神戸地方裁判所 昭和62年(ワ)1550号 判決 1988年5月27日
原告
山口善朗
被告
株式会社阪神カラーセンター
ほか一名
主文
一 被告らは、各自原告に対し、金一〇二六万三一九二円及びこれに対する昭和六一年六月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の、その余を被告らの、各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する昭和六一年六月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 1につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和六一年六月四日午後零時一〇分頃。
(二) 場所 兵庫県加古郡播磨町本荘八七五番地の二先町道交差点。
(三) 加害車 被告松本美智子運転の普通貨物自動車。
(被告車)
(四) 被害車 原告運転の原動機付自転車。
(原告車)
(五) 事故態様 本件交差点は、東西に通じる道路と南北に通じる道路が十文字に交差しているところ、本件事故直前、被告車が、右東西に通じる道路を西方から東方に向け進行し、右交差点に進入した。その時、加害車が、右南北に通じる道路を南進して右交差点に進入し、被害車の左側面部と加害車の右前部が衝突した。
2 責任原因
(一) 被告株式会社阪神カラーセンター(以下単に被告会社という。)は、加害車を保有し、自己のため運行の用に供していたものである。
(二) 被告松本は、加害車を運転して前記南北に通じる道路を北方から本件交差点に差しかかつたが、右交差点は、信号機等による交通整理が行なわれておらず、かつ、加害車右方の見通しが困難であつたから、一時停止または徐行して、右方道路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、制限速度時速四〇キロメートルを超える時速約四五キロメートルで漫然進行した過失により、本件事故を惹起した。
(三) よつて、被告会社には、自賠法三条に基づき、被告松本には、民法七〇九条に基づき、それぞれ、原告の本件事故による損害を賠償する責任がある。
3 原告の受傷及び治療経過
(一) 原告は、本件事故により左肩鎖関節脱臼、左膝部挫創の傷害を受け、右事故当日の昭和六一年六月四日に岡本クリニツクに通院し、同日から同年八月八日まで舞子台病院に入院(入院日数六六日)し、同年八月九日から同年一二月四日まで右病院に通院(実日数七五日)し、それぞれ治療を受けたところ、同年一二月四日右症状が固定した。
(二) 原告には、本件受傷による後遺障害が残存するところ、その内容は、左肩関節の可動域が健側(右肩関節)の二分の一以下に制限され、関節の機能に著しい障害を残すというものであつて、右後遺障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級(以下、単に障害等級という。)一〇級一〇号に該当する。
4 損害
(一) 治療費・文書科 金五九一〇円
原告は、舞子台病院における治療費及び診断書作成料として金五九一〇円を支払つた。
(二) 付添看護料 金六万四四〇〇円
原告の妻が、医師の指示により原告の入院期間中の一四日間付添看護に当つた。右付添看護費用は、金六万四四〇〇円(近親看護料日額四〇〇〇円・付添のための通院交通費日額六〇〇円)である。
(三) 入院雑費 金六万六〇〇〇円
原告は、前記入院期間(六六日)中、一日当たり金一〇〇〇円の割合による雑費を要した。よつて、その合計額は、金六万六〇〇〇円となる。
(四) 通院交通費 金四万五〇〇〇円
原告は、本件治療のため前記のとおり通院(七五日)したが、その交通手段としてバス(バス往復料金六〇〇円)を利用し、通院交通費として合計金四万五〇〇〇円を要した。
(五) 休業損害 金三三〇万五〇三三円
(1) 月例給与損 金二四二万二五八七円
原告は、本件事故当時、訴外神鋼加古川港運株式会社に勤務し、本件事故前五か月間の平均給与は金四〇万円であつたところ、本件事故の受傷により昭和六一年六月五日から同年一二月九日までの一八八日間休業を余儀なくされ、その間、金八万四〇一七円の一部支給を受けただけで、その余の給与の支給を受け得なかつた。
しかして、原告の右月例給与損合計額は、金二四二万二五八七円である。
(金四〇万円×1/80×一八八日-金八万四〇一七円=金二四二万二五八七円)
(2) 賞与減額損 金五二万二〇〇〇円
