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神戸地方裁判所 昭和57年(行ウ)15号 判決 1987年1月26日

原告 佐々木晃一

被告 兵庫税務署長

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、昭和五五年二月五日付でした昭和五一年分及び同五二年分所得税の再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分中別表一、二の確定申告欄記載の各金額を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五一年分及び同五二年分(以下、「本件係争各年分」という。)の所得について、原告のした確定申告、これに対して被告のした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに再更正処分(以下、別表一の再更正処分を「昭和五一年分再更正処分」、別表二の再更正処分を「昭和五二年分再更正処分」といい、右二つの処分を合せて「本件各再更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分、国税不服審判所の裁決の経緯・内容は、別表一、二のとおりである。

右裁決書は、昭和五七年一月二八日原告に送達された。

2  しかしながら、被告がした本件各再更正処分(いずれも審査裁決により維持された部分。以下同じ。)のうち、別表一、二の各確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがつて、また本件各再更正処分を前提にしてされた各過少申告加算税賦課決定処分(以下本件賦課決定処分という)も違法である。

よつて、本件各再更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  課税の経緯について

(一) 原告は、神戸市北区鈴蘭台北町五丁目四番地の五号において、佐々木住宅なる屋号で建築請負業を営む白色申告者である。

(二) 被告は、原告の昭和五〇年分ないし同五二年分の所得税調査のため、部下職員を原告店舗に赴かせ右各年分の所得金額の基礎となる帳簿書類の提示を求めたところ、原告は、昭和五二年七月以降のわずかな領収書等を提示し、建築請負に係る事業所得は例年売上金額に八パーセントを乗じて申告している旨を申し立てたのみであつた。

(三) そこで、被告は、やむを得ず原告の取引先を調査したうえ、右申立てに係る所得率に基づいて、原告の本件係争各年分の事業所得金額を算定し、本件各更正処分をした。

2  原告が、昭和五一年及び同五二年において販売あるいは自家消費した宅地(以下「本件宅地」という。)の取得及び販売の経緯について

(一) 原告は、昭和三九年五月六日に訴外守田米一から神戸市兵庫区(現在は北区)山田町小部北山三番地八五及び同所同番八六の山林一三三八・八四平方メートル(以下「本件山林」という。)を二二三万〇五〇七円で取得した。

(二) 原告は、右本件山林について神戸電気鉄道株式会社(以下「神戸電鉄」という。)との間で昭和四二年一月三〇日、宅地造成に関する契約を締結し、造成後に六七一・〇七平方メートルの宅地を原告の所有とすることを取り決めた。

神戸電鉄との右宅地造成契約は、神戸電鉄が本件山林一三三八・八四平方メートルを含む一団地の宅地を造成するに当たり、当該山林のうち、六七一・〇七平方メートルを原告所有のままとし、残余の六六七・七七平方メートルを神戸電鉄に譲渡し、その対価をもつて原告所有の山林六七一・〇七平方メートルの造成費に当てようとするものである。

(三) ところが造成事業の都合上、原告が所有する山林の区域内では、造成契約において原告が所有することとなつていた契約面積の宅地を確保することができなくなつたため、その代わりとして神戸電鉄が同時期に本件山林隣接地を宅地造成した区域内に存する神戸市兵庫区山田町小部字北山三の一〇九(現在神戸市北区緑町七丁目一五番地の一)の宅地七三五・三八平方メートル(以下「本件換地」という。)を原告が取得することを内容とした宅地交換契約を昭和四七年六月一八日に神戸電鉄との間で締結し、本件換地の登記簿には、昭和四七年六月二一日付けで交換を原因として所有権移転登記を経由した。

なお、神戸電鉄は、右宅地造成契約に基づき本件山林の宅地造成工事を昭和四七年中には完了させている。

(四) 原告は、所有権移転登記が経由された後、昭和四七年分所得税確定申告書を昭和四八年三月九日に、被告に対し、右交換に伴う譲渡所得が六八七万四八三八円(収入金額八八七万六九三七円から取得費一〇〇万二〇九九円及び特別控除一〇〇万円を差し引いた額)である旨記載して提出した。

(五) 原告と神戸電鉄は、昭和四八年三月九日、本件換地が原告に本来留保すべきであつた宅地面積よりも六四・三一平方メートル上回つていたため、この上回つた部分について原告がこれを本件換地のうちから分筆して神戸電鉄に返還する旨の覚書を交したが、その後同年三月二四日に至り右六四・三一平方メートルについては、原告が神戸電鉄から九七万二五〇〇円で買い取る契約を結び同日金銭の受渡しを完了した。

(六) 原告は、本件換地内において、昭和四九年に次の宅地を土地付建売住宅として販売した。

(1) 所在神戸市北区山田町小部字北山三番の一七四(昭和四九年三月一八日同地同番地一〇九から分筆、現在神戸市北区緑町七丁目一五番地の二)の宅地八四・六五平方メートル

買主 河村省三

(2) 所在神戸市北区山田町小部字北山三番の一七三(昭和四九年三月一八日同地同番地一〇九から分筆、現在神戸市北区緑町七丁目一五番地の三)の宅地九三・〇一平方メートル

買主 稲葉勝利及び森川赴

(七) その後、原告は昭和五〇年五月三一日神戸市北区緑町七丁目一五番地の三一(昭和四九年六月一日神戸市北区山田町小部字北山三番の一〇九から神戸市北区緑町七丁目一五番地の一に地番変更、昭和五二年一二月二日同地同番地から分筆)の本件宅地上に建物を新築し、右物件を昭和五一年一〇月から自家用に供したが、右物件は昭和五三年一〇月七日に八二・七〇平方メートルの土地付建売住宅として訴外中元武に一三〇〇万円で販売した。

(八) また、原告は、昭和五一年八月九日には、神戸市北区緑町七丁目一五番地の三〇(前記(七)と同様地番変更後、昭和五一年七月二二日神戸市北区緑町七丁目一五番地の一から分筆)の宅地八二・九九平方メートルを土地付建売住宅として訴外池田武士に一四五〇万円で販売した。

(九) さらに、原告は、昭和五二年一二月二二日、神戸市北区緑町七丁目一五番地の三二(前記(七)と同様地番変更後、昭和五一年一二月二日神戸市北区緑町七丁目一五番地の一から分筆)の宅地八六・一二平方メートルを土地付建売住宅として訴外藤原正勝に一四五〇万円で販売した。

3  本件宅地の譲渡及び自家消費に係る所得分類について

(一) 資産の譲渡にかかる所得税法上の取扱いについて

所得税法は、ひとしく資産の譲渡によつて生じた所得であつても、これを課税の対象とする場合税負担の衡平を図る見地から一律の取扱いをすることなく、概して臨時的、偶発的に発生する所得については、経常的、計画的に発生する所得に比較して担税力において劣るところから、これを譲渡所得として経常的、計画的に発生する所得と区別して課税の対象としている。

すなわち、所得税法上、資産の譲渡により生じる所得は、譲渡所得として課税すべきこととなる(同法三三条)が、棚卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得は譲渡所得に含まれないものとされている(同法三三条二項一号)。

ところで、譲渡所得の本質はキヤピタルゲイン、すなわち資産の長期にわたる保有期間中に、保有者自身の意思によらない外的条件の変化、たとえば物価の騰貴、環境や社会状勢の変化等に基因して逐年生じた資産の値上りによる増加益を所得として、その資産が個々所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであつて、仮に本来販売目的のない資産であつても、右のようなキヤピタルゲインでない所得、つまり当該資産に所有者が造成、改良、区画変更等の積極的作為を加えて生じた価値の増加による所得は、右譲渡所得に含まれず、もしその価値増加をもたらす所有者の作為が所得税法二七条の「事業」であれば、実質的に棚卸資産の譲渡による所得として事業所得であり、そうでないときは、同法三五条の雑所得になると解せられる。

そこで、所得税基本通達において、固定資産である土地に建物を建設して譲渡した場合には、当該譲渡による所得は、棚卸資産又は雑所得の基因となる棚卸資産に準ずる資産の譲渡による所得として、その全部が事業所得又は雑所得に該当するとされている(同通達三三―四以下)。

(二) 原告が昭和三九年五月に取得した本件山林について

(1) 原告が取得した当時、本件山林一帯は昭和二〇年以前に訴外株式会社幸ケ住宅が道路のみをつけ、原野のまま分譲した石山で樹木もなく水もない土地であり、にわかに宅地化が可能な状況にはなかつた土地である。

(2) 訴外神戸電鉄が本件山林一帯の買収交渉を開始したのは、昭和三八年六月であるが、そのような状況について原告は職業上関心も強く、右情報が入手しやすい立場にあつた。

