大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和60年(行ウ)29号 判決 1986年7月02日

原告

石田春久商店有限会社

右代表者取締役

石田春久

被告

神戸市長

宮崎辰雄

右訴訟代理人弁護士

奥村孝

中原和之

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一本件訴えは、被告に対し、笹山助役を解職することを求める訴えである。

二ところで、行政庁に対し積極的に特定の行政処分をすることを求める訴えが許されるかについては行政事件訴訟法にはなんらの定めもなく、もし、このような訴えを是認すれば、ある行政行為をする権限を付与された行政庁を一般的に監督是正する権限を裁判所に付与し、ひいては裁判所に行政権の行使を是認したことにもなるので、右のような訴えは三権分立の建前から原則として許されないものと解すべきである。

もつとも、行政庁がある行政処分をすべきことが法律上覊束されていて裁量の余地のないことが明白であり、しかも第一次的判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でなく、さらに行政庁の行政処分を待つていては多大の損害をこうむるおそれが顕著で事前の救済の必要があるが、他に適当な救済方法がない場合に限り、極めて例外的に行政庁に対し特定の行政処分をすることを求める訴えが許されるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、原告はそのこうむる損害につき「株主たる地位を有する訴外会社の運営の違法状態を不当に甘受せしめられ、利益を逸失している」と主張するのみで、被告の笹山助役解職処分を待つていてはいかなる損害をこうむるかにつき具体的な主張をしていない。しかも、原告が訴外会社の株主として何らかの法的利益の侵害を受けるというのであれば、会社訴訟等の民事訴訟を提起することによつてその救済を求めることも可能である。

このように、原告の主張は、そのこうむる損害の内容・程度・事前救済の必要性につき具体性がなく、また、他に適当な救済方法がない場合ともいえないので、原告の本件訴えは不適法といわざるを得ない。

三結論<省略>

(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官小林一好 裁判官横山光雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例