原告は、本件事故による休業のため次のとおり賞与支給額を減額された。
(イ) 昭和六一年冬期分(支給対象期間昭和六一年五月一日から同年一〇月三一日まで) 金四二万七〇〇〇円
(ロ) 昭和六二年夏期分(支給対象期間昭和六一年一一月一日から昭和六二年四月三〇日まで) 金九万五〇〇〇円
(3) 昭和六二年度有給休暇喪失損 金二六万六六六〇円
原告は、本件事故休業のため、昭和六二年度有給休暇二〇日分をカツトされた。それによる損害は、金二六万六六六〇円である。
(前記事故前五月平均給与日額換算金一三三三三円×二〇日=金二六万六六六〇円)
(4) 退職金減額損 金九万三七八六円
原告の本件事故による休業により、同人の出勤日数が昭和六一年七月から一一月までの五か月間一か月一五日未満になつたので、訴外会社の従業員退職金規程の定めにしたがい、六〇歳停年として、原告の退職金は金一三万六〇〇〇円減額されることになる。ホフマン式計算法で中間利息を控除し、その現価を計算すると、金九万三七八六円となる。
〔金一三万六〇〇〇円×〇・六八九六(九年)=金九万三七八六円〕
(六) 後遺障害による逸失利益 金一九三七万四八一六円
原告は昭和一〇年一一月一一日生れの健康な男子であつたところ、同人には、本件事故により前記のとおり障害等級一〇級に該当する後遺障害が残存し、同人は、これにより、その労働能力の二七パーセントを喪失した。同人は、満六七歳まで就労可能として、同人の本件事故前年の年間収入を基礎として、その逸失利益を計算すると、金一九三七万四八一六円となる。
(金六二二万〇二四二円×二七パーセント×一一・五三六三=金一九三七万四八一六円)
(七) 慰謝料 金三五〇万円
(1) 入通院分 金一二〇万円
傷害の部位、程度、入通院期間等に照らすと、本件入通院慰謝料は、金一二〇万円が相当である。
(2) 後遺障害分 金二三〇万円
訴外会社における原告の職種は船舶荷役管理者であるところ、原告は、本件後遺障害による左肩の機能障害あるいは運動時痛のため、大型船舶の船艙内の昇降梯子を昇り降りする作業の能率が低下し、焦燥感に駆られる日々を送り、日常生活においては、正座や寝返りが困難な状態である。これらの精神的苦痛を斟酌すれば、本件後遺障害分慰謝料としては、金二三〇万円が相当である。
5 損害の填補 金三六七万円
原告は、本件事故後、次のとおり支払いを受けたので、右受領金を前記損害に填補する。
(一) 後遺障害保険金 金二一七万円
(二) 生活費内払金 金一五〇万円
6 弁護士費用 金二二〇万円
原告は、被告らが本件損害の賠償を任意に履行しないので、弁護士である原告訴訟代理人に本訴提起を委任し、弁護士報酬契約を締結した。その報酬額のうち、金二二〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害である。
7 よつて、原告は、本訴により、被告らに対し、本件事故による損害賠償として各自本件損害額金二四八九万一一五九円のうち金一五〇〇万円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六一年六月四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の(一)ないし(四)の各事実は認める。同(五)中、被告車と原告車の衝突部分を否認し、同(五)のその余の事実は認める。同2の事実及びその主張は認める。同3中、原告主張の本件後遺障害の内容及び等級を否認し、同3のその余事実は認める。同4の事実及びその主張は争う。同5の事実は認める。ただし、後遺障害分の支払を除く既払分については、後記抗弁のとおりである。同6の事実及び同7の主張は争う。
三 抗弁
1 過失相殺
本件交差点は、原告の進入した南方向からも東西道路に対する左右の見通しが悪いのであるから、原告においても、右交差点に進入するにあたり一時停止又は徐行をする等して左右の安全を確認すべき注意義務があつたところ、原告は、右注意義務を怠り、一時停止又は徐行することなく、漫然自車を同一速度で進行させ、本件事故を惹起した。本件事故の発生については、原告にも右の如き注意義務に違反した過失が認められるので、相応の過失相殺がなされるべきである。
2 既払
原告は、本件事故後、自賠責保険金金二一七万円と被告らからの支払金金一五〇万三六六〇円合計金三六七万三六六〇円の支払いを受けた。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実中原告が本件事故直前本件交差点の南北道路を南進して右交差点に進入したことは、認めるが、同1のその余の事実は、全て否認し、その主張は、争う。