(3) 原告が買い取つた本件山林の価額は坪単価約五五〇〇円であるが、当時の時価(神戸電鉄が付近一帯を買い取つた価額は坪五〇〇〇円である。)からみても妥当な金額であり、原告は神戸電鉄が付近一帯の山林について造成工事を予定していることを察知したうえで本件山林を取得したことがうかがわれる。

ア 一般に、土地を売買する場合、その価額の決定は、お互いの知り得た時価の折衝により決められるが、本件の場合、当時神戸電鉄が買収していた時価より高い五五〇〇円と決められたということは、売主、買主(原告)双方において付近一帯の当時の時価を認識していたことを物語るものであつて、原告は投げ売り物件を取得したのではなく、売主の要望を原告が容れて価額決定をしたものとみられる。

イ また、原告に対して神戸電鉄が昭和三九年暮れから本件山林について再三買収交渉をしているが、極めて難航し最終的に宅地造成契約を締結したのは二年余り経過した昭和四二年一月となつている。

(ア) しかし、原告は、神戸電鉄からの買取り申出によつて転売益はあつたであろうが、長期にわたりこれに応じていないことから考えると単に転売益を目的として本件山林を取得したものではなく、神戸電鉄による一連の買取り交渉に伴い本件山林は神戸電鉄の買取りに応じなくても相当な値上がりをする土地であり、また、造成工事も単独で可能であること等について十分に認識をしていたと推測される。

(イ) そして、原告が神戸電鉄と取り交わした宅地造成契約において、本件山林の面積は減少したが、水道、ガス、電気施設は神戸電鉄が行う分譲宅地並みの数区画に分割することを前提に複数の施設を設置したうえで引渡しを受けている。このことから、原告は本件山林を分割し建売住宅を建てて分譲する意思を有していたことが明らかである。

(4) 原告は昭和四七年一〇月二五日に二級建築士の、原告の妻は昭和五〇年一二月二三日に宅地建物取引主任の各資格を取得し、土地付分譲住宅の建築と販売の事業形態を整えている。

(5) 造成工事完了に伴つて原告が神戸電鉄から引き渡しを受けた本件宅地を含む一団の土地(本件換地)を順次分割して販売した土地にはすべて家屋を建築して分譲しており、更地のまま譲渡したものはない。

(6) また、本件山林は、一三三八・八四平方メートルと広く、取得時の現況からみても、原告が居住するために買い取つたものでないと推認されるものである。

(7) 以上により、本件山林は、原告が相当な利益を見込んで取得したものというべきであり、本件山林を取得した当初から、棚卸資産というべき性格のものである。

(8) さらに原告は、本件宅地を含む一団の土地の一区画に建物を建築し土地付分譲住宅として本件提訴後の昭和五六年一一月に訴外大滝満子に販売しているが、原告の昭和五六年分の所得税確定申告書によるとその所得を事業所得として申告していることからみても、本件山林は原告自身棚卸資産であると自認しているものである(固定資産の譲渡であれば確定申告をする際分離課税の申告書を使用することになる。)。

(三) 本件宅地が棚卸資産であることについて

(1) 原告が、昭和三九年五月六日に本件山林を取得した当初から本件山林は棚卸資産であること前述のとおりである。そして、前述(三2参照)の経緯を経て原告は昭和四八年三月二四日には本件宅地を含む本件換地を取得したが、本件換地には神戸電鉄が、ガス、水道、排水施設を最低三カ所は附設していた。

(2) 原告は、本件山林取得当初は広い庭のある自宅を建てたいと思つていたが、神戸電鉄から本件宅地の引き渡しを受けてみると、全然形状が変わり、前に大きな市営住宅が建つていたり、坂が急になつていたりしたので、本件換地に自宅を建てる気持はなくなつた旨主張するが、右主張によつても、少くとも本件換地取得当時においては、原告に右換地上に自宅を建てる意思がなかつたことは明らかである。

(3) 本件換地は、普通に宅地造成された土地であつたが、本件換地北側部分には、人工地盤を設けて当初の形状を変更しており、しかも右地盤はその構造からみて、一軒建てるごとに人工地盤を設けたのではなく、一軒目を建てる前にはすべての人工地盤が完成していたと推定される。

(4) 以上の事実に加え、原告は、昭和四五年ころから建築請負を始め、建築業の許可を取つて仕事を行つているなど、土地付分譲住宅の建築・販売の事業形態を整えていること(三3(二)(4)参照)、現に本件換地には六軒の建物が建てられ、いずれも結果的に分譲されている事実を総合すると、結局原告は、本件換地の造成を自己の主たる事業活動として、これに積極的に取り組んでいたということができるから、本件換地にしたがつて同換地内にある本件宅地は棚卸資産というべきである。

(四) 原告が本件換地内に建築し、居住した建物(以下「自家消費土地建物」という。)について

(1) 原告の自家消費土地建物は、昭和五〇年五月三一日に完成していながら入居は同五一年一〇月二九日であり、一般に新居を取得した場合一日も早く新居に移りたいのが自然であることからして、竣工から一年半にわたつて放置するのは不自然で、当初から自己の居住用に建築した建物とは認め難い。

(2) 原告が自家消費土地建物に入居したのは昭和五一年一〇月二七日であつてその土地は八二・七〇平方メートルであるが、現在入居している神戸市北区星和台三丁目一八番一の土地は昭和五一年七月二〇日に取得し、その面積は二九六・四七平方メートルであり、当該物件には二年以内に建物を建築する条件が付されているものである。

さらに、同地上に建築した建物の床面積は一三四・三〇平方メートルであるが、自家消費土地建物の床面積は七五・四八平方メートルに過ぎない。

(3) 一般に住宅を取得する場合、土地建物の広さは重要な選択要素であるし、自家消費土地建物に入居した時期にはすでに転居用の土地を取得している状況を総合すると、原告が自家消費土地建物に入居したのは極めて一時的便宜的なものと認めざるを得ない。

(4) 以上のとおり、自家消費土地建物については、現在入居している自宅の取得が目前だつたために便宜的に一時入居したものと考えられる。

このような場合、自家消費として課税しなければ、原告が入居することによつて自家消費土地建物は原告の居住用資産になるから、これを転売したときの転売益は居住用資産の譲渡として三〇〇〇万円の特別控除(租税特別措置法三五条)を受けて結果的に非課税となり、課税の不公平を生ずる結果となる。

(五) そこで次に、原告の取引実態から所得分類を検討すると、原告の本件係争各年分の取引内容は、原告が所有していた本件山林を宅地に造成しかつ宅地に家屋を建築して、いわゆる土地付の建売住宅として販売するという計画的な事業活動の一環として売却又は自家消費がなされたものであることは明らかであるから、これはいずれも所得税法三三条二項一号及び所得税基本通達三三―四により、棚卸資産の譲渡として、その所得は、事業所得に該当することとなる。そして、原告がその事業として建築した土地付建物を自家用に供することは、棚卸資産としての本件宅地(自家消費した建物の敷地部分に限る。)及び同地上の建物の自家消費に該当し(所得税法三九条)自家用として使用するに至つた時期の価額に相当する金額を総収入金額に算入すべきこととなる。

4  本件係争各年分の取引にかかる本件換地の取得時期について

(一) 本件のような土地の譲渡が伴う事業所得等の課税については、租税特別措置法(昭和五七年法律第八号による改正前のもの)二八条の四によりその土地の保有期間が長期保有(昭和四三年一二月三一日以前の取得)か、短期保有(昭和四四年一月一日以降の取得)かによつて税額算出の方法が異なるので、本件係争にかかる本件換地の取得の時期について検討する。

(二) 原告が昭和三九年五月六日に本件山林を取得したのち、本件換地を取得するに至る経緯は、前述(三2(一)ないし(五)参照)のとおりである。

これらの状況から買取り及び交換分を含めて造成後原告の所有となつた本件換地七三五・三八平方メートルの取得の時期は、次のとおりとなる。

造成後の全保有地七三五・三八平方メートルのうち、昭和四二年一月三〇日の神戸電鉄との宅地造成契約によつて、原告の取得分とされた宅地六七一・〇七平方メートルについては、昭和四七年六月一八日の神戸電鉄との交換契約によつて新たに右宅地を取得したと解されないでもない。しかし、一連の取引実態及び昭和四七年分所得税の確定申告において、本件山林のうち当該宅地の面積を除く部分のみ譲渡したものとして所得金額の計算が行われていることからして、当該宅地取得の原資である本件山林取得の時、すなわち昭和三九年五月六日が右宅地の取得日であるとするのが相当と考える。

