神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)790号・昭56年(ワ)760号 判決
一 甲事件(原告リザの不正競争防止法に基づく請求)について
1 請求原因2の事実は当事者間に争いがない。
2 先づ、原告表示の周知性につき判断する。
成立に争いのない甲第四、五号証、第二六、二七号証、証人大牧晴男の証言により成立の認められる甲第一号証、同第二八号証、被写体、撮影者については当事者間に争いがなく、右証人の証言により原告主張の日時に撮影した写真と認められる検甲第一ないし第六三号証(枝番を含む。)、証人大牧晴男及び同森孝之の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、これに反する格別の証拠はない。
(一) 原告リザは、繊維二次製品である婦人服・紳士服を製造・販売する乙事件原告ワールドと株式会社丸紅の両社合弁方式(資本構成は、七五パーセントが原告ワールド、二五パーセントが丸紅、もつとも、設立一年後には原告ワールドが全株式を保有)による婦人衣料専門小売店として、昭和五〇年二月四日肩書地に設立された会社であるが、その設立に際し、社名を社内募集したところ、丸紅ロンドン支店より提案された「LIZA」が英女王エリザベス二世の愛称で、国際港都神戸のイメージにも合致し、簡潔で記憶しやすい称呼であることからこれが採用され、その商号を「株式会社リザ」とした上、その営業店名に一般活字体ヘルペチカによる原告表示を使用して、以来今日に至つている。
(二) 原告リザは、高級婦人衣料品のトツプメーカーで全国的に五指の一つに数えられている原告ワールドの実質上の直営販売会社として、<1>アンテナシヨツプ機能(地域毎の商品需要を吸収して原告ワールドの商品企画に反映させること)、<2>パイロツトシヨツプ機能(原告ワールドの開発した新商品を各地域で宣伝販売し、潜在需要を開拓すること)、<3>モデルシヨツプ機能(原告ワールドの製造する商品の取扱店としてブランドイメージを顧客に浸透・定着させること)、<4>小売ノウハウ開発機能(将来の小売専門店経営のノウハウを開発すること)の四機能を兼ね備えた新しい型の専門店であつて、設立当初からその営業活動や動向は業界のみならず一般需要者間でも注目の的になつていた。
(三) 原告リザの営業活動としては、昭和五〇年二月(設立当初)に大阪梅田の梅田かわい店と業務提携した後、間もなく岡山そごうに第一号店を出店開設したのをはじめとして、同年三月には東京の銀座ピジヨン店と提携し、次で同年六月には広島福屋に第二号店と東京の渋谷パルコに第三号店、同年八月には大阪・広島の各そごうと札幌パルコに第四ないし第六号店、同年九月には神戸そごうに第七号店、同年一一月には名古屋松坂屋に第八号店と東京の銀座松坂屋に第九号店、翌五一年一月には神戸大丸に第一〇号店、同年三月には神戸本店(第一一号店)を順次開設し、その間の売上高も約一〇億円に達した。
その後も、昭和五一年中に更に六店舗、昭和五二年中には一六店舗、昭和五三年中には一六店舗(内一店はその後閉鎖)昭和五四年中には一一店舗、昭和五五年中には一二店舗、昭和五六年中には一一店舗を順次開設し、昭和五三年度の法人所得は金一二億三、三〇〇万円にも及び、すでに繊維・衣類・雑貨類業界では一一位、婦人服小売部門では大手のレリアン、玉屋に次いで全国三位の実績を挙げるに至つている。
(四) そして、右各店舗の店頭には、いずれも原告表示の看板、広告等が掲げられており、店内にはルイシヤンタン、コルデイア、ジオ、パセリオなどの高級婦人衣料品が陳列、販売されている。
(五) しかも、その間、右のような営業実績等に関しては、日刊新聞をはじめ業界紙や各種フアツシヨン雑誌等にも再三掲載されて一般に広く報道され、その経営方法についても関係者らの間で研究分析の対象とされており、その他、原告商品の購入者の中から「リザ・フアツシヨンスクール」の会員を募集して、フアツシヨンに関する情報を提供するなどの宣伝活動も行つている。
以上認定したような原告リザの設立経緯や営業活動とその実績、繊維業界の実状、その他これに関連するマスコミ報道機関の対応等からすると、原告表示は、原告リザの本店が開設された昭和五一年三月末頃までには少なくとも関西、関東地区を含む全国主要都市において、原告リザの営業表示としての周知性を有するに至つたと認めるのが相当である。
3 次に、更生会社村山のイ号表示の使用につき検討する。
弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三一号証の一ないし四、成立に争いのない甲第三六号証の一ないし三、同第三七号証、同第四一、四四号証の各一、二、同第四二、四三号証、同第四五、四六号証の各一ないし四、乙第一ないし第六号証の各一ないし三(ただし、書込部分を除く。)、同第七ないし第一一号証、被写体、撮影者については当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により原告または被告各主張の日時に撮影した写真と認める検甲第六四号証の一、二、乙第一四号証、被写体、撮影者、撮影時期につきいずれも当事者間に争いのない検甲第六五号証の一、二、同第六六号証の一ないし四、同第六七号証同第六八、六九号証の各一ないし三、証人大牧晴男、同森孝之及び同古沢忠平の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、これに反する格別の証拠はない。
(一) 更生会社村山は昭和二五年一一月二日、繊維製品の製造と各種繊維二次製品の卸売を目的として設立された会社であるが、昭和五一年二月七日、手形不渡により倒産し、その後請求原因2のとおり、更生手続開始、更生計画の認可及び減資新株発行等を経て、昭和五四年九月一四日、前管財人の退任にともない被告が管財人に選任された(右の経緯は争いがない。)。
