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神戸地方裁判所 昭和58年(わ)632号 判決 1990年6月13日

本籍

佐賀県藤津郡塩田町大字久門乙三〇五番地

住居

兵庫県尼崎市善法寺町一四番一号

無職

德永貢博

昭和二三年一二月一九日生

右の者に対する所得税法違反、風俗営業等取締法違反被告事件について、当裁判所は、検察官重冨保男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年四月及び罰金二五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市北区小松原町一番二六号ほか五か所において、当時キャバレー等六店舗を経営していたものであるが、

第一  その所得税をほ脱しようと企て、昭和五五年分の実際の所得金額が六四三六万四〇一〇円(別紙1修正貸借対照表参照)で、これに対する所得税が三三六四万〇八〇〇円(別紙3所得税額計算書参照)であるのに、借名の普通預金及び定期預金等として所得を秘匿した上、所得税確定申告期限の同五六年三月一六日までに所轄の尼崎税務署長に対し所得税の確定申告をせず、もって、不正の行為により、同五五年分の所得税三三六四万〇八〇〇円を免れ、

第二  前同様企て、同五六年分の実際の所得金額が一億一七九六万三〇〇八円(別紙2修正貸借対照表参照)で、これに対する所得税が七二六七万六七〇〇円(別紙3所得税額計算書参照)であるのに、前同様の方法により所得を秘匿した上、所得税確定申告期限の同五七年三月一五日までに所轄の尼崎税務署長に対し所得税の確定申告をせず、もって、不正の行為により、同五六年分の所得税七二六七万六七〇〇円を免れ、

第三  大阪府公安委員会の許可を受けないで、別紙4犯罪事実一覧表記載のとおり、同五六年一一月一一日ころから同五七年三月五日ころまでの間六回にわたり、「クラブキャッツアイ」ほか五店舗において、飲酒客平瀬謙治ほか五名に対し、ホステス永山愛子ほか五名を接待させ、ビール等を提供して飲食させ、もって、設備を設けて客の接待をして客に遊興飲食させる営業を営んだ

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  証人松田清樹の当公判廷における供述

一  第六回、第一〇回各公判調書中の証人崎山繁春の供述部分及び同人の検察官に対する供述調書二通(検甲第一六二号、第一六三号)

一  第一〇回、第一二回各公判調書中の証人重山保人の供述部分

一  第一一回公判調書中の証人五十嵐敏夫の供述部分

一  第一三回、第一四回各公判調書中の証人竹下新一郎の供述部分

一  第一五回公判調書中の証人謝坤蘭の供述部分

一  第一六回、第一七回各公判調書中の証人和田昇の供述部分

一  第一八回、第一九回、第二〇回各公判調書中の証人高橋こと金能秀の供述部分

一  第二一回公判調書中の証人竹村博臣の供述部分

一  第二五回公判調書中の証人二条久保奉文の供述部分及び同人の検察官に対する供述調書(検甲二六三号)

一  第三〇回公判調書中の証人山本勇進の供述部分

一  上田勝芳(検甲第一七〇号)、林繁一(同第二四四号)の検察官に対する各供述調書

一  宮坂良一(検甲第八六号)、高橋強(同第二七九号)、崎村照昭(同第二八二号)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲第一七二号ないし第一八〇号)

一  大蔵事務官作成の各現金預金有価証券等現在高確認書(検甲第三〇七号ないし第三〇九号)

一  株式会社ミリオンカードサービス大阪支店態澤経雄作成の回答書(検甲第一八一号)

一  ユニオンクレジット株式会社古張一夫作成の回答書(検甲第一八二号)

一  株式会社伊吹屋水野稔作成の回答書(検甲第二六九号)

一  株式会社大阪湊屋中村文代作成の回答書(検甲第二七〇号)

一  押収してある大阪ニューヨーク観光関係書類一綴(昭和五九年押第一五五号の一三)、経営業務委託に関する契約書一通(同号の一四)

判示第一及び第二の事実について

一  第二七回公判調書中の証人德永悟、同德永カヤノ、同松尾恵子の各供述部分

一  第二八回公判調書中の証人德永喜子の供述部分

一  第二九回公判調書中の証人永田晴美の供述部分

一  第三一回公判調書中の証人山崎貞子、同増田彰の各供述部分

一  第三二回公判調書中の証人巽隆の供述部分

一  第三三回公判調書中の証人安井富子、同津田徹、同河江光昭の各供述部分

一  第三四回公判調書中の証人平田浩の供述部分

一  第三五回公判調書中の証人石井政澄、同宮腰信夫の各供述部分

一  永田晴美作成の回答書(検甲第一九九号)

一  山本商会山本純子作成の回答書(検甲第一九九号)

一  関西音響株式会社安井富子作成の回答書(検甲第二〇〇号)

一  永和興業株式会社篠崎禎一作成の回答書(検甲第二〇二号)

一  坊野侑里子作成の回答書(検甲第二〇三号)

一  マルオ企業株式会社王奈美作成の回答書(検甲第二〇六号)

一  株式会社蘭館岸正美作成の確認書(検甲第二〇七号)

一  大丸商事森田英男作成の回答書(検甲第二一一号)

一  新開さか江作成の回答書(検甲第二一二号)

一  株式会社日本有線放送宮崎隆雄作成の回答書(検甲第二一五号)

一  吉田久代作成の回答書(検甲第二一七号)

一  大阪府北府税事務所松葉豊彦作成の回答書(検甲第二二八号)

一  大阪府東大阪府税事務所要明作成の回答書(検甲第二二九号)

一  シンコー河江光昭作成の回答書(検甲第二三〇号)

一  矢田博義作成の回答書(検甲第二三一号)

一  株式会社西田商店西田信三作成の回答書(検甲第二三二号)

一  株式会社ゼネラル石油販売所平井祥彦作成の回答書(検甲第二三四号)

一  株式会社住友クレジットサービス梶田泰久作成の回答書(検甲第二三六号)

一  日本電信電話公社梅ケ枝営業所南川作成の回答書(検甲第二三八号)

一  太陽神戸銀行園田支店松本嘉文作成の確認書(検甲第一九二号)

一  八洲企業株式会社経塚眞子作成の確認書(検甲第二一〇号)