次に、残余の六四・三一平方メートルについては、当該宅地を神戸電鉄から買い取つた昭和四八年三月二四日が取得日となる。

したがつて、昭和三九年五月六日が取得の日と認められる六七一・〇七平方メートルについては長期保有資産となり、昭和四八年三月二四日に取得した六四・三一平方メートルについては短期保有資産となる。

5  原告の本件係争各年分の事業所得金額

原告の本件係争各年分の事業所得金額及びその算定根拠は以下に述べるとおりであり、この範囲内でした被告の本件各再更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分(いずれも審査裁決で一部取り消された後のもの)に何ら違法はない。

なお、前記(三4参照)のとおり、本件換地のうち短期保有資産となる六四・三一平方メートルの宅地の譲渡については、租税特別措置法二八条の四により他の所得と区分し、分離短期の事業所得としてその所得金額を計算することとなるが、本件の場合、全体の宅地面積七三五・三八平方メートルのうち短期保有となる六四・三一平方メートルが如何なる部分であるかが明確に区分できないので、全体の面積からあん分計算する方法により算定する。そして、右あん分比率は別表三、本件換地の原価計算は別表四のとおりであり、これらによつて算定した本件係争各年分の所得金額は別表五、六のとおりである。

(一) 昭和五一年分

(1) 売上金額 三九九一万七〇五〇円

右は、次のアないしオの合計額である。

ア 土地販売分 五八〇万九〇〇〇円

原告が、訴外池田武士に土地付建物を一四五〇万円で販売したが、その土地の販売分の金額である。

まず、原告が右販売した土地の一平方メートル当りの価格は七万円とした。その根拠は、原告は、昭和五二年に訴外藤原正勝に対し、右土地と同一区画内の宅地(八六・一二平方メートル)を同地上の家屋とともに土地付建売住宅として販売している(三2(九)参照)が、その土地販売金額が六〇二万八〇〇〇円(同金額は原告が被告に対し申し立てた金額である)であり、したがつてその一平方メートル当りの価額は次の算式のとおり七万円となる。

(算式)

6,028,000円×86.12平方メートル≒70,000円

そして、被告は、右各土地付近の売買実例価額の調査結果等に基づき、原告が訴外池田武士に販売した土地の一平方メートル当りの単価と訴外藤原正勝に販売した土地のそれとは同額であると判断した。そこで、原告が訴外池田武士に販売した土地の面積八二・九九平方メートルを乗じて土地販売分の価額を算出した。その算式は次のとおりである。

(算式)

70,000円×82.99平方メートル≒5,809,000円

イ 建物販売分 八六九万一〇〇〇円

原告が訴外池田武士に販売した土地付建物の価額が一四五〇万円であり、そのうち土地部分の販売価額が右のとおり五八〇万九〇〇〇円であることから、同金額を差し引いて算出した。

(算式)

14,500,000円-5,809,000円=8,691,000円

ウ 土地自家消費分 五七八万九〇〇〇円

原告が、昭和五一年から自家用に供した土地・建物(三2(七)参照)は、原告が訴外池田武士に販売した土地・建物と隣接しており、その面積においても類似しているため、棚卸資産の自家消費として計算すべき基準となる金額は、アと同様、土地の一平方メートル当りの価額は七万円、土地付建物の販売価額も同額の一四五〇万円とした。

そこで、一平方メートル当りの価額七万円に、原告が自家用に供した土地の面積八二・七〇平方メートルを乗じて算出した。

(算式)

70,000円×82.70平方メートル=5,789,000円

エ 建物自家消費分 八七一万一〇〇〇円

右ウにより、販売価額一四五〇万円から五七八万九〇〇〇円を差し引いて算出した。

(算式)

14,500,000円-5,789,000円=8,711,000円

オ 一般工事 一〇九一万七〇五〇円

原告は、昭和五一年分の事業所得金額を一七四万円として申告しているが、原告が、被告の調査担当部下職員に申し立てた事業所得の売上金額に対する割合(以下「所得率」という。)は八パーセントである。そこで、原告の売上金額を算出すると、次の算式のとおり二一七五万円となる。

(算式)

1,740,000円÷8パーセント=21,750,000円

右売上金額のうち、訴外池田武士に販売した土地付住宅の建物部分は、既にイにおいて売上金額に算入しているから、同金額を差し引かなければならない。ところで、原告が訴外池田武士に販売した土地建物につき、原告は土地の販売分が三六六万七〇五〇円、建物の販売分が一〇八三万二九五〇円(一四五〇万円から三六六万七〇五〇円を差し引いた額)と確定申告している。このことは、右売上金額のなかに、右建物の販売分一〇八三万二九五〇円が含まれていることを意味するので、前記イの金額ではなく右確定申告した建物の販売分の金額を差し引く必要がある。そこで、土地付住宅分以外の一般工事収入は次のとおりとなる。

(算式)

21,750,000円-10,832,950円=10,917,050円

(2) 必要経費

ア 土地販売分

原告が、訴外池田武士に販売した土地については前述のとおり長期保有資産分と短期保有資産分にあん分して計算し、そのあん分比率は別表三のとおりであり、本件換地に含まれる右土地の一平方メートル当りの原価は、別表四のとおりである。

また、原告が右販売に際し仲介手数料として訴外信用興産株式会社に支払つた金額は一四万六〇〇〇円である。

まず、長期保有資産分の土地であるが、別表五の長期保有資産分の取得価額等の欄記載のとおり、同土地の原価は譲渡面積七五・七四平方メートルに一平方メートル当りの単価一万四八九四円を乗じた一一二万八〇七二円であり、支払手数料も同様あん分計算して九一・二六パーセントを乗じた一三万三二四〇円となる。

次に、短期保有資産分の土地については、別表五の短期保有資産分の取得価額等の欄記載のとおり、同土地の原価は、譲渡面積七・二五平方メートルに一平方メートル当りの単価一万五一二二円を乗じた一〇万九六三五円であり、支払手数料もあん分計算して八・七四パーセントを乗じた一万二七六〇円となる。

イ 建物販売分 七九九万五七二〇円

前記(1)イの金額に原告が申し立てた経費率九二パーセント(一〇〇パーセントから所得率を差し引いたもの)を乗じて計算した。その算式は、別表五の訴外池田武士に販売した建物の取得価額等欄記載のとおりである。

ウ 土地自家消費分 一二三万三三八二円

前記アと同様に、長期保有資産分及び短期保有資産分をそれぞれ計算し合計すると、別表五の自家消費の土地付住宅の取得価額等欄記載のとおりとなる。

エ 建物自家消費分 八〇一万四一二〇円

前記(1)エの金額に経費率九二パーセントを乗じて算定した。算式は、別表五の自家消費土地付住宅建物部分の取得価額等欄記載のとおりである。

オ 一般工事 一〇〇四万三六八六円

前記(1)オの金額に経費率九二パーセントを乗じて算定した。算式は、別表五の一般工事の取得価額等欄記載のとおりである。

(3) 事業所得金額

訴外池田武士に販売した土地の売上価額のうち長期保有資産分は五三〇万一二九四円、短期保有資産分は五〇万七七〇六円である(算式は別表五の池田武士の長期保有資産分及び短期保有資産分欄参照)。

そして、右短期保有資産は分離課税となるから、その事業所得金額を算出すると、五〇万七七〇六円から一〇万九六三五円及び一万二七六〇円(前記(2)アの土地の原価及び支払手数料)を差し引いた三八万五三一一円である。

その他は、いずれも総合課税となるから、右同様にして算出したそれぞれの事業所得金額(訴外池田武士に販売した土地の長期保有分は四〇三万九九八二円、同建物販売分は六九万五二八〇円、土地自家消費分は四五五万五六一八円、同建物分は六九万六八八〇円、一般工事分は八七万三三六四円)を合計した一〇八六万一一二四円となる。

(二) 昭和五二年分

(1) 売上金額 二五五八万七〇〇〇円

ア 土地販売分 六〇二万八〇〇〇円

原告が、訴外藤原正勝に販売した土地付建物のうち、土地八六・一二平方メートルの販売価額である(三2(九)参照)。なお、右金額は、原告が被告に対し申し立てた金額である。

イ 建物販売分及び一般工事 一九五五万九〇〇〇円

原告が、原処分調査担当者に対し申し立てた金額である。

(2) 必要経費

ア 土地販売分

原告が、訴外藤原正勝に販売した土地についても、長期保有資産と短期保有資産に分かれるので、昭和五一年分の(2)アと同様に計算すると、別表六の藤原正勝の取得価額欄等記載のとおり、長期保有資産分は一一七万〇五一九円、短期保有資産分は一一万三八六九円となる。

