ自動車グループの不動産会社である富士工務店が渡辺に依頼し、同人名義で土地買収が進められたが、同人は、原告と共同して右買収に携っていた事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右の事実関係によれば、渡辺が多井畑の物件の買収のために必要とする調査費用は、これを同人に依頼した富士工務店が負担するか、渡辺が自己の取得した手数料によって支弁すべきものであると解するのが相当であり、これを特に原告が負担しなければならないという理由は見当たらない。また、原告は、渡辺証言により真正に成立したものと認められる甲第一一号証の一ないし四が、原告の支弁した一〇〇万円の受取証の一部である旨主張するが、これらを合計しても五一万八〇〇〇円にしかならないうえ、いずれも預り証又は借用証として作成されたものであることが、その記載内容自体からうかがわれる。そして、原告は、他に、右一〇〇万円の支出を裏付ける帳簿等の証拠書類を提出しておらず、このことに前記認定の事実を合わせ考えると、原告が渡辺に対して調査費用一〇〇万円を支払ったとする渡辺証言及び原告の供述はたやすく信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
<6> 以上のとおりであるから、原告が昭和四七年中に山家、藤原、中山、中村及び渡辺に調査費用を支払った事実は存在しないものとみるほかはない。
(ハ) 印紙代
原告は、前記有野町の物件の売場の際に自らの負担で印紙代四万円を支出した旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分がある。
しかしながら、売買契約書又は不動産登記申請書に貼用する印紙代は、通常売買の当事者において負担するものであるところ、本件全証拠によっても、単なる仲介者である原告が特に有野町の物件についてのみ印紙代を負担しなければならない特別な事情を認めることはできず、また、原告は、本件訴訟においても右四万円の印紙を貼った具体的な書類の内容及びその数を明らかにしていない。
よって、これらの事情に照らすならば、原告の前記供述は信用できず、他に前記事実を認めるに足りる証拠はない。
(ニ) その余の必要経費について
原告の昭和四七年分における租税公課(二万四〇〇〇円)、旅費交通費(三六万円)、通信費(一九万二〇〇〇円)、接待交際費(四八万円)、損害保険料(六万八〇〇〇円)、修繕費(一二万円)、消耗品費(一八万円)、減価償却費(一一万〇五五六円)、用紙代(一五万六〇〇〇円)及び地代家賃(二一万六〇〇〇円)は、当事者間に争いがない。
(ホ) よって、原告の昭和四七年分における必要経費は、前記(イ)及び(ニ)の合計である六一九万六五五六円を超えることはなく、仮に、原告が山家、藤原、中山及び中村に対する調査費用六〇万円並びに印紙代四万円を負担した事実があったとしても、必要経費の額は六八三万六五五六円である。
(3) 原告が同年中に事業所得以外の所得を得ていないことは、当事者間に争いがない。
(4) 原告の昭和四七年分の所得金額について
よって、原告の昭和四七年分の総所得金額は、収入金額である前記(1)の受取手数料一二四七万三八三〇円から同(2)の必要経費六一九万六五五六円を控除した事業所得金額である六二七万七二七四円を下回ることはなく、仮に、前記のように原告が山家、藤原、中山及び中村に対する調査費用六〇万円及び印紙代四万円を支払った事実が存在したとしても、原告の総所得金額は五六三万七二七四円を下回ることはない。
(二) 昭和四八年分について
(1) 収入金額(受取手数料)について
(イ) 原告の昭和四八年分の受取手数料額は、浜田に対する七〇万円を除き(四七八〇万円)、当事者間に争いがない。
(ロ) 浜田に対する七〇万円について
原告が浜田から七〇万円を受領したことは、当事者間に争いがない。
ところで、原告は、右七〇万円は、原告が須磨寺の物件の売買仲介に関する費用の立替金の弁済を受けたものであるから原告の収入とみるべきではない旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、右供述は後記認定の事実に照らしてたやすく信用できない。
すなわち、原本の存在とその成立に争いのない乙第七号証の二及び池田証言により真正に成立したものと認められる同号証の一並びに弁論の全趣旨を総合すれば、浜田は、同人所有の清水が丘の物件を昭和四八年六月一四日に、四〇四二万二〇〇〇円で原告が代表取締役をしているニッチに売却する旨の売買契約を締結し、この仲介手数料として七〇万円を現金で原告に支払い、原告は、その旨の領収証(乙第七号証の二)を作成して浜田に交付していることが認められる。なお、甲第一〇号証(清水が丘の物件についての売買契約書)の末尾には、「仲介者渡辺徳盛」の記名及び押印がされており、一見すれば、渡辺において、浜田とニッチとの売買についての仲介をしたかのような形式が作られているが、右記名の筆跡及び名下の印影は、原告において渡辺作成の領収書又は預り証であると主張する甲第一一号証の一ないし四及び第一二、一三号証の署名押印の筆跡及び印影とも異っているので、同証の存在は前記認定を妨げとはならず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、浜田から原告に対して交付された七〇万円は、原告の収入である受取手数料とみるべきである。
(ハ) 従って、原告の昭和四八年分の収入金額(受取手数料)は、四八五〇万円である。