一  永和信用金庫梅田支店石井政澄作成の確認書五通(検甲第二二〇号、第二二一号、第二五四号ないし第二五六号)

一  尼崎浪速信用金庫園田支店津田徹作成の確認書(検甲第二二五号)

一  株式会社佐賀銀行水ケ江支店横尾高明作成の確認書(検甲第二二六号)

一  押収してある借用證書一通(昭和五九年押第一五五号の一)、借用書一通(同号の二)、ノート一冊(同号の三)、領収証等一綴(同号の四)、従業員貸付金PART2と表示の帳簿(同号の五)、従業員貸付金(男子)と表示の帳簿(同号の六)、賃借物件保証金一覧表一枚(同号の七)、賃貸借契約証書一綴(同号の八の1ないし13)、無表題出納帳一綴(同号の一〇)、全店月別売上額一覧表一枚(同号の一一の1)、料飲料税申告額一覧表一枚(同号の一一の2)、借用証書等綴一綴(同号の一二)、金銭受渡簿一綴(同号の一五)、領収書一枚(同号の一七)、印鑑一八個(同号の一八ないし三五)、金銭貸借契約証書等一綴(同号の三六)、入金帳三綴(同号の三七)、銀行帳等五綴(同号の三八ないし四二)

判示第一の事実について

一  丸菱産業株式会社清水禎章作成の回答書(検甲第二一三号)

一  株式会社ダスキン中央岩上弘作成の回答書(検甲第二一四号)

一  北大阪園芸碓井良雄作成の回答書(検甲第二三三号)

一  株式会社大阪相互銀行梅田支店溝口康二作成の確認書(検甲第二二四号)

一  国税査察官作成の査察官報告書(検甲第二四三号)

判示第二の事実について

一  証人得田謹吾、同坂本義礼、同北垣義克の当公判廷における各供述

一  第二六回公判調書中の証人荒木己代子の供述部分

一  株式会社スズキ自販近畿田村宏一作成の回答書(検甲第一九四号)

一  本間モータース坂本義礼作成の回答書(検甲第一九五号)

一  大英自動車得田謹吾作成の回答書(検甲第一九六号)

一  大阪市淀川区長作成の回答書(検甲第二二三号)

一  株式会社誠宣社成田隆信作成の回答書(検甲第二三七号)

一  曽根崎社交事業組合田中弘作成の回答書(検甲第二三九号)

一  三油興業株式会社小田正樹作成の回答書(検甲第二四〇号)

一  上田勝芳作成の確認書(検甲第二一六号)

一  株式会社大阪相互銀行梅田支店溝口康二作成の確認書(検甲第二一八号)

一  株式会社兵庫相互銀行梅田支店宮野勇作成の確認書(検甲第二一九号)

一  永和信用金庫梅田支店石井政澄作成の確認書(検甲第二二二号)

一  株式会社三和銀行宝塚中山支店斎藤克己作成の確認書(検甲第二二七号)

一  株式会社住友銀行中之島支店佐藤修介作成の確認書(検甲第二四一号)

一  株式会社住友銀行梅田支店寺本英夫作成の確認書(検甲第二四二号)

一  押収してある家屋賃借契約証書一通(昭和五九年押第一五五号の九)、雑書類一綴(同号の一六)、期限切れ自動車保険証券四通(同号の四三ないし四六)、車両貸出管理表一冊(同号の四七)

判示第三の事実について

一  証人山本信子、同古東邦夫、同山口昭夫の当公判廷における各供述

一  平瀬謙治(検甲第二九四号、抄本)、永山愛子(同第二九五号、抄本)、山下美生(二通、同第二九七号、第二九八号、いずれも抄本)、古東邦夫(同第三〇〇号、抄本)、酒井恵子(同第三〇一号、抄本)、山城美智子(同第三〇二号、抄本)、佐々木茂夫(同第三〇三号)、上坂みえ(同第三〇四号)の司法警察員に対する各供述調書

一  古家野晃、(検甲第二九六号)、名田敦美(同第二九九号)の司法巡査に対する各供述調書抄本

一  司法警察員作成の「カフェークラブキャッツアイの風俗営業許可証の謄本作成について」と題する書面(検甲第一二〇号)

一  司法警察員作成の「カフェーピンクレディの風俗営業許可証の謄本作成について」と題する書面(検甲第一二一号)

一  司法警察員作成の「キャバレー日本の風俗営業許可証の謄本作成について」と題する書面(検甲第一二二号)

一  司法警察員作成の「風俗営業許可証の謄本作成について」と題する書面(検甲第一二三号)

一  司法警察員作成の「カフェークラブエリートの風俗営業許可証並びに飲食店営業許可証の謄本作成について」と題する書面(検甲第一二四号)

一  司法警察員作成の「カフェーサンローランの風俗営業許可証の謄本作成について」と題する書面(検甲第一

一  司法警察員作成の「カフェーサンローランの風俗営業許可証の謄本作成について」と題する書面(検甲第一二五号)

一  検察官は、本件各店舗は被告人の単独経営であった旨主張するのに対し、弁護人らは、被告人は共同経営者の一員であったにすぎず同人らとの間で各店舗の持分の精算も行われていないから被告人の所得も利益配分に応じて算定されるべきである旨主張するので、以下検討する。

関係証拠によると、次の事実が認められる。

1  被告人は、昭和五二年夏ころ、いわゆるピンクサロン「ニューヨーク梅田店」の店長をしていたが、同店の営業部長の和田昇からミニサロンの経営を目的とした会社設立の話を持ちかけられてこれを承諾し、同人と被告人が四〇パーセント、右「ニューヨーク梅田店」の次長の伊坂晴雄、経理担当の岡清が一〇パーセントの割合で出資をした上、同年九月二〇日大阪ニューヨーク観光株式会社を設立し(以下、「大阪ニューヨーク観光」という。代表取締役に和田、取締役に被告人、岡及び伊坂、監査役に島尻孝和が就任。)同会社は、同年一二月ころ、大阪市北区に「ピンクレディ」を開店したが、その開店準備資金約三〇〇〇万円は和田、被告人、岡及び伊坂らの出資のほか、被告人の知人の高橋こと金能秀の仲介により大阪ニューヨーク観光が同人の兄から借り入れた一〇〇〇万円でまかなうことができたこともあり、金も同会社の常務取締役として働くようになった。

