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神戸地方裁判所 昭和59年(行ウ)30号 判決 1992年9月30日

兵庫県尼崎市戸ノ内町六丁目一二番一七号

原告

西口道子

右訴訟代理人弁護士

高橋敬

小貫精一郎

兵庫県尼崎市西難波町一丁目八番一号

被告

尼崎税務署長 藤本秀幸

右訴訟代理人弁護士

兵頭厚子

右指定代理人

塚本伊平

高橋利幸

山上善廣

加賀八郎

岡田浩明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して、昭和五七年一月二五日付けでした原告の昭和五三年分、昭和五四年分、昭和五五年分の各所得税について、総所得金額をそれぞれ金一、四九八万〇、九一四円(但し、裁決により一部取り消された後の金額)、金二、一八三万九、三九八円、金二、七九八万六、八九五円とした各更正処分のうち、それぞれ金一二〇万円、金一五三万七、〇〇〇円、金二四〇万円を超える部分及び右各年の各過少申告加算税(但し、昭和五三年分については、裁決により一部取り消された後の金額)の賦課決定処分並びに昭和五五年分についての重加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、「阪神ベンダー工業」の屋号で型鋼の曲げ加工業を営む者であるが、各法定申告期限までに、被告に対し、別表六の確定申告欄記載のとおり、昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の確定申告をした。

これに対し、被告は、昭和五七年一月二五日、原告に対し、別表六の更正処分欄のとおりの更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分及び昭和五五年分について重加算税賦課決定処分(以下、これらの処分を一括して「本件更正処分等」という。)をした。

2  原告は、昭和五七年一月二九日、被告に対し、本件更正処分等につき異議申立てをしたが、被告は、同年四月二八日、異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。そこで、原告は同年五月一七日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和五九年五月一六日、昭和五三年分の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の一部を取り消し、更正所得金額、算出税額及び過少申告加算税額について、別表六の裁決欄記載のとおりとし、その余の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、右裁決書は、同年五月二四日、原告に送達された。

3  しかし、原告の右各年分における総所得金額及び納付すべき税額は、別表六の確定申告欄のとおりであり、これを超える本件更正処分等は違法である。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3は争う。

三  被告の主張

1  (推計の必要性)

被告の部下職員谷沢優は、原告の昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の調査のため、昭和五六年五月八日以降数回にわたり、原告方に臨場し、原告に対し、事業所得の金額を計算するための基礎資料となる帳簿書類等の提示及び事業内容の説明を求めたが、原告は、「事業については、原告の従業員である実弟に任せてあるので実弟に聞いてくれ。」と言うのみであり、他方、原告の実弟は、「調査理由が納得できない限り調査には応じられない。」と主張して終始一貫してこれに応じず、谷沢の調査に全く協力しなかった。

被告は、このような状態では原告の右各年分における所得金額を実額計算により算定することは不可能と判断し、やむを得ず、原告の取引先等の調査により得た資料等に基づき、推計により原告の所得金額を算定し、本件の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をしたものである。

2  (推計の合理性)

(1) 被告は、原告の本件係争各年分の所得金額を算出するため、原告の住所地を管轄する尼崎税務署並びにこれに隣接する東淀川、西淀川、豊能、伊丹及び西宮の各税務署管内において、青色申告により確定申告書を提出している事業者(法人を含む。)のうちから、係争各年分を通じて次の<1>ないし<7>の条件をすべてを満たす者を選定したところ、これに該当する同業者は、東淀川税務署管内に一社(法人)だけであり、他の税務署管内には存在しなかった。

<1> 型鋼の曲げ加工業(鍛工品製造業のうち冷間鍛工品加工業ともいう。)を営んでいること

<2> 右<1>に関連する以外の事業を兼業していないこと

<3> 一事業所で事業を行っていること

<4> 受注先から鋼材を支給され曲げ加工を行うほか、自ら鋼材を仕入れて曲げ加工を行ない販売を行っていること。

<5> 売上金額が三、〇〇〇万円以上であること

なお、右売上金額は、原告の昭和五三年分の売上金額五、八〇〇万円の概ね半分以上とした。

<6> 年間を通じ、継続して事業を営んでいること

<7> 不服申立て又は訴訟係属中でないこと

(2) 右同業者の所得率の算定根拠は、別表三の1ないし3のとおりである。

(3) 右同業者は、原告と営業形態、営業規模の点において類似性があるから原告の所得を推計する基礎として適当であり、また、右同業者は青色申告者であるから、その金額等の算出根拠となる資料はすべて正確なものである。したがって、被告が右同業者の所得率を適用して原告の本件係争各年分の所得金額を推計したことは合理性を有する。

