大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和58年(行ウ)12号 判決 1991年11月25日

原告

北但砂利事業協同組合

右代表者代表理事

千田博司

原告

千田鉱業株式会社

右代表者代表取締役

千田博司

右原告ら訴訟代理人弁護士

西村忠行

樋渡俊一

小沢秀造

藤本哲也

右訴訟復代理人弁護士

渡部吉泰

被告

近畿地方建設局長

定道成美

被告

建設大臣大塚雄司

被告

右代表者法務大臣

左藤恵

被告ら三名指定代理人

塚本伊平

外二名

被告国指定代理人

鈴木弘夫

被告近畿地方建設局長、同国指定代理人

鎌田博貴

外一一名

主文

一  原告らの被告近畿地方建設局長に対する不作為違法確認を求める訴え及び被告建設大臣に対する審査請求却下処分取消しを求める訴えをいずれも却下する。

二  原告らの被告近畿地方建設局長に対するその余の請求及び被告国に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告らが昭和五七年三月二七日に被告近畿地方建設局長に対し河川法二四条、二五条に基づく許可の申請について、被告近畿地方建設局長が何らの決定をしないことが違法であることを確認する。

2  被告建設大臣が昭和五八年二月一四日に原告らに対してした原告らの同年一月一八日付け審査請求に対する却下処分を取り消す。

3  被告近畿地方建設局長が昭和五八年二月四日付けで原告らに対してした砂利採取法一六条に基づく不認可処分を取り消す。

4  被告国は、原告らに対し、金一五四六万六八〇〇円並びに内金一四四六万六八〇〇円に対する昭和五八年五月一四日から、内金一〇〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

6  第4項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文第一項同旨

(本案に対する答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

3 仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、肩書地に事務所を設置して砂利採取等の事業を営む者である。被告近畿地方建設局長は、河川法二四条、二五条、九八条、砂利採取法一六条に基づき、砂利採取等の許認可の権限を有する者であり、被告国は、国家賠償法一条一項に基づき、国家公務員の違法行為による損害賠償の責任を負う者である。

2  原告千田鉱業株式会社(以下「原告会社」という。)は、兵庫県円山川水系の円山川、出石川合流点付近の砂利等の採取について、昭和五六年六月二七日付けで、被告近畿地方建設局長に対し、河川法二四条、二五条に基づく許可及び砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可の申請をし、被告近畿地方建設局長は、同年七月二七日、次のとおり許認可の処分をした。

(1) 河川法二四条、二五条の許可

① 河川の名称 円山川水系円山川

② 採取の目的 コンクリート用骨材販売

③ 採取の場所及び面積 兵庫県豊岡市九日市上町地先四八八三平方メートル(以下、この採取地を「本件採取地」という。)

④ 種類及び数量 砂四三四五立法メートル

⑤ 採取の方法 採取船

⑥ 採取期間 昭和五六年七月二七日から昭和五七年一月一〇日まで

⑦ 土地の占有 砂搬入搬出路、水切場及び沈澱層二二五九平方メートル昭和五六年七月二七日から昭和五七年一月二〇日まで

(2) 砂利採取法一六条の砂利採取計画認可

① 河川の名称 円山川水系円山川

② 採取の目的 コンクリート用骨材販売

③ 採取の場所及び面積 兵庫県豊岡市九日市上町地先五四六〇平方メートル

④ 掘削量 五四三二立法メートル

⑤ 採取する砂利等の種類及び数量砂四三四五立法メートル

⑥ 採取の方法 採取船

⑦ 採取の期間 昭和五六年七月二七日から昭和五七年一月一〇日まで

⑧ 工作物の設置等 砂搬入搬出路、水切場及び沈澱層二二五九平方メートル昭和五六年七月二七日から昭和五七年一月二〇日まで

その後、昭和五七年一月九日、右許認可処分について、採取期間を同年三月二〇日まで延長し、河川法上の採取面積を七一二七平方メートル、砂利採取法上の採取面積を七七〇四平方メートルと拡張する旨の変更許認可処分がされた。

3  原告会社は、円山川における砂採取等の許認可を得て、自動車二台、大型タイヤショベル一台、小型タイヤショベル一台、ユンボ一台、サンドポンプ一台、発電機一台、電動ウインチ一台、筏、網、鉄管等計約一三〇〇万円の費用を投下し、従業員を雇用し、河川敷に搬出入道路を建設して、砂採取の事業を開始した。

4  原告会社及び原告北但砂利事業協同組合(以下「原告組合」という。)は、右許認可の採取期限の到来以前から引き続く砂利採取事業のため、近畿地方建設局豊岡工事事務所(以下「豊岡工事事務所」という。)及び同工事事務所豊岡出張所の関係担当職員と協議し、その内諾を得て、昭和五七年三月二七日付けで、被告近畿地方建設局長に対し、次のとおり、河川法二四条、二五条に基づく許可及び砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可の申請をし、被告近畿地方建設局長は、同年三月二九日、右各申請を受理した。

(1) 河川法二四条、二五条の許可申請

① 河川の名称 円山川水系円山川

② 採取の目的 砂の採取

③ 採取の場所及び面積 兵庫県豊岡市九日市上町地先九六八八平方メートル(以下「本件申請地」という。)

④ 種類及び数量 掘削量一万四六七五立法メートル 砂七六三一立法メートル

⑤ 採取期間 二七五日

(2) 砂利採取法一六条の砂利採取計画認可申請

① 区域 円山川水系円山川一万〇二六四平方メートル

② 砂利の種類と数量 砂採取量七六三一立法メートル

土砂掘削量一万四六七五立法メートル

③ 採取期間 二七五日

5(1)  ところが、被告近畿地方建設局長は、河川法二四条、二五条の許可申請に対し、何ら処分をしない。

(2) そこで、原告らは、昭和五七年一二月二一日付けで、被告近畿地方建設局長に対し、右許可申請に係る不作為について、異議申立てをしたが、なお、何ら処分はされなかった。

(3) 原告らは、昭和五八年一月一八日、被告建設大臣に対し、被告近畿地方建設局長の不作為について、審査請求をしたところ、被告建設大臣は、同年二月一四日、原告らに対し、右審査請求を却下する旨の裁決をした。その理由は、被告近畿地方建設局長が同年一月一一日付けで、不許可処分をした事実が認められるからというものであった。

しかし、後記のとおり、右日付で近畿地方建設局豊岡工事事務所豊岡出張所長が、原告らに対し、砂利採取法に基づく砂利採取計画認可申請の書類を印紙不足という形式的理由で返戻したことはある(原告らは、直ちに、印紙を貼って補正し、再提出した。)が、河川法二四条、二五条に基づく許可申請に対し不許可処分がされた事実はない。

(4) 右のとおり、河川法許可申請に対し、被告近畿地方建設局長が何らの処分をしないことは違法であり、また、被告建設大臣が誤った事実認定に基づいて、審査請求を却下する旨の裁決をしたことも違法である。