2  右「ピンクレディ」の営業許可名義人は島尻で、同人は同店の社長と呼ばれていたが、同店の売上金は毎日売上伝票等と共に当時の大阪ニューヨーク観光の事務所に届けられ、その売上金の中から、毎日一〇万円を和田及び被告人が三万三〇〇〇円ずつ、金が一万四〇〇〇円、島尻が一万円、岡及び伊坂が五〇〇〇円ずつの割合で分配していた。

3  その後、大阪ニューヨーク観光は、同五三年三月ころ、大阪市北区に「フェニックス」を、次いで、同年八月ころ、福岡市博多区に「ニューヨーク中洲店」を開店し、右「フェニックス」については伊坂名義で、右「ニューヨーク中洲店」については一時右「ピンクレディ」の従業員をしていた大塚孝美名義でそれぞれ営業許可を取得したが、大塚は右「ニューヨーク中洲店」の店長として大阪ニューヨーク観光から毎月給料を受け取っているにすぎなかった。また、右各店舗の売上金は、右「ピンクレディ」と同様大阪ニューヨーク観光の事務所に届けられていたが、売上金の中から、右「フェニックス」については毎日一〇万円を和田及び被告人が三万円ずつ、伊坂が二万五〇〇〇円、岡が一万五〇〇〇円の割合で分配し(島尻と金は同店の仕事に関与していなかったことなどから同店の分配金を受け取っていない。)、右「ニューヨーク中洲店」についても和田及び被告人が二五パーセントずつ、伊坂及び島尻が一五パーセントずつ、岡及び金が一〇パーセントずつと分配金の比率が決まっていたが赤字であったため、利益の分配は行われなかった。

4  同年一一月ころ、和田の発案により大阪ニューヨーク観光の役員のメンバーでレコード会社「ギャロップレコード」を設立してレコードの販売を始めたものの、レコードがあまり売れず、大阪ニューヨーク観光からも約四〇〇〇万円をつぎ込んだが経営が行き詰まり、「ギャロップレコード」の経営継続を主張する和田、伊坂と中止を主張する被告人らとが経営方針を巡って対立したため、同五四年二月ころ、和田や被告人ら役員六名で協議した結果、各店舗を売却して精算することになったが、右「ピンクレディ」は値段が高くて役員の誰も買わず、右「フェニックス」は伊坂が、右「ニューヨーク中洲店」は金がそれぞれ一〇〇〇万円で買い取ることに決まり、右「フェニックス」の売却代金一〇〇〇万円は和田、被告人、岡及び伊坂の四名で、右「ニューヨーク中洲店」の売却代金一〇〇〇万円は和田、被告人、岡、伊坂、島尻及び金の六名でそれぞれ分配した。

5  同年二月ころから、和田は自分の店である「ブルーシャトー」の、伊坂は右「フェニックス」の仕事にそれぞれ専念してほとんど大阪ニューヨーク観光の事務所に出てこなくなったものの、同会社では、しばらくの間、和田や伊坂の普通預金口座にこれまでどおり一定額の分配金を振り込むなどしていたが、同年七月ころ、被告人、岡、島尻及び金らが話し合い、仕事をしていない和田らには分配金を出さないことに決め、それ以降同人らの口座に分配金を振り込まなくなったところ、丁度その頃、和田や伊坂は商売上の借金で債権者や暴力団員に追われて夜逃げをして所在をくらますに至ったが、同五六年ころになって、和田から後記の「AJE」の事務所に連絡があったため、被告人と金が和田と会ったところ、同人から「金を払ってくれ。」と要求されたが、被告人と金はこれを断り、特に、金は「法的にくるなりヤクザでくるなり、受けて立つ。」と強く言ったこともあって、以後和田から「AJE」に金銭の要求がなされたことはない。

6  大阪ニューヨーク観光に残った被告人、岡、島尻及び金の四名は、同五四年四月ころ、大阪府東大阪市に「サンローラン」(営業許可名義人は崎山繁春)を、同年八月ころには大阪市北区に「エンゼル」(営業許可名義人は仁禮景精)をそれぞれ開店したが、同年夏ころ、代表取締役である和田が同会社の仕事をほとんどしなくなったことから、右四名で新しい会社を作ることにし、大阪ニューヨーク観光を全面的に引き継いだ新会社「AJE」(オール・ジャパン・エンタプライズの略。法人の設立登記なし。)を設立し、被告人が会長、島尻が社長、金が副社長、岡が常務に就任した。しかし、同年九月ころ、島尻と岡が「ピンクレディ」の売上金数百万円を使い込んでいることが発覚したため、両名は「AJE」の経営から手を引き、被告人が会長、金が社長の体制で「AJE」を運営していくことになり、同五五年一月ころ、大阪市南区に「乙姫」(営業許可名義人は松田清樹)を、同年五月ころ、大阪市北区に「キャバレー日本」(営業許可名義人は竹下新一郎)を、同年一一月ころ、同区に「エリート」(営業許可名義人は高山正英)、同五六年八月ころ、同区に「キャッツアイ」(営業許可名義人は植中秀継)を相次いで開店したが、右「キャバレー日本」の開店に当っては、金の仲介により被告人が金の実兄から二〇〇〇万円を借り受け、これを同店の開店準備資金に充てた。そして、右各店舗の営業許可名義人のうち、崎山は以前右「ピンクレディ」の営業課長をしていたもので右「サンローラン」の開店とともに同店の店長となり月給を貰っていたもの、竹下も以前右「エンゼル」の店長をしていたもので右「キャバレー日本」の開店とともに同店の店長となり月給を貰っていたもの、仁禮、高山及び植中はいずれも各店舗の仕事にほとんど関与せず、大阪ニューヨーク観光あるいは「AJE」から毎月名義料として三〇万円を受け取っているにすぎないものであった。