(4) 原告は、個人事業者の白色申告者であるところ、右同業者は、法人事業者の青色申告者であった。そこで、法人事業者を個人事業者に適用するに当たって、次のとおりの調整を行い、換算しているので、合理性がある。

<1> 売上金額

右同業者は、法人であるため、雑収入を営業外収益に計上していることから、この金額を売上金額に加算した。

<2> 賞与引当金

所得税法においては、青色申告者のみに認められた特典であるため、必要経費から減算した。

<3> 役員報酬

法人税法においては損金処理するとされているが、所得税法においては事業主の自らに対する報酬は、みなし法人課税を選択した場合を除いて必要経費に算入することが認められないため減算した。但し、役員の労務の対価部分の報酬額を、従業員に支給している最高給料賃金額と同額とみなし、従業員に対する給料賃金の最高支給額に役員数を乗じた金額を別途必要経費に加算した。

<4> 減価償却費

右同業者は、減価償却資産の減価償却の方法について、定率法を選択適用しているが、所得税法においては、償却の方法を選択しなかった場合は定額法が適用される。したがって、同業者につき定率法によって計算された減価償却費を減算し、定額法によって計算した減価償却費を加算した。

<5> 損金算入にならない租税公課

同業者が営業外収入として受け取った預金利息、配当金に対する源泉所得税を必要経費から減算した。

<6> 退職金

同業者が当該年度に支払った退職金は、臨時かつ特別なものであって、売上金額と対応関係にないため、必要経費から減算した。

<7> 税理士報酬

同業者が当該年度に支払っていた税理士報酬は、売上金額と対応関係にないため、必要経費から減算した。

3  原告の係争各年分の事業所得の金額は、以下に述べるとおり(別表一参照)であり、この範囲内でした本件各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(1) 昭和五三年分

