神戸地方裁判所 昭和58年(行ウ)7号 判決 1987年1月26日
原告 ユニタイト工業株式会社
被告 神戸市 神戸市兵庫区長
主文
一 被告神戸市兵庫区長が昭和五五年四月一四日付けをもつて原告に対してした昭和五一年二月二一日から昭和五二年二月二〇日までの事業年度の事業に係る事業所税について、課税標準となる事業所床面積四三九二・八八平方メートル、更正による不足税額一三一万七八六〇円とする更正処分(ただし、いずれもその後の減額更正処分により取り消された後のもの)のうち、課税標準となる事業所床面積一八七一・五八平方メートルの部分、更正による不足額五六万一四七四円の部分は、いずれもこれを取り消す。
二 被告神戸市は原告に対し金五六万一四七四円及びこれに対する昭和五八年二月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告神戸市兵庫区長(以下「被告区長」という。)が昭和五五年四月一四日付けをもつて原告に対し、原告の昭和五一年二月二一日から昭和五二年二月二〇日までの事業年度(以下「昭和五二事業年度」という。)の事業にかかる事業所税についてした更正処分及び同じく昭和五二年二月二一日から昭和五三年二月二〇日までの事業年度(以下「昭和五三事業年度」という。)の事業にかかる事業所税についてした更正処分(以下この二つの更正処分を合わせて「本件各更正処分」という。)をいずれも取り消す。
2 被告神戸市は原告に対し金三六一万一八三〇円及び昭和五八年二月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 2項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、ねじの製造等を業とする株式会社であり、社団法人日本ねじ工業協会(以下「ねじ協会」という。)の構成員である。
2(一) 原告は、その事業用施設として、別紙(一)物件目録記載の本社家屋、本社倉庫、神戸工場、西神戸工場(以下これらを総称して「本物件」という。)を所有・使用している。本物件は、いずれも後述の理由により、地方税法に定める事業所税の非課税施設である。
そこで、原告は、昭和五二事業年度の事業所税については昭和五三年四月頃に、昭和五三事業年度の事業所税については昭和五三年四月一九日に、いずれも本物件を非課税物件として申告した。
(二) 被告区長は、原告の右各申告に対し、昭和五五年四月一四日付けをもつて、昭和五二事業年度の事業にかかる事業所税を一三一万七八六〇円、同じく昭和五三事業年度の事業にかかる事業所税を一三〇万二二七〇円とする旨の各更正決定(本件各更正処分)をし、昭和五五年四月一五日原告にその旨各通知をした。
(三) 原告は、本件各更正処分がいずれも違法なものであるとして、昭和五五年六月一三日、神戸市長に対し審査請求をしたところ、神戸市長は昭和五七年一一月一七日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決書は同月二一日に原告に送達された。
3 被告区長は、昭和五七年六月二四日、原告に対し、原告が昭和五六年一〇月二〇日納付にかかる昭和五六年度法人市民税九七五万一二六〇円の過誤納金のうち、一八二万八四〇〇円を昭和五一事業年度(昭和五二事業年度の誤記と認める。)の事業所税未納分及び延滞金に、また一七八万三四三〇円を昭和五二事業年度(昭和五三事業年度の誤記と認める。)の事業所税未納金及び延滞金にそれぞれ充当した旨通知した。
4 しかしながら、本物件はいずれも非課税物件であるから、この点を看過した本件各更正処分は違法であり取消しを免れない。
(一) 地方税法七〇一条の三四は事業所税の非課税の範囲を定めているが、その三項二一号は、中小企業近代化促進法四条一項もしくは二項の規定による承認をうけた構造改善計画に従つて実施される構造改善事業の用に供する施設で政令で定めるものについては、事業に係る事業所税を課することができないと定め、これを受けて、地方税法施行令五六条の三三の二は、中小企業近代化促進法二条に規定する中小企業者で同法四条一項もしくは二項の規定による承認をうけた構造改善計画に従つて構造改善事業を実施するものについては、「当該構造改善事業の用に供する施設」をもつて、地方税法七〇一条の三四第三項二一号の施設(以下「二一号施設」という。)とすると定めている。また、同条項二二号(昭和五三年法律第九号による改正前のもの)は、高度化資金の貸付けを受けて当該事業を実施する場合における当該事業の用に供する施設(以下「二二号施設」という。)をもつて非課税とする旨定めている。
(二) 原告会社は「ねじ(ボルト、ナツト)等」の製造を業としており、同製造事業は中小企業近代化促進法施行令三条により中小企業近代化促進法四条一項に定める「特定業種」に指定されている(昭和四六年度に指定された。)。原告らを構成員とするねじ協会は昭和四六年一一月、中小企業近代化促進法四条一項の規定に基づき、中小企業構造改善計画(以下「構造改善計画」という。)を作成し、昭和四六年一二月二五日、通商産業大臣の承認を受けた。
原告ら構成員は各企業が個々に、又はグループを組み右構造改善計画に基づく構造改善事業を行つてきた。
(三) 右ねじ協会の構造改善計画は大略次のとおりである。
(1) 集約化等に関する事項
合併、出資、協業組合、業務提携等、参加者数六九四
(2) 設備の近代化
新設台数 一万八六八五台、廃棄等 一万二四一〇台
(3) 取引の改善等に関する事項
市場の共同開拓、共同受注、共同販売体制の確立
(4) 技術の改善に関する事項
技術の共同開発
(5) その他
経営管理方式の整備及び普及