6(1)  砂利採取法認可申請についても、河川法許可申請と同様に、長い期間放置されていたが、近畿地方建設局豊岡工事事務所豊岡出張所長は、昭和五八年一月一一日、突然、原告らに対し、右砂利採取法認可申請の申請書類に砂利採取法三五条の不備(印紙不足)があるとして、申請書類を返戻してきた。

(2) 原告らは、同月一二日、印紙の不足分(二〇〇〇円)を貼付して申請書を提出した。

(3) 被告近畿地方建設局長は、同年二月四日、原告らに対し、砂利採取法認可申請について、不認可処分をした。その理由は、同年一月一一日付けで河川法許可申請について不許可処分をしたからというものであった。

しかし、同年一月一一日付けで河川法許可申請に対する不許可処分をした事実はないのであるから、それを前提としてされた砂利採取法認可申請に対する不認可処分は違法である。

7(1)  被告近畿地方建設局長の河川法許可申請に対する不作為は、国の公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うに当たっての行為(不作為)であることは明らかである。

(2) およそ、行政庁は、国民からの行政処分申請に対し、速やかに処分をすべき義務がある。ことに、本件のように、その処分が初めてされるものではなく、以前許可処分がされ、今回の処分は、更新の意味を持つに過ぎず、他方、原告らは、従来のいきさつからして当然に許可処分がされることを期待している場合には、なおさら速やかに処分がされるべきである。

しかるに、被告近畿地方建設局長の極端な処分行為遅延は、違法であり、同被告には、早期に処分をすべき義務を懈怠した過失があることは明らかである。

(3) 原告らは、従前の経緯からして、早期に許可処分がされると期待して、前回の許可に基づき採取していた従業員四名及び原告ら代表者千田博司をそのまま雇用し続け、いつでも採取事業を続行できるように待機していた。また、原告らは、その採取事業のために、サンドポンプ、発電機、電動ウインチ、ユンボタイヤショベル、台車、筏その他の機械設備を購入所有していた。

ところで、被告近畿地方建設局長が仮に早期に許可または不許可の処分をしていれば、原告らは、前記従業員及び代表者千田博司を就労させ、または解雇するなりして、従業員及び代表者千田博司に対し無駄な給料を支給せずにすんだはずである。また、原告らが採取事業のために使用していた機械設備にしても、稼働させまたは他に有効に転用することができたはずである。

したがって、原告らは、被告近畿地方建設局長の違法な許可処分遅滞により、次のとおり損害を受けた。

① 従業員四名の給料計二九二万二〇〇〇円

昭和五七年四月一日から同年八月三一日まで従業員を雇い、給料を支払った。

② 既設機械修繕費用及び購入備品代金計一六四万一〇五七円

第二回目の許可処分に備えて既設機械修繕費用として三二万八八八五円を支払い、車両等備品購入代金計一三一万二一七二円を支出した。

③ 諸経費一〇一万七四〇二円

従業員の福利厚生費(労災費用等)、走行費その他諸経費として、右金員を支出した。

④ 逸失利益八五七万四七七八円

原告らは、昭和五七年三月二〇日から本件の不認可処分のあった昭和五八年二月四日までの間、許可処分を期待して、右設備の他への転用を控え、その稼働により収入を得ることができなかったのであり、仮に適正な期間内に不許可処分があれば、転用により相応の収入があったはずである。

原告会社は、昭和五六年七月から昭和五七年三月までの間に、七七一万七三〇〇円の売上げを得ていたから、これによれば、原告らの逸失利益は、

七七一万七三〇〇÷九か月×一〇か月=八五七万四七七八円

となる。

仮に、右損害が認められないとしても、不許可処分があれば、原告らは、第一回の許可処分に伴い購入した砂利採取用の設備(計一三〇九万七七八〇円)を、早期に他に売却して、相応の金銭の回収ができたはずであるが、本件の不作為により、今日まで処分をすることができず、設備は、まったく無価値となった。早期に不許可処分が明らかとなっていれば、少なくとも購入価格の半額で売却できたから、原告らは、六五四万八八九〇円の損害を受けた。

⑤ 弁護士費用

着手金一〇〇万円、報酬一〇〇万円

(4) 原告らは、長期間にわたり砂利採取事業を継続し、将来において相当の収入を得ることができたことは明らかであるが、被告近畿地方建設局長の違法な不認可処分によりその収入を奪われた。その逸失利益は、前記(3)の④前段の八五七万四七七八円を超えることは明らかである。

8  よって、原告らは、被告近畿地方建設局長に対し、河川法許可申請に対して何らの処分をしない同被告の不作為が違法であることの確認を求め、被告建設大臣に対し、河川法に基づく審査請求却下裁決の取消しを求め、被告近畿地方建設局長に対し、砂利採取法に基づく不認可処分の取消しを求め、被告国に対し、国家賠償法一条一項に基づき、損害金一五四六万六八〇〇円及び内金一四四六万六八〇〇円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年五月一四日から、内金一〇〇万円に対する判決確定の日の翌日から、各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3のうち、原告会社が、円山川における砂採取等の許認可を得たこと、河川敷に搬出入道路を建設して、砂採取の事業を開始したことは認めるが、その他の事実は知らない。

3  同4のうち、関係担当職員の内諾を得たことは否認し、その他の事実は認める。

4(1)  同5の(1)の事実は否認する。

(2) 同(2)のうち、原告らが、昭和五七年一二月二一日付けで、被告近畿地方建設局長に対し、右許可申請に係る不作為について、異議申立てをしたことは認めるが、その他の事実は否認する。

(3) 同(3)のうち、原告らが、昭和五八年一月一八日、被告建設大臣に対し、被告近畿地方建設局長の不作為について、審査請求をしたところ、被告建設大臣は、同年二月一四日、原告らに対し、右審査請求を却下する旨の裁決をしたこと、その理由は、被告近畿地方建設局長が同年一月一一日付けで、不許可処分をした事実が認められるからというものであったこと、同日付で近畿地方建設局豊岡工事事務所豊岡出張所長が原告らに対し、砂利採取法認可申請書類を印紙不足という形式的理由で返戻したこと、原告らが、直ちに、印紙を貼付して、再提出したことは認めるが、その他の事実は否認する。

(4) 同(4)は争う。

5(1)  同6の(1)のうち、近畿地方建設局豊岡工事事務所豊岡出張所長が、昭和五八年一月一一日、原告らに対し、右砂利採取法認可申請の申請書類に砂利採取法三五条の不備(印紙不足)があるとして、申請書類を返戻したことは認めるが、その他の事実は否認する。

(2) 同(2)のうち、原告らが同月一二日、印紙の不足分(二〇〇〇円)を貼付して申請書を提出したことは認めるが、その他の事実は否認する。

(3) 同(3)のうち、被告近畿地方建設局長が、同年二月四日、原告らに対し、砂利採取法認可申請について、不認可処分をしたこと、その理由が、同年一月一一日付けで河川法許可申請について不許可処分をしたからというものであったことは認めるが、その他の事実は否認する。

