大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)1335号 判決 1981年9月10日

原告

来住勝司

右訴訟代理人

上木繁幸

原告

坂井幸蔵

外三名

右原告四名訴訟代理人

坂田和夫

被告

坂井化学工業株式会社

右代表者

槌橋博行

主文

一  被告は、原告来住勝司に対して七五五万円、原告坂井幸蔵に対して一六〇万円、原告坂下保男に対して一四〇万円、原告坂井幸司郎に対して一一二万円、原告坂井春義に対して四五万円及び右各金額に対する昭和五四年二月一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告来住勝司、同坂井幸蔵、同坂井幸司郎、同坂井春義のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求の原因1の(一)ないし(五)の各事実<編注、原告らが被告の元取締役あるいは監査役であつたこと>は、被告において明らかに争わないので、民事訴訟法第一四〇条第一項により自白したものとみなされる。

二まず、原告坂下を除くその余の原告らの役員賞与の請求について、判断する。

判旨ところで、株式会社における役員賞与は、取締役が企業の利益を挙げた功労に報いるために支給されるものであつて、決算期において会社に利益が生じた場合にのみ、その利益金処分方法の一つとして、株主総会の決議によつてのみ、利益金の中からその支給をするかどうか、支給をする場合における各役員に対する支給金額等が定められるものと解される。そして、右賞与の各役員に対する支給額の決定は、商法第二六九条により取締役会の決定に委ねられるべきものではないと解するのが相当である。

これを本件についてみるのに、<証拠>を総合すれば、被告の昭和五一年九月三〇日開催の株主総会において第三三期(昭和四九年一一月一日から昭和五〇年一〇月三一日まで)の役員賞与として総額五〇万円を支給する旨が決議されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかし、右株主総会において右賞与について各役員に対する支給額が決議されたことを窺知できるような事実の主張、立証はない。

以上述べたところによれば、右原告らは、右株主総会の決議により、直ちに、被告に対し、その主張の役員賞与の支払請求権を取得したものとはいえず、また、右原告ら主張のように、後日、被告の取締役会において右賞与の配分について決議したとしても、右請求権を取得するものとはいえないというべきである。

以上の次第で、右原告らの役員賞与に関する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三次に、原告らの役員報酬の請求について、判断する。

<証拠>を総合すれば、被告は、その定款に取締役及び監査役の受ける報酬額を定めていないが、昭和四七年一二月二八日開催の株主総会において役員(取締役及び監査役全員)の報酬について請求の原因3の(一)記載のような決議がされたこと、請求の原因3の(二)の(1)、(2)の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上述べたところによれば、被告は、その定款に役員の受ける報酬額を定めていないところ、昭和四七年一二月二八日開催の株主総会の決議で役員全員に対する報酬額の総額を定め、各役員に対する支給額の決定を取締役会の決定に委ねたため、昭和五一年一〇月四日開催の取締役会の決議で各役員に対する支給額を定めたものであるが、右のような役員報酬の定め方は、商法第二六九条、第二八〇条の法意に照らしても、適法なものというべきである。

四以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、被告に対し、役員報酬として、原告来住が昭和五一年一月一日から昭和五四年一月三一日までの合計一二九五万円から被告において支払を了したことを同原告が自認する五四〇万円を控除した残額七五五万円、原告幸蔵が昭和五一年二月一日から同年九月三〇日までの合計二八〇万円から被告において支払を了したことを同原告が自認する一二〇万円を控除した残額一六〇万円、原告坂下が昭和五一年一〇月一日から昭和五四年一月三一日までの合計四二〇万円から被告において支払を了したことを同原告が自認する二八〇万円を控除した残額一四〇万円、原告幸司郎が昭和五一年一〇月一日から昭和五四年一月三一日までの合計一四〇万円から被告において支払を了したことを同原告が自認する二八万円を控除した残額一一二万円、原告春義が昭和五一年一月一日から同年九月三〇日までの九〇万円から被告において支払を了したことを同原告が自認する四五万円を控除した残額四五万円及び右各金員に対する最終弁済期後の昭和五四年二月一日から完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分に限り、正当として、認容すべきであるが、原告来住、同幸蔵、同幸司郎、同春義のその余の部分は、失当として、棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条但書を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(佐藤栄一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例