<1> 売上金額 五、七五七万九、五八〇円

別表二の1-1ないし9のとおりである

<2> 算出所得金額 一、五六六万一、六四五円

右<1>の売上金額に同業者の所得率(売上金額から必要経費を差し引いた営業利益の売上金額に対する割合)二七・二〇パーセント(別表三の1参照)を乗じて算出した。

五、七五七万九、五八〇円×二七・二〇%=一、五六六万一、六四五円

<3> 特別経費(別表四) 九一万五、三四六円

<4> 事業所得金額(<2>-<3>) 一、四七四万六、二九九円

<5> 給与所得金額 一八三万二、四〇〇円

原告が勤務する株式会社中の坊から支給された給与収入金額から給与所得控除額を控除したものである(別表一の給与所得金額欄)。

<6> 総所得金額(<4>+<5>) 一、六五七万八、六九九円

(2) 昭和五四年分

<1> 売上金額 八、七〇二万五、〇五九円

別表二の2-1ないし9のとおりである

<2> 算出所得金額 二、四六一万九、三八九円

右<1>の売上金額に同業者の所得率(売上金額から必要経費を差し引いた営業利益の売上金額に対する割合)二八・二九パーセント(別表三の2参照)を乗じて算出した。

八、七〇二万五、〇五九円×二八・二九%=二、四六一万九、三八九円

<3> 特別経費(別表四) 七九万四、〇一七円

<4> 事業所得金額(<2>-<3>) 二、三八二万五、三七二円

<5> 給与所得金額 一九六万一、二八八円

原告が勤務する株式会社中の坊から支給された給与収入金額から給与所得控除額を控除したものである(別表一の給与所得金額欄)。

<6> 総所得金額(<4>+<5>) 二、五七八万六、六六〇円

(3) 昭和五五年分

<1> 売上金額 一億〇、二二三万二、七五二円

別表二の3-1ないし9のとおりである

<2> 算出所得金額 二、八九四万二、〇九二円

右<1>の売上金額に同業者の所得率(売上金額から必要経費を差し引いた営業利益の売上金額に対する割合)二八・三一パーセント(別表三の3参照)を乗じて算出した。

一億二二三万二、七五二円×二八・三一%=二、八九四万二、〇九二円

<3> 特別経費(別表四) 一〇九万七、八八六円

<4> 事業所得金額(<2>-<3>) 二、七八四万四、二〇六円

<5> 給与所得金額 二二六万一、七八四円

原告が勤務する株式会社中の坊から支給された給与収入金額から給与所得控除額を控除したものである(別表一の給与所得金額欄)。

<6> 総所得金額(<4>+<5>) 三、〇一〇万五、九九〇円

4 重加算税の賦課決定処分について

被告が、原告の昭和五五年分の預金口座について調査したところ、原告は、三和銀行歌島橋支店に迫田寛名義、大和銀行歌島橋支店に槌谷薫名義及び住友銀行歌島橋支店に江口功名義の各架空名義の普通預金口座を設けて、事業上の売上金の一部を預け入れていることが判明した。

このことは、所得金額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装した行為に該当し、確定申告額を超える事業所得金額のすべてについて、国税通則法六八条一項に規定する重加算税の課税要件を満たすことは明らかである。

四 被告の主張に対する認否

1 被告の主張1のうち、被告の部下職員が原告方を訪れたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告の部下職員は、原告の弟渡辺功が訪問の理由を明らかにするよう求めたにもかかわらず、その理由を明らかにしなかった。また、渡辺において、書類等を見せてもよいと言明しているにもかかわらず、被告の部下職員は、「立会いがいたら話しはせん。」と自ら調査を放棄して帰ってしまった。被告は、原告の疑問に何ら答えることなく一方的に推計課税を行ったものであり、推計を行う合理的根拠を欠くものである。

2 同2は不知もしくは否認する。

被告は、「型鋼の曲げ加工業」を「鍛工品製造業のうち冷間鍛工品加工業ともいう」として「冷間鍛工品加工業」と同一としている。しかし、この二つは、全く異なる業種であり、このような誤った選定基準から抽出した一社をもって、原告との類似性ありとしているのである。

また、原告と同業の事業所は、原告以外にも、尼崎市内に二業者、東淀川区内に三業者、西淀川区内に三業者、豊中市内に二業者、計一〇業者がある。

さらに、原告は、個人事業者であるのに、被告が選定した同業者は法人であり、本質的に差がある。

以上のとおり、被告は、作為的に自らの主張に都合の良い業者を抽出したものである。

なお、役員の労務に対する対価部分である報酬額として必要経費に算入する金額は、同業者の元来の役員報酬額全部であるというべきであり、さらに、被告は、役員の労務に対する対価部分である報酬額として従業員に支給している給料賃金額を加算しているが、同業者における現実の従業員最高給与額は、被告において加算した金額を上回っている。

3 同3について

(1) 昭和五三年分について

<1> <1>のうち、一部(別表五のとおり)は否認し、その余は認める。

<2> 否認する。

<3> 否認する。

<4> 争う。

<5> 認める。

<6> 争う。

(2) 昭和五四年分について

<1> <1>のうち、一部(別表五のとおり)は否認し、その余は認める。

<2> 否認する。

<3> 否認する。

<4> 争う。

<5> 認める。

<6> 争う。

(3) 昭和五五年分について

<1> <1>のうち、一部(別表五のとおり)は否認し、その余は認める。

<2> 否認する。

<3> 否認する。

<4> 争う。

<5> 認める。

<6> 争う。

4 同4は否認もしくは争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の証拠に関する目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二  推計の必要性について