6  同7は否認または争う。

三  被告らの主張及び抗弁

1  不作為の違法確認を求める訴えについて

(1) 被告近畿地方建設局長は、昭和五八年一月一一日、原告らの昭和五七年三月二七日付けの河川法二四条、二五条に基づく許可申請に対して不許可処分をし、近畿地方建設局豊岡工事事務所長が、右同日、原告らに対し、その旨を記載した「不許可書」を配達証明付郵便で送付し、同書面は、同月一二日、原告らに配達された。

(2) 仮に右「不許可書」が原告らに到達していなかったとしても、河川法二四条、二五条に基づく許否の処分は、要式行為ではなく、また、被告近畿地方建設局長が何らかの処分をしたかどうかという処分の成否、存否の問題は、原告らが処分のあったことを知ったかどうかという処分の効力発生の問題とは別個の問題であり、行政事件訴訟法三条五項に当たるかどうかは、前者の問題である。したがって、原告らの許可申請に対する不許可処分は、遅くとも、被告近畿地方建設局長が「不許可書」を作成したときに成立し、客観的に存在するに至ったのであるから、同被告が処分をしないという不作為はない。

(3) 仮に右不許可処分が成立するためには、原告らがこれを了知し得る状態に達することを要するとしても、被告近畿地方建設局長は、昭和五八年二月四日、原告らの昭和五七年三月二七日付けの砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可申請に対して不認可処分をし、そのころ、原告らに対し、その旨を記載した「不認可書」を送付したが、右「不認可書」には、「昭和五八年一月一日付で本件申請に係る河川法上の許可申請を、別紙理由により不許可としたので、」と記載してある。したがって、原告らは、右「不認可書」の送付を受けた時点において、右不許可処分のあったことを了知したというべきである。

(4) 以上いずれによっても、本件において、被告近畿地方建設局長に不作為はないから、原告らの不行為違法確認の訴えは、行政事件訴訟法三条五項に該当しない不適法なものである。

2  裁決の取消しの訴えについて

一般に、行政庁の不作為についての違法確認の訴えと、当該不作為についての審査請求を却下し、または棄却した裁決の取消しの訴えとが、併合して提起されている場合、右不作為の違法確認の訴えにつき、行政庁の不作為がないことを理由として却下すべきときは、右裁決に何らかの瑕疵があるとしてこれを取り消してみても、審査庁は、もはや不作為についての審査請求に理由があるとする余地がないから、右裁決の取消しを求めるにつき、行政事件訴訟法九条の「法律上の利益」がないというべきである。本件でも、不作為違法確認の訴えは、前記のとおり、被告近畿地方建設局長に不作為がないので、これを不適法として却下すべきであるから、本件裁決の取消しの訴えも、不適法である。

3  砂利採取不認可処分の適法性

(1) 原告らの許可申請に係る砂利採取場(本件申請地)は、豊岡市九日市上町地先の円山川と出石川との合流点で、導流堤の先端部を中心とする河口より16.10キロメートルから16.25キロメートルまでの区域である。

円山川は、往時は蛇行が激しく、豪雨出水によって頻繁に甚大な水害を発生させていたため、内務省の直轄により、第一期改修工事が大正一二年から昭和一三年まで施行されたが、その改修計画は、河道の屈曲を修正して洪水の流下を速やかにさせ、堤防を新設・増築して氾濫を防止するという洪水防御であった。

本件申請地の付近一帯においても、河道の修正と堤防の築造を主とした大規模な改修工事が実施され、それにより概ね現在のような河道と堤防の状況となった。

(2) 本件申請地の中心部には、右改修工事によって築造された「導流堤」(以下「本件導流堤」という。)が現存し、これには、旧河川法四条二項にいう河川の付属物(現行河川法三条二項にいう河川管理施設)である「護岸九号」が施行されている。右護岸の構造は、生松丸太を詰杭として、法面を石張工によって被覆し、前面に金網布団籠による根固工を施したものである。また、本件導流堤の先端部の下流側は、現在、流送土砂が適度に堆積し、下流に向かって次第に狭まり、かつ滑らかに傾斜しているが、このような土砂の堆積は、本件導流堤の築造当初から予定されていたものであり、流水を円滑に合流させるために、本件導流堤の一部ともいうべき理想的な状態となっている。

(3) 本件導流堤は、激しく蛇行していた円山川と出石川の両河道を修正し、現在の合流点において両川を円滑に合流させるために、前記改修工事によって新設されたものである。すなわち、本件導流堤の機能は、右両川に水位、流速等エネルギーに差異があるので、そのために流水が乱流すると、対向河岸の水当たりによる浸食、河床の局部的な洗掘あるいは堆積土砂の偏在等が生じ、それらによって河道が荒廃するに至ることから、両川の流向を調整するために、その先端部の下流側にある適度の堆積土砂をも合わせ一体として、合流形状を平滑にする「合流点調整」の効用を発揮しているのである。

(4) 砂利採取法一六条による採取計画の認可は、同法一九条による制約はあるが、河川管理者の裁量処分を解すべきであるから、その裁量権の範囲を超えまたはその濫用があった場合でなければ、これを取り消すことができない。本件では、本件申請地は、前記(1)ないし(3)のとおり、本件導流堤の本体及びこれに付随した有益な堆積土砂が存在する区域であるから、原告らの申請に係る砂利採取計画は、河川管理施設の本体及びその付属物ともいうべき状態を破壊しようとするものであり、このような計画に基づいて行う砂利の採取は、公共の福祉に反することが明らかである。

(5) よって、右不認可処分には、被告近畿地方建設局長の裁量権の逸脱も濫用もないばかりか、右認可申請そのものが、砂利採取法一九条により、認可をしてはならない場合に該当するから、不認可処分は適法である。

4  損害賠償請求について

(1) 被告近畿地方建設局長は、昭和五七年三月三一日に河川法に基づく許可申請を受理し、前記のとおり、昭和五八年一月一一日にこれに対する不許可処分をしており、その間、原告らの代表者に対し、許認可をすることができない旨を告知し、代替案を提示する等、懇切な行政指導をしたにもかかわらず、原告ら代表者らが極めて不誠実であったために、結果的に不許可処分に至る期間を要したものである。したがって、本件の不許可処分は、相当の期間内にされたものというべきであるから、違法性はない。

(2) 仮に、私法上、不許可処分及び不認可処分に至るいずれかの段階で、何らかの処分をすべき作為義務が生じたと解する余地があるとしても、原告らは、本件の許認可申請当時既に申請区域における砂利採取は認められない旨を告知されていたから、不作為と損害との間に因果関係がなく、被告国がその損害を賠償すべき責任はない。

