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神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)827号 判決 1981年10月28日

原告

馬野徹弥

被告

株式会社榊組

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し、金三、二九九万七、五〇四円およびうち金三、〇四九万七、五〇四円に対する昭和五五年八月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを一〇分し、その三が原告の、その余は被告らの負担とする。

この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告らは各自原告に対し、金四、六七八万九、一八八円およびうち金四、三七八万九、一八八円に対する昭和五五年八月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件交通事故の発生

原告は左記交通事故により受傷した。

(1) 日時 昭和五三年三月二九日午後二時ころ

(2) 場所 国道一七一号線の大阪府池田市豊島北一丁目一番一号先交差点(以下、本件交差点という。)

(3) 加害車両 普通乗用自動車(大阪五七そ二〇五七)

保有者 被告株式会社榊組(以下、被告会社という。)

運転者 訴外三崎光洋(以下、訴外三崎という。)

同乗者 被告野田裕三(以下、被告野田という。)

(4) 被害車両 自動二輪車(神戸兵さ六五九四)

運転者 原告

(5) 事故態様 被害車両が国道一七一号線を北から南に進行し、本件交差点に進入したところ、国道一七一号線を南から北に進行してきた加害車両が本件交差点を右折して、被害車両の側面に衝突した。

(6) 傷害の部位・程度

(イ) 右股関節粉砕骨折、右大腿骨頭脱臼、右下腿骨開放性骨折等

(ロ) 昭和五三年三月二九日から同年四月四日まで(七日間)林病院に入院。

昭和五三年四月四日から昭和五四年五月一九日まで(四一一日間)神戸赤十字病院に入院。

昭和五四年五月二一日から同年八月三一日まで(一〇三日間)岡山大学病院に入院。

昭和五四年九月一日から同年一〇月二三日まで(五三日間)神戸赤十字病院に入院。

昭和五四年一〇月二四日から同年一二月一一日まで前同病院に通院(実通院日数三日間)

(ハ) 昭和五四年一二月一一日症状固定(後遺障害等級六級)

2  責任原因

(1) 被告会社は、加害車両を保有し、当時、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条所定の責任がある。

(2) 被告野田は、加害車両の運転者である訴外三崎の使用者である被告会社の代表取締役として、被告会社にかわつて右訴外人を選任または監督をなすものであつて、当時、訴外三崎の運転する加害車両に同乗して、その指示のもとに被告会社の業務の執行として右訴外人に加害車両を運転させたものであるところ、右訴外人は、前方不注視による無理な右折をしたことにより本件交通事故を惹起したものであるから、民法七一五条二項所定の責任がある。

3  損害

(1) 治療費 金九八四万五、九九〇円

(イ) 林病院分 金二八万七、七七〇円

(ロ) 神戸赤十字病院分 金七七二万六、五七〇円

(ハ) 岡山大学病院 金一八三万一、六五〇円

(2) 慰籍料 金一、〇二四万円

(イ) 後遺症分 金七五〇万円

(ロ) 入院分 金二七四万円

(3) 入院雑費 金五七万三、〇〇〇円

一日当り入院雑費は金一、〇〇〇円をもつて相当とするから、入院日数五七三日分を計算すると金五七万三、〇〇〇円となる。

(4) 付添看護料 金六五万一、〇〇〇円

一日当りの付添看護料は金三、〇〇〇円をもつて相当とするところ、全入院日数のうち二一七日間は付添看護を要したから、これにより算定すると金六五万一、〇〇〇円となる。

(5) 休業損害 金四五〇万円

原告は、当時、株式会社神戸製鋼所に勤務し、年間金二五七万四、〇四四円の収入を得ていたところ、本件交通事故により傷害を受け、入通院の治療を受けるため、二一か月間休業を余儀なくしたから、その休業による損害は金四五〇万円となる〔(2,574,044円÷12月)×21月=4,504,576円〕。

(6) 逸失利益 金三、三四二万七、四七〇円

原告は、症状固定時四七歳であつて、その就労可能年数は六七歳まで二〇年間であるが、前記後遺障害により、その労働能力の六七パーセントを喪失したから、これにより逸失利益を算定すると金三、三四二万七、四七〇円となる〔(230,700円×12月+895,800円)×0.67×13.616(ホフマン係数)=33,427,470円〕。

(7) 弁護士費用 金三〇〇万円

(8) 損害の填補 金一、五四四万八、二七二円

原告は自賠責保険から金八二八万円(傷害分金一〇〇万円、後遺症分金七二八万円)の給付を受けたほか、加害車両の運転者である訴外三崎から損害賠償として、金二六〇万円の支払を受け、有給休暇利用期間中の給与および傷害給付金として金四五六万八、二七二円の支払を受けた。