(四)(1) ねじ協会が作成した右構造改善計画は、その各構成員もしくはそのグループの個別の構造改善計画を集約したものであり、構成員たる原告会社も次のような独自の構造改善計画(アないしオ)を有し、これを実施した。
ア 集約化に関する事項
原告は、経営の規模又は方式の適正化のための事業として企業の集約化事業(出資及び生産の一部の協業化・業務提携)を行つた。すなわち、原告は右事業実施のために、ボルトについては「神戸地区ボルト」と称するグループを計一一社で形成し、同ボルトグループは新たに会社を設立し(出資)、グループ企業のボルト生産工程における「第一工程(成型作業)」を同新会社が生産し(第一工程の集約化)、もつて原告は、「出資及び生産の一部協業化」を行つた。他方、ナツトについては、原告は「西日本熱間ナツトホーマ」と称するグループを計六社で形成し、ナツトグループは加盟各社がそれぞれナツトのサイズ別に生産の委託、受託を行い、もつて、原告は「業務提携」を行つた。
イ 設備の近代化
原告が、昭和四六年一二月二五日から同五二年三月三一日までの通称第一次構造改善事業中に行つた設備の近代化に際し、新設された設備及びその効用は別紙(二)及び(三)記載のとおりであり、昭和五二年二月二〇日時点での同機械の位置は、別紙図面(一)(西神戸工場)及び(二)(本社工場)記載のとおりである。なお、同図面(一)記載の<1>等の番号は別紙(二)左肩に記載の番号に対応するものであり、同図面(二)記載の番号は別紙(三)の細目欄名称ないし同図面(二)左下記載の明細の番号に対応するものである。
次に、設備の近代化に際しての「設備の生産ラインにおける位置等」は以下のとおりである。
すなわち、ボルト、ナツトの製造は工程ごとに機械が設置され、機械機能は単能化されスピードアツプが図られている。原告会社におけるボルト、ナツトの製造も単能量産機を設置し、工程に応じた加工を行つており、単体の機械で製品化できるものではない。
原告会社が神戸工場において生産するボルト及び西神戸工場において生産するナツトの生産工程、使用機種は別紙(四)記載のとおりであり、これを図面で簡略に表示すれば別紙(五)のとおりである。
原告会社がナツト(西神戸工場)製造工程において新設した機械は、別紙(二)記載のとおりであるが、別紙(二)一枚目最上段記載の「自動熱間成型機」は通称「ナツトホーマー」と称し「切断→予成→六角成型→打抜き」というナツト製造の最も重要な工程に使用する機械である。これに引き続く「熱処理→ねじ立て」についても別紙(二)二枚目一〇行目記載の「バーヒーター」、同一枚目「その他設備欄一二行目以下、鍛造焼入装置、焼戻炉本体」各記載の新設備を設置した。すなわち、製造工程の最も基本的部分となる工程(切断→予備成型→成型→打抜き→熱処理→ねじ立て)に新設機械を設置している(もつとも、ラインは複数ありその全てを新設したというものではない。)ので、旧機械との混在が認められても、新設機械をもつてライン全体の近代化が行われたといわねばならない。
原告会社がボルト(神戸工場)製造工程において新設した機械は別紙(三)記載のとおりである。
ボルト製造工程における「焼鈍→ねじ転造→仕上げ」にそれぞれ新設の「焼鈍炉」(別紙(三)三枚目、五行目)「ねじ転造盤」(別紙(三)二枚目、最上段)、「倣旋盤等」(別紙(三)一枚目、下半分)を各設置した。これら新設機械も製造工程における重要部分に使用されており、前同様ライン自体が新設備といわねばならない。
ウ 取引の改善に関する事項
海外市場調査と輸出目標達成、業務提携、新製品の需要開拓を行つた。
エ 技術の改善に関する事項
公害対策、省力化、JIS認定工場取得、生産性向上等を行つた。
オ その他
経営管理近代化のための電算化導入を行つた。
(2) 原告会社は右構造改善事業の実施にあたつて、本物件をその用に供したものであり、本物件はいずれも二一号施設の非課税物件であるが、右(1)アにつき詳述すれば、以下のとおりである。
すなわち、まず右アの「協業化」及び「業務提携」の意義として、昭和五二年二月二一日付け自治省税務局市町村税課長内かんを解説した同課員作成の「事業所税における中小企業構造改善事業の非課税施設の範囲について」と題する書面によれば、「協業化」については「個別企業にあつては生産ラインの一部協業化に伴い設備の近代化、製品等の性能、品質の著しい向上、品種の転換等を構造改善事業として実施した施設について非課税となる」とし、「業務提携」については「委託加工又は委託生産を実施している機械設備等について非課税となる」としている。本件において、原告は、当時の本社工場(別紙(一)三の神戸工場を指す。)でボルトを、西神戸工場(別紙(一)四の西神戸工場を指す。)でナツトをそれぞれ生産していたが、前述のとおり、ボルトについては第一工程につき新会社の設立による共同化設備の新設集約化をした結果、原告会社等出資者についても生産ラインの一部共同化に伴い、第一工程のみならず第二工程以降の工程においても設備の近代化、製品等の品質性能の向上が顕著となつたので、原告会社の第二工程以降の事業に供した施設である右本社工場は非課税施設となる。さらに、ナツトについては、業者間で業務提携を行いサイズ別に各社が委託生産を行つていたのであるから、委託生産を実施している設備である右西神戸工場は非課税施設となる。
次に、右(2)の設備の近代化点につき、被告らは、新・旧設備が混在する場合、台数の比率により非課税床面積を算定するようであるが、このような比率配分を行う法律上の根拠はない。仮に、右比率配分が是認されるとしても、同種機械の新・旧混在が認められる場合に限るべきである。生産ラインにおいて異種機械の新・旧混在がある場合には、当該機械の生産ラインにおける重要性を考慮すべきであり、とりわけ、新機械が生産ラインにおける重要工程を分担し、同設備により構造改善事業が実施されているような場合は、当該工場全体を非課税施設とすべきである。本件は、まさにこのような場合に該当する。