四  被告らの主張及び抗弁に対する認否

1(1)  同1の(1)は否認する。被告らが主張するように、仮に河川法に基づく不許可処分書を原告らが受領していたならば、昭和五七年一二月二一日付けの被告近畿地方建設局長に対する不作為を理由とする不服申立てについて、処分書の受領後である昭和五八年一月一八日に審査請求をすることはありえない。

(2) 同(2)は争う。

(3) 同(3)のうち、被告近畿地方建設局長が、昭和五八年二月四日、原告らの昭和五七年二月四日付けの砂利採取法一六条による認可申請に対して不認可処分をし、そのころ、原告らに対し、その旨を記載した「不認可書」を送付したこと、右「不認可書」には、「昭和五八年一月一一日付で本件申請に係る河川法上の許可申請を、別紙理由により不許可としたので、」と記載してあったことは認めるが、その他の事実は否認する。一般に、河川法上の許可申請と砂利採取法上の認可申請とが一体のものとして同時にされており、行政処分としても別異に取り扱うことが不可能であることからいって、一方について形式不備で再提出を求め、他方について終局的な不許可処分をするということは、考えられないことであり、極めて不自然である。

(4) 同(4)は争う。

2  同2は争う。

3  同3は否認または争う。被告近畿地方建設局長が主張する不認可処分の理由は、事後に被告らが事態を糊塗するために考え出した理由にすぎない。また、本件の認可申請について認可処分をすることは、第一回の砂利採取計画認可処分の期間の更新と、その実質において異なるところはないから、再認可処分をしないということは、第一回の認可処分を撤回することを意味することになる。

4(1)  同4の(1)のうち、被告近畿地方建設局長が、昭和五七年三月三一日に河川法に基づく許可申請を受理したことは認めるが、その他の事実は否認する。

(2) 同(2)は否認または争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一不作為違法確認請求について

一請求原因1(当事者)及び2(原告会社が本件採取場における砂利等の採取について、昭和五六年六月二七日付けで、被告近畿地方建設局長に対し、河川法二四条、二五条に基づく許可及び砂利採取法一六条に基づく認可の申請をし、同被告が同年七月二七日、原告ら主張のとおりの許認可の処分をしたこと及び昭和五七年一月九日、右許認可処分について、採取期間を同年三月二〇日まで延長し、河川法上の採取面積を七一二七平方メートル、砂利採取法上の採取面積を七七〇四平方メートルと拡張する旨の変更許認可処分がされたこと)の事実、同4のうち、原告らが、右許認可の採取期限の到来以前から引き続く砂利採取採取事業のため近畿地方建設局豊岡出張所の関係担当職員と協議し、昭和五七年三月二七日付けで、同被告に対し、許認可の申請をし、同被告が同年三月二九日、右申請を受理したことは当事者間に争いがない。

二右争いがない事実に、<書証番号略>、証人井上嘉、同森本良典、同宮田茂夫、同山村太藏の各証言によれば、本件の経過について次の各事実が認められる。

1  昭和五五年五月ころ、原告会社は、豊岡工事事務所に対し、円山川の河口から一六キロメートル付近で砂利採取をしたいとの申入れをした。当時、同工事事務所管内では、十数名の砂利採取業者が、行政指導により、円山川砂採取共同作業組合を結成し、組合の下に一本化して砂利採取に当たっていた。同工事事務所では、原告会社に対しても、砂利採取業者の協業化の見地から、右組合に加入するよう行政指導を行ったが、原告会社は、これに応じようとしなかった。

2  原告会社は、同年九月二九日、被告近畿地方建設局長に対し、河川法二四条、二五条に基づく許可及び砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可の各申請書を郵便により送付した。同被告は、直ちに右郵便を右許認可の窓口である豊岡工事事務所に送付し、同工事事務所は、同年一〇月二三日に、原告会社に対し、申請書の取下げの指導と、前記組合への加入についてあっせん、調停の労をとったが、原告会社と組合との間で容易に話合いがつかなかった。

その後、昭和五六年六月に入って、ようやく組合と原告会社との間で話合いがつき、原告会社は、右申請をいったん取り下げ、同月二七日付けで、改めて、協業化の促進に努力する旨の誓約書を添付して、本件採取地について、河川法二四条、二五条に基づく許可及び砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可の各申請をした。

これに対し、被告近畿地方建設局長は、同年七月二七日付けで、右申請に対する河川法に基づく許可処分及び砂利採取法に基づく認可処分をした。

3  右許認可に係る採取期間は、昭和五七年一月一〇日までであったが、同年一月九日付けで、右許認可処分について、採取期間を同年三月二〇日まで延長し、河川法上の採取面積を七一二七平方メートル、砂利採取法上の採取面積を七七〇四平方メートルと拡張する旨の変更許認可処分がされた。

原告会社は、右変更された採取期間が経過した同年三月二七日、豊岡工事事務所に対し、引き続いて本件採取地に隣接する上流部(本件申請地)で砂利採取をしたい旨申し入れた。これに対し、同工事事務所は、同区域は、河川の管理上、支障となるから許認可を与えることができないと回答した。

4  原告会社及び原告会社の代表者が代表理事となって設立された原告組合は、連名で、被告近畿地方建設局長に対し、本件採取場において砂利採取許認可を求める同年三月二七日付け申請書を、豊岡工事事務所豊岡出張所に宛てて郵便により送付した。

豊岡工事事務所及び同出張所は、右許認可申請のうち、砂利採取法に基づく認可申請書については、貼用印紙額に不足があったため、受理を留保し、河川法に基づく許可申請書についてのみ、同月三一日付けで受理した。

5  豊岡工事事務所は、同年四月一六日、原告らに対し、本件申請地は、河川管理上支障があるため許認可を与えることができない旨告げたが、原告らは、承知せず、行政監察局に不服申立てをすると述べた。

豊岡工事事務所は、同年六月二日、原告らに対し、砂利採取場所を円山川河口から10.5キロメートル付近の一日市島とする代替案を提示したところ、原告らは、いったん、これを了承した。

しかし、その後、原告らは、右の場所では、採算が合わないとして、他の場所での採取の許認可を求めた。そこで、豊岡工事事務所では、前記組合と原告らとの間で調整をした結果、円山川河口から一〇キロメートル右岸の高水敷上流部を原告らが、同下流部を組合が、それぞれ採取することで概略話合いがついた。

ところが、原告らは、同年九月二日、右場所での採取についても採算が合わないとして、再び本件申請地または別の場所での採取の許認可を求めた。豊岡工事事務所では、他に砂利採取可能な場所はないこと、本件申請地での採取は河川管理上支障があるため許認可を与えることができない旨告げた。