1  成立に争いがない乙第九二ないし第九四号証、証人谷沢優の証言によれば、原告の昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の確定申告書は、所得金額のみを記載し、売上金額や必要経費の内容を記載していないものであったこと、そこで、被告の部下職員である谷沢優は、原告の右各年分における所得の調査のため、昭和五六年五月八日、尼崎市戸ノ内町にある原告の事業所を訪ねたところ、原告は不在であったこと、そこで、谷沢は、同月一二日、大阪府吹田市にある原告の自宅を訪れたが、そこでも原告は不在であったこと、さらに、谷沢は、同月一三日、原告の事業所に電話をかけたところ、原告の弟渡辺功から、五月中は都合がつかないと言われたこと、谷沢は、同年六月二日、再び電話をかけて約束を取りつけたうえで、同日午後に原告の事業所を訪れたこと、原告の側では、渡辺功が事業所の入口付近で谷沢に応対したこと、渡辺功以外に事業所の従業員ではない者が二名その場にいあわせたこと、谷沢が原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分の所得税の調査で訪れた旨を告げたところ、渡辺は、同人が事業の責任者であると答えたこと、谷沢が事業の概要につき質問し、備付けの帳簿等の提示を求めるとともに、第三者の立会いを控えてほしい旨告げたところ、渡辺功は、調査理由を明らかにすることを要求し、かつ右第三者の立会いを控えることはできないと述べたうえ、谷沢が求めた説明に対して答えようとせず、また帳簿等の閲覧に応じなかったこと、結局、その日は、調査に入ることができなかったこと、谷沢は、同月三日、原告に対する住民税の関係から判明していた原告の勤務先に電話をかけ、事業についての説明及び帳簿等の閲覧を求めたところ、原告は、事業の実際は、弟らに任せているから同人らから聞いてほしいと答えるのみであったこと、谷沢は、同月一五日、前記事業所に電話をかけ、前回と同様に、事業についての説明と帳簿等の閲覧を求めたところ、応対した渡辺功は、逆に調査理由について谷沢に問いただすのみで、同人の要求に応じなかったこと、そこで、谷沢は、原告から帳簿等の提示は得られないと判断して反面調査に入り、原告の取引先及び取引銀行を調査したこと、これに対し、渡辺功から被告に対し、再三抗議の電話があったこと、谷沢は、同月二四日、電話により、再度協力方を申し入れ、約束を取り付けた上で、他の職員一名とともに、前記事業所を訪れたこと、このときも、渡辺功は、事業所の入口付近で応対したが、同人の外、原告の従業員ではない者がその場にいあわせていたこと、谷沢は、前回と同様に事業についての説明及び帳簿等の提示を求めたが、渡辺は、反面調査に対して抗議をしたうえで、調査理由の開示を要求するのみで、谷沢の調査に答えようとせず、何ら進展はなかったこと、谷沢は、その後も継続して反面調査を続行したが、これに対して渡辺功から抗議の電話が繰り返されたこと、谷沢は、同年八月二四日に、また前記事業所を訪れ、渡辺功と面談したが、前二回と同様、何ら調査に入ることができなかったこと、その後も同様のことが繰り返されたこと、谷沢は、同年一二月上旬ころ、反面調査を概ね終了したので、同月一一日ころ、原告の勤務先に電話をかけ、原告と話をするために、尼崎税務署の方に来てほしい旨告げたが、原告は、渡辺功に連絡してくれと言うのみであったこと、谷沢は、渡辺功にも電話をかけて同様の趣旨を伝えたが、同人は、これを拒否したこと、このような経緯のため、被告は、推計により原告の所得金額を算定し、昭和五七年一月二五日、本件更正処分等をしたことが認められる。証人渡辺功の証言中、右認定に反する部分は採用することができない。

2  右事実によれば、本件更正処分等をした時点において、被告が原告の各係争年分の所得の実額を算定することは不可能であったと認められるから、推計による課税処分の必要性があったといわなければならない。

三  原告の所得金額について

1  本件各係争年分の原告の売上金額

(1)  原告の各係争年分の売上金額として、被告主張の別表一の売上金額(その詳細は別紙二の1-1ないし9、2-1ないし9、3-1ないし9のとおり)のうち、別表五記載の金額を除き、当事者間に争いがない。

(2)  右争いがある売上金額については、別表五記載のとおり、同掲記の各証拠(いずれも、成立に争いがないか又は証人堀茂仁の証言により成立を認めることができる。)により、被告主張の金額を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3)  したがって、原告の係争各年分の売上金額は、被告主張のとおり(別表一)の売上金額欄記載の金額であると認められる。

2  算出所得金額(売上金額から必要経費を控除したもの)