イ 建物販売分及び一般工事 一七六六万七八〇〇円

原告が、原処分調査担当者に申し立てた売上金額から申告事業所得金額を差し引いたものである。

(3) 事業所得金額

訴外藤原正勝に販売した土地の売上価額のうち長期保有資産分は五五〇万一一五三円、短期保有資産は五二万六八四七円である(算式は別表六の藤原正勝の長期保有資産分及び短期保有資産分欄参照)。

そして、右短期保有資産は分離課税となるから、昭和五一年分の(3)同様に計算すると、四一万二九七八円となる。

その他は、いずれも総合課税となるから、同様にして算出したそれぞれの事業所得金額(訴外藤原正勝に販売した土地の長期保有分は四三三万〇六三四円、同建物販売分及び一般工事分は一八九万一二〇〇円)を合計した六二一万一八三四円となる。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1(一)の事実は認め、同(二)の事実のうち兵庫税務署職員による税務調査があつたことは認め、その余の事実は否認し、同(三)の事実のうち被告が本件各更正処分をしたことは認め、その余は争う。

2  同2(一)ないし(三)の各事実は認め、同(四)の事実は、原告が確定申告書を提出したことは認めるが、それは、被告が訴外神戸電鉄と話合いのうえ取り決めた(ただし、金額計算及び申告手続はすべて神戸電鉄がした。)ものに、原告が押印したにすぎない。同(五)の事実は認める。同(六)ないし(九)の各事実のうちそれぞれの土地にそれぞれの建物が建築され、その後所有名義が変更されたことは認める。

3  同3(二)(1)ないし(7)はいずれも否認又は争い、同(8)の事実のうち原告が被告主張の確定申告をしていることは認めるが、右は訴訟の繰り返しを避け自重したものである。

同(三)の主張は争う。

同(四)(1)(2)の事実は否認し、同(4)の主張は争う。

同(五)の主張は争う。

4  同5の主張は争う。

五  原告の反論

1  本件山林及び本件宅地は棚卸資産ではない。

(一) 原告は、左官を主体とした建築請負業を営んでいる者であり、土地付分譲住宅の販売を業とする建売業者ではない。建売業者とは、たえず遊休土地あるいは腐朽した木造建築物が建てられている土地を探し、地主と交渉し、土地を取得あるいは借地権の設定を受け次々に建売住宅を建築・販売する業者をいうものであるが、以下に述べるとおり原告はたまたま自分が所有する土地を切り売りしたもので、建売業者ときめつけることは的はずれである。原告が、本件換地上に建物を建て売却せざるをえなかつたのは、自らの建築請負業が不安定で常に請負仕事があるわけでないことから、やむなく建物を建築・販売し、その場をしのいでいたにすぎない。

(二) 原告が、昭和三九年五月に本件山林を取得したのは、広い庭の自宅を持ちたいとの希望に基づくものであり、事実、原告は、本件山林及び本件換地につき、造成・改良・区画変更等積極的作為により価値増加をもたらすこと(開発利益)は一切していない。

さらに、原告は、後に訴外中元武に売却した建物に居住していたが、同建物が自家用であつたことは以下の事実からも明らかである。まず、右建物には、原告が売却用に建築したほかの五軒の建物と違い、車庫がない。すでに、土地の他の一角に空地を確保し自動車を置ける原告が自宅にするからこそ、車庫が不要だつたものである。次に、右建物は、他五軒の建物がいずれも全面ベランダ付きの洋風建築で他への売却を予定したものであるのに対し、十分な前庭を備える和風建築で、したがつて建物の原価も他五軒の建物のそれより高い。さらに、右建物が売却を予定したものであれば、原告のように子供を含む家族がこれに居住するといつた日より著しい減価を招くようなことをする筈がない。事実、右建物は、昭和五三年に売却しているが、訴外池田武士に昭和五一年に売却した価額より一五〇万円も低価額で売却を迫られたものである。

被告は、右建物が昭和五〇年五月三一日に建つているのに、原告が入居したのが昭和五一年一〇月であつたことから右建物は売却用であると主張するが、事実に反する。原告は、昭和五〇年三月に自宅を建てるための建築確認を取得し、その後同人の建築請負工事の手あき時期に徐々に建築を進めたもので、完成したのは昭和五一年一〇月である。被告は、不動産保存登記の登記原因の記載を根拠に右完成時期を主張しているが、右は建築確認申請の際の完成予定日にすぎず、実際完成した日ではない。仮に昭和五〇年五月に完成していれば、同年中に調査のうえ固定資産税の家屋台帳に登載され、昭和五一年には原告に固定資産税が課税されるはずであるが、そのような事実はない。

(三) 本件山林は、原告が昭和三九年に取得した当時、被告主張(三3(二)(1)参照)のような石山ではなく、東西及び南側に道路が敷設され、斜面は穏やかで、現況は相当大きな樹木も植生する雑木林であつた。井戸も掘削され、ポンプを付設すれば直ちに居住に供せる状態であり、神戸市等が公共施設を設置してゆくのを待てば十分で、民間デイベロツパーの開発などはあてにしていなかつた。原告が、本件山林を取得した当時、隣接地まで人家が続き、原告は自然の地形を利用した住居の建設を計画していた。このように自然の地形を生かしたところでは、一区画が五〇〇坪を越えるところは神戸市山の手街地区にはかなりあり、本件山林の面積が一三三八・八四平方メートルの広さだからといつて広すぎることはない。

(四) 原告は、本件山林取得に際し、不動度業者の斡旋で取得したもので、その際神戸電鉄の開発・買収等は一切聞かされていない。

仮に、右事実が判明していれば、原告は以下の理由で本件山林を取得していない。すなわち、本件山林が、大規模な開発に囲まれれば、本件山林の利用がきわめて困難となり、開発に編入され開発者の意向に従属し、宅地化するにしても実際使用可能となるのは一〇年近くの年月を要し、このような条件が悪いところは到底買手があらわれないからである。

また、被告は、原告が神戸電鉄の開発・買収(神戸電鉄は坪当り五〇〇〇円)を察知して本件山林を坪当り五五〇〇円で購入したと主張するが、そもそも、本件山林の価額は不動産業者と売主が話合いで決めたものである。また、原告が神戸電鉄の開発・買収を察知していたのなら、神戸電鉄が購入した金額より高く買うことはありえない。

(五) 原告と神戸電鉄との宅地造成契約は、原告にとり苦痛以外のなにものでもなかつた。すなわち、右契約を締結せざるをえなかつたのは、本件山林が神戸電鉄の開発行為に包囲され死に地とならないようにするためであり、原告にとつては本件山林は半減し、土地引渡時期も定まらず、すべては神戸電鉄の都合により拘束を受けていたのである。

(六) 被告は、原告が本件換地を取得したのちは本件換地上に自宅を建築する気持がなくなつたと主張するが、原告は、本件換地上に自宅を建築するつもりは有していたものの土地が急傾斜地の端になつたこと、前面に市営住宅がたち一戸建住宅建築には良好といえない環境になつたことから、自宅建築の心境に変化が生じたにすぎないもので、被告の右主張は失当である。

(七) 被告は、本件換地に人工地盤を設け当初の形態に変更を加えたと主張する。しかし、本件換地が造成後原告に返還された当時から既に著しい段差があり、のり面の幅が広いので建物を建てる際に若干のかけ出しをしているものの、それは土地の形状を変更したものではなく、またすべてのかけ出しを同時期につくつたものでもない。

(八) 以上、要するに被告の主張によれば、原告が昭和三九年に本件山林を取得して以来本件宅地を譲渡するまでの間、いかなる時点で右土地が棚卸資産になつたのか明らかにされていない。

そして、所得税基本通達三三―三によれば、「固定資産である不動産の譲渡による所得であつても、当該不動産を相当の期間にわたり継続して譲渡している者の当該不動産の譲渡による所得は、所得税法三三条二項一号にかかげる所得に該当し、譲渡所得には含まれないが、極めて長期間(おおむね一〇年)引き続き、所有していた不動産の譲渡による所得は、譲渡所得に該当するものとする。」としているとおり、右土地はまさにこのような不動産であり、棚卸資産ではありえない。

2  本件宅地の販売価額について

(一) 被告は、原告が昭和五二年に訴外藤原正勝に販売した建物敷地の販売価額が一平方メートル当り七万円(合計六〇二万八〇〇〇円)であり、昭和五一年に訴外池田武士に販売した価額も同様である旨主張するが、右主張はまつたく根拠がない。

(二) 原告が、神戸電鉄から昭和四八年に引き渡しを受けた本件宅地を含む本件換地の価額は、昭和四九年一〇月ないし一一月頃一平方メートル当り三万六三〇〇円ないし五万三〇〇〇円で、平均では四万五〇〇〇円程度であつた。当時は、いわゆる高度成長末期の狂乱物価の時代で、昭和四七年からわずか二年の間に土地価額が一平方メートル当り三万〇五〇〇円から四万五〇〇〇円と一・五倍にまでなつた時代であつた。