6  原告らは、本件の申請が容易に認められないため、兵庫行政監察局に対し、不服申立てをした。同監察局は、同年五月三一日、近畿地方建設局に対し、許認可の見通しについて問い合わせた。これに対し、同建設局は、本件申請地において砂利採取を認めると治水上影響があり、また申請があれば当然に許認可がされるという性質のものではなく、秩序ある採取が必要である旨説明した。さらに、同監察局は、同年六月二日付けで、豊岡工事事務所に対し、処分が遅延している理由及び処分の見通しについて照会をした。そこで、同工事事務所は、同月一四日、同監察局に対し、砂利採取の許認可までの手続、原告らの申請の問題点及び行政指導の状況について説明を行い、同月三〇日付けの文書で、本件申請地は、河川管理上支障があり、許認可をすることができない場合であることから、他の場所での採取について行政指導をしている旨回答した。その結果、同監察局は、同年九月八日、原告らに対し、同工事事務所において、同工事事務所の処理に特に問題はない旨告げた。

しかし、原告らは、同年一二月二一日付けで、被告近畿地方建設局長に対し、河川法の不作為について、不服を申し立て、同申立書は、同月二二日、同被告に到達した。

7  豊岡工事事務所は、昭和五八年一月七日、原告らに対し、本件申請地での砂利採取は認められないので、申請及び不作為についての不服申立てを取り下げるよう指導したが、原告らは、これに応じなかった。そこで、同工事事務所及び近畿地方建設局では、原告らに対する行政指導を打切り、被告近畿地方建設局長名で、同月一一日、河川法二四条、二五条に基づく許可申請については不許可とし、砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可申請については、申請書に貼用すべき印紙額に不足があったので、原告らに申請書を返戻することとし、河川法に基づく不許可処分書及び砂利採取法に基づく認可申請書を原告会社に宛てて配達証明付郵便で送付した。

原告らは、砂利採取法に基づく認可申請書の返戻を受けた後、同月一二日付けで、直ちに不足分の印紙を貼用して、再び右認可申請書を配達証明付郵便で豊岡工事事務所豊岡出張所に提出し、同郵便は、同月一四日、同出張所に到達した。同出張所は、同月一七日にこれを受理し、同月一九日、同工事事務所に申請書を送付し、同工事事務所は、同日付けでこれを受理した。

8  原告らは、同年一月一八日付けで、被告建設大臣に対し、河川法に基づく許可申請につき、被告近畿地方建設局長が処分をしないとして、不作為に係る審査請求をした。

被告近畿地方建設局長は、同年二月四日、原告らに対し、砂利採取法に基づく認可申請について、河川法に係る許可申請を「本件申請箇所は、円山川と出石川との合流点付近であり、自然の導流堤を形成している箇所であることから、砂の掘削等により、円山川及び出石川の流向、流心に変化をきたし、河岸、河床等に損傷をきたす等河川管理上適正を期し難い区域内である。」との理由により不許可としたので、不認可とするとの処分をし、同不認可処分書は、内容証明郵便により、そのころ原告らに送付された。

また、被告建設大臣は、同年二月一四日付けで、原告らに対し、前記審査請求について、被告近畿地方建設局長が同年一月一一日付けで不許可処分を行い、同不許可処分書が原告らに送付されているとの理由で、却下するとの裁決をし、同裁決書は、そのころ原告らに送付された。

三<書証番号略>、証人井上嘉、同森本良典、同宮田茂夫、同山村太藏の各証言によれば、河川法二四条、二五条に基づく許可申請に対する不許可処分書の送付について次の事実が認められる。

1  河川法二四条、二五条に基づく許可申請及び砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可申請に対する処分は、被告近畿地方建設局長が行うのであるが、許認可の判断に当たっては、出先機関である工事事務所または出張所が申請箇所を熟知していることから、申請書はまず、豊岡工事事務所豊岡出張所で受理し、同出張所及び同工事事務所で審査を行った後にはじめて、近畿地方建設局に書類が送付され、同建設局で改めて審査のうえ、被告近畿地方建設局長が決裁をした後、同建設局から豊岡工事事務所に処分書が送付され、同工事事務所の責任で処分書が申請者に送付されるという仕組みになっている。

2  原告らの昭和五七年三月二七日付けの河川法二四条、二五条に基づく許可申請について、豊岡工事事務所は、昭和五八年一月七日、近畿地方建設局に対し、不許可処分とする旨の副申をした。これを受けて同建設局河川部水政課第一係長山村太藏が不許可処分書を起案し、同月一一日、被告近畿地方建設局長は、起案通りの決裁をした。同日、豊岡工事事務所の事務官宮田茂夫が近畿地方建設局に赴いて、右不許可処分書を受け取り、宮田は、右不許可処分書を、返戻すべき砂利採取計画認可申請書とともに、原告会社宛て送付するため、大阪市東区大手前郵便局において直ちに配達証明郵便付きの書留郵便に付し、同郵便は、同月一二日、原告会社に到達した。

四1  原告らは、右不許可処分が不存在であり、原告らに処分書が送付されていない旨主張し、原告ら代表者の尋問の結果中には、右主張に副う部分が存する。

2 しかし、右三掲記の近畿地方建設局並びに豊岡工事事務所(及び同出張所)内部の文書処理台帳、決裁文書等(<書証番号略>)によれば、右に認定のとおり、原告らの河川法に基づく申請について不許可とすることとし、同建設局の係員による文書の起案、関係部課等の決裁を経て、被告近畿地方建設局長の決裁を得たうえ、同局長名の不許可処分書が作成され、豊岡工事事務所の事務官により書留郵便に付され、原告ら宛て送付されたことが認められる。その内部文書に特に不審な点はなく、不許可処分書の送付に関する証人森本良典、同宮田茂夫、同山村太藏の各証言も、概ね信用することができるものである。

そして、前記三で認定のとおり、原告らが、昭和五七年一二月二一日付けで、被告近畿地方建設局長に対し、河川法に基づく許可申請に対し許可または不許可の処分をしないとして、不作為を理由とする不服申立てをしていたため、処分庁である同被告としては、早急に処分を迫られていたのであるから、昭和五八年一月に入り、豊岡工事事務所からの副申をまって、近畿地方建設局内部で不許可処分とすることの決裁、処分書の起案等を急ぎ、同月一一日に処分書の送付手続をとったことも、処分庁として何ら不自然なことではないといわなければならない。

また、前記二で認定のとおり、被告近畿地方建設局長が、昭和五八年二月四日付けで、原告らに宛てて送付した砂利採取法に基づく不認可処分書には、河川法に基づく申請について、同年一月一一日付けで不許可とした旨記載していることが認められ、この事実からも、既に河川法に基づく不許可処分書を原告らに送付している事実を推認することができる。

3  原告らは、仮に河川法に基づく不許可処分書を原告らが受領していたならば、昭和五七年一二月二一日付け被告近畿地方建設局長に対する不作為を理由とする不服申立てについて、右不許可処分書の受領後である昭和五八年一月一八日に審査請求をすることはありえない旨主張する。

しかしながら、右は、原告らの行動が全て合理的なものであるということを前提とするところ、人は常に合理的な行動に出るとは限らず、何らかの思惑から不合理な行動をとることもあるのであるから、右不許可処分書を受領したことと、その後に不作為を理由として審査請求をしたこととが、矛盾しているように見られるからといって、そのことのみをもって、右不許可処分書が原告らに到達していないと推認することはできない。