(1)  その方式及び趣旨により公務員が作成したと認められるから真正な公文書と推認すべき乙第一号証の一、二、第九一号証、証人堀茂仁の証言によれば、被告の担当職員は、推計により原告の本件係争各年分における所得金額を算出するために必要な同業者の選定について、尼崎税務署管内において、金属機械部品加工業を営む者のうち、売上金額が原告の売上金額の最も多い年の金額の倍(約二億円)から最も少ない年の金額の半分(約三、〇〇〇万円)の範囲内で、曲げ加工業を専業としており、かつ青色申告者という基準に当てはまる者を探したところ、同管内には見当たらなかったため、電話帳等で知り得た大阪周辺で金属加工業を営む者について、所轄の税務署長に対し、申告の有無を問い合わせ、東淀川税務署及び豊能税務署には担当者が直接赴いて調査をしたが、該当者は見当たらなかったこと、そこで、売上高の上限を外して再度調査を行ったところ、東淀川税務署管内に一件だけ該当する業者があったこと、被告は、右同業者の所得に基づいて、本件更正処分等を行ったこと、本件訴訟が提起された後、大阪国税局では、尼崎税務署及びこれに隣接する西淀川、東淀川、豊能、伊丹、西宮の各税務署管内の納税者の中から、<1>型鋼の曲げ加工業を営んでいること、<2>右に関連する事業以外の事業を兼業していないこと、<3>一事業所で事業を行っていること、<4>受注先から鋼材を支給され曲げ加工を行う外、自ら鋼材を仕入れて曲げ加工を行い販売を行っていること、<5>本件係争各年分を通じて売上金額が原告の昭和五三年分の売上金額五、八〇〇万円の概ね半分である三、〇〇〇万円以上であること、<6>年間を通じ、継続して事業を営んでいること、<7>不服申立て又は訴訟係属中でないこと、の七条件をすべて満たす同業者の有無を調査したこと、右七条件にすべて該当する同業者は、東淀川税務署管内に一業者のみ存在していたこと、結果的には、被告が本件更正処分等に当たり選定した業者と同一であったこと、右同業者は法人であったことから、事業年度の違い等につき、必要な換算をすると、右同業者の所得率(売上金額から売上原価及び販売費・一般経費を差し引いた営業利益の売上金額に対する割合)(同業者所得率)は、別表三の1ないし3のとおり、昭和五三年分が二七・二〇パーセント、昭和五四年分が二八・二九パーセント、昭和五五年分が二八・三一パーセントとなることが認められる。

(2)  右事実によれば、原告の所得を推計するための所得率を算定する目的で、被告が採用した同業者の選定基準は、業種が金属機械部品加工業と同一であり、事業場所も尼崎市及び同市に隣接する税務署管内の業者であって近接しているし、事業規模も比較的近似している業者となっていたのであるが、事業規模約二億円の範囲内では該当する業者がなかったことから、右上限を外し再度調査したところ、一社のみ該当する業者が選定されたのであり、また、本件訴訟が提起された後に、大阪国税局において、より厳格な選定基準に基づき調査したところ、被告が本件更正処分等に当たり選定した業者と同一の業者が選定されたのである。そして、大阪国税局が採用し、本件訴訟において被告が主張する右選定基準は、業者の類似性を判断する要件としては、合理的であると認められ、結果として、これと同一の業者を選定した被告の更正処分等も合理性を有すると認められる。また、右同業者として選定された業者は、年間を通して事業を継続している青色申告者であり、かつ、その業者の数値は、当該税務署長から報告されたもので、資料の正確性も担保されていると認められる。

(3)  原告は、被告が選定した同業者は、僅か一社であり、推計の裏付けとしては不十分である旨主張する。

しかし、当該納税者と同一地域(同一税務署管内及びこれに近接する税務署管内)で類似性を有する同業者であって青色申告者のような正確な資料を有する者が他に存在しない場合には、一業者のみと対比し、その資料に基づいて、推計を行うことは、何ら不合理なものではない。

原告は、原告と同業の事業所は、原告以外にも、尼崎市内に二業者、東淀川区内に三業者、西淀川区内に三業者、豊中市内に二業者、計一〇業者がある旨主張するが、右各事業所との類似性を具体的に認めるに足りる証拠はない。

(4)  原告は、本件訴訟において、右同業者の選定基準を争っているのであるが、本件において推計課税が必要とされたのは、前記認定のとおり、原告の帳簿書類等の不提示や、所得調査に対する非協力的な態度により、所得の実額を算定することができなかったためであり、この推計により得られた近似値を真実の所得金額として取り扱うものであるから、同業者の所得率による推計を行う場合にも、業種、業態、営業規模等において同業者と原告とが完全に一致する必要はなく、合理的と認められる基準により類似する同業者を選出するという手法により、同業者率を算定することは、合理的なものといわなければならない。