4  結論

よつて、原告は被告らに対し、前記(1)ないし(7)の合計金六二二三万七、四六〇円から(8)の金一、五四四万八、二七二円を控除した金四、六七八万九、一八八円およびうち金四、三七八万九、一八八円((7)の弁護士費用を控除した金額)に対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日である昭和五五年八月一四日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うべきことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(1)ないし(5)は認め、(6)は知らない。

2  同2(1)は認め、(2)のうち被告野田が被告会社の代表取締役であつたこと、当時、加害車両に同乗していたこと、訴外三崎の前方不注視の過失により本件交通事故が発生したことは認め、その余は争う。

3  同3(1)ないし(7)は争い、(8)は認める。

三  被告らの主張

1  過失相殺

訴外三崎は加害車両を運転して国道一七一号線を南から北に進行し、本件交差点を右折するため、その中央付近で一たん停止し、国道一七一号線を北から南に進行する車両がなくなるのを待機していたところ、南進する車両がなくなつたので、右折しようとして徐行しながら発車した際、突然、原告の運転する被害車両が飛び込んできたため、本件交通事故が発生したものであつて、原告にも左右の安全を確認しなかつた過失があるから、原告の損害額を算定するについて、原告の過失を斟酌するべきである。

2  被告野田の責任原因について

被告野田は被告会社の代表取締役であり、当時、加害車両に同乗していたものであるが、被告会社にかわつて訴外三崎を選任、監督していたものではなく、代理監督者たる地位にあつたのは、被告会社の専務取締役である小川慎浩であつたから、被告野田が民法七一五条二項所定の責任を負うことはない。

四  被告らの主張に対する認否

1  過失相殺の主張について

本件交通事故は、訴外三崎の一方的過失によつて惹起したものであつて、原告には、なんらの不注意もない。

2  被告野田の責任原因

被告野田が民法七一五条二項所定の責任を負うのは明らかであつて、この点についての被告らの主張は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件交通事故の発生について

請求原因1(1)ないし(5)は当事者間に争いがなく、同(6)は、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし四、第四号証、成立に争いのない甲第六号証によつて認められる。そして、右各証拠によれば、原告の後遺障害の内容は、自覚症状として跛行、右下肘の短縮、右股、膝、足関節痛、右下肘の冷感、右足関節から足の麻痺と関節拘縮があり、他覚的症状として右下肘の短縮、右股、膝、足関節の運動制限、右膝から足に知覚異常、筋萎縮と変形工合、右足関節の尖足変形、右膝関節に不安定および動揺性を認めるというものであり、歩行中、右股、膝、足関節に雑音と痛みを発するため、五分以上の歩行は不可能であり、坐つて行う仕事に関しては支障はないけれども、補装具なしでは歩行は無理であつて、機能回復の見込みはないとされていることが認められる。

二  責任原因について

(1)  被告会社が加害車両を保有し、本件交通事故当時、自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いのないところであるから、被告会社が自賠法三条所定の責任を負うことは明らかである。

(2)  被告野田が被告会社の代表取締役であつて、本件交通事故当時、加害車両に同乗していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第七号証の一ないし六、原告および被告野田各本人尋問の結果によれば、本件交通事故現場は、南北に通ずる国道一七一号線と東西に通ずる道路が、ほぼ直角に交差する信号機によつて交通整理の行なわれている交差点であるが、訴外三崎は、被告野田を助手席に同乗させて加害車両を運転し、南北に通ずる国道一七一号線を南から北に向つて時速約四五キロメートルで本件交差点に向つて進行していたところ、被告野田が「次の信号を右」と命じたので、本件交差点を右折するべく、本件交差点の北側の国道一七一号線上を見ると、本件交差点の南北の信号が青を示し、折柄、一台の自動車が北から本件交差点に向つて南進してくるのを認め、同自動車より先に本件交差点を右折東進しようとして、他の車両の有無など十分確認することなく、時速約三〇キロメートルに減速し、右に転把して本件交差点中央付近まで進行した際、左前方の至近距離に被害車両が本件交差点を北から南に通過しようとしているのを、はじめて発見し、急制動をかけたが及ばず、加害車両の前部を被害車両の右前部に衝突させたものであり、原告は、被害車両を運転して、国道一七一号線を北から南に向つて時速約四〇キロメートルで本件交差点に向つて進行し、本件交差点の南北の信号が青であつたので、信号に従つて、そのまま本件交差点を通過しようとしたところ、本件交差点中央付近で、突然、右折してきた加害車両の前部が被害車両の右前部に衝突したものであることが認められる。そして、前記各証拠によれば、被告会社は、道路舗装工事を主たる営業種目とする株式会社であり、従業員約三五名(技術関係一二名、事務関係四名、現場職人と自動車運転手約二〇名)を擁する小規模の企業であつて、訴外三崎は昭和五三年三月高校卒業と同時に被告会社に雇用されたが、被告会社の代表取締役であつた被告野田がスピード違反により運転免許の取消を受けたところから、とりあえず社長付の運転手として加害車両の運転に従事していたものであり、本件交通事故発生当時も、訴外三崎が被告野田の指示により、同被告を助手席に同乗させて加害車両を運転し、工事現場から被告会社事務所に帰社する途中であつたことが認められる。