(3) また、本物件のうちの西神戸工場は、高度化事業が実施された趣旨に適合すると認められる事業の用に供する施設であることは明らかなので、二二号施設(前記4(一)参照)に該当し、この点からも非課税である。
なお、地方税法七〇一条の三四第三項二二号は、昭和五三年法律第九号により改正されたもので、改正前の旧条文では、「高度化資金の貸付をうけて当該事業を実施する場合における当該事業の用に供する施設をもつて非課税とする」旨規定していたものであり、本件は右旧条文によるものである。右旧条文は、高度化資金の貸付を受けて当該事業を実施する場合における「当該事業に供する施設」を指すものであつて、現行法の条文のように「貸付を受けて設置する施設」のみを指すものではなかつたのである。
5 以上のとおり、本件物件はいずれも非課税施設であるのにこれを看過して行つた本件各更正処分はいずれも違法であるから取り消されるべきである。また、同処分を前提として被告神戸市が徴収した地方税(事業所税及び延滞金)合計三六一万一八三〇円は、過誤納税となるので同被告は原告に対し、右過誤納税額相当の金員の返還及び遅くとも本訴状送達の日である昭和五八年二月二二日から完済まで年五分の遅延損害金の支払をすべきである。
6 よつて、原告は被告らに対し、前記請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
二 請求原因に対する被告らの認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2(一)のうち、本物件が地方税法に定める事業所税の非課税施設に該当するとの主張は争い、その余の事実は認める。同(二)(三)の各事実は認める。
3 同3の事実は認める。
4 同4の事実のうち、原告の属するねじ協会が中小企業近代化促進法四条一項の規定により構造改善計画の承認を受けたことは認め、その余は争う。
5 同5及び6の各主張は争う。
三 被告らの主張
1 前記裁決に至るまでの経緯
昭和五二年四月二〇日
原告から被告区長に対し「昭和五二年度分事業所税申告書」の提出。申告内容は、本物件すべてが地方税法七〇一条の三四第三項二一号及び二二号に該当し非課税であるというものであつた。
昭和五二年七月二五日
神戸市兵庫区課税課市民税係事業所税担当職員山下が、原告会社に赴き地方税法七〇一条の三四第三項二一号等の規定の解釈について神戸市の見解を説明したが、理解してもらえなかつた。
昭和五三年四月一九日
原告から被告区長に対し「昭和五三年度分事業所税申告書」の提出。申告内容は、昭和五二年度分と同旨。
昭和五三年五月九日
神戸市兵庫区(課税課市民税係事業所税担当職員名)から、原告に対し昭和五二年度分及び五三年度分の修正申告をするようにとの文書を送付。
昭和五四年四月二〇日
原告から被告区長に対し昭和五四年度分事業所税申告書及び玉津寮の倉庫(二二六・四四平方メートル)に係る「事業所用家屋の貸付けに関する申告書」の各提出。
昭和五四年七月二七日
神戸市兵庫区(事業所税担当職員名)から、原告に対し昭和五二ないし同五四年度分の修正申告をするようにとの文書を送付。
昭和五四年六月八日
右催告文書の送付。
昭和五五年四月一四日
被告区長が、昭和五二、同五三年度分について再三の修正申告若しくは非課税施設である旨の資料の提出を求めたが提出がないので、やむを得ず過少申告による本件各更正処分をした。
昭和五五年四月一七日
原告から、神戸市兵庫区に対し本件各更正処分についての問い合わせの文書を送付。
昭和五五年四月二三日
神戸市兵庫区(事業所税担当職員名)から、原告に対し右問い合わせ文書に対する回答書を送付。
昭和五五年六月一三日
原告が、神戸市長に対し審査請求。
昭和五五年六月二五日
被告区長が、神戸市長に対し弁明書を提出。
昭和五五年七月二二日
原告が、神戸市長に対し反論書を提出。
昭和五六年二月頃
審査庁(神戸市理財局主税部税制課職員松井、近藤、池原)が、原告提起の前記審査請求の審理のため、原告会社本社に調査に赴き、その際、原告会社から中小企業構造改善計画書の提出を受ける。
昭和五六年一〇月一五日
審査庁(神戸市理財局主税部税制課職員池原、近藤)及び神戸市兵庫区課税課市民税係坪田が、同計画書に基づき、原告の神戸工場に係る地方税法七〇一条の三四第三項二一号施設の有無についての調査をするため原告会社を訪問。このとき、原告会社から神戸工場の機械配置図の提出を受け、その際、右図面に基づき、中小企業構造改善計画に従つて購入した機械施設について指示説明を受けた。
昭和五六年一二月一一日
審査庁(神戸市理財局主税部税制課職員柴田係長、池原、近藤)及び神戸市兵庫区(有政係長、坪田)が、原告会社本社に赴き原告会社社長と面談。その内容は、「地方税法七〇一条の三四第三項二一号等の規定の解釈について説明するとともに、被告区長の本件各更正処分のなかには、非課税施設のあることが判明したので、その部分については減額再更正するが、残りの部分は非課税にならない旨説明した。」というものである。
昭和五六年一二月一六日
被告区長が、原告提出の資料及び調査に基づき減額の再更正処分。その内容は、神戸工場の一部施設を非課税の対象とし、玉津倉庫を課税対象外とするものであつた。
昭和五七年六月二四日
被告区長が、原告の昭和五六年分法人市民税に係る過誤納金を地方税法一七条の二の規定に基づき昭和五二、同五三年度分の事業所税に充当。