7  大阪ニューヨーク観光から「AJE」に組織替えしてからも、各店舗の売上金は毎日店長らによって売上伝票、ホステスの出勤や指名状況を記載したリスト表、営業日報等とともに「AJE」の事務所に届けられ、これらを基に経理を担当していた松田清樹が各店舗ごとの入出金の状況、各金融機関の預金口座の残高の状況等が一目で分かる「預金残高一覧表」を作成し、これを被告人あるいは被告人が留守の時には金がそれぞれ目を通してチェックしていた。そして、「AJE」の事務所では、多数の帳簿が備え付けられ、松田が各店舗からの売上金の多くを営業許可名義人等の普通預金口座に入金し、その口座から、各店舗のホステス及び男子従業員に対する給料の支払い、同人らへの金員の貸付け、各店舗の賃借料や電気水道料金の支払い、あるいは赤字の補填のほか、新規に開店する店舗の保証金の支払い等に充て、余剰資金が出た場合にはこれを定期預金に振り替えるなどしていた。

8  「AJE」が被告人と金の二人の体制となった同五四年九月ころからは、主として、被告人が資金繰りを、金が各店舗の営業の監督をそれぞれ分担していたが、毎日「AJE」の事務所で行われていた各店舗の店長を集めての営業会議には被告人と金も出席して各店長に指示を与えたりし、新しい店舗を開店するに当っての賃貸人との交渉等は被告人と金が協力して担当するなどし、これまで行われてきた各店舗からの売上金の分配は、被告人と金の話し合いにより、毎日一〇万円のうち被告人が六万円を、金が四万円を取得することになり、金は、右分配金と毎月の給料を合わせてひと月約三〇〇万円を手にし、同五五年分と同五六年分の合計は五〇〇〇万円から六〇〇〇万円を取得していたが、同年八月ころ、営業上の方針を巡って被告人と対立したことなどから「AJE」を辞めることになり、その際、被告人との間で、金が店舗を買い取る話も出たがまとまらず、結局、金は、退職金あるいは慰労金という趣旨で被告人から現金五〇〇万円を貰うとともに、一〇〇〇万円を無利息で借り受けて「AJE」を退職した。

9  金が「AJE」を退職した後は、営業部長をしていた二条久保奉文が社長となり、従前と同様営業を継続していたが、同人は固定給として月五五万円の支給を受けるだけで分配金を貰っていなかったところ、同五七年一月ころ、右「ピンクレディ」が風俗営業取締法違反で捜索を受けたことなどから、被告人は、松田や自分の妻に指示して、同月二七日と同年二月一日に定期預金を一括解約させるとともに、普通預金の残高も払い戻させ、これらを自己の手中に収めた。

右認定の大阪ニューヨーク観光設立の経緯、出資の状況、同会社あるいは「AJE」と各店舗との関係、営業許可名義人の実態及び事業収益の分配状況等の事実に鑑みると、各店舗の営業許可名義人は形式上のものにすぎず、各店舗は大阪ニューヨーク観光が支配、管理し、同会社から「AJE」に変わってからも、その役員らがこれを民法上の組合、あるいはこれに類似する形態で共同経営していたもので、右事業経営によって生じた経済的利益も共同経営者に帰属していたと認めるのが相当である。

そして、民法上の組合においては、組合員は脱退時に組合に対し持分の払戻しを請求することができる(同法六八七条)のであるが、前記のとおり、和田と伊坂は、同五四年二月ころ、当時大阪ニューヨーク観光が経営していた三店舗のうち売却できた二店舗の精算金を受け取ったのち、自分の仕事に専念し出し、約半年間は分配金の振り込みを受けていたものの、同年七月ころからは分配金の振り込みも中止されたが、これについて被告人らに何の異議も言っておらず、また、岡と島尻も、同年夏ころ店舗の金数百万円を使い込んだことが発覚したことにより、何の金銭的要求もしないまま「AJE」の経営から手を引いているのであるから、和田や伊坂、岡、島尻は、いずれも「AJE」の経営から脱退する時点で、他の役員との間において、和田と伊坂については右分配金の振り込み等により、岡と島尻については右使い込み等によって右各人の持分の精算が終了したとの暗黙の合意が成立していたと認定するのが相当であり(もっとも和田は、同五六年になって突然「AJE」に対し金銭の要求をしたことは前記認定のとおりであるが、右事実も、和田が右要求を断られた後は被告人らに何の連絡もしないまま今日に至っていることなどに照らすと、同五四年に持分の精算終了の暗黙の合意が成立したとの前記認定を左右するに足りない。)、金についても、前記のとおり、同人は、同五六年八月ころ被告人との話し合いで、現金五百万円の交付と一〇〇〇万円を無利息で借り入れることにより「AJE」を円満退職しているのであるから、金と「AJE」との間での財産関係の精算はすでに終了しているものというべきである。

したがって、被告人と他の共同経営者との間で未だ持分の精算が終了していないとする弁護人らの右主張は結局採用できない。

二  次に、弁護人らが被告人の事業所得に関係がない旨主張している各預金等について検討する。

1  大阪相互銀行梅田支店の「ピンクレディ島尻孝和」名義の普通預金(口座番号10326)

関係証拠によると、同預金の通帳が昭和五七年九月一六日「AJE」の経理を担当していた前記松田清樹の居宅で、届出印が同日「AJE」の事務所でそれぞれ発見されていること、「AJE」傘下の「ピンクレディ」、「エンゼル」等の各店舗とクレジット取引のあった株式会社ミリオンカード・サービス大阪支店、住友クレジットやJCBから多数の入金があり、店舗においてクレジットカードを使用した客の支払いが同預金口座に振込まれていること、同預金から、依頼人「ピンクレディ」「ピンクレディ梅田店」あるいは「ピンクレディ島尻孝和」名義で、「AJE」と取引きのあった株式会社竹村や株式会社大阪湊屋、株式会社大阪サービスに対し度々振込みがなされていること、同預金口座に「AJE」の預金口座に使用されていた永和信用金庫梅田支店の被告人名義(235064)及び岡清名義(228459)の各普通預金口座から度々入金がなされていることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「ピンクレディ」の売上金入金や諸経費の支払等に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

2  大阪相互銀行梅田支店の「島尻孝和」名義の普通預金(口座番号11161)