ところが、オイルシヨツクによる景気失墜により、土地の価額も一挙に下落し、住宅地の価額が昭和四九年九月の水準に回復したのは昭和五二年秋頃である。

(三) 右によれば、原告が、昭和五一年七月二六日訴外池田武士に販売した建物敷地、昭和五二年一二月二二日訴外藤原正勝に販売した建物敷地の価額は、少なくとも実勢価額としては一平方メートル当り四万五〇〇〇円を越えることはありえない。

事実、原告が、訴外池田武士に販売した建物敷地八三・四六平方メートル(実測)の一平方メートル当りの価額が四万三九四〇円(合計三六六万七二〇〇円)であり、同じく訴外藤原正勝に販売した建物敷地八七平方メートル(実測)の一平方メートル当りの価額が四万三九四〇円(合計三八二万二七二七円)であり、これは右実勢価額と符合する相当な価額である。

(四) さらに、原告が、訴外池田武士に販売した土地の一平方メートル当りの単価と訴外藤原正勝に販売した土地のそれとは同額ではない。すなわち、住宅地の価額の指数は、訴外池田武士に販売した昭和五一年七月に近い同年九月には八四〇・三五八であるのに対し、訴外藤原正勝に販売した昭和五二年一二月に近い同年九月には八七四・三〇八、昭和五三年三月には九〇〇・五三七で、昭和五二年一二月には八八七・四二三程度と考えられるところ、右は一・〇五六倍程度の高騰を示している。このことから、仮に訴外藤原正勝に販売した土地の一平方メートル当りの価額が七万円としても、訴外池田武士に販売したそれは六万六〇〇〇円程度にしかなりえない。このことは、被告が主張する自家消費土地についても同様である。

六  被告の反論

1  本件係争各年分の取引にかかる土地の販売価額について

被告は、右土地の販売価額を土地付建物分譲価額と建物価額との差額として計算しているので、被告が主張する建物価額の適否が問題となるところ、以下のとおり、被告が主張する建物価額及び土地価額の区分計算は原告に有利なものであり、原告の事業所得金額は被告の主張額を下回るものではないというべきである。

(一) 兵庫県における木造の居住専用住宅の平均建築費により、原告の建物価額を算出すると、別表七、八のとおり訴外池田武士分(昭和五一年分)七六一万四三八四円、訴外藤原正勝分(昭和五二年分)七七七万三九三三円となり、いずれも被告主張の建物価額を下回る。

(二) また訴外池田武士分の建物価額について、被告主張の昭和五二年分の原告の建物価額を基に、兵庫県下における建築物価の上昇率を加味して算出しても、別表九のとおり、八二九万八〇六四円となり、被告主張の建物価額を下回る。したがつて、原告は、被告の主張する土地価額について、昭和五二年分が平方メートル当たり七万円であれば、同五一年分は六万六〇〇〇円にしかならないと主張するが、被告はあくまでも土地付建物分譲価額から建物価額を差し引いて土地価額を算出しているのであるから、原告の右主張が失当であることは明らかである。

(三) さらに、本件の建物価額の相当性についてみるに、原告が建設業の免許を取得する際に提出した過去の工事経歴中には、佐々木住宅(分譲)と表示した分について、六九〇万円から七四〇万円で完成させた旨の記載があり、右価額は建物建築利益を含んだ建築請負価額を意味するものであることから、この点からも本件の建物価額が被告主張の建物価額を上回るものではなく、原告の営業実体を充分に反映させたものであることが裏付けられるというべきである。

この点につき、原告は、実際の工事の時期、日数ともに本件とは異なる旨主張し、原告本人も工事経歴書は適当に書いたもので、記載内容は事実と異なる旨供述する。しかしながら、実際の工事の時期等が異なるという点は原告の方で何ら立証のないところであり、またそもそも工事経歴書は建設業の許可を受けようとする者が提出を義務づけられている書類であり(建設業法六条一号)、右書類に虚偽の記載をして提出すれば罰則の定めもあり(同法四六条一号)、かつ閲覧に供される公開書類である(同法一三条)から、右記載は、何らかの合理的な計算に基づくものであると考えるべきものであつて、言下にでたらめな書類であると否定しうるものでないことは明白である。

2  原告は、建築業の収入について八パーセントの利益があると言つたことはなく、そのように言つたのは原処分調査担当者である旨主張するが、原告の昭和五〇年分の確定申告書中には、収入金額二一六〇万九〇〇〇円、所得金額一七二万八〇〇〇円という記載があり、原告自身の申告が所得率八パーセントであることは明らかである。

七  原告の再反論

被告は、本件係争各年分の取引にかかる土地の販売価額は土地付建物の販売価額から建物価額を差し引いたものであると主張するが、国税庁自身は土地付建物の販売の場合にこれまでそのような取扱いをしていない。

すなわち、租税特別措置法(所得税関係)通達二八の四―三三(昭和五五直所三―二〇)によれば、「土地等と建物の譲渡による収入金額の合計額が土地等の取得価額と建物の取得価額の合計額を超える場合、建物の取得価額に一四二パーセントを乗じて計算した額と、譲渡による収入金額の合計額から土地等の取得価額を控除した残額とのいずれか低い金額を建物の譲渡による収入金額とし、残余を土地等の譲渡による収入金額とする。」としている。

これを、原告が昭和五二年に訴外藤原正勝に販売した土地付建物の場合につき被告の根拠に基づき検討すると、

<1>  建物の取得価額に一四二パーセントを乗じて計算した額 一二〇三万〇二四〇円

(算式)

建物の取得価額

8,472,000(円)×142(%)=12,030,240(円)

<2>  譲渡による収入金額の合計額から土地等の取得価額を控除した残額 一〇六七万七二七三円

(算式)

土地付建物の販売価額 土地の取得価額

14,500,000(円)-3,822,727(円)=10,677,273(円)

となり、前記通達によれば、建物の譲渡価額は結局右<2>の一〇六七万七二七三円となる。

このように、被告の主張は、自らがよりどころとし拘束される国税庁の通達による価額の計算ともかけはなれ、ただ、本件訴訟において敗訴を免れるために、客観的土地価額からも離れ、自らを拘束する通達をもほおかむりした、便法なのである。

そして、被告が、原告の許認可事務の委託をうけた者が適当に記載して、兵庫県知事あてに提出したとする経歴書の分譲の請負金額をもつてしても右の計算式によれば、ほぼ、右<2>の価額にみあうものになり、このことからも、被告の主張に何の根拠もないことが明白である。

第三証拠<省略>

理由

一  争いのない事実

請求原因1の事実、被告の主張1(一)の事実、同(二)の事実のうち兵庫税務署職員による税務調査があつたこと、同(三)の事実のうち被告が本件各更正処分をしたこと、同2(一)ないし(三)の各事実、同(四)のうち原告が確定申告書を提出した事実、同(五)の事実、同(六)ないし(九)の各事実のうちそれぞれの土地にそれぞれの建物が建築され、その後所有名義が変更されたこと、同3(二)(8)の事実のうち原告が被告主張の確定申告をしていることは当事者間に争いがない。

二  本件宅地の取得及び販売の経緯等

前記当事者間に争いのない事実に加え、成立に争いのない甲第一、第三、第四号証、乙第一ないし第三号証、第八号証の一、二、第二三、第二四号証、被写体、撮影者及び撮影年月日については被告主張のとおりの写真であることにつき当事者間に争いのない検乙第一号証の一、二、証人工藤敦久の証言により真正に成立したものと認められる乙第四ないし第六号証、証人西岡達雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、被写体については当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により原告が撮影した写真であることが認められる検甲第一号証、弁論の全趣旨により工藤敦久が昭和五七年五月二五日に神戸市北区緑町七丁目一五番地付近を撮影した写真であることが認められる検乙第二号証、証人菖蒲茂、同工藤敦久及び西岡達雄の各証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

1  神戸電鉄は、昭和三六ないし同三七年ころ、神戸市北区緑ケ丘付近一帯の宅地造成計画をたて、昭和三八年六月一日から同造成計画地内の土地(山林)所有者に対し個別に買収交渉を開始した。

2  原告は、昭和三九年五月六日に訴外守田米一から右造成計画地内にある本件山林一三三八・八四平方メートルを二二三万〇五〇七円で取得した(この点は当事者間に争いがない。)。