2 同2の事実は、認める。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一1 請求原因1(一)ないし(四)の各事実、同(五)中原告車と被告車の衝突部分を除くその余の事実は、当事者間に争いがない。
2 成立に争いがない乙第二号証、三号証によれば、被告車右前角部分と原告車前部とが衝突したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
3 同2の事実及び主張は、当事者間に争いがない。
4(一) 同3中、原告が本件事故により左肩鎖関節脱臼、左膝部挫創の傷害を受け、昭和六一年六月四日に岡本クリニツクに通院し、同日から同年八月八日まで舞子台病院に入院(入院日数六六日)し、同年八月九日から同年一二月四日まで右病院に通院(実日数七五日)し、それぞれ治療を受け、同年一二月四日原告の本件症状が固定したことは、当事者間に争いがない。
(二)(1) 同3中原告に本件後遺障害が残存することは、当事者間に争いがない。
(2) 原告は、右後遺障害につき、同人の左肩関節の可動域が健側(右肩関節)の二分の一以下に制限され、関節に著しい障害を残している、それ故、右後遺障害はその障害等級一〇級一〇号に該当する旨主張している。
(イ) 確かに成立に争いのない甲第一二号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一三号証の一によれば、原告の左肩関節に次の障害が存することが認められる。
<省略>
(ただし、右両側とも自動域。)
(ロ) しかして、成立に争いのない甲第一四号証、乙第五号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、肩関節の主要運動は屈曲伸展(前後方挙上)及び外転(側方挙上)であること、所謂後遺障害等級一〇級一〇号に該当するのは、右主要運動である屈曲・伸展と外転の二つが共に定められた制限に達していることを要すること、右規定の制限とは、当該関節の運動可能領域が生理的運動領域(健側の運動領域)の二分の一以下になつたものをいうことが認められ、成立に争いのない甲第一五号証の右認定に反する記載内容部分はその内容が理論的に明確でないからにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(3) 右認定に基づくと、原告の左肩関節の患者運動可能領域は、屈曲・伸展一五〇度(屈曲一二〇度プラス伸展三〇度)、外転八〇度であり、右運動可能領域を健側の右各対応運動可能領域の数値と比較すると、外転のそれは、健側のそれの二分の一以下になつているものの、屈曲・伸展のそれは、健側のそれの二分の一を越えている、というほかない。
そうすると、原告の本件後遺障害は、その障害等級一〇級一〇号に定める、前叙認定の要件を充たしているとはいえず、ただ右障害等級一二級六号所定の「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」との要件を充たしているのみ、と結論される。
したがつて、原告の本件後遺障害は、その障害等級一二級六号に該当するもの、というほかはない。
右説示に反する原告の主張は、当裁判所の採用するところでない。
二 損害
1 治療費・文書料 金五九一〇円
成立に争いのない甲第一六号証によれば、原告が舞子台病院に治療費及び診断書作成料として、金五九一〇円を支払つたことが、認められる。
2 付添看護料 金六万四四〇〇円
成立に争いのない甲第二号証、原告本人尋問の結果によれば、医師の指示により、原告の妻が原告の入院期間中昭和六一年六月四日から同月一七日までの一四日間付添看病に当つたことが認められるところ、右付添看護料は、一日当り金四六〇〇円(ただし、付添看護人のための交通費を含む。)と認めるのが相当である。
3 入院雑費 金六万六〇〇〇円
原告が本件受傷治療のため六六日間入院したことは、当事者間に争いがない。
しかして、弁論の全趣旨によれば、原告が右入院期間中雑費を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ雑費は、一日当り金一〇〇〇円と認めるのが相当である。
よつて、本件雑費の合計は、金六万六〇〇〇円となる。
4 通院交通費 金四万五〇〇〇円