関係証拠によると、同預金口座は同五三年八月一四日開設され、同五四年三月三日以降入出金がないが、大阪相互銀行梅田支店の前記「ピンクレディ島尻孝和」名義の普通預金口座からシャープ電気株式会社クレジットに二回六万四〇〇〇円が振込まれているところ、本件普通預金口座からも同クレジットに同額の金銭が三回振込まれていること、同口座から右「ピンクレディ島尻孝和」名義の普通預金口座に二回六万四〇〇〇円が振替送金されていることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「ピンクレディ」の事業に使用され「AJE」の前身である大阪ニューヨーク観光の口座であったもので、これが「AJE」に引き継がれたものと認められる。

3  兵庫相互銀行梅田支店の「松田清樹」名義の普通預金(口座番号233774)

関係証拠によると、同預金の届出印が同五七年九月一六日「AJE」の事務所で発見されていること、同預金口座は同五四年八月二〇日開設されているが、同月三〇日預金残高の全額一〇二万〇一七五円が「AJE」の事業に使用されていた同銀行同支店の「仁禮景精」名義の普通預金口座(234164)に振替られ、以後入出金がないことが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「AJE」の事業用口座であると認められる。

4  同銀行同支店の「松田清樹」名義の普通預金(口座番号240337)

関係証拠によると、同預金の届出印が同五七年九月一六日「AJE」の事務所で発見されていること、前記株式会社ミリオンカード・サービス大阪支店やJCB等の各クレジット会社から多数の入金があり、店舗においてクレジットカードを使用した客の支払が同預金口座に振込まれていること、同預金から、依頼人「乙姫」名義で、前記株式会社竹村や株式会社大阪湊屋等に対し度々振込がなされていること、同預金口座に「AJE」の預金口座に使用されていた永和信用金庫梅田支店の「松田清樹」名義の普通預金口座(232406)や岡清名義の普通預金口座(228459)から入金があることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「乙姫」の売上金入金や諸経費の支払等に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

5  兵庫相互銀行梅田支店の「高橋能秀」名義の普通預金(口座番号233149)

関係証拠によると、同預金の通帳が同五七年九月一六日松田清樹の居宅で、届出印が同日「AJE」の事務所でそれぞれ発見されていること、前記株式会社ミリオンカード・サービス大阪支店やJCB等の各クレジット会社から多数の入金があり、店舗においてクレジットカードを使用した客の支払が同預金口座に振込まれていること、同預金から、依頼人「エンゼル」名義で前記株式会社竹村や株式会社大阪湊屋等に対し度々振込がなされていること、同預金口座に、「AJE」の預金口座に使用されていた永和信用金庫梅田支店の被告人名義(235064)及び岡清名義(228459)の各普通預金口座から入金があることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「エンゼル」の売上金入金や諸経費の支払等に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

6  永和信用金庫梅田支店の「徳原順子」名義の普通預金(口座番号231781)

証人松田清樹は、公判廷において、高橋こと金の個人の預金を預かったことがあり、それは徳原順子名義のものであった旨供述しているが、金が借名の預金口座を設ける必要性があったとは証拠上認め難い上、関係証拠によると、本件預金は同五四年九月一六日開設され、同五五年二月八日預金残高の全額三〇万円が引き出され、以後入出金がないが、その開設や金の出し入れは「AJE」の経理を担当していた松田清樹によって行われていたこと、同預金の届出印が同五七年九月一六日「AJE」の事務所で松田の机中から「AJE」の預金口座に使用されていた他の印鑑三八個と共に発見されていることが認められ、以上の事実を合わせ考慮すると、本件普通預金口座は高橋こと金のものというよりは、「AJE」の事業用口座であると認めるのが相当である。

7  同信用金庫同支店の「高橋能秀」名義の普通預金(口座番号228425)

関係証拠によると、同預金の届出印が同五七年九月一六日「AJE」の事務所で発見されていること、同預金から、依頼人「サンローラン」「サンローラン布施店」や「サンローラン崎山繁春」名義で前記株式会社竹村等に対し度々振込がなされていること、同預金口座から、「AJE」の預金口座に使用されていた同信用金庫同支店の「崎山繁春」名義(228360)及び「岡清」名義(228459)の各普通預金口座に入金がなされていることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「サンローラン」の売上金入金や諸経費の支払等に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

8  同信用金庫同支店の「島尻孝和」名義の普通預金(口座番号227372)

関係証拠によると、同預金の届出印が同五七年九月一六日「AJE」の事務所で発見されていること、同預金から、依頼人「ピンクレディ」「ピンクレディ島尻孝和」あるいは「ピンクレディ梅田店」名義で、前記株式会社竹村等に対し度々振込がなされていること、同信用金庫同支店の前記「高橋能秀」名義の普通預金口座から入金があることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「ピンクレディ」の諸経費支払等に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

9  西日本相互銀行中洲支店の「高橋能秀」名義の普通預金(口座番号539471)

関係証拠によると、高橋こと金が同五四年二月に購入した「ニューヨーク中洲店」は、同年夏ころから「ラ・ジュネス」と店名を替えて営業を始め、同五五年七月ころ閉店しているが、被告人が同人に「ニューヨーク中洲店」の購入代金一〇〇〇万円を貸付けたこともあって、「ラ・ジュネス」は依然として大阪ニューヨーク観光、次いで「AJE」の店舗として運営されていたこと、同預金口座は、同五四年一月一六日開設され、「ラ・ジュネス」が閉店した二か月後の同五五年九月三〇日預金残高全額が引き出されて取引を終了しているが、同五四年一月一七日から同年二月二三日までほぼ毎日五万円、同年四月四日から同年六月一一日までほぼ毎日一〇万円が入金されていること、同預金から、依頼人「ラ・ジュネス」名義で、同五四年八月及び九月同店舗のビルの所有者有限会社千里十里に賃料一五万円が振込まれているほか、同名義で電気店等に振込みがなされていること、同預金口座に、同年一二月から同五五年九月まで被告人から毎月五万円ないし二〇万円位の金員が入金されていることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「ニューヨーク中洲店」、次いで「ラ・ジュネス」の事業に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

10  同銀行同支店の「大塚孝美」名義の普通預金(口座番号539131)