4  原告らは、一般に、河川法上の許可申請と砂利採取法上の認可申請とが一体のものとして同時にされており、行政処分としても別異に取り扱うことが不可能であることからいって、一方について形式不備で再提出を求め、他方について終局的な不許可処分をするということは、考えられないことであり、極めて不自然である旨主張する。

確かに、河川法二四条、二五条に基づく処分と、砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画に関する処分とは、後に述べるとおり、密接不可分の関係にあるということができる。しかし、河川法に基づく申請を許可しようとする場合であれば、砂利採取法に基づく申請についても認可の可能性が高いのであるから、その不足分の印紙を追加して納付させるという処置をとることになると思われるが、河川法に基づく申請について、許可を与えることが困難であるとして、申請の取下げを指導してきており、最終的に不許可処分をせざるを得ない段階において、これと一体の判断が予想される砂利採取法に基づく申請について、処分庁の指導に従い任意に取り下げるのであれば、あえて不足分の印紙を納付させるまでもないと考えて、申請書を返戻したことも、決して不自然なことではない。

5  以上説示したところによれば、原告らの前記主張は採用することができず、本件河川法に基づく不許可処分書は、原告らに対し、送付されたと認められる。

五以上によれば、原告らの河川法二四条、二五条に基づく許可申請に対し、被告近畿地方建設局長は、昭和五八年一月一一日付けで不許可とする処分をし、同処分書は、同月一二日、原告らに送付されたことが認められ、同被告に不作為を認めることができないから、原告らの不作為の違法確認を求める訴えは、不適法として却下すべきである。

第二裁決の取消しを求める訴えについて

一原告らは、河川法二四条、二五条に基づく昭和五七年三月二七日付け許可申請に対し、被告近畿地方建設局長が何らの処分もしないとして、本件訴訟において、同被告に対し、その不作為の違法確認を求めるとともに、既に被告建設大臣に対し、昭和五八年一月一八日付けで右不作為について審査請求をし、それに対して同被告が同年二月一四日付けでした右審査請求を却下する旨の裁決の取消しを求めている。

右審査請求に対する却下裁決の理由とするところは、被告近畿地方建設局長が同年一月一一日付けで不許可処分を行い、同不許可処分書が原告らに送付されているというものであり、これに対し、原告らが右裁決の違法事由として主張しているのは、被告近畿地方建設局長が不許可処分をした事実はないから、裁決の基礎となる事実認定が誤っているというのである。

二ところで、被告近畿地方建設局長は、原告らの許可申請に対し、昭和五八年一月一一日付けで不許可処分をしているのであるから、原告らの被告近畿地方建設局長に対する不作為違法確認の訴えは、不適法であり、却下すべきであることは、前記第一で述べたとおりである。

したがって、原処分庁である被告近畿地方建設局長には、不作為は成立していないのであるから、同被告に不作為があるとして上級行政庁である被告建設大臣に審査請求をしたのに対し、被告建設大臣が、原告らの不作為についての審査請求を不適法として却下したことは正当であるといわなければならない。

三ところで、行政庁の不作為についての違法確認の訴えと、当該不作為についての審査請求を却下し、または棄却した裁決の取消しの訴えとが、併合して提起されている場合、右不作為の違法確認の訴えにつき、行政庁の不作為がないことを理由として却下すべきときは、右裁決に何らかの瑕疵があるとしてこれを取り消してみても、審査庁は、もはや不作為についての審査請求に理由があるとする余地がないから、右裁決の取消しを求めるにつき、行政事件訴訟法九条の「法律上の利益」がないというべきである。本件でも、不作為違法確認の訴えは、前記のとおり、被告近畿地方建設局長に不作為がないので、これを不適法として却下すべきであるから、本件裁決の取消しの訴えも、不適法である。

第三砂利採取計画不認可処分の取消請求について

一前記第一の二で認定のとおり、本件の砂利採取計画不認可処分の理由は、河川法に基づく許可申請について、「本件申請箇所は、円山川と出石川との合流点付近であり、自然の導流堤を形成している箇所であることから、砂の掘削等により、円山川及び出石川の流向、流心に変化をきたし、河岸、河床等に損傷をきたす等、河川管理上適正を期し難い区域内である。」という理由で不許可としたから、砂利採取法に基づく認可申請についても不認可とするというものであったことが認められる。

二<書証番号略>、証人森本良典、同桑垣一雄、同山村太藏の各証言によれば、次の各事実が認められる。

1  原告ら申請に係る砂利採取場(本件申請地)は、兵庫県豊岡市九日市上町地先の円山川と出石川との合流点で、導流堤の先端部を概ね中心とする、円山川河口から16.10キロメートルないし16.25キロメートルまでの区域である。

2  円山川は、過去に度々氾濫を繰り返し、流域の町村に大きな被害をもたらしてきたことから、大正一二年から昭和一三年にかけて、河道の屈曲を修正して水の流下を速やかにさせ、堤防を新設・増築して氾濫を防止するという洪水防御を目的として、第一期改修工事が実施された。

右工事は、河口から13.0キロメートルの計画高水流量を毎秒二八〇〇立法メートルと定め、その間、円山川本流は河口から23.3キロメートルの区間、支川である出石川は円山川合流点から上流9.3キロメートルの区間において工事が実施された。

3  円山川と出石川との合流点においても、河道の修正と堤防の築造を主とした大規模な改修工事が実施された。一般に河川の合流点において、それぞれの河川の状況、出水状況が異なる場合には、できるだけ分離することが望ましく、分離することが容易でない場合には、合流点に導流堤を設けて土砂の流出の多い河川が導流堤に沿って流れ、導流堤沿いに澪筋ができるようにして合流させると都合よく処理することができるといわれている。そこで、円山川と出石川との合流点においても、低水路に沿って、本川である円山川と支川である出石川とを無理なく自然に合流させるために、本件導流堤が築造された。そして、本件導流堤の一部を形成する低水護岸部には、円山川の低水路と出石川の低水路とを合流部で相当の距離にわたり併進させ、本件導流堤の機能維持を図るため、河川の管理施設である「護岸九号」が設置された。

4  護岸九号は、法留工(法尻に施行して法覆工の基礎となる部分)として生松丸太(直径一〇センチメートル、長さ2.7メートル)の詰杭を施工し、その上の法覆工(法面を被覆してこれを保護するもの)に石張を使用し、根固工(法留工の前面に施工してこれを保護する部分)に金網布団籠(中に玉石を詰めたもの)を施工したものである。根固工と法覆工の間の間隙は、水流を誘導して護岸破壊の原因となるため、通常は、捨石などを充填する間詰工が施工されるが、護岸九号では、石張工の勾配を緩くして間隙を作らず、間詰工を省略できる構造となっている。