(5)  原告は、右選定基準のうち、原告の業種が、「型鋼の曲げ加工業」であるのに、被告の選定基準によると、「鍛工品製造業のうち冷間鍛工品加工業ともいう」として「冷間鍛工品加工業」と同一としているが、「型鋼の曲げ加工業」と「冷間鍛工品加工業」とは全く異なる業種である旨主張する。

しかし、「型鋼の曲げ加工業」と「冷間鍛工品加工業」とが、同一であるかどうかは別として、証人堀茂仁によれば、被告において、原告が「型鋼の曲げ加工業」を営んでいることを正確に認識した上で、「型鋼の曲げ加工業」を行う同業者を選定しようとしたことは、その基準から認められるし、また、結果として、選定された業者は、原告と同様に「型鋼の曲げ加工業」を行う業者であったことは、既に認定したところから明らかである。したがって、原告の右主張は採用することができない。

(6)  原告は、原告が個人事業者であるのに、同業者は法人事業者であり、本質的に差がある旨主張する。

しかし、事業を営む者は、法人格を有している者であろうと、法人格を有していない個人事業者であろうと、経済活動の面から見ると、どちらも本来的に、利潤の追求を目的としている者であり、両者間に、原告の言うような本質的な差異はないといわなければならない。ただ、税法上は、個人と法人とでは根拠法令が異なるから、その取扱いに一部違いがあるが、これも会計処理上の差異によるものである。そして、法人である同業者の事業所得の数字について、所得税法の規定に基づき、合理的な調整を加えることにより、法人か個人かの違いに起因する差を修正することは十分可能であると解せられる。

本件において、右の点についてみると、前掲乙第一号証の一、二、第九一号証、証人堀茂仁の証言によれば、<1>同業者は、法人であるから、鉄くず売却収入(雑収入)を営業外収益に計上しているが、個人事業の場合は、雑収入の金額は、売上金額に含まれるため、鉄くず売却収入を売上金額に加算したこと、<2>賞与引当金繰入額は、青色申告者にのみ認められる特典であるため、必要経費から減算したこと、<3>役員報酬は、法人のみ存在するから、減算したこと、但し、役員の労務に対する対価部分である報酬額を、従業員に支給している最高給料賃金額と同額とみなし、従業員に対する給料賃金の最高支給額に役員数を乗じた金額を別に必要経費に加算したこと、<4>同業者は、減価償却資産の減価償却の方法について、定率法を採用しているが、所得税法では、定額法が適用されるから、同業者について定率法による減価償却費を減算し、定額法による減価償却費を加算したこと、<5>同業者が営業外収益として受け取った預金利息、配当金に対する源泉所得税は、損金として算入されないから減算したこと、<6>同業者が当該年度に支払っていた退職金及び税理士報酬は、いずれも売上金額と対応関係にないから、必要経費から減算したこと、が認められる。

以上の処理は、いずれも事業者が法人であるか個人であるかの違いに基づき、当然に修正すべき点であるから、被告がした右修正は合理的なものであると認められる。

(7)  原告は、右<3>の役員報酬額の必要経費算入に関し、役員の労務に対する対価部分である報酬額として必要経費に算入する金額は、同業者の元来の役員報酬額全部である旨主張する。

しかし、法人税法二二条四項所定の公正妥当な会計処理の基準及び同法三四条によれば、役員報酬のうち不相当に高額な部分を除く金額は損金処理することができるとされているのに対し、所得税法においては、個人事業主は、みなし法人課税を選択した場合を除いて、必要経費に算入することが認められていないのであるから、同業者である法人の所得をもって個人の所得を推計する場合に、法人の所得計算上、損金に算入されている役員報酬を調整することは当然である。

また、原告は、役員の労務に対する対価部分である報酬額を、従業員に支給している最高給料賃金額としたことに関し、同業者における現実の従業員最高給与額は、被告において換算した金額を上回っている旨主張する。

しかし、原告が指摘する業者(美鳳金属工業株式会社)が、被告において選定した同業者であると認めるに足りる証拠はないし、従業員の最高給与の正確な金額は、被告からの照会に対する回答書である乙第九一号証によるのが相当であり、本件訴訟における同社の代表者である証人穴田稔の証言は、右乙第九一号証に照らし、直ちに採用することができない。