3  神戸電鉄は、前記造成計画に基づき、昭和三九年暮から原告に対し同人所有の本件山林の買収交渉を開始したが同交渉は成立せず、昭和四二年一月三〇日に原告との間で、減歩方式による宅地造成契約、すなわち神戸電鉄は前記造成計画に基づき原告所有の本件山林一三三八・八四平方メートル等を造成すること、原告は神戸電鉄に対し右造成の対価として本件山林のうち六六七・七七平方メートルを譲渡すること、残余六七一・〇七平方メートル(なお、下二桁の面積計算が合致しないのは四捨五入の関係である。)は原告の所有とすること等を内容とする契約を締結した(この減歩方式による宅地造成契約の点は当事者間に争いがない。)。

4  神戸電鉄は、昭和四四年ころから前記造成計画に基づき造成工事を開始し、昭和四七年に工事を完了したので、原告との間の前記宅地造成契約に基づき六七一・〇七平方メートルを原告のために保留しようとしたところ、造成後の宅地の形状等から右面積を確保できなくなつた。そこで、両者協議のうえ、昭和四七年六月一八日に神戸電鉄が同時期に本件山林隣接地を宅地造成した区域内に存する本件換地七三五・三八平方メートルを原告の所有とするべき宅地と確定し、その旨を宅地交換契約を締結した(この点は当事者間に争いがない。)。

5  本件換地の登記簿には昭和四七年六月二一日付けで交換を原因とした所有権移転登記が経由され(この点も当事者間に争いがない。)、また本件山林については、同月一九日付けで同月一三日交換を登記原因として神戸電鉄への所有権移転登記が経由されている。

6  神戸電鉄は、昭和四七年一二月二七日、本件山林内に原告に残存保留すべき宅地を確保することができなかつた原因は、専ら神戸電鉄側にあることから、前記交換に伴う原告の譲渡所得に係る所得税及び不動産取得税につき原因者が負担する以外に方法がないとして、神戸電鉄が負担することとしたが、その所得税の計算に際しては前記宅地造成契約による神戸電鉄の取得面積を基礎として計算している。

7  原告及び神戸電鉄は、昭和四八年三月九日、本件換地が原告に本来留保すべきであつた宅地面積よりも六四・三一平方メートル上回つていたため、この上回つた部分について原告がこれを本件換地のうちから分筆して神戸電鉄に返還する旨の覚書を交したが、その後同年三月二四日に至り右六四・三一平方メートルについては、原告が神戸電鉄から九七万二五〇〇円で買い取る契約を結び同日金銭の受渡しを完了した(この点は当事者間に争いがない。)。

8  原告は、昭和四九年に本件換地内に所在する次の宅地を土地付建売住宅として販売した(この点は当事者間に争いがない。)。

(一)  所在(現在の住居表示。以下同じ)神戸市北区緑町七丁目一五番の二の宅地八四・六五平方メートル

買主 河村省三

(二)  所在同町七丁目一五番地の三宅地九三・〇一平方メートル

買主 稲葉勝利及び森川赴

9  その後、原告は、本件換地内に所在する神戸市北区緑町七丁目一五番の三一の本件宅地上に建物を新築し(新築時期は証拠上定かではない。すなわち、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一八号証によれば、昭和五〇年五月三一日新築工事完了となつていることが認められるが、他方、原告本人尋問の結果によれば、右は建築確認を得る際の工事完了予定時期にすぎず、実際の工事は昭和五〇年一〇月ころ着工し一年以上かかつた旨供述し、いずれを措信すべきか確たる証拠はない。)、右物件を昭和五一年一〇月ころから自家用に供したが、昭和五三年一〇月ころ八二・七〇平方メートル(公簿面積、実測面積八三・七三平方メートル)の土地付建売住宅として訴外中元武に売却した。

10  原告は、昭和五一年八月九日ころ、本件換地内の神戸市北区緑町七丁目一五番の三〇の宅地八三・四六平方メートル(実測面積、公簿面積は八二・九九平方メートル)を土地付建売住宅として訴外池田武士に売却した。

11  原告は、昭和五二年一二月二二日ころ、本件換地内に所在する神戸市北区緑町七丁目一五番の三二の宅地八七平方メートル(実測面積・公簿面積八六・一二平方メートル)を土地付建売住宅として訴外藤原正勝に売却した。

三  本件換地の取得時期

本件課税の所得分類が、譲渡所得か事業所得かにかかわらず、本件宅地の保有期間により税額算出の方法が異なるので、以下本件宅地を含む本件換地の取得時期がいつであるか検討する。

まず、原告が昭和三九年五月六日に本件山林を取得してから本件換地を取得するに至る経緯は、前記認定のとおりである(二2ないし7参照)。そして、原告と神戸電鉄との間で昭和四七年六月一八日に締結した宅地交換契約の実態は、当初原告に本件山林内において留保すべきものと予定した造成地が神戸電鉄の造成事業の都合で困難となつたため、これに代え隣接の本件換地を原告が代替取得することにあり、神戸電鉄の造成事業遂行上必要最少限度の範囲内でやむなくなされたものであるから、原告が右宅地交換契約により取得した本件換地のうち原告が本件山林内において留保しようとしたものと同一面積である六七一・〇七平方メートルは、原告がかねて所有し留保すべき本件山林の一部六七一・〇七平方メートルと同一視できると解するのが相当である(なお所得税基本通達三三―六―五参照)。

そうすると、本件課税に際しては、本件換地のうち六七一・〇七平方メートルの部分は、右宅地交換契約による譲渡がなかつたものとして、その取得時期は従前の土地である本件山林を取得した昭和三九年五月六日であるとしても違法ではないと解すべきである。

次に、本件換地のうち残余の六四・三一平方メートルは、前記認定のとおり(二7参照)、原告が神戸電鉄から買い取つたものであるから、その取得日は買取日である昭和四八年三月二四日となる。

四  本件所得の所得分類について

1  譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいい、その資産は動産たると不動産たるとを問わない(所得税法三三条一項、所得税基本通達三三―一参照)が、資産の譲渡による所得であつても、<1>棚卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得、及び<2>山林の伐採及び譲渡による所得(いわゆる山林所得)は、譲渡所得に含まれないものとされている(所得税法三三条二項)。そして棚卸資産とは、事業所得を生ずべき業務に係る商品その他の資産をいう(同法二条一項一六号)ものであるから、その譲渡からは事業所得が生ずることとなる。

ところで、所得税法が棚卸資産等営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得につき、譲渡所得と区別し事業所得(ないし雑所得)としている趣旨は、譲渡所得は元来一時的かつ臨時的な資産の処分による所得であるのに対し、事業所得等は経済的利益追求のための事業活動等により継続的に発生する所得だからである。そして、その課税の本質は被告の主張(事実欄被告の主張3(一)参照)のとおり(要約すれば、所有期間中の外的条件による価値の増加益が譲渡所得であり、所有者が造成改良等の積極的な作為を加えることによる価値の増加益は譲渡所得ではなく事業所得ないし雑所得であるというもの)である(所得税基本通達三三―五参照)。

2  そこで、本件宅地の譲渡による所得が、譲渡所得か事業所得(ないし雑所得)か検討する。

前記認定事実に加え、前記甲第三号証、乙第二号証、同第四ないし第七六号証、前記証人工藤及び同西岡の各証言、原告本人尋問の結果(以下の認定に反する部分は措信しない。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件山林の面積は、原告が昭和三九年五月に本件山林を取得した目的が自己の居住目的にあるとするには不自然な位広いこと、原告と神戸電鉄との間で昭和四二年一月三〇日に交された契約では、原告が取得すべき宅地に対し水道、電気、ガスを供給できるよう造成工事を施行し神戸電鉄の分譲する宅地の諸条件と同一の取扱いをするとしていること(原告がその後取得した本件換地のうち少なくとも三箇所には神戸電鉄が水道、ガス、排水施設を敷設している。)、原告は昭和四七年一〇月二五日に二級建築士の資格を、同人の妻(佐々木三和子)は昭和五〇年一二月二三日に宅地建物取引主任の資格をそれぞれ取得していること、原告は前記認定のとおり造成された本件換地を取得し、いずれも本件をも含めおおむね八〇ないし九〇平方メートルの土地上に建物を建て土地付建売住宅として昭和四九年から同五三年までに数名に分譲していること等の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、所得税法二七条にいう事業所得の事業とは、同条に例示されたものを含め、一般に自己の計算と危険において営利を目的として継続的に行われる経済活動であつて、事業としての社会的客観性を有しているものをいうと解すべきところ、右事実によれば少なくとも原告が神戸電鉄との間で減歩方式による宅地造成契約をした昭和四二年一月三〇日には原告は本件換地の譲渡につき営利の目的で継続的にこれを行う企図を有するに至り、かつ本件宅地の譲渡の当時においては、その経済的活動は事業としての社会的客観性を有していたものということができ、したがつて原告の本件宅地の販売は右にいう「事業」に該当することは明らかである。