昭和五七年一一月一七日
審査庁神戸市長が、原告提起に係る前記審査請求を棄却する旨の裁決。
2 昭和五二事業年度の事業に係る事業所税の更正処分について
(一) 本物件の二一号施設該当性について
(1) 「集約化」について
ア 「出資」の形態による「集約化」について
原告は、原告らねじ製造業者一一社と共同して兵庫県協同ねじ株式会社を設立し、同社にボルト製造の第一工程を分担させているが、右設立に際しての原告の出資は金銭に限られている。ところで、事業所税は、事業所等が立地し、事業活動を行つていることを要件として、事業所用家屋の床面積に着目して課税するものであるから、非課税の範囲も当然事業活動が行われている事業所用家屋自体について論ずべきであり、非課税となる事業所床面積を算定するにあたつては、敷設されている機械の関連床面積が非課税の対象となる。したがつて、「出資」の場合、出資を受けた法人又は出資により設立された法人の特定事業の用に供する施設については非課税の対象となるが、右にみたように金銭出資のみを行つている原告の場合には、構造改善事業の用に供する施設自体が存在しないことになる。
要するに、地方税法七〇一条の三四第三項は、事業所用施設自体についていわゆる「用途非課税」を定めているのであつて、原告主張のように、単に構造改善事業を実施しているから全て非課税となるといつた、いわゆる「人的非課税」を定めているものと解することはできない。
次に、原告は、兵庫県協同ねじ株式会社にボルト製造の第一工程を分担させ、第二工程以降については、当時の本社工場(別紙(一)三神戸工場)を供用しているので、右供用をもつて前記兵庫県協同ねじ株式会社の設立における現物出資的なものに該当する旨主張する。しかし、出資形態による構造改善事業の用に供する施設であると認定するためには、何らかの外形的変化が必要であると解すべきところ、金銭出資のみの場合は、構造改善事業の用に供する施設自体は存在せず、また、右本社工場は従来からの業務を引き続き行つているにすぎず、外形的変化は認められないから、右本社工場の供用をもつて原告主張のような事業所税非課税となる現物出資に該当するとはいえない。
イ 「業務提携」の形態による「集約化」について
原告は、ナツトについては原告ら同業六社で西日本熱間ナツトホーマなるグループをつくり、右六社で相互に委託・受託の関係での業務提携をし、原告の西神戸工場は右業務提携という形態での供用であつた旨主張する。
しかしながら、業務提携により事業所税が非課税となるためには、単に業務提携があつたのみでは足らず、構造改善事業の用に供するための業務提携であることが必要であるところ、本件において右事実を客観的に裏付けるものはなく、むしろ原告においては西神戸工場はもともと業務提携という形態での供用をしている認識すら欠いていたものである。
ウ 「生産の一部協業化」による「集約化」について
原告は、ボルトにつき「生産の一部協業化」による「集約化」を行つた旨主張する(請求原因欄4(四)(1)ア参照)が、同主張は具体性に欠け、むしろその存在がなかつたことを推測させるものである。
なお、生産の一部の協業化を行う場合には、同協業化を実施する協業組合の当該施設については非課税となるが、本件においては、ボルト製造につき設立した新会社は、構造改善事業を実施するための協業組合には該当しないので、生産の一部協業化が行われたものとはいえない。
(2) 「設備の近代化」について
ア 設備の近代化に際し、新設備と旧設備が混在するようになつた工場にあつては、二一号施設の非課税の範囲は、専ら(八〇パーセント以上)新設機械設備により構造改善事業が実施されているような工場の場合には、当該工場全体を非課税施設として取り扱うべきであるところ、当時の本社工場(別紙(一)三神戸工場)は右要件に該当せず、原告の主張は失当である。すなわち、右設備の配置状況は、昭和五二事業年度の末日である昭和五二年二月二〇日現在の現況によるべきところ、右時点に最も近い時期に作成されたのが別紙図面(三)(昭和五二年八月九日作成)であり、同図面中非課税施設となるのは、「機械名」の番号で示せば、50、59、69及び3又は5のいずれかの計四台であり、到底「専ら」新設機械設備により構造改善事業が実施されている工場とはいえない。
なお、原告は、別紙図面(二)をもつて本社工場(神戸工場)の新設機械設備の存在状況を主張しているが、同図面は、審査庁職員が昭和五六年一〇月一五日に原告会社の工場長から交付された別紙図面(三)に加筆したもので、その際用いられた資料も定かでないことからその信憑性は全くない。
イ 次に、右工場長は、西神戸工場には、非課税施設は全くない旨明言しており、同工場において設備の近代化は行われていない。
(二) 西神戸工場の二二号施設該当性について
原告は、西神戸工場は二二号施設にも該当する旨主張する。
しかし、西神戸工場のうち二五八三・九一平方メートルの部分については、兵庫県から資金の貸付けを受けて設置した施設であるから、二二号施設に該当し非課税となるが、残り一八七一・五八平方メートルの部分は二二号施設に該当しない。
この点、原告は、昭和五三年法律第九号による改正前の地方税法七〇一条の三四第三項二二号の旧条文には、高度化資金の貸付けを受けて当該事業を実施する場合における「当該事業の用に供する施設」を非課税施設と規定し、現行法のように「貸付けを受けて設置する施設」のみを非課税施設としていないから、西神戸工場全体が非課税施設である旨主張する。しかし、二二号施設は、当該事業の用に供する施設で政令で定めるものそれ自体が右貸付けを受けた資金で設置されたものである場合に限り用途非課税施設となると解すべきである(大阪高裁昭和五七年三月一〇日判決・行裁集三三巻三号三八九頁参照)から、原告の右主張は失当である。