前記のとおり、大塚孝美は同五三年八月ころ福岡市博多区に開店した「ニューヨーク中洲店」の店長であったところ、関係証拠によると、同預金口座は、同五四年一月開設され、同五六年八月に最後の入金があり、以後入出金はないこと、同預金口座には、前記株式会社ミリオンカード・サービス大阪支店や住友クレジット等のクレジット会社から多数の入金があり、店舗においてクレジットカードを使用した客の支払が同預金口座に振込まれていることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「ニューヨーク中洲店」の売上金入金口座であったもので、これが大阪ニューヨーク観光から「AJE」に組織替えしたことにより「AJE」に引き継がれたものと認められる。

11  福岡相互銀行東中洲支店の「上原里美」名義の普通預金(口座番号925499)

関係証拠によると、上原里美は「ラ・ジュネス」のいわゆる雇われママであるが、同預金から、同五四年七月依頼人「ラ・ジュネス」名義で前記有限会社千里十里に賃料一五万円が振込まれていること、同預金から、後記の同銀行同支店の「上原里美」名義の普通預金口座(928560)に度々振替出金があること、上原と被告人との間には金銭の貸借関係がないのに、同預金口座に、「AJE」の経営者である被告人からの振込みがあることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「ラ・ジュネス」の諸経費支払等に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

12  同銀行同支店の「上原里美」名義の普通預金(口座番号928560)

前記のとおり、上原は「ラ・ジュネス」の雇われママで、被告人とは金銭の貸借関係がなかったところ、関係証拠によると、同預金から、同五四年一〇月より同五五年九月まで毎月依頼人「ラ・ジュネス」名義で前記有限会社千里十里に賃料一五万円が振込まれていること、同預金から、依頼人「ラ・ジュネス」名義で同店舗と取引のある電気店やおしぼり屋等に対し度々振込がなされていること、同預金口座に、同銀行同支店の前記「上原里美」名義の普通預金口座(925499)から度々入金があり、また被告人からの振込みもあることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「ラ・ジュネス」の諸経費支払等に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

13  福岡銀行春吉支店の「上原里美」名義の普通預金(口座番号965846)

前記のとおり、上原は「ラ・ジュネス」の雇われママで、被告人とは金銭の貸借関係がなかったところ、関係証拠によると、同預金口座に、被告人から数回振込みがなされていることがあることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は「ラ・ジュネス」の事業に使用されていたもので、「AJE」の事業用口座であると認められる。

14  永和信用金庫梅田支店の「仁禮景精」名義の積立預金(口座番号113321)

前記のとおり、仁禮景精は同五四年八月に開店した「エンゼル」の営業許可名義人であったが、これは単に形式上のもので、同人は同店舗の営業に関与せず、「AJE」に名義を貸しているにすぎなかったもので、これに加えて、関係証拠によると、同預金口座には、同五五年一二月から翌五六年一一月まで毎月二〇万円積立てられていたが、その届出印は同五七年九月一六日「AJE」の事務所で発見されていることが認められるのであるから、右認定事実に照らすと、本件積立預金口座は「AJE」の事業収益にもとづくものであると認められる。

15  福岡総合銀行東中洲支店の「上原里美」名義の積立預金(口座番号083712)

前記のとおり、上原里美は「ラ・ジュネス」の雇われママであるところ、関係証拠によると、同預金は、同五四年八月から翌五五年四月までほぼ毎月二万五〇〇〇円が積立られているが、そのうち一回は前記同銀行同支店の「上原里美」名義の普通預金口座(928560)からの振込である上、同積立預金は同年五月残金全部が右普通預金口座に入金されていることが認められ、右認定事実に照らすと、本件積立預金口座は「AJE」の事業収益にもとづくものであると認められる。

16  兵庫相互銀行梅田支店の「松田富夫」名義の積立預金(口座番号662282)

関係証拠によると、松田富夫は前記松田清樹の父親であるところ、同預金は、同五六年一二月と翌年一月に各二〇万円積立られていること、その届出印が同年一月に開設された松田清樹名義の定期預金の届出印と同一であり、本件積立預金と右定期預金のいずれも被告人の指示により他の預金とともに同年二月一日解約されていること、右届出印は同五七年九月一六日「AJE」の事務所で発見されていることが認められ、右認定事実に照らすと、本件積立預金口座は松田清樹のものではなく、「AJE」の事業収益にもとづく被告人のものであると認められる。

17  永和信用金庫梅田支店の「荒木己代子」名義の普通預金(口座番号234351)及び同信用金庫同支店の同人名義の定期預金(747073、756310、402085、402084、450021)

関係証拠によると、荒木己代子は同五四年ころから同五五年一二月末ころまで前記「エンゼル」でホステスとして働き、当時被告人と愛人関係にあったものであること、同人は自分の給料を被告人に預けてこれを預金してもらい、同五五年一二月末ころには預金高が五〇〇万円ないし六〇〇万円となっていたこと、同人は、同五六年八月ころから同五八年六月ころまでロサンゼルスに居住していたところ、被告人より、同五七年一月ころから自己の右預金のなくなる同年一二月までの間、合計約四九六万円の送金を受けていたことが認められる。

そこで、荒木の給料が預金されていた右預金口座が本件普通預金口座であるか検討するに、関係証拠によると、本件普通預金口座は同五五年七月開設され、同年一二月三一日の預金残高は一九万二七〇六円であったが、同五七年五月には解約され、その際の残金全額は七七五四円しかなかったこと、前記のとおり、高橋こと金は同五六年八月ころ「AJE」を退職しているが、その後、被告人はそれまでの毎日の分配金一〇万円のうち九万円を取得し、これを同年九月一日から同五七年一月二七日までの間ほぼ毎日本件普通預金口座に入金していることが認められ、右認定事実に照らすと、本件普通預金口座は、荒木の右預金口座と同一ではなく、「AJE」における被告人の事業収益を入出金していたものであることは明らかである。