原告が本件受傷治療のため七五日間通院したことは当事者間に争いがない。
原告本人尋問の結果によれば、同人は右通院に際してバスを利用し、右バスの往復料金金六〇〇円を要したことが認められる。
よつて、本件損害としての通院交通費は合計金四万五〇〇〇円となる。
5 休業損害 金三〇一万一〇五六円
(一) 月例給与損 金二一二万八六一〇円
原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二五号証、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故当時訴外神鋼加古川港運株式会社に勤務し、右事故前三か月間平均金三九万一四二〇円の給与を受けていたところ、右事故の受傷により昭和六一年六月五日から同年一二月九日までの一八八日間休業を余儀なくされ、その間、右会社から金三二万四二八九円の一部支給を受けただけで、その余の給与の支給を受けなかつたことが認められる。
右認定に基とづくと、原告の月例給与損の合計額は、金二一二万八六一〇円となる。
(金三九万一四二〇円×1/30×一八八日-金三二万四二八九円=金二一二万八六一〇円。円未満四捨五入。)
(二) 賞与減額損 金五二万二〇〇〇円
原告本件尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二〇号証、第二一号証によれば、原告は本件事故による休業のため次のとおり賞与支給額を減額されたことが、認められる。
(1) 昭和六一年冬期分 金四二万七〇〇〇円
(2) 昭和六二年夏期分 金九万五〇〇〇円
よつて、原告の本件損害としての賞与減額損は、合計金五二万二〇〇〇円となる。
(三) 昭和六二年度有給休暇喪失損 金二六万六六六〇円
原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二二号証、原告本人の右供述によれば、原告は、本件事故による休業のため、昭和六二年度有給休暇二〇日分(金二七万三四〇〇円相当)をカツトされたことが、認められる。
右認定に基づくと、右有給休暇のカツトも又原告の本件損害と認めるのが相当であるところ、原告は、本訴において、右損害として金二六万六六六〇円を請求しているから、右範囲で右喪失損を認める。
(四) 退職金減額損 金九万三七八六円
前掲甲第二二号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二三号証、原告本人の右供述によれば、原告が前記訴外会社を六〇歳で停年退職する場合、受領すべき退職金が本件事故の受傷による欠勤のため金一三万六〇〇〇円減額されることが認められる。
そこで、右減額分の現価額をホフマン式計算法により中間利息を控除して算定すると、金九万三七八六円となる。
〔金一三万六〇〇〇円×〇・六八九六(九年)=金九万三七八六円。ただし、〇・六八九六はホフマン係数。この方式は、原告の主張に基づく。〕
6 本件後遺障害による逸失利益 金一〇〇四万六二〇〇円
(一) 原告に前記後遺障害が残存することは、当事者間に争いがなく、右後遺障害がその障害等級一二級六号に該当することは、前記認定のとおりである。
(二)(1) 成立に争いのない甲第一号証、第一七、第一八号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和一〇年一一月一一日生の男子で、本件事故当時健康であつたこと、原告は、本件後遺障害の存在によりその就労上不利益な取扱いを受け、したがつて、その収入も本件事故前に比べて減少していること、原告の勤務する前記会社は六〇歳をもつて停年と定めていること、原告は、右会社を停年退職しても、右会社で従事した作業と同種の作業を求め、就労する積りであることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(2) 右認定事実に基づくと、原告は本件後遺障害により現実に利益を喪失しているというべきところ、右労働能力の喪失率は、所謂労働能力喪失率表を参酌して、一四パーセントと認めるのが相当である。
(3) 昭和六一年度簡易生命表によれば、原告の平均余命は二七・〇六歳(ただし、本件症状固定時を基準とする。)と認められるから、原告の就労可能年数は六七歳までの一六年と認めるのが相当である。