3 昭和五三事業年度の事業に係る事業所税の更正処分について
(一) 本物件の二一号施設該当性について
原告は、本物件すべてが二一号施設に該当する旨主張する。
ところで、二一号施設に該当するかどうかの判定は、地方税法七〇一条の三四第一〇項によれば、課税標準の算定期間(法人にかかるものにあつては事業年度。以下同じ。)の末日の現況によることとされており、本物件の昭和五三事業年度については、課税標準の算定期間の末日は昭和五三年二月二〇日となる。そして、原告が通産大臣から承認を受けた構造改善計画の実施期間は、昭和四六年一二月二五日から昭和五二年三月三一日までであり、前記昭和五三年二月二〇日現在では、原告の前記構造改善事業の実施期間は既に経過していることとなるから、昭和五三事業年度については、本物件はいずれも二一号施設に該当しない。
(二) 西神戸工場の二二号施設該当性について
昭和五二事業年度において述べたことと同様である。
第三証拠<省略>
理由
一 争いのない事実
請求原因1の事実、同2(一)のうち、本物件が地方税法に定める事業所税の非課税施設に該当するとの主張を除くその余の事実、同2(二)(三)及び同3の各事実、同4のうち、原告の属するねじ協会は中小企業近代化促進法四条一項の規定により構造改善計画の承認を受けた事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 ねじ協会及び原告の構造改善計画及びその事業の実施等について
1 ねじ協会
成立に争いのない甲第四、第七号証、乙第二号証、原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 「ねじ(ボルト、ナツト)」、製造業は昭和四六年に中小企業近代化促進法施行令三条により中小企業近代化促進法四条一項に定める「特定業種」に指定されているが、原告らを構成員とするねじ協会は、全国各地のねじ業者及びねじ業者で組織している協同組合でもつて組織している社団法人で、通産省との折衝等を一括して扱つている全国的な規模の団体である。
(二) ねじ協会は、昭和四六年一一月二二日に通産大臣に対し、中小企業近代化促進法に基づき、「ねじ製造業構造改善計画」を作成してその承認を申請したところ、通産大臣は、昭和四六年一二月二五日に右計画を承認した(この事実は当事者間に争いがない)。
(三) その概略は次のとおりである。
まず、右に「ねじ製造業」とは、ボルト、ナツト、小ねじ又は木ねじを製造する業をいい、構造改善事業の目標は、生産規模の適正・品質の向上・生産費(製造原価)の引下げ・労働生産性の向上におく。
そして、右目標達成のための構造改善事業の内容は、概略次の五項目に分かれている。
(1) 集約化等に関する事項
集約化の形態を合併・出資・協業組合・業務提携とし、参加八四グループ数のうち八一グループ、参加者六九四企業のうち五九二企業において右集約化を達成する見込みとしている。
(2) 設備の近代化に関する事項
金属加工機械・金属工作機械等の設備を、構造改善計画期間中一万八六八五台新設し、従来の右機械のうち一万二四一〇台を廃棄又は譲渡する。
(3) 取引の改善に関する事項
取引方法の改善につき関連業界と協議するほか、市場開拓、共同受注、共同販売体制の確立を図るため業務提携によりこれらの事業を実施し、また弱小過多性に起因する過当競争を防止する。
(4) 技術の改善に関する事項
ねじ生産用機械の開発、精度等の格差是正を図るほか、国際競争力を強化するために、生産設備の省力化、高速化等の研究開発を行うとともに、廃液等の公害対策を検討する。
(5) その他の事項
経営管理の合理化を図るため、近代化、経営管理方式の整備及び普及の事業を行う。
(6) 右構造改善事業の実施期間は、昭和四六年一二月二五日から昭和五二年三月三一日までとする。
2 原告会社
前記甲第四号証、成立に争いのない乙第一、第二号証、原告会社代表者尋問の結果により成立が認められる甲第五、第六号証、証人近藤光治及び原告会社代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 原告会社は、ねじ(ボルト、ナツトのみ)の製造販売を目的として、昭和二八年八月に設立された株式会社で、本件係争年度当時の工場は、神戸工場(別紙(一)三。ただし、のち神戸市西区に本社工場として移転したため現存しない。)、西神戸工場(のち「明石工場」と名称を改めた。)、北兵庫工場(和田山町所在)、南兵庫工場(加古川市所在。のち神戸市西区に移転した本社工場と一体となつたため閉鎖)を有していた。
(二) 本件各更正処分の対象とされているのは、右工場のうち神戸工場(本社工場)と西神戸工場であるが、神戸工場においてはボルトを、西神戸工場においてはナツトをそれぞれ製造していた。
(三) 原告会社は、ねじ協会に単独加盟しているものであるが、前記ねじ協会の構造改善計画に従つて独自の目標をたて概略次のとおりの構造改善事業を実施した。
まず、目標として、<1>品種別、サイズ別の適正生産規模、<2>品種別精度、強さ等JIS規格以上又は同等の製品への品質向上、<3>品種別生産費の引下げ、<4>品種別労働生産性の向上、<5>輸出額の増大をあげ、右目標を達成するために、次のような構造改善事業を実施した。
(1) 集約化に関する事項