5  現在、護岸九号の詰杭の一部が老朽化して腐食し、石張が基礎を失って落下し、また基礎部を保護するために施工されている根固めの金網布団籠の金網線が腐食して中の玉石が流失している等の箇所がある。しかし、本件導流堤の下流側先端部から本件区域にかけては、本件導流堤の上部に流砂土砂が堆積し、その構成部分である護岸九号は、護岸としての形状を留めている。したがって、本件導流堤は、堆積土砂に被覆された状態で半島を形成し、いまも導流堤としての機能を果たしている。

6  前記第一期改修工事の後、兵庫県知事に河川管理が委ねられたが、台風等による出水で各所で氾濫のおそれが生じたため、計画流量の再検討の必要が生じ、昭和九年九月及び昭和一七年九月の洪水禍に基づいて、昭和二五年、立野地点の計画高水流量を毎秒四二〇〇立法メートルと変更し、堤防の嵩上げと河道の浚渫を行い、河積の増大が図られた。

その後、昭和三一年度から再び、国の直轄事業として、建設省が改修工事を担当することとなったが、昭和三四年の伊勢湾台風による大出水を契機として、立野地点の計画高水流量を毎秒四五〇〇立法メートルと変更し、さらに昭和六三年には、昭和五一年九月及び昭和五四年一〇月の洪水等に基づき、立野地点の計画高水流量を毎秒五四〇〇立法メートルとし、堤防の嵩上げ、河床掘削、内水対策、漏水対策等の工事が実施されてきた。

7  円山川と出石川との合流点付近では、円山川の左岸が、しばしば侵食の危険にさらされていることから、流水の安全な流下を図るため、数次にわたり、左岸堤防の補強工事が実施されてきた。仮に、原告らの申請に係る本件申請地において、砂利採取が行われると、本件導流堤を破壊するおそれがあり、本件導流堤が破壊されると、洪水時に出石川の水勢が円山川左岸堤防を直撃するなど、河川管理施設に悪影響を及ぼし、災害を引き起こす可能性がある。

8  本件の申請に先立つ、原告会社の昭和五六年六月二七日付け申請について、被告近畿地方建設局長が許認可の処分をしたのは、右申請に係る場所が、円山川と出石川との合流点に形成された中州の先端部であって、本件導流堤から離れた位置にあり、かつ、円山川の疎通を阻害しているとみられる箇所であること、申請に係る砂の採取量が四三四五立法メートルと比較的少ないこと、原告会社が砂利採取の協業化に関する指導に協力する旨の誓約書を提出したことから、河川管理上影響が少ないと判断したことによる。

これに対し、本件申請地は、先に許認可のあった場所(本件採取地)に隣接しているが、本件申請地において、砂利採取を認めると、直接、本件導流堤に大きな影響を与えるおそれがある。

三1 河川区域における砂利採取についても、砂利採取に伴う災害の防止を図るために制定された砂利採取法による規制を受ける。同法三条は、砂利採取業を行おうとするときは、都道府県知事の登録を受けなければならず、かつ、同法一六条に基づく砂利採取計画の認可を得る必要がある。

この砂利採取計画の認可は、砂利の採取に伴う災害を防止し、河川管理上支障となる行為を排除するという公共目的を達成するために、一般的に禁止しまたは制限した行為につき、申請に基づいて、これを審査のうえ、その禁止または制限を解除するものである。そして、砂利採取計画認可の基準に関し、同法一九条は、「当該申請に係る採取計画に基づいて行う砂利の採取が他人に危害を及ぼし、公共の用に供する施設を損傷し、又は他の産業の利益を損じ、公共の福祉に反すると認めるときは、(一六条の)認可をしてはならない。」と定めている。右規定の文言は抽象的であるが、砂利採取計画認可申請に対する判断は、砂利採取に伴う災害を防止するという法の趣旨、目的に照らし、採取計画と採取場の位置、付近の状況等を総合的に考慮し、災害発生のおそれがないかどうか十分審査のうえ、行われるものであり、処分に当たっては、処分庁による専門技術的な判断となるとともに、災害防止に関する政策的判断が加えられるということができる。

したがって、右認可申請に係る処分は、処分庁の完全な自由裁量行為ということはできないが、処分に際し、処分庁による専門的技術的判断、政策的判断が行われることは当然であるから、処分の違法の検討に当たっては、処分庁の専門的技術的判断、政策的判断が、社会通念上著しく妥当性を欠いているかどうかを考える必要がある。

2 河川区域内の土地のうち、河川管理者がその権原に基づいて管理する土地(国有河川敷地)において、その土地を占用し、土石等を採取するためには、河川法二四条、二五条に基づく許可を得なければならない。右許可は、河川管理者が河川管理権の作用として、申請人のために河川区域内の土地を占用する権利及び土石等を採取する権利を設定、付与する、いわゆる設権処分である。そして、右申請に対して許可を与えるかどうかは、河川管理者の自由裁量に属すると解される。

右許可処分が自由裁量行為であることは、単に、河川法上、覊束裁量行為と解するための許可基準を定めた規定がないという消極的な理由のみによるものではない。すなわち、河川法二四条、二五条に基づく許可処分の性質が、申請者に対して、国民共通の財産である国有財産について、河川区域内の土地を占用する権限を与え、または河川の産出物である砂利を採取する権限を付与するというものであること、河川管理者は、治水、利水等河川に関する総合的な事業を立案し、推進していく責務を負っているところ、事業を推進していく中で、関係する様々な利害を有する者の利害を調整しなければならないという立場にあることを、右処分が自由裁量に属する実質的な理由として挙げることができよう。

したがって、河川管理者が、河川法二四条、二五条に基づく申請に対し、裁量権の行使としてした許可または不許可処分は、裁量権の行使が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであって、裁量権の範囲をこえ、あるいは裁量権を濫用したと認められる場合でない限り、違法ということはできないというべきである。

3 このように、河川区域内における砂利採取については、河川法二五条の許可と砂利採取法一六条の砂利採取計画認可の双方を得なければならないとされていることから、<書証番号略>によれば、右許認可について、行政実務上、同時申請、同時処理とする原則がとられていることが認められる。すなわち、「砂利採取法の運用及び解釈について」(昭和四三年八月二九日通商産業省化学工業局長、建設省河川局長通達)によれば、砂利採取計画の認可申請に際し、河川法二五条の許可を受ける必要がある場合には、原則として、同条の許可申請と砂利採取法一六条の採取計画の認可申請を同時に行わせ、これらに対する処分も同時に行うものとし、同時申請を行う場合において、添付すべき書類が同一のものについては、いずれか一方に添付すれば足りるとされており、さらに、河川法二五条の許可を受ける必要がある場合において、当該許可をすることができないときは、砂利採取法一六条の採取計画の認可はしないとされているのである。