もつとも、原告は、本件宅地は長期間保有の資産であり所得税基本通達三三―三にいう譲渡所得を生ずる資産に該当する旨主張する(事実欄五1(八)参照)が、右通達の規定において「販売の目的で取得したもの」が除かれていることからも理解できるように、極めて長期間保有していた販売目的以外の目的で保有する固定資産の譲渡は、仮に営利を目的として継続的に譲渡されるものであつても、その譲渡による所得の実質は当該保有資産を長期にわたり保有していた期間に潜在的に生じていた資産の価値の増加益に相当するものの実現であるということができることから、同規定のような取扱いをしたものである。本件においては、前示各証拠によると、原告は本件山林取得後少なくともわずか二年足らずの昭和四二年一月三〇日には販売の目的をもち、これに基づき宅地造成等の加工を加えたのであるから、本件宅地はたな卸資産又はこれに準ずる資産に転化したと考えられ(右基本通達三三―四)、右基本通達三三―三が予定するような販売目的以外の目的による長期間保有にあたらない本件に右基本通達三三―三の規定を適用することはできず、原告の右主張は採用しない。

もつとも、右基本通達三三―五によれば、極めて長期間保有していた土地の区画形質を変更等して譲渡した場合につき、区画形質の変更等による利益に対応する部分は事業所得又は雑所得とし、その他の部分は譲渡所得として差し支えない旨規定しているが、その趣旨は、極めて長期間保有していた土地等に、右長期間保有後に宅地造成等の加工行為を加えたのちに譲渡したとしても、その譲渡による所得のうちには、その資産の長期にわたる保有期間中に、潜在的に生じていた資産の価値の増加益に相当する部分が含まれていることから、その宅地造成等の加工行為に着手する時点までの資産の価値の増加益に相当する部分の所得は譲渡所得とし、その後の値上り益及び加工利益に相当する部分の所得については、事業所得又は雑所得に該当するというように区分して課税するのが各所得の本質に照らしふさわしいとされたものである。本件において、原告は本件山林取得後わずか二年足らずで宅地造成等の加工行為を加えて販売目的をもち、その前後を通じ長期間保有したにすぎないのであるから、同基本通達の趣旨からしても、本件の所得を譲渡所得とすることはできない。

以上からして、本件宅地(原告が訴外中元武に売却したいわゆる自家消費土地については後述)を販売したことによる所得は、事業所得に該当するものといわなければならない。

3  次に、原告が訴外中元武に売却した土地及び建物が、元来、原告の自家用であつたかどうかにつき検討する。

前記検甲第一号証、乙第三、第八、第一八号証、検乙第一号証の一、二、第二号証、成立に争いのない乙第一四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証、前記証人西岡の証言によりその原本の存在及び成立が認められる乙第九号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、住民票上では原告は昭和四八年一〇月一一日から神戸市北区鈴蘭台西町四丁目三番一一号に、昭和五一年一〇月二七日からは同区緑町七丁目一五番六号に、昭和五三年七月一八日からは同区星和台三丁目一八番地の一にそれぞれ住所を定めていること、原告は本件換地内の神戸市北区緑町七丁目一五番地三一(建築確認申請時の敷地面積八三・七三平方メートル)の土地上に木造瓦葺二階建ての建物(床面積は一階が四二・四七平方メートル、二階が三三・〇一平方メートル)を新築したこと(新築時期が不明であることは前記二9説示のとおりである。)原告ら家族は従前居住していた神戸市北区鈴蘭台四丁目三番一一号の淡路荘から昭和五一年一〇月に前記二階建ての建物に転居してきたこと、他方、原告は昭和五一年七月二〇日に星和地所株式会社及び星和住宅株式会社から、いわゆる分譲地である神戸市北区星和台三丁目一八番一の宅地(二九六・四七平方メートル)を購入したこと、右契約には、住宅金融公庫法に基づき、原告は右土地の引渡しを受けた日から二年以内に住宅の建設に着手するものとするとの定めがあること、原告が右分譲地を取得したのは自宅を建築するためであり、同所を選択したのは新興住宅地で、原告の友人・同業者等が同所方面に転居していたからであること、原告は右分譲地上に建物を新築(新築時期は昭和五三年八月五日)したこと、同建物は木造瓦葺二階建で床面積は一階が八〇・〇六平方メートル、二階が五四・二四平方メートルであることの各事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。

右によれば、原告が昭和五一年一〇月以降に入居した神戸市北区緑町七丁目一五番三一号(住民票には同町七丁目一五番六号と記載されているが、原告が入居したのは同番三一号であることは原告自身認めるところである。)所在の建物は本件換地内の一角であり、原告が昭和四九年以降売却した土地付建売住宅と宅地・建物等の規模においておおむね同一であること、原告ら家族が同建物に入居していた期間はわずか二年足らずの短期間であること、一般に自宅を選定するに際しては土地建物の面積が重要な検討要素となるところ、その後原告が取得した分譲地及び同地上に建築した建物面積の方がはるかに広く自宅用建物として好ましいものと理解できること、しかも原告が昭和五一年一〇月に前記建物に入居したときには既に分譲地を自宅建築のため購入していること、右自宅建築には二年以内という建築着手の期間制限が付され、事実昭和五三年八月五日には新居が完成していることなどからすれば、原告は神戸市北区緑町七丁目一五番三一号の宅地及び同地上の建物を元来自家用に供するために確保したものとは認められず、同所付近の他の土地付建物と同様販売の意図を有し、一時入居していたものにすぎず、同宅地及び同地上の建物は棚卸資産に該当するといわなければならない。

この点、原告は累々述べて自家用に供するためである旨強く主張する(事実欄五1(二)参照)が、右のような事実経過等に照らせば直ちには採用できないことが明らかである。

五  本件各係争年分の原告の事業所得

1  昭和五一年分

(一)  売上金額

(1) 土地販売分

原告が、昭和五一年八月に神戸市北区緑町七丁目一五番三〇の宅地八三・四六平方メートルを土地付建売住宅として、訴外池田武士に売却したのは前述のとおりであり、そのうちの宅地の販売価額に相当する部分が収入金額を構成することはいうまでもない。

そこで、右宅地部分のみの販売価額を検討するに、前記甲第一号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、右土地付建売住宅の代金は一四五〇万円であることが認められる。この点、前記乙第一号証によれば、原告が被告に対し売却代金は三六六万七〇〇〇円である旨回答しているが、成立に争いのない乙第一六号証によれば、「土地」の分離長期譲渡所得として「収入金額三六六万七〇五〇円」と確定申告している点からして、宅地の代金額のみを回答したものと認める。

そうすると、右建物の価額は一四五〇万円から三六六万七〇〇〇円を差し引いた一〇八三万三〇〇〇円となるが、成立に争いのない乙第二三号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二一号証によれば、訴外池田武士に販売した建物のみの推計による販売価額が、別表七のとおり七六一万四三八四円であることが認められしかも右建物建築に際し特別多額の費用を要したことが認められない本件においては、原告の回答どおりの土地及び建物の各価額を採用することはできない。

ところで、前記乙第二号証によれば、原告は同所付近の土地付建売住宅を訴外藤原正勝に販売し、そのうちの建物価額を八四七万二〇〇〇円と被告に回答していることが認められ、右金額は、成立に争いのない乙第二四号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二二号証により認められる建物のみの推計による販売価額七七七万三九三三円(別表八のとおり)とかけ離れた金額でないことから、措信するに足りるものというべきである。そして、前記甲第一号証、乙第二号証、成立に争いのない乙第一五号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、訴外藤原正勝に販売した土地付建物の販売価額(総額)は一四五〇万円であることが認められるから、同人に販売した土地の価額は一四五〇万円から八四七万二〇〇〇円を差し引いた六〇二万八〇〇〇円となり、一平方メートル当りの金額は右金額を八七平方メートル(二1参照)で除した六万九二八七円(少数点以下切捨て。以下同様)となる。

右金額は、訴外藤原正勝に販売した土地の昭和五二年一二月当時の金額である。被告は、昭和五一年八月に訴外池田武士に販売した土地についても同額である旨主張する(事実欄三5(一)(1)ア参照)が、そのように解すべき根拠はなく、むしろ成立に争いのない甲第二号証によれば、全国的に昭和五一年から同五三年にかけて住宅地の価格が上昇していることは明らかであり、本件宅地付近のみ土地の価格が同等とする根拠はない(被告は、売買実例価額の調査結果等に基づいた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)