まず、原告会社は、ボルトに関しては株式会社福岡鉄工所等一一社とともに「神戸地区ボトル」なる名称のもとにグループを形成し、昭和四七年五月一日に兵庫県共同ねじ株式会社(本店は和田山町所在)を設立し、ボルト製造工程のうちの第一工程(別紙(五)のボルトの製造工程のうちの切断から六角鋳造までの工程)を右新設会社に担当させ、第二工程以降を原告会社ほか右グループに加盟している各会社において従来どおり担当することにした。右により、ボルト製造の第一工程は集約化されたが、原告会社は右新設会社設立に際しては、金銭出資を行つたものである(なお、原告会社代表者尋問の結果によれば、原告会社の設備を一部右新設会社に譲渡しているが、右はあくまで原告会社と右新設会社との売買契約に基づくもので、右新設会社設立に際し原告会社が現物出資したものではない。)。
次に、原告会社は、ナツトに関しては株式会社竹中製作所等五社とともに「西日本熱間ナツトホーマー」(証拠上「西日本ホーマーナツト」なる名称もみられる。)なる名称でグループを形成し、「業務提携」すなわち品種別に生産担当会社を決めグループ加盟の各社間で当該品種のナツトについては生産につき委託・受託の関係(委託生産)を結び、それによつて生産調整をした(しかし、その詳細については証拠上必ずしも明らかでない。)。
(2) 設備の近代化に関する事項
まず、ボルトに関し、原告会社全体では、構造改善計画期間中七八台の設備を新設しているが、本件各係争年度(とりわけ昭和五二事業年度の末日である昭和五二年二月二〇日現在)における神戸工場での新設設備の台数は別紙図面(三)記載のとおり(機械名番号で示せば、3又は5及び50、59、69である。)である(別紙図面(二)のうち19、25、78、79、80、81は原告において新設設備である旨主張するが、被告主張のように同図面の作成経緯等からしてその信用性は定かではなく原告の右主張は採用しない。)。
次に、ナツトに関し、原告会社ではナツトの製造を西神戸工場においてのみ行つているところ、昭和五二年三月三一日までの構造改善事業中に原告会社が新設した設備は一三一台でその名称、工場内の位置及びその効用は別紙(三)及び別紙図面(一)記載のとおりである(甲第五号証の設備台数と、別紙(三)の設備台数の合計が合致しないがおおむね一致している。)。
(3) その他の事項
その他、原告会社は取引の改善、技術の改善等につき構造改善事業を実施したことがうかがわれるが、その具体的内容は定かではない(甲第五号証の記載からは具体的内容を明らかにすることはできない。)。
三 昭和五二事業年度の事業に係る更正処分について
1 本物件の二一号施設該当性について
(一) 神戸工場
(1) 出資による集約化について
原告は、みずからは金銭出資をして他のねじ製造業者らとともに新会社である兵庫県共同ねじ株式会社を設立して、同社にボルト生産の第一工程を担当させ、出資による集約化を行つた旨主張する。
そこで検討するに、事業に係る事業所税は、事業所等において法人又は個人の行う事業を課税物件とし、当該事業を行う者に対する税で、資産割と従業者割とからなり、資産割の課税標準は事業所用家屋の床面積によるとされている。そして、地方税法七〇一条の三四第三項二一号によれば、同号所定の構造改善事業の用に供する施設(二一号施設)に係る事業所床面積に対しては事業に係る事業所税を課することができないとされている。ところで、会社設立において金銭を出資する行為即ち株式の引受及び出資金の払込は、右出資者の特定の施設でなければこれを行うことができないものではないから、右出資者が右金銭出資をするにつきその用に供する施設が存在したとすることはできない。そうすると、特定事業を行う中小企業者がなした構造改善事業の内容が共同出資による新たな法人の設立である場合において、金銭出資のみを行つた中小企業者については、構造改善事業の用に供する二一号施設は存在しないことになるから、非課税の要件に該当する二一号施設に係る事業所床面積も存在しないこととなり、たとえ金銭出資による集約化が行われたとしても、右中小企業者に対しては非課税とする余地はないこととなる。
したがつて、本件においては、原告は、兵庫県共同ねじ株式会社の設立に際し、金銭出資のみをしたにすぎないこと前記認定のとおり(二2(三)(1)参照)であるから、原告に対し右金銭出資による集約化に対しては、非課税とする余地はない。なお、原告の右新設会社に対する設備の一部譲渡が売買であつて現物出資ではないことは、右認定の際説示したとおりである。
次に、原告はボルト生産の第一工程を右新設会社に集約化し、第二工程以降を原告の神戸工場において供用したことをとらえ、神戸工場は現物出資的なものである旨主張するが、ボルト生産の第二工程以降を神戸工場(その設備があまり変つていないことは別紙図面(三)のとおりである。)が担当していることはあるものの、神戸工場全体が新設会社に現物出資されたと同様の事態が生じていることを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は失当である。
(2) 協業化による集約化について
原告は、神戸工場におけるボルト生産につき、生産の一部協業化による集約化を行つた旨主張する(請求原因4(四)(1)ア参照)。その趣旨は必ずしも定かではないが、ボルト生産につき兵庫県共同ねじ株式会社を新たに設立しボルト生産の第一工程を分担させ、原告は神戸工場に設備を新設して右生産の第二工程以降を担当しているのであるから、原告がボルト生産の第二工程以降に供用している神戸工場も二一号施設に該当するというものと解される。