(2) 必要経費について
(イ) 旅費交通費について
原告は、昭和四八年分の必要経費としての旅費交通費は二七八万五〇〇〇円を認めるべきであると主張する。
しかしながら、前掲甲第一号証、乙第五号証、池田証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、昭和四九年一一月二〇日に被告職員が所得税調査のために原告方に赴いたところ、原告は旅費交通費についての資料を呈示したこと、右資料によれば、原告の昭和四八年中の旅費交通費の合計金額は二七八万五〇〇〇円であったものの、被告職員が検討したところ、右の金額には二四万五〇〇〇円の違算があり、実際の金額は二五四万円であったことが判明したこと及び同職員が原告から呈示を受けた右資料から書き写し、計算の資料とした調査メモが乙第五号証であり、この合計額は二五四万円であることの各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。他方、本件全証拠によっても原告の同年中の旅費交通費の合計が二七八万五〇〇〇円であることを認めるに足りる証拠はない。
よって、これらの事実に照らせば、原告の右旅費交通費は、二五四万円であるとみるべきである。
(ロ) 支払手数料について
<1> 原告の昭和四八年分の支払手数料のうち、渡辺に対する一〇〇〇万円及び高原に対する五〇〇万円を除く八二〇万円については、当事者間に争いがない。
<2> 渡辺に対する一〇〇〇万円について
原告は、小束山の物件の土地売買の仲介手数料として受領した四五〇〇万円のうち一〇〇〇万円を本件覚書に基づいて渡辺に支払った旨主張し、渡辺証言及び原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるほか、甲第一五号証(領収証)中には、昭和四八年五月二五日に小束山の物件の売買の手数料として出雲商事が現金で一〇〇〇万円を支出したことをうかがわせるような記載がある。
しかしながら、右領収証の記載上、作成者は有園建設となっているところ、成立に争いのない乙第一〇、一一号証、池田証言によって真正に成立したものと認められる乙第一二号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、当時有園建設の代表者であった訴外有園明は、原告とは全く面識がなく、渡辺とは有園建設が渡辺振り出しの約束手形により融資を受けたという関係にあること及び甲第一五号証中有園建設の記名押印部分は同社作成にかかるものであるものの、右領収証は、同社が渡辺から融資を受けた際に同人に交付した領収証の一枚であり、前記出雲商事等の記載事項は、有園建設が記入したものではないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
よって、これらの事実に照らせば、原告が渡辺に一〇〇〇万円を支払ったとする渡辺証言及び原告本人尋問の結果はにわかに信用することができず、他に、右事実を認めるに足りる証拠はない。
よって、原告から渡辺に対する一〇〇〇万円の手数料の支払いの事実を認めることはできない。
<3> 高原に対する五〇〇万円について
原告は、前記小束山の物件の売買に係る手数料として高原に対して五〇〇万円を支払った旨主張し、原告本人尋問の結果及び証人岡本弘の証言(以下、「岡本証言」という。)によって真正に成立したものと認められる甲第六号証の記載中には右主張に沿う部分があるほか、甲第五号証(領収証)には、高原が五〇〇万円を原告から受領した旨の記載がある。そして、昭和四八年五月二四日に高原名義により神港信金六甲支店に五〇〇万円の預金がされたことは、当事者間に争いがない。
しかしながら、成立に争いのない甲第二七号証、池田証言により真正に成立したものと認められる乙第二一、第二二号証、池田証言により原本の存在及び成立を認めうる乙第三〇、第三一号証、第三二号証の一ないし三、第三三号証、岡本証言、原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
<イ> 中井の所有にかかる小束山の物件の売買は、清水建設との間で行われたが、原告は、右売買の中井側の仲介人であり、清水建設側の仲介人は、訴外戌亥得一(以下、「戌亥」という。)であった。
<ロ> 右売買の成立によって原告は、四五〇〇万円の手数料を取得したが、当時神港信金六甲支店長の地位にあった岡本において、預金獲得のために原告に対して同支店に預金するよう懇願したところ、原告もこれを承諾した。
<ハ> そこで、原告は、昭和四八年五月二四日に同支店を訪れ、自己名義の預金口座に二五〇〇万円の預金をするとともに、自ら高原丘風名義で普通預金口座の開設の申込を行い、同口座に五〇〇万円を預金した。
<ニ> 右普通預金口座からは、同年六月一四日に四〇〇万円が引き出されているが、その払戻請求書(乙第三三号証)の高原丘風名義の記名は、高原(柳屋雅之助)の証人尋問期日不参届の筆跡とは明らかに異っており、かえって、後記認定のとおり原告の妻が記載した甲第五号証の高原丘風名義の筆跡に類似した点が認められる。
<ホ> なお、中井及び戌亥は、高原が小束山の物件の売買に関与していたことを否定し、岡本のこの点に関する証言は確定的なものではなく、あいまいである。
<ヘ> 甲第五号証の高原丘風名義の記名は、高原自身のものではなく、原告の妻が記載したものである。