(二) ところで、更生会社村山は、従前(倒産前)から被告第一及び第二商標を登録所有していたけれども、倒産するまでは右各商標を事実上殆んど使用しておらず、その販売する主力商品の商標としては「DOD」を使用していたが、その後更生手続が開始されて間もない昭和五一年七月頃からは、管財人において、新にイ号表示を採用して営業の再開をする旨の経営方針が打ち出され、その頃右標章を付した婦人衣料品の秋物展示即売会を催したのをはじめとして、以来その取扱商品であるブラウス、婦人セーター、婦人服などの衣料品にイ号表示を付して卸売販売を行なつているほか、本店の店頭の看板、広告等にも「株式会社村山」の商号とともにイ号表示を掲げて営業を行い、その傘下の提携店に対しても右表示の使用を許容している。
(三) 営業成績は、比較的低廉な価格での現金販売であるため、その売上高も著しく向上し、昭和五五年八月から同五七年五月までの間に限つても実に三二億円余に達しているのである。
右認定の事実からすれば、更生会社村山は昭和五一年七月頃からイ号表示をその取扱商品に使用しているばかりでなく、店舗等にもこれを掲げてその営業を表示していることが明らかである。
4 そこで、原告表示とイ号表示の類似性の有無についてみるに原告表示は別紙目録(二)のとおり一般活字体による欧文字でありイ号表示は同目録(一)のとおりローマン体風の欧文字で、両者は字体を異にし、イ号表示は「I」の上部に「
5 次に、原告リザの営業活動との混同ないし営業利益侵害の有無についてみるに、不正競争防止法一条一項二号にいう「混同を生ぜしめる場合」とは、営業主体が同一と誤認させる場合のみならず、営業主体相互間に取引上、組織上なんらかの関係があるものとの誤認を生じさせる場合をも含むと解されるところ既に認定判断したような原告表示の周知性や信用性とイ号表示の類似性等からすれば、更生会社村山がイ号表示を使用することにより、原告リザの営業活動との混同を生じ、その結果、営業上の利益を侵害される虞れがあることも明らかである。
もつとも、本件の場合、原告リザがこれにより現実に被つたとみられる営業上の損失(その内容、程度等)については、本件全証拠によつても未だこれを肯認するに十分でないから、結局その具体的な損害発生の事実は認め難いところである。
6 そこで、被告主張の商標権行使の抗弁について検討するに、更生会社村山が被告商標を所有していることは当事者間に争いがなく、被告はイ号表示の使用は不正競争防止法六条にいう「商標権の行使」である旨主張するが、商標権は指定商品について当該登録商標を独占的に使用することができることをその内容とするものであり、指定商品について当該登録商標に類似する標章を排他的に使用する権能までを含むものではないから(ただ、類似標章を使用する者に対し、その使用禁止を求めることができるにすぎない。)、類似商標の使用は不正競争防止法六条に該当しないと解するのが相当であるところ(最高裁判所昭和五六年一〇月一三日第三小法廷判決)、イ号表示と被告商標との類似性はともかく、少くとも、前者が単なる文字標章であるのに後者は文字とリボン(図形)の結合商標である点からみても、その間に同一性がないことは明白であるから、右被告の抗弁は理由がない。
二 乙事件(原告ワールドの商標法に基づく請求)について
1 請求原因1(原告ワールドの営業)、同2(原告商標の取得)同3(被告の地位と更生会社村山のイ号標章の使用)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
2 そこで、原告商標とイ号標章の類似性の有無につき判断するに、原告商標は別紙目録(五)記載のとおり片仮名文字であり、イ号標章は同目録(一)記載のとおり欧文字であるが、その称呼は、両者とも「リーザ」という同一の呼称が生じるから(この点は成立に争いのない甲第四八号証及びわが国における外来語表記の多様性に鑑みても同一呼称を生じることは明らかである。)、イ号標章は原告商標に類似するとみるのが相当である。
3 次に、被告主張の権利濫用の抗弁について検討するに、前記1の争いのない事実に成立に争いのない甲第三二号証、同第三三、三四号証の各一、二、同第三五号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三八ないし第四〇号証、証人森孝之、同古沢忠平の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、これに反する格別の証拠はない。
(一) 更生会社村山は、倒産以前からすでに被告第一、第二商標を所有しており(この点は争いがない。)、更生手続開始後はイ号標章を使用して営業を続けていたところ、甲事件の原告リザが昭和五〇年一二月(設立)頃から原告表示を使用して営業を始めたため、右更生会社の管財人である被告において、昭和五四年四月二七日以来再三にわたり原告リザに対し被告商標の侵害を理由に原告表示の差止を求めていたこと
(二) ところが、原告リザはこれに応ぜず、逆に被告を相手に昭和五五年七月二五日、甲事件を提起するにいたつたこと
(三) そこで、原告リザの親会社である原告ワールドは、右甲事件の訴訟を有利に展開させるため、訴外三菱が所有していたが、これまで現実には一度も使用されたことのなかつた原告商標を右事件の係属後である同年八月二五日に同訴外会社から譲受けて翌五六年七月一日には自らも本訴(乙事件)を提起するにいたつたこと
(四) そして、原告ワールドは、右譲受け後も原告商標を全く使用していないこと
右認定の被告商標の存在及び本件紛争の経緯並びに原告商標の取得事情、その使用状況等から勘案すると、原告ワールドの原告商標の取得は、自らこれを使用する意図や必要もないのにもつぱら被告のイ号標章の使用差止のみを目的としてなされたものであることが明らかであるから、これに基づく本訴請求は権利の濫用にあたり許されないものといわなければならない。
三 結論
以上の次第で、原告リザの請求中、イ号表示の使用差止を求める部分は理由があるから認容できるが、その余の部分(損害賠償請求)並びに原告ワールドの請求は、いずれも理由がないから棄却する。