しかしながら、協業化による集約化とは、協業組合を結成して生産又は販売の全部又は一部の協業化を行うことをいうものと解されるところ(協業の意義につき中小企業団体の組織に関する法律五条の七第一項一号参照)、前記甲第四号証、成立に争いのない甲第七号証及び弁論の全趣旨によれば、ねじ協会が承認を受けた構造改善計画の内容には協業組合結成による協業化が含まれていることが認められるものの、前記兵庫県共同ねじ株式会社が右にいう協業組合に該当する証拠はなく、仮に原告が出資による集約化を主張するものと解するとしても、神戸工場につき設備の近代化として若干の機械の新設が行われた(その関連床面積については非課税とされている)ことを度外視すると、右工場がボルト生産の第二工程のみを行うことになつたことは、出資による構造改善事業のための集約化が行われた結果にすぎないのであつて、これを別個の構造改善事業の内容とすることはできず、原告の右主張は失当である。
(3) 設備の近代化について
二一号施設として非課税となるには、同施設が構造改善計画に従つて実施されている構造改善事業の用に供する施設と規定されていることから、二一号施設に係る事業所床面積を算定するにあたつては、付設されている機械設備の関連床面積が非課税の対象になるものと解するのが相当である。ただ、新設機械設備により構造改善事業が実施されている工場において新設の機械設備の関連床面積が全床面積の殆んどであるときは、構造改善事業が製造工程の一部分を改善することによつて企業活動の全体としての成果を期待している趣旨のほか、課税事務処理の迅速・画一化の要請からも、当該工場全体を非課税施設として扱うのが相当である。
これを本件についてみると、原告が、神戸工場において構造改善事業として設置した新設機械が、別紙図面(三)の機械番号3又は5及び50、59、69であることは前記認定のとおりである(二2(三)(2)参照)。そうすると、神戸工場において専ら新設設備により構造改善事業が実施されているとはいえず、新たに付設された機械設備の関連床面積のみが非課税の対象となるところ、前記乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告区長は昭和五二事業年度に係る本件更正処分後に、神戸工場に右認定の新設設備が設置されていることを認めて右新設設備に係る関連床面積部分に係る事業所税額を減額する更正処分を行つている(昭和五六年一二月一六日)ことが認められ、原告においても、右減額部分についての取消しまで求めているものとは解されないので、結局、神戸工場全体が二一号施設に該当するとの原告の主張は失当である。
もつとも、原告は、ボルト製造工程において新設した機械は、ボルト製造工程においては重要なものであるから神戸工場全体が二一号施設に該当する旨主張する(請求原因欄4(四)(1)イ参照)。しかしながら、事業所税は、企業活動を一定の外形基準によりとらえて課税するものであること、課税に際しいかなる施設がどの程度重要な施設であるかを徴税に際し逐一判断することは煩にたえず、場合によつては不公平な課税となる余地があること等からすると、原告の右主張は採用できない。
(二) 西神戸工場
原告は、ナツトを生産している西神戸工場につき、<1>業務提携による集約化を実施していること、<2>設備の近代化をはかつていることを主張するが、右<1>についての詳細は証拠上明らかでないので、右<2>について検討する。
前記甲第五号証、原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告会社がナツトを生産していたのは西神戸工場のみであること、構造改善事業実施期間前のナツト製造の設備台数は五五台であつたこと、構造改善期間中に新設された右設備の台数は一三一台(別紙(二)では一二九台であるが、甲第五号証によれば一三一台であることが認められる。)、廃棄・譲渡された設備は二〇台であること、右新設備の配置状況は別紙図面(一)のとおりであること、構造改善終了時には合計で一六六台の設備となり、そのうち新設設備が一三一台は含まれていることの各事実が認められる。この点、被告らは、原告会社の神戸工場の工場長が、西神戸工場については非課税設備がない旨明言したことをもつて、西神戸工場においては設備の近代化がはかられていない旨主張するが、右工場長が西神戸工場の設備内容につき精通していたかどうか定かではなく、同人の右発言のみをもつて設備の近代化がはかられていなかつたとは到底いえない。
右によれば、構造改善事業実施前と終了後とでは、ナツト製造設備の台数が飛躍的に増え、新設台数も一三一台で総設備台数一六六台中約七九パーセント(新設台数一二九台としても約七八パーセントになる)の割合を占めていることなどからして、ナツト生産に関しては、被告主張の新設機械設備の比率(八〇パーセント以上)には達していないとしても、西神戸工場を全体として外形的にみると新設機械の導入により構造改善事業実施の成果が大幅に認められる(設備機械台数は三倍に増え、新設機械台数の占める割合は約七九パーセントに達している)ものといつてよく、二一号設備を非課税とした地方税法の趣旨からすれば、西神戸工場はその全体が二一号施設として非課税となるというのが相当である。
(三) 本社家屋・本社倉庫
前記乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、本社家屋・本社倉庫には二一号施設に該当する施設が存在しないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて、右各施設が非課税施設であるとの原告の主張は失当である。
2 西神戸工場の二二号施設該当性について
西神戸工場については、右にみたように既に工場全体が二一号施設に該当するから、二二号施設に該当するかどうかの判断をするまでもなく非課税施設である。
四 昭和五三事業年度の事業に係る更正処分について
1 本物件の二一号施設該当性について
