神戸地方裁判所 昭和53年(タ)68号 判決
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【判旨】
一被告の本案前の抗弁について
1 <証拠>によれば、原告らは日本人である山渕としみの子として出生した日本国籍を有する日本人であり、亡金載福は韓国人であつたこと、亡金載福は昭和五一年五月二一日に死亡したが、原告ら及び原告らの法定代理人山渕としみは亡金載福が死亡した事実を右同日に知つたことが認められる。
ところで、法例一八条一項によれば、子の認知の要件は父に関しては認知当時の父の属する国の法律によつてこれを定め、子に関しては認知当時の子の属する国の法律によつてこれを定めることになつているから、原告らがその父であると主張する亡金載福に関しては死亡当時その本国と認められる韓国の法律が、子である原告らに関しては日本法が、それぞれ準拠法として適用されることになる。
なお、原告は、認知の訴は確認の訴であるから、準拠法決定の問題は生じないと主張するが、認知の訴は、事実としての親子関係の存在を確定し、それによつて法律関係としての親子関係を成立せしめる目的のものであるから、法例一八条一項によつて準拠法が決定されるべきは当然である。
そして、本件について日本民法と結合的に適用される韓国民法八六四条は、子は、父が死亡したときは、その死亡を知つた日から一年内に検事を相手方として認知請求の訴を提起することができると規定しているところ、本件訴が提起されたのが昭和五三年一二月二五日であることは記録上明らかであり、したがつて、本件訴は、日本民法七八七条所定の出訴期間内ではあるが、原告らが亡金載福の死亡を知つた日から一年を経過した後に提起されたものであるから、韓国法によれば不適法として却下を免れないこととなる。
2 そこで、本件に韓国法を適用することが公序に反するものとして、法例三〇条により同国法の適用を排除すべき場合にあたるといえるかについて、検討する。
韓国民法八六四条は、父が死亡した場合においても強制認知を許容しているのであり、その要件である出訴期間について日本民法とは異なる規定をしているというに止まるから、右韓国法所定の出訴期間が一般的に日本民法所定のそれより短いとはいえるものの、韓国法を適用することが直ちに公序に反するものということはできない。しかしながら、法例三〇条により外国法の適用を排除することは、外国法の内容それ自体を弾劾することではなく、その外国法を当該事案に適用することが当該事案の日本社会との牽連関係に照らして日本国内における法秩序の維持を危くする結果となる場合に、そのような結果の発生を回避することに目的があるのであるから、外国法の適用を公序に反するとして排除すべきか否かは当該事案との関係において相対的に決せられるべきものである。
そこで、本件についてみるに、<証拠>によれば、亡金載福は、通称を佐藤福一郎といい、一九三三年(昭和八年)六月二八日に大分県別府市内で生まれ、幼少時に韓国に帰つた両親と生別し、佐藤トキ子という人に引き取られて養育されたこと、その後両親との音信は絶えて無く、同人は死亡するまで韓国へは一度も行つたことがなく、日常使用する言語は日本語のみで韓国語を読み書きすることはできなかつたこと、また生前日本に帰化して永住する意思を有していたこと、以上の事実が認められる。右認定の事実から明らかなように、亡金載福は出生時は日本国籍を有し、終戦後に日本国籍を喪失して韓国籍を取得したが、出生から死亡まで日本国内に居住し、日本社会に同化して生活していた者であり、日本社会との牽連関係の程度は国籍の違いを除けば通常の日本人と同様であつたこと並びに認知制度が、嫡出でない子にとつて、法律上その父が定められた親子関係が成立し、それに伴う権利、利益が保護される唯一の方法であることを鑑みると、本件に韓国法を適用して訴を不適法として却下することは、法例三〇条にいう公序に反する結果となるというべきである。
したがつて、本件については法例三〇条により韓国法の適用が排除されるべきであるから、本件訴は適法なものである。
(田中俊夫)