よって、原告の右主張は採用することができない。

(8)  以上によれば、被告が主張する同業者の選定及び同業者率の算出方法は、合理性があると認められる。

(9)  したがって、前記1の売上金額に、右同業者の所得率を乗じて、原告の本件係争各年分の算出所得金額を算定すると、別表一の算出所得金額欄のとおり、昭和五三年分が一、五六六万一、六四五円、昭和五四年分が二、四六一万九、三八九円、昭和五五年分が二、八九四万二、〇九二円となる。

3  特別経費について

弁論の全趣旨によれば、原告の本件係争各年分の所得の算定における特別経費について、被告主張のとおり認めることができる。

4  給与所得の金額について

給与所得の金額については、当事者間に争いがない。

5  以上によれば、本件係争各年分の原告の総所得金額は、本件訴訟において被告が主張する金額(昭和五三年分が一、六五七万八、六九九円、昭和五四年分が二、五七八万六、六六〇円、昭和五五年分が三、〇一〇万五、九九〇円)となることが認められる。

四  昭和五五年分の所得に関する重加算税賦課決定処分について

1  国税通則法六八条一項は、重加算税の要件として、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出していた」ことを、定めている。そして、同条に基づき重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではない。

2  証人渡辺功の証言によれば、原告は、本件各係争年分の所得税の確定申告において、売上及び経費に関する帳簿等を作成しており、それらの資料等に基づいて事業所得を算定することは可能であったが、申告に当たって、事業に関する具体的な帳簿等の資料に基づかずに、適当な数字を書き込んで作成した申告書を提出したことが認められる。

3  成立に争いがない乙第九五号証の一三、一四、四七、第九八号証の二三、証人堀茂仁の証言により真正に成立したと認められる乙第六一、第六二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第九五号証の一ないし一二、一五ないし四六、四八、第九六号証の一ないし四、第九七号証の一ないし六、第九八号証の一ないし二二、二四ないし四一、第九九ないし第一一一号証、証人堀茂仁及び同渡辺功の証言(証人渡辺功の証言中、後記採用しない部分を除く。)によれば、原告は、事業上の売上代金を三和銀行歌島橋支店における迫田寛名義、大和銀行歌島橋支店における槌谷薫名義、住友銀行歌島橋支店における江口功名義の各普通預金口座に入金していること、これらの預金の名義人の住所地は、原告の事業所と同じ尼崎市戸ノ内町六丁目一二番一七号であるが、同所に右各名義人が居住している事実はないこと、これらの人物は、いずれも原告の現又は元従業員の氏名の変名であると推定され、実在する人物ではないこと、これらの口座に入金されている預金は、その取引内容からみて、すべて原告に帰属すること、が認められ、証人渡辺功の証言中、右認定に反する部分は採用することができない。

4  以上によれば、前記の各架空名義の預金は、原告が売上金の一部を除外するために口座を開設し、売上金を入金したもので、所得を隠ぺい又は仮装したものであると認められる。

したがって、原告の申告は、右行為に基づき、過少申告という結果が生じたもので、前記の重加算税の要件を充たしていることは明らかである。

五  よって、本件更正処分等は、右に認定した本件係争各年分の各総所得金額の範囲内で行われたものであって、いずれも適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 吉野孝義 裁判官 北川和郎)

別表一

係争各年分の事業所得の金額及び総所得金額

<省略>

別表二の1-1~1-1 売上金額の明細(昭和53年分)

<省略>

別表二の1-1~1-2

<省略>

別表二の1-1~1-3

<省略>

別表二の1-1~1-4

<省略>

別表二の1-1~1-5

<省略>

別表二の2-1~2-1 売上金額の明細(昭和54年分)

<省略>

別表二の2-1~2-2

<省略>

別表二の2-1~2-3

<省略>

別表二の2-1~2-4

<省略>

別表二の2-1~2-5

<省略>

別表二の3-1~3-1 売上金額の明細(昭和55年分)

<省略>

別表二の3-1~3-2

<省略>

別表二の3-1~3-3

<省略>

別表二の3-1~3-4

<省略>

別表二の3-1~3-5

<省略>

別表三の1 同業者の算定について

<省略>

別表三の2 同業者の算定について

<省略>

別表三の3 同業者の算定について

<省略>

別表4 特別経費の明細

<省略>

別表五

(昭和五三年分)

<省略>

(昭和五四年分)

<省略>

(昭和五五年分)

<省略>

別表六

課税の経緯

<省略>

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