四1 前記二で認定の事実によれば、本件申請地において、原告ら申請に係る砂利採取を認めると、本件導流堤を損壊するおそれがあり、本件導流堤が損壊されると、大雨時に出石川の水勢が本川である円山川左岸の堤防を直撃するなど、河川管理施設に大きな影響を及ぼし、重大な災害を引き起こすおそれがあると認められる。したがって、原告らの河川法二四条、二五条の許可申請に対し、被告近畿地方建設局長が、砂の掘削により、円山川及び出石川の流向、流心に変化をきたし、河岸、河床等に損傷をきたす等、河川管理上適正を期し難いとしてした不許可処分は、同被告に付与された裁量権の範囲内にあり、かつ、その判断は相当であって、何ら違法は認められない。

2  また、前記三で述べたところによれば、国有河川敷地において砂利採取を行う砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可処分は、当該地において砂利を採取する権原が存在することを前提としているところ、その前提である河川法二五条に基づく許可申請に対し不許可とする処分がされているのであるから、これと一体として判断をすべき砂利採取計画認可申請に対して不認可処分をしたことも、適法なものであったと認められる。

右不認可処分の理由を実質的に考察しても、前記二の認定によれば、本件申請地において砂利を採取することは、砂利採取法一九条にいう「他人に危害を及ぼし、かつ、公共の福祉に反する。」と認められるから、原告らの申請が認可の基準に合致しないものであったといわなければならない。

3  本件の申請に先立つ原告会社の昭和五七年六月二七日付け申請に対し、被告近畿地方建設局長が許認可を与えたのは、右採取場所が円山川と出石川の合流点に形成された中州の先端部であって、本件導流堤から離れた位置にあることから、河川管理上支障が少ないと判断したことによるものである。これに対し、本件申請地は先に許認可を得た採取場所に隣接してはいるが、本件導流堤の直近の場所であり、原告らの砂利採取の申請を認めると、本件導流堤に対し大きな影響を与えると認められるのである。したがって、先に隣接地の砂利採取が認められたからといって、今回の本件申請地における砂利採取が当然に認められたからといって、今回の本件申請地における砂利採取が当然に認められるということにならないことは明らかである。

五1  原告らは、昭和五六年七月二七日付け砂利採取許認可処分時に、豊岡工事事務所の担当者から、数年間砂利採取できる旨の保証を得たと主張し、証人植村久樹の証言及び原告会社代表者の尋問の結果中には、第一回目の認可申請に際しての折衝において、豊岡工事事務所の担当者から、本件申請地も含めた掘削可能範囲を図示されたとの供述があり、右主張に副う部分が存するが、証人井上嘉、同森本良典の各証言並びに前記第一の二で認定の事実に照らし直ちに採用することができず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

また、右三において述べたように、砂利採取に関する許認可、特に河川法二四条、二五条に基づく許可は、河川管理者の自由裁量行為に属するものであり、また、砂利採取法一六条に基づく採取計画認可処分に当たっては、処分庁の専門的技術的判断あるいは政策的判断が加えられるものであるから、申請の際に、担当者の言動から、将来にわたる砂利採取の可能性につき期待を持つことがあったとしても、それは単なる一方的な期待に過ぎず、法的に保護されるものではなく、近隣地の採取が認められたことが、次の申請において、処分庁を何ら拘束するものではないといわなければならない。

2  原告らは、被告近畿地方建設局長が主張する不認可処分の理由は、事後に被告らが事態を糊塗するために考え出した理由にすぎない旨主張する。

しかし、<書証番号略>によれば、行政監察局が昭和五七年六月一六日付けで原告会社代表者に宛てた連絡文書には、「認可が困難な理由について 申請場所が円山川と出山川の合流点に近く、この場所で採取が行われると合流部の流量等の変化により、円山川の護岸に影響する等の事が予想され、河川管理上支障があると思われる(この点については技術的な問題であるので当局(行政監察局)では判断できない)。」と記載されていること並びに証人井上嘉、同森本良典の各証言に照らし、採用することができない。

3  原告らは、本件の認可申請について認可処分をすることは、第一回の採取計画認可処分の期間の更新と、その実質において異なるところはないから、再認可処分をしないということは、第一回の認可処分を撤回することを意味することになる旨主張する。

しかし、砂利採取計画の認可申請に当たっては、採取の期間を定めなければならない(砂利採取法一七条二号)が、右申請に際しては、期間とともに、採取をする砂利の種類及び数量を定めなければならず(同条同号)、認可を受けた者は、認可で定められた量の砂利を採取すれば、目的を達するのであり、たとえ認可の期間が残っていても、採取を継続することはできないのである。また、実質的にみても、証人井上嘉の証言によれば、砂利採取場の状況は、砂利の採取の進行に伴って大きく変化するので、その変化を予測できる一年内に採取期間を制限し、当該河川の状況、採取量、採取方法等を考慮した適正な砂利採取を行わせるために、期間を定めるとされていることが認められるから、この意味でも、期間に更新を考える必要がないのである。

したがって、採取に係る期間について、更新ということを考える余地はなく、当初の認可(変更された認可も含む。)に基づく砂利採取は終了し、本件の認可申請に係る砂利採取計画は、先の認可に係る砂利採取とは、別のものであるから、本件の不認可処分は、前回の認可に係る期間の更新を拒絶するものではなく、また先の認可処分を撤回するものでもないことは当然である。

六以上によれば、本件の砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可申請について、被告近畿地方建設局長が、昭和五八年二月四日付けで不認可とした処分には、何ら違法を認めることはできない。

第四損害賠償請求について

原告らは、被告近畿地方建設局長の不作為により損害を受けた旨主張する。

しかし、原告らの河川法二四条、二五条に基づく許可申請に対し、同被告は、昭和五八年一月一一日付けで不許可とする処分をしているのであるから、右不作為を理由とする損害賠償請求に理由がないことは明らかである。また、仮に原告らの昭和五七年三月二七日付けの申請に対し、同被告が不許可処分をしたのが翌年の一月一一日であり、砂利採取法一六条に基づく砂利採取計画認可申請に対し、不認可処分をしたのが同年二月四日であって、処分をするのが遅延したことをも、違法の理由として主張しているとしても、前記第一で認定したところによれば、原告らの許認可を求める要求に対し、近畿地方建設局及びその出先機関である豊岡工事事務所は、代替地を二回にわたって提案するなど、原告らに対し誠実に対応してきたこと、原告らは、いったんは代替地における採取を了承するかの態度をとりながら、また本件申請地での採取に固執し、同工事事務所の行政指導に従おうとしなかったことが認められ、その間において、近畿地方建設局側に何ら違法な点を認めることができないから、結局、原告らの右請求は理由がないといわなければならない。

第五結論

以上によれば、原告らの本訴各請求のうち、被告近畿地方建設局長に対する不作為の確認を求める訴え及び被告建設大臣に対する裁決の取消しを求める訴えは、不適法であるから却下し、被告近畿地方建設局長に対する砂利採取計画不認可処分の取消しを求める請求及び被告国に対する損害賠償請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官辻忠雄 裁判官吉野孝義 裁判官北川和郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例