次に、右定期預金についてみるに、右定期預金(747073)は、同五五年二月一八日開設され、同年四月一六日解約されてその解約金全額は同日右定期預金(756310)として預けられ、次いで、同定期預金は同五六年四月一六日解約され、その解約金全額は同日右定期預金(402085)として預けられ、同定期預金は同年七月九日解約されているが、その解約金全額は同日荒木名義の右普通預金口座(234351)に入金されていること、右定期預金(402084)は、同五五年七月二八日荒木名義の右普通預金口座からの入金によって開設され、同五六年七月二八日解約されてその解約金全額は同日荒木名義の右普通預金口座に入金されていること、右定期預金(450021)は、同五五年一二月一九日荒木名義の右普通預金口座からの入金によって開設され、同五七年三月一三日解約されてその解約金全額は同日荒木名義の右普通預金口座に入金されていることが認められ、右認定事実に照らすと右定期預金(747073、756310、402085、402084、450021)は、いずれも荒木名義の右普通預金口座と入出金の関係にあるのであるから、「AJE」における被告人の事業収益を元資とするものと認められる。

18  被告人の親族名義での定期預金

被告人は、公判廷において、被告人の娘いずみが交通事故にあったため訴えを提起し、その判決の結果、交通事故の損害賠償として約二五〇万円を受取り、これに五〇万円位を足して親族名義で三〇〇万円の定期預金としたが、その口座は梅田にある銀行ではなく、太陽神戸銀行園田支店か尼崎浪速信用金庫園田支店であるとの趣旨の供述をしているところ、関係証拠によると、被告人は、娘のいずみが交通事故にあったことで昭和五四年その法定代理人として訴訟を提起し、同五六年七月一五日主文として「被告らは原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和五二年八月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。」等とする仮執行宣言付判決を得ていることが認められ、被告人が、娘いずみの交通事故損害賠償金を受け取ったのは右判決のあった同五六年七月一五日以降であることが明らかである。

そこで、検察官が被告人の事業所得にもとづく定期預金であるとする太陽神戸銀行園田支店及び尼崎浪速信用金庫園田支店の親族名義の定期預金の中に被告人が右供述する三〇〇万円の定期預金が含まれているか否かを検討するに、関係証拠によると、太陽神戸銀行園田支店及び尼崎浪速信用金庫園田支店の被告人の親族名義の定期預金はいずれもその元資が預け入れられたのは同五六年七月一五日以前であることが認められ、したがって、右定期預金の中に被告人のいう三〇〇万円の定期預金が含まれていないことは明らかである。

19  事業主貸のうち德永英機の挙式費用三〇〇万円

関係証拠によると、被告人の実弟德永英機が昭和五六年三月二八日佐賀県藤津郡嬉野町所在の株式会社和多屋別荘で結婚式を挙げ、右結婚式の費用として、被告人が同年四月一四日佐賀銀行塩田支店の実父德永悟名義の普通預金口座に一五〇万円を振込んでいるほか、同年三月二四日永和信用金庫梅田支店発行の額面三〇〇万円の自己宛小切手が発行されこれが右株式会社和多屋別荘に交付されていること、右自己宛小切手は「AJE」の経理を担当していた前記松田清樹が 同月二四日同信用金庫同支店に持参した現金一〇〇万円に、同信用金庫同支店の德永英子名義の定期預金二〇〇万円を担保にして同人名義で手形貸付を受けた二〇〇万円の合計三〇〇万円を加えたものをもとに振出しを受けたものであること、右二〇〇万円についてはその後德永英子名義で四回に分けて返済されていることが認められる。

右認定事実によると、右自己宛小切手による結婚式場への支払は、德永英機自身の支出によるものではなく、右一五〇万円と同様、被告人が実弟のために親族名義の自己の定期預金を担保にして借金をするなどして支出したものと認定するのが相当である。

20  事業主貸のうちドルミ堂島の家賃等

関係証拠によると、昭和五五年五月一四日、大阪市福島区福島町三丁目一番四九号所在のドルミ堂島二〇五号室について、貸主吉田久代、借主德永貢博名義で賃貸借契約がなされ、そのころから同五六年七月ころまで同室に前記荒木己代子が居住していたこと、右賃貸借にもとづき、同月一九日賃貸人の吉田に対し保証金一〇〇万円が振込まれ、同年六月から同五七年九月まで家賃八万円(同五七年五月からは八万八〇〇〇円)が支払われていることが認められる。

証人荒木は、右ドルミ堂島二〇五号室の保証金及び家賃は同人が支払っていた旨供述しているが、前記のとおり、本件賃貸借契約の借主が被告人名義となっていることに加え、大蔵事務官作成の査察官調査書(検甲第一七四号)によると、荒木が右ドルミ堂島二〇五号室に居住しなくなった同五六年七月から、「AJE」の事業に使用していた大阪相互銀行梅田支店の被告人名義の普通預金口座(10929)よりしばしば家賃として八万円が吉田の口座に振込まれているばかりか、同五五年一一月にも同銀行同支店の被告人名義の右口座から右家賃が出金されていることが認められることをも合わせ考慮すると、証人荒木の右供述はにわかに信用できず、右ドルミ堂島二〇五号室の借主は被告人であり、右保証金及び家賃は「AJE」における被告人の事業収益の中から支払われていたと認定するのが相当である。

21  メゾン梅田二〇五号室の差入保証金

関係証拠によると、昭和五六年八月五日、大阪市北区兎我野二番一四号所在のメゾン梅田二〇五号室について、賃貸人マルオ企業株式会社、賃借人村上夕雨子、保証人松田清樹名義で賃貸借契約がなされ、同日保証金三〇万円がマルオ企業株式会社に交付され、以後毎月賃料四万八〇〇〇円(同年九月からは共益費も含めて五万八〇〇〇円)が同五七年九月まで現金で交付されるか、または銀行振込の方法で支払われていることが認められる。

弁護人は、右メゾン梅田二〇五号室は前記高橋こと金能秀が個人で使用していたものである旨主張するが、前記のとおり、金は同五六年八月ころ「AJE」を辞めているところ、押収してある無表題出納帳(昭和五九年押第一五五号の一〇)によると、同出納帳は同五七年一月二九日から同五八年五月一九日までの間における、「AJE」傘下の各ピンクサロンの売上、従業員に対する給料の支払や各店舗の経費の支出等について記載されたものであるが、同出納帳には同五七年二月からほぼ毎月「メゾン梅田205 五八〇〇〇円」との記載がなされていることが認められ、右認定事実に照らすと、右メゾン梅田二〇五号室の家賃は「AJE」の事業収益の中から支払われていたことは明らかであり、したがって、右メゾン梅田二〇五号室は「AJE」の事業に関連するものとして賃借され、右保証金も「AJE」の事業収益の中から支出されたものと認定するのが相当である。