(三) 前掲甲第一七号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告の本件事故前一か年間の収入(給与・賞与)は、金六二二万〇二四二円であることが、認められ右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(四) 右認定の各事実を基礎として、原告の本件後遺障害による過失利益の現価額を算定すると、金一〇〇四万六二〇〇円となる。
(金六二二万〇二四二円×一四パーセント×一一・五三六三=金一〇〇四万六二〇〇円。ただし、一一・五三六三は、新ホフマン係数。)
7 慰謝料 金三〇二万円
(一) 入通院分 金一一四万円
原告の本件受傷の部位・程度、入通院期間は、前記認定のとおりである。
右認定事実に基づけば、原告の本件入通院分慰謝料は、金一一四万円が相当である。
(二) 後遺障害分 金一八八万円
原告にその障害等級一二級六号該当の後遺障害が残存することは、前記認定のとおりである。
右認定事実に基づけば、原告の本件後遺障害分慰謝料は、金一八八万円が相当である。
8 以上の認定を総合すると、原告の本件損害額の総計は、金一六二五万八五六六円となる。
三 抗弁に対する判断
1 過失相殺
(一) 抗弁事実中本件交差点が交通整理の行われていない交差点であること、原告が本件事故直前本件交差点の南北道路を南進して右交差点に進入したことは、当事者間に争いがない。
(二) 成立に争いのない乙第二号証、乙第四号証及び弁論の全趣旨を総合すると、原告車が進行した道路と被告車の進行した道路の幅員はほぼ同じであること、原告車の進行道路から本件交差点の南北道路の交通状況の見通し(原告車を基準にすると、右道路の左右の見通し。)は不良であること、原告は、本件事故直前時速約三〇キロメートルで東西道路を東進し、本件交差点に進入するに際し、右交差点入口附近で一旦停止をしたものの自車左方の安全を確認せず、時速約五キロメートルないし一〇キロメートルの速度で右交差点に進入して、その結果、本件事故が発生したことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は、前掲各証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(三)(1) 右認定事実に基づくと、原告は、本件事故直前本件交差点に進入するに際しさらに自車左方からの進来車両の有無に注意していつでも停止しうる状態で安全を確認しながら右交差点に進入すべき注意義務を負つていたというべきところ、同人は、右注意義務を怠つて、右説示にかかる安全確認等をせず、漫然と右交差点に進入し、本件事故を惹起した、したがつて、本件事故の発生には、原告の過失も寄与している、というのが相当である。
よつて、原告の右過失は、同人の本件損害を算定するに当り斟酌すべきである。
(2) しかして、右認定事実と当事者間に争いのない原告車被告車の車種の相異を合せ考えると、原告の本件過失は、全体に対し二割と認めるのが相当である。
(四) そこで、前記認定にかかる原告の本件損害総額金一六二五万八五六六円を、原告の右過失割合で所謂過失相殺すると、原告が被告に請求し得る本件損害額は、金一三〇〇万六八五二円となる。
2 損害の填補
(一) 抗弁事実は、当事者間に争いがない。
(二) そこで、原告の受領金金三六七万三六六〇円を、本件損害の填補として、原告の本件損害額金一三〇〇万六八五二円から控除すると、その残額は、金九三三万三一九二円となる。
四 弁護士費用 金九三万円
弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らにおいて本件損害の賠償を任意に履行しないため、弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件事案の内容、その審理経過、前記認容額等に照らすと本件事故と相当因果関係に立つ損害としての弁護士費用額は、金九三万円と認めるのが相当である。
五 結論
1 以上の次第で、原告は、被告らに対して、本件損害として、各自金一〇二六万三一九二円及びこれに対する本件事故当日であることが当事者間に争いのない昭和六一年六月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべく求める権利を有する、というべきである。
2 よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度で理由があるからその範囲内でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鳥飼英助)