以上の事実が認められ、岡本証言及び原告本人尋問の結果を総合すれば、岡本は、高原という人物は全く知らないまま、高原名義で五〇〇万円の預金がされたという記憶のみに基づき、甲第六号証に署名したものであることが認められるから、同証は右認定の妨げにはならない。また、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲他の証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、本件全証拠によっても原告の主張するように通称を高原丘風と称していた人物が柳屋雅之助であり、同人がその当時神戸市灘区水道筋六丁目二番地に居住していた事実及び前掲甲第五号証が同人の意思に基づいて作成された真正な文書であると認めることはできない。
よって、これらの事実によれば、高原という人物が仮に実在するとしても、神港信金六甲支店の前記五〇〇万円の普通預金は高原の預け入れによるものではなく、原告の仮名預金口座であるとみるべきであり、従って原告において高原に対して五〇〇万円の手数料を支払った事実を認めることはできない。
(ハ) その余の必要経費について
原告の昭和四八年分における接待交際費(二七〇万五〇〇〇円)、減価償却費(一六万四五五六円)、事務費(二五四万七四六二円)、処理費(一六二万五〇〇〇円)及び謝礼(二六七万円)は、当事者間に争いがない。
(ニ) よって、原告の昭和四八年分における必要経費は、前記(イ)ないし(ハ)の合計である二〇四五万二〇一八円である。
(3) 給与所得金額について
原告の昭和四八年分の給与所得金額が九万七二〇〇円であることは、当事者間に争いがない。
(4) 原告の昭和四八年分の所得金額について
よって、原告の昭和四八年分の総所得金額は、収入金額である前記(1)の受取手数料から同(2)の必要経費を控除した事業所得金額(二八〇四万七九八二円)に同(3)の給与所得金額を加えた二八一四万五一八二円である。
(三) 本件各更正処分の適法性について
以上のとおりで、原告の昭和四七年分の総所得金額は六二七万七二七四円を下回ることはなく、仮に前記のように山家らに対する調査費用六〇万円及び印紙代四万円を支払っていたとしても、同年分の総所得金額は五六三万七二七四円を下回ることはなく、また、原告の昭和四八年分の総所得金額は二八一四万五一八二円であるから、いずれも本件各更正処分における総所得金額四二六万二〇〇〇円(昭和四七年分)及び一八一四万五一七七円(昭和四八年分)を上回るものである。
よって、右の各総所得金額の各範囲内で原告の各総所得金額を認めた本件各更正処分には違法はない。
3 本件各過少申告加算税賦課決定処分について
(一) 原告がいずれも法定期限内に別表(一)及び(二)各確定申告欄記載の確定申告をしたことは、当事者間に争いがない。
(二) ところで、前記2の(三)で述べたとおり、原告の昭和四七年分及び昭和四八年分の各総所得金額は前記認定のとおりであるから、原告は、右確定申告に際しても、これらの金額による所得税の確定申告をしなければならなかったものである。そして、原告がこれらの金額を含めて確定申告をしなかったため、本件各更正処分を受けたことは、弁論の全趣旨により明らかである。
(三) また、原告が前記認定にかかる各総所得金額を申告しなかったことについて、通則法六五条二項但し書に規定する「正当な理由」の存在を認めるに足りる証拠はない。
(四) 従って、前記認定にかかる各総所得金額の範囲内で原告の係争各年分の総所得金額を認定し、これに基づいてした本件各過少申告加算税賦課決定処分は、いずれも適法である。
4 本件重加算税賦課決定処分について
(一) 前掲甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が昭和四八年中に神戸市灘区水道筋六丁目二番地に居住する高原に対して小束山の物件についての支払手数料として五〇〇万円を支払った旨を被告に申立て、高原の氏名及び住所が記載された不動産取引台帳及びその領収証(甲第五号証)を提示したことが認められる。
(二) ところが、前述したように、高原に対する五〇〇万円の支払手数料は、実際には支払われていない架空のものであるから、原告の右行為は、所得計算の基礎となる事実を仮装し、その仮装したところに基づいて不当に所得税額を免れようとしたものというべきである。
(三) そして、本件において被告が本件各過少申告加算税賦課決定処分をしたことは当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨によれば、被告は、原告の前記行為が通則法六八条一項に該当するものと認定し、昭和四八年分について右仮装金五〇〇万円の重加算税の基礎となる税額二七五万円を算出し、この金額に三〇パーセントを乗じて重加算税を計算した金額である八二万五〇〇〇円の賦課決定処分をしたものであることが認められる。
(四) 従って、本件重加算税賦課決定処分は、適法である。
5 本件各処分の適法性について
以上のとおりであるから、被告のした本件各処分はいずれも適法であり、これを違法とする原告の主張は、いずれも理由がない。
三 結論
よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村上博巳 裁判官 笠井昇 裁判官 田中敦)
別表(一)
昭和四七年分
<省略>
別表(二)
昭和四八年分
<省略>
<省略>
別表(三)
<省略>
右合計 三二九万円
別表(四)
昭和47年分原告の所得金額
<省略>
別表(五)
昭和48年分原告の所得金額
<省略>