そこで、訴外池田武士に販売した土地の一平方メートル当りの価額を求めると次のとおりとなる。すなわち、訴外池田武士に販売した時期は昭和五一年八月であり、前記甲第二号証によればほぼ同時期である昭和五一年九月の指数が八四〇・三五八であることが認められ、他方、訴外藤原正勝に販売した時期は昭和五二年一二月であり、前記甲第二号証によれば、昭和五二年九月の指数が八七四・三〇八同五三年三月の指数が九〇〇・五三七であることが認められ、昭和五二年一二月の指数として右指数の平均値である八八七・四二三((874.308+900.537)÷2)を採用するのが妥当である。

右により、訴外池田武士に販売した土地の昭和五一年八月当時の一平方メートル当りの価格は、六万五六一二円となる。

(算式)6万9287円×(840.358÷887.423)=6万5612円

そうすると、原告が訴外池田武士に販売した土地の価額は、六万五六一二円に同土地の面積八三・四六平方メートルを乗じた五四七万五九七七円となる。

(2) 建物販売分

原告が、訴外池田武士に売却した建物の販売分である。土地付建売住宅として総額一四五〇万円で売却したこと、土地の部分は五四七万五九七七円であることは前記認定のとおりであり、差引き九〇二万四〇二三円が建物販売分となる。

(3) 自家消費土地

原告が、訴外中元武に売却した土地及び建物が、棚卸資産に該当し、自家用に供していたことは前述のとおりである(四3参照)。そして、所得税法三九条により、消費したときである昭和五一年における右土地の価額に相当する金額を総収入金額に算入することとなるが、同土地・建物は前記認定のとおり本件換地内で、訴外池田武士に売却した土地・建物と隣接し、その面積も類似しているから、右計算の基準となるべき金額は、(1)と同様、土地の一平方メートル当りの価額は六万五六一二円、土地付建物の販売価額も同額の一四五〇万円とするのが相当である。

そこで、一平方メートル当りの価額六万五六一二円に、原告が自家用に供した土地の面積八三・七三平方メートル(四3参照)を乗じた五四九万三六九二円が総収入金額に算入する金額となる。

(4) 自家消費建物

右(3)により、原告が自家消費した建物の消費分で総収入金額に算入する金額は、販売価額一四五〇万円から五四九万三六九二円を差し引いた九〇〇万六三〇八円である。

(5) 一般工事

成立に争いのない乙第一五、第一六号証、前記証人菖蒲の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和五一年分の事業所得金額を一七四万円と申告していること、原告の事業所得に対する売上金額の割合(所得率)が八パーセントであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そこで、原告の売上金額を算出すると、被告主張のとおり(事実欄三5(一)(1)オ参照)二一七五万円となる。

ところで、右売上金額には、原告が訴外池田武士に販売した建物価額が含まれているので、同金額を差し引かなければならないところ、前記乙第一六号証によれば、原告は土地販売価額を三六六万七〇五〇円と申告していることが認められるので、総販売価額一四五〇万円から右土地販売分を差し引いた一〇八三万二九五〇円が、建物販売価額として確定申告されていることとなる。したがつて、原告の昭和五一年分における一般工事収入は、被告主張のとおり(事実欄三5(一)(1)オ参照)二一七五万円から一〇八三万二九五〇円を差し引いた一〇九一万七〇五〇円となる。

(二)  必要経費

(1) 土地販売分

原告が訴外池田武士に販売した土地の必要経費について検討する。

まず、前記乙第一号証及び原告本人尋問の結果によれば原告が右土地の販売に際し訴外信用興産株式会社に支払つた手数料は一四万六〇〇〇円であることが認められる。

次に、右宅地は本件換地内に所在し、本件換地の取得時期は前記認定のとおり二度に分れるので、訴外池田武士に販売した土地の所得計算は、被告主張のとおり(事実欄三5参照)、短期保有資産と長期保有資産にあん分(そのあん分比率は、別表三のとおり)して計算すべきものである。また、本件換地の原価計算は、別表四のとおりである(同表中、「昭和三九年五月六日山林取得時の一平方メートル当りの単価」は、原告が本件山林一三三八・八四平方メートルを二二三万〇五〇七円で購入した単価、「昭和四七年宅地造成費用」は原告が昭和四七年分確定申告に際し本件換地交換にともなう収入金額として被告に申告したものである。)。

そこで、取得価額等は、別表五取得価額等欄のうち「総面積」八二・九九平方メートルを八三・四六平方メートルと訂正のうえ計算することができ(別表十参照)、その結果は次のとおりとなる(ただし、平方メートルは少数点以下三位で四捨五入)。

長期保有資産

土地の取得価額 一一三万四四七五円

支払手数料    一三万三二四〇円

短期保有資産

土地の取得価額  一一万〇二三九円

支払手数料     一万二七六〇円

(2) 建物販売分

訴外池田武士に販売した建物の経費である、原告の所得率が前記認定のとおり八パーセントであるから、その経費率は一〇〇から八を差し引いた九二パーセントとなる。したがつて、前記建物価額九〇二万四〇二三円に九二パーセントを乗じた価額八三〇万二一〇一円が経費となる。

(3) 自家消費土地

原告が、のちに訴外中元武に販売した土地の経費である。この点も、別表五取得価額等欄記載の総面積八二・七〇平方メートルを八三・七三平方メートルと訂正して、同表の計算式のとおり計算すると次のとおりとなる(ただし、平方メートルは少数点以下三位で四捨五入)。

(ア)に相当する分 一一三万八〇五〇円

(イ)に相当する分  一一万〇六九三円

合計         一二四万八七四三円

(4) 自家消費建物

原告が、のちに訴外中元武に販売した建物の経費である。前記(2)同様、建物価額九〇〇万六三〇八円に経費率九二パーセントを乗じた八二八万五八〇三円が経費となる。

(5) 一般工事

原告の一般工事の経費である。前同様九二パーセントの経費率で計算すると、別表五記載のとおり、一〇〇四万三六八六円の経費となる。

(三)  事業所得金額

別表五と同様の計算方式に基づき計算すると次のとおりとなる。

(1) 総合課税としての事業所得金額

訴外池田武士に販売した土地の所得金額(長期保有資産分)  三七二万九六六二円

同人に販売した建物の所得金額                七二万一九二二円

自家消費土地の所得金額                  四二四万四九四九円

自家消費建物の所得金額                   七二万〇五〇五円

一般工事の所得金額                     八七万三三六四円

合計                          一〇二九万〇四〇二円

(2) 分離課税としての事業所得金額

訴外池田武士に販売した土地の所得金額(短期保有資産分)   三五万五六〇一円

2  昭和五二年分

(一)  成立に争いのない乙第一五号証によれば、原告は昭和五二年分確定申告に際し、総合課税の所得金額(営業)を一八九万一二〇〇円と申告していることが認められ、被告においてもこれを採用している(事実欄三5(二)(1)イ、同(2)イ参照)ので、原告が訴外藤原正勝に販売した土地付建物のうち土地の販売分についてのみ検討する。

(1) 売上金額

右土地の価額は、前記認定のとおり(五1(一)(1)参照)六〇二万八〇〇〇円となる。

(2) 必要経費

昭和五一年分の場合と同様に計算すればよく、経費は、別表六取得額等欄のうち「総面積」八六・一二平方メートルを前記認定のとおりの実測面積八七平方メートルとして訂正して計算した結果は次のとおりである。

長期保有資産の経費 一一八万二五八三円

短期保有資産の経費  一一万四九二七円

(3) 右土地販売による所得金額

別表六と同様の計算方式に基づき計算すると次のとおりとなる。

長期保有資産分の所得金額 四三一万八五七〇円

短期保有資産分の所得金額  四一万一九二〇円

(二)  昭和五二年分の事業所得金額

(1) 総合課税としての事業所得金額

原告の前記申告所得金額一八九万一二〇〇円に右四三一万八五七〇円を加えた六二〇万九七七〇円である。

(2) 分離課税としての事業所得

右短期保有資産分の所得金額四一万一九二〇円である。

六  本件各再更正処分の適法性

本件係争各年の総合課税による事業所得金額は、右のとおりであり(なお、原告はその主張の租税特別措置法関係通達二八―四―三三の継続適用を受けている者であることが認められないので同通達は本件には適用されない)、同金額は本件各再更正処分の総合課税による事業所得金額を上回るから、本件各再更正処分は適法である(なお、本件各再更正処分においては、いずれも分離課税としての事業所得金額が認められ、右各金額は前記認定の金額を大幅に上回つているが、右は本件訴えに先立つ裁決においていずれも〇円として取り決されているので、この点についての原告の不服の申立てはありえない。)。

したがつて、本件各再更正処分に関しなされた本件賦課決定処分も、なんら違法ではない。

七  結論

よつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 野田殷稔 小林一好 横山光雄)

別表一~十<省略>

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