三  弁護人は、本件各店舗の営業許可名義人がそれぞれ料理飲食等消費税について昭和五五年度が合計二二八万二五二四円、同五六年度が合計一六一九万六二九四円の更正、決定を受けているから、各店舗の経営者が被告人であるとするならば、右料理飲食等消費税分は預かり金として被告人の所得から控除すべきである旨主張するが、本件の所得額の算出は、期末における正味財産から期首における正味財産を控除しその差額をその年度の所得額とする所謂財産増減法に基づいているところ、関係証拠、殊に、大阪府北府税事務所長松葉豊彦(検甲第二二八号)、大阪府東大阪府税事務所長要明(同第二二九号)作成の各回答書によって認められるように、本件では各店舗に対する料理飲食等消費税についてその更正、決定された金額をも斟酌して未払金の減少額を算出しこれを必要経費としたのである(この点の検索官の主張については昭和五九年三月一六日付証拠説明書別表2、同六一年三月一三日付「ほ脱所得の内容説明」の補充の別紙16参照)から、弁護人の右主張は採用できない。

四  更に、弁護人は、被告人に何らかの所得が認められるとしてもこれに対応する各年度の事業税相当額は所得から控除されるべきである旨主張するが、地方税たる事業税は事業総収入から控除されるべき必要経費である(所得税法四五条一項、三七条一項)が、地方税法七二条の五〇第一項によると、事業税の課税標準は原則として前年中の事業所得であり、また、所得税法三七条一項によると、「償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。」とされていることから、必要経費に算入すべき事業税は租税債務として確定することが必要で、しかも、それを必要経費に算入する時期はその租税債務が確定した年度と解すべきところ、被告人の場合には、昭和五五年、同五六年にその前年の事業税が賦課により確定した事実は認められないのであるから、右各年度の所得額の算定にあたり前年の事業税を必要経費に算入できず、したがって、弁護人の右主張は採用できない。

五  次に、弁護人は、本件は、曽根崎署警察官の不法な動機、意図に基づく捜査の結果起訴されるに至ったもので悪意の訴追であること、並びに大阪市内の北地域の風俗営業者が起訴されていないのに被告人だけが起訴されており、とりわけ本件の共同経営者である金能秀が不起訴となっていることからすると、本件は憲法一四条違反の不平等起訴であることを理由に公訴権の濫用に該当する旨主張する。

しかしながら、公訴権の行使は検察官の広範な裁量に委ねられており、その裁量権の逸脱によって公訴の提起が無効になる場合がありうるとしても、それは例えば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られると解すべきところ(最高裁昭和五五年一二月一七日第一小法廷決定、刑集三四巻七号六七二頁)、関係証拠によると、本件は、判示第三の事案の捜査から始まり同第一及び第二の事案の検挙に至ったものであるが、その捜査の途中でこれを担当していた曽根崎署警察官の一部やその関係者が収賄目的で被告人らに接触し、金を出せば営業が続けられると取引きを申し出たが、被告人らがこれを断ったことがあり、事件送致を受けた検察官も被告人から右経緯を聞き右警察官らの不正を知っていたことが窺われるものの、右検察官には不法な目的はなく、証拠能力の認められると考えられた証拠にもとづき本件各事案を起訴したものである上、本件各事案は、その動機、罪質、態様等に照らして不起訴を相当とするような軽微なものとは到底いえず、検察官において、被告人をその思想、信条、社会的身分などを理由に不当に差別して捜査、起訴したとの事情も認められないのであるから、たとえ、弁護人主張のように、本件各店舗を被告人と共同経営して多額の収入を得ながら確定申告をしていない高橋こと金や、被告人と同種の風俗営業を営みながら正当に税金を納めていない者が捜査、起訴されていないとしても、そのため、被告人に対する捜査権、公訴権の発動が偏頗、不公平なものとされるわけではないことなどに鑑みると、本件各事案の起訴が右のような極限的な場合にあたらないことは明らかであり、したがって、弁護人の右主張は採用しない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は昭和五六年法律第五四号(脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律)附則第五条により同法による改正前の所得税法二三八条に、判示第二の所為は同改正後の同法二三八条に、判示第三の所為は包括して昭和五九年法律第七六号(風俗営業等取締法の一部を改正する法律)附則第七条により同法による改正前の風俗営業取締法七条一項、二条一項にそれぞれ該当するところ、判示各罪について懲役刑と罰金刑を併科し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年四月及び罰金二五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用してこれを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、ピンクサロン等を実質的に経営していた被告人が、二事業年度にわたり所得を秘匿して確定申告をせず所得税合計一億〇六三一万七五〇〇円をほ脱したという所得税法違反並びに公安委員会の許可を受けずにいわゆるピンクサロン等の風俗営業を営んだという風俗営業等取締法(現在の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)違反の各事案であるが、その犯情はいずれも芳しくなく、特に、所得税法違反はそのほ脱額が高額であり、ほ脱率は一〇〇パーセントである上、脱税手段も各店舗の店長等を営業許可名義人に仕立て同人らが営業の主体であるかの如く装うなど計画的で功妙なものがあること、現在に至るまで本件所得税について全く納付していないことなどを考慮すると、被告人の刑責は軽視できないというべきである。してみると、本件捜査の過程において一部の警察官が不正を行ったことが窺われること、被告人が一応反省の情を示していること、これまで罰金刑以外の前科がないことやその家庭の状況等被告人に有利な事情を斟酌しても、主文の懲役刑及び罰金刑に処するのはやむを得ないものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤光康 裁判官東尾龍一、同白神恵子はいずれも転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 加藤光康)

別紙1

修正貸借対照表

<省略>

別紙2

修正貸借対照表

<省略>

別紙3

所得税額計算書

<省略>

別紙4

犯罪事実一覧表

<省略>

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