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神戸地方裁判所 昭和54年(わ)85号 判決 1979年6月11日

主文

被告人を懲役六年に処する。

未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤結晶粉末一包及びビニール袋入り覚せい剤結晶五袋を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、韓国籍貨物船基洋号の操舵手であるが、昭和五四年一月三日、韓国釜山市で韓某より覚せい剤を日本へ運び込むよう依頼された際、運び賃欲しさにこれを了承し、

第一、営利の目的で、同年同月四日、覚せい剤フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩二キロ三〇〇・三六〇一グラムを持って、韓国釜山港から右貨物船に乗船し、同月七日、同貨物船が大阪市港区石田一丁目及び同二丁目先大阪港安治川第二号岸壁一一のB繋船岸壁に接岸するや、翌八日午前一〇時頃から同日午前一一時五〇分頃にかけて、二回にわたり、同貨物船から右繋船岸壁上に右覚せい剤を携帯して上陸し、もって右覚せい剤を輸入し

第二、前記のとおり、右大阪港に到着した後、前記日時頃、二回にわたり、同貨物船から右覚せい剤を自己の背広及び腹巻きの内側に隠匿携帯して右繋船岸壁上に上陸して、その頃市中に引取り、もって税関長の許可を受けないで右覚せい剤を輸入すると共に、偽りその他不正の行為により、右覚せい剤に対する関税一一万三六〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は覚せい剤取締法四一条二項、一項一号、一三条に、判示第二の所為中、無許可輸入の所為は関税法一一一条一項に、関税逋脱の所為は同法一一〇条一項一号前段に、それぞれ該当するところ、判示第二の無許可輸入及び関税逋脱の各所為は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い関税逋脱罪の刑で処断することとし、所定刑中判示第一の罪につき有期懲役刑を、判示第二の罪につき懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人が本件犯行により日本国内へ搬入した覚せい剤は多量なものであり、覚せい剤の不正使用による社会への害悪を考慮するとその刑責は重大なものであるが、他面被告人は本件覚せい剤についていわゆる運び屋の役割を果したにとどまるものであり、幸い本件覚せい剤は日本国内に流出される前に発見押収されていること、その他被告人には前科がないこと、その家庭状況等の諸事情を勘案して、被告人を懲役六年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入し、押収してある主文掲記の各覚せい剤は判示第一の覚せい剤取締法違反の犯罪行為に係るもので犯人が所持するものであるから覚せい剤取締法四一条の六により、且又右は判示第二の関税法違反の犯罪行為に係る貨物にも該当するから、関税法一一八条一項本文、三項一号のロにより、これを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

(なお、本件没収の対象物である覚せい剤は、被告人以外の者(第三者)の所有に属する物であり、かつその第三者の所在がわからない場合であるので、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法二条二項所定の手続をとるにつき、検察官は、同項本文所定の官報及び新聞紙への掲載公告の方法までとる必要はなく、同項但書の検察庁の掲示場に掲示する方法だけで足りるとしているのであるが、検察官主張の如く、本件覚せい剤のように正当な所持人ということはほとんど考えられない物については、官報及び新聞紙への掲載公告までして、その所有者の事前保護をはかるまでの必要はなく、その価格を零と評価して公告の方法を右の掲示場への掲示公告で足りるとしても、正当な権利者に対しては同法一三条所定の事後救済の途が開かれていることを考慮すると、右の公告方法を違法なものというべきではないと解される。)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 梨岡輝彦 裁判官 阿部功 能勢顯男)

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