そうすると、被告野田は、加害車両の運転者である訴外三崎の使用者である被告会社の代表取締役として、実質的にも被告会社にかわつて右訴外人を選任し、監督をしていたものというべきであつて、右訴外人が本件交通事故について民法七〇九条所定の責任を負うべきものであることは右に認定した本件交通事故の態様に照らして明らかであるから、被告野田が民法七一五条二項所定の責任を負うことは明らかである。もつとも、被告野田本人尋問の結果中には、被告会社の従業員の選任、監督は専務取締役である小川慎浩が担当し、代表取締役である被告野田は営業と経理を担当していたものである旨の供述部分があるが、たとえ、そうだとしても、被告会社のような小規模な企業にあつて、しかも前記認定のような事実関係のもとにおいては、被告野田が被告会社の代表取締役であるのにかかわらず、被告会社にかわつて被告会社の従業員の事業の執行を監督していなかつたものとは認めがたい。

三  損害について

(1)  治療費 金九八四万五、九九〇円

前記甲第二号証の一、第三号証の一、第四号証によれば、原告が本件交通事故により受傷した結果、原告主張どおり、合計金九八四万五、九九〇円の治療費を要したことが認められる。

(2)  慰籍料 金七〇〇万円

原告の年齢、職業、傷害の部位、程度、後遺症の内容、入通院期間、その他諸般の事情に照らし、原告の精神的苦痛に対する慰藉料額は金七〇〇万円をもつて相当と認める。

(3)  入院雑費 金五七万三、〇〇〇円

原告は入院期間中における入院雑費として原告主張額を下らない費用を要したものと認めるのが相当である。

(4)  付添看護料 金六五万一、〇〇〇円

原告の傷害の部位、程度に照らし、入院中における付添看護料として、原告主張額を下らない費用を要したものと認めるのが相当である。

(5)  休業損害 金四三九万三、五〇五円

原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認める甲第五号証によれば、原告は、昭和七年一一月一五日生れで、本件交通事故当時、株式会社神戸製鋼所に勤務し、昭和五二年度分の年間収入は金二五七万四、〇四四円であつたところ、本件交通事故が発生した昭和五三年三月二九日から症状の固定した昭和五四年一二月一一日まで六二三日間休業を余儀なくしたものと認められるから、その間の休業損害は金四三九万三、五〇五円となる(2,574,044円÷365日×623日=4,393,505円)。

(6)  逸失利益 金二、三四八万二、二八一円

原告の昭和五二年度の年間収入は金二五七万四、〇四四円であるが、原告は昭和七年二月一五日生れで症状固定時である昭和五四年一二月一一日当時四七歳であつて、その就労可能年数は六七歳まで二〇年間と認めるのが相当であるところ、原告の後遺症の内容と程度に照らせば、その労働能力喪失率を六七パーセント、その労働能力喪失期間を二〇年間と認めるのが相当であるから、これにより逸失利益を算出すると金二、三四八万二、二八一円となる〔2,574,044円×0.67×13.616(新ホフマン係数)=23,482,281円〕

(7)  過失相殺

前記認定の本件交通事故の態様によれば、本件交通事故は、訴外三崎の一方的過失によつて惹起したものであつて、原告にはなんらの不注意もなかつたものであるから、被告らの過失相殺の主張は採用しない。

(8)  損害の填補 金一、五四四万八、二七二円

原告が合計金一、五四四万八、二七二円の損害の填補を受けたことは当事者間に争いがない。

(9)  弁護士費用 金二五〇万円

原告の請求し得べき損害額は前記(1)ないし(6)の合計金四、五九四万五、七七六円から(8)の金一、五四四万八、二七二円を控除した金三、〇四九万七、五〇四円であるが、原告が本件訴訟の提起と追行を弁護士滝本雅彦に委任し、弁護士会所定の報酬規程により報酬を支払うことを約したことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件訴訟の審理の経過、内容、事案の難易度、認容額、その他諸般の事情に照らし、原告が損害賠償として請求し得る弁護士費用は金二五〇万円をもつて相当と認める。

四  むすび

よつて、原告の本訴請求は、原告が被告らに対し、金三、二九九万七、五〇四円およびうち金三、〇四九万七、五〇四円に対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和五五年八月一四日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うべきことを求める限度において正当であるから、これを認容すべきであるが、これを超える部分は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

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