地方税法七〇一条の三四第一〇項によれば、二一号施設に該当するかどうかの判定は、法人の場合にあつては事業年度の末日の現況によるとされている。
本件において、原告の昭和五三事業年度の末日は昭和五三年二月二〇日であるところ、前記認定のとおりねじ協会が承認を受けた構造改善事業の実施期間が昭和四六年一二月二五日から昭和五二年三月三一日までである(二1(四)参照)から、昭和五三年二月二〇日現在では構造改善事業の実施期間は既に経過していることとなり、昭和五三事業年度においては本物件はいずれも二一号施設に該当しないこととなる。
したがつて、この点に関する原告の主張は失当である。
2 西神戸工場の二二号施設該当性について
地方税法七〇一条の三四第三項二二号(昭和五三年法律第九号による改正前のもの)において、都道府県又は中小企業振興事業団(昭和五五年法律第五三号による中小企業事業団法の改正により、「中小企業振興事業団(法)」は、「中小企業事業団(法)」に改められている。以下同様。)から中小企業振興事業団法二〇条一項二号イの資金の貸付けを受けて実施する事業の用に供する施設とは、「同号ロの施設の譲渡しを受けた場合」の非課税措置と対応して考えると、当該事業の用に供する施設それ自体が右貸付けを受けた資金で設置されたものである場合に限り、用途非課税の施設になるものと解するのが相当である(大阪高等裁判所昭和五七年三月一〇日判決・行裁集三三巻三号三八九頁参照)。
本件においてこれをみるに、前記乙第一号証、成立に争いのない乙第三号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告会社は、阪神鉄工団地協同組合員であつて、西神戸工場の床面積のうち二五三八・九一平方メートルについては兵庫県から中小企業高度化資金の貸付けを受けて設置した施設であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、西神戸工場の床面積のうち、二五三八・九一平方メートルの部分は二二号施設に該当し非課税施設となるが、残余の一八七一・五八平方メートルの部分は二二号施設に該当せず、非課税施設とならない。
この点、原告は、昭和五三年法律第九号による右二二号の改正の前後の規定の差異を強調して、西神戸工場全体が二二号施設に該当する旨主張するが、右改正の趣旨が規定の明確化にあり、非課税施設の範囲に変動をもたらすものでないことからして原告の右主張は失当である。
五 本件各更正処分の適否及び被告神戸市に対する請求について
1 昭和五二事業年度の場合
右にみたように、西神戸工場全体が二一号施設に該当する(同工場に新設された設備のほとんどが昭和五二事業年度の前に設置され、一部同事業年度に入つて設置されているがその数量は僅かであることは別紙(二)の取得年月日欄記載のとおりであり、同事業年度を通じてすなわち課税標準の算定期間が一二月にあたるとして二一号施設に該当するとの認定を妨げるものではない。)と解すべきであるにもかかわらず、この点を看過した昭和五二事業年度に係る被告区長の更正処分は違法である。
ところで、成立についての争いのない甲第一号証、前記乙第一号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、西神戸工場の床面積については、その一部である二五三八・九一平方メートルの部分については二二号施設に該当し、残余の一八七一・五八平方メートルの部分についてのみ右非課税施設に該当しないとして課税する旨の処理がされていることが認められる。そうすると、結局、昭和五二事業年度に係る被告区長の更正処分(のちの更正処分で減額された部分を除く。)のうち、西神戸工場の一八七一・五八平方メートルの部分に対し課税した点は違法であつてその取消しを免れない。
そして、地方税法(昭和五三年法律第九号による改正前のもの)七〇一条の四二第一項によれば、事業に係る事業所税の税率は、資産割にあつては一平方メートルにつき三〇〇円とされているから、右一八七一・五八平方メートルに三〇〇円を乗じた五六万一四七四円を被告神戸市は不当に徴収利得していることとなり、したがつて、被告神戸市は右金額のほか地方税法に定める還付加算金(原告は、本件訴えの日である昭和五八年二月二二日から年五分の割合によることを求めているので、起算点及び利率は右の範囲内で)を原告に返還すべきである。
2 昭和五三事業年度の場合
被告区長は、前述のとおり、本物件はいずれも二一号施設に該当せずと認定し、また、西神戸工場については、昭和五二事業年度におけると同様にその一部である二五三八・九一平方メートルの部分に限つて二二号施設に該当し、残余の一八七一・五八平方メートルの部分については右非課税施設に該当しないと認定して課税する旨の処理をしているので、右事業年度に関する被告区長の本件更正処分は、適法であり、この点に関する原告の被告らに対する請求はいずれも理由がない。
六 結論
よつて、原告の被告区長に対する請求は、昭和五二事業年度の本件更正処分のうち一八七一・五八平方メートルの部分を非課税とする限度で、また被告神戸市に対する請求は過誤納金五六万一四七四円及びこれに対する還付加算金の返還を求める限度においてそれぞれ理由があるからこれらを認容し、原告の被告らに対するその余の請求はいずれも失当であるからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条、九三条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については、これを付することは相当ではないから付さないこととする。
(裁判官 野田殷稔 小林一好 横山光雄)
別紙(一)~(五)、図面(一)、(二)<省略>