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神戸地方裁判所 昭和62年(ワ)1668号 判決 1993年8月23日

原告

前田頼市(X)

(ほか一八名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

藤木邦顕

高橋典明

被告

西脇市(Y1)

右代表者市長

石野重則

被告

阿江善太郎(Y2)

右被告ら訴訟代理人弁護士

荒木重信

被告

池田弘(Y3)

右訴訟代理人弁護士

神垣守

理由

一1  請求原因1のうち、(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

2  〔証拠略〕によれば、請求原因1の(四)の事実(原告らが、いずれも、本件地区計画において、道路予定地とされている別紙一覧表記載のとおりの土地所有者であること)を認めることができる。

3  請求原因2の(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件地区計画について

1  右一の事実及び証拠によれば、本件地区計画決定に至る経過に関して、次の各事実が認められる(一部、当事者間に争いがない事実も含む。)。

(一)  昭和六〇年二月一三日、郷瀬町から区長であった被告阿江及び主に同町内に事業所を有する者ら一〇名から西脇市議会議長に宛てて、「用途地域見直しの陳情書」が提出された。右陳情書は、郷瀬町内の市民会館横から春日橋に至る国道沿いの地域で住居地域に指定されている地域を準工業地域に変更することを求めるものであった。右用途地域の変更は、それ以前に、二度にわたり、同町の住居地域内に工場を有する釣針会社がまかつの工場増設のために煩瑣な手続を踏まなければならなかったことが契機となったものであった。しかし、右陳情に係る事項は、西脇市単独では対応できない問題であったため、市では兵庫県とも相談した結果、次回の用途地域の見直し時期である昭和六三年度に検討することとした。〔証拠略〕

(二)  昭和六一年三月一四日、郷瀬町地区区長、同土木委員長、農会長、同町第一隣保班から第七隣保班までの各班長の連名で、西脇市長及び西脇市議会議長に宛てて、再び、用途地域変更に関する「陳情書」が提出された。その内容は、西脇市における現行の用途地域が実情からかけ離れていて非常に不合理であり、特に、郷瀬町の住居地域について準工業地域に変更することを求めるものであった。〔証拠略〕

右陳情書の文案は、同年二月ころ、被告阿江らからの依頼で、被告池田において作成した。〔証拠略〕

そして、右陳情書に記載されている同町第一隣保班から第七隣保班までの各班長の署名のうち、第四隣保班長仲埜驥三及び第五隣保班長前田延夫の署名は、右各本人の自署ではなかったし、また第七隣保班長として西田武の署名がされていたが、同人は、実際には第七隣保班長ではなく、高瀬博好がその班長であった。なお、その後、前田延夫は、右陳情書において、自らの署名押印を偽造されたとして、有印私文書偽造同行使により偽造者を告訴したところ、右前田の署名押印は、当時の区長であった被告阿江においてその次女藤本ちゑ子に指示して偽造、提出したものであるとして、被告阿江は、平成元年一二月二二日神戸地方裁判所姫路支部に起訴され、平成二年六月一四日、懲役一〇月執行猶予三年の判決を受け、同判決は確定した。〔証拠略〕

(三)  右陳情書について、西脇市議会では、建設経済常任委員会において検討したところ、委員会全員の賛成で、市議会の意見書として提出するのが相当であるとの結論に達した。被告池田も同委員会の委員であった。そして、同委員会の意向を受けて市議会事務局において文案を作成した「都市計画用途地域の見直し等に関する意見書」が、同委員会名で本会議に上程され、右意見書は、昭和六一年三月二六日、西脇市議会で採択された。当時、被告池田は、市議会の議長であったため、意見書の採決には、加わらなかった。〔証拠略〕

(四)  右意見書は、被告西脇市から兵庫県及び建設省に送付されたが、被告池田は、当時の市議会副議長とともに、兵庫県庁に赴いた際、担当課に対し、意見書に記載されている事項について、配慮を求めることを口頭で願い出た。これに対し、県庁の担当者は、検討しておく旨答えた。〔証拠略〕

(五)  その後、兵庫県と被告西脇市の担当者間で話合いが行われ、県側から、用途地域の変更という形では困難であるが、都市計画法上、地区計画という制度があり、限られた地域の街づくりの手法としては、この制度が相当であること、右地区計画によれば、地域の現状にあった土地利用の計画ができること、等の指導がされた。被告西脇市では、右指導に基づき、郷瀬町の陳情がされた地域について、地区計画を立案する方向で検討を開始した。〔証拠略〕

(六)  同年六月一六日、郷瀬町の地元の要請に基づき、同町公民館において、被告西脇市側から住民に対する郷瀬町地区計画の説明会が開催された。右説明会には、地元から同町の役員及び隣保班の班長ら一一名が出席した。〔証拠略〕

(七)  同年七月二五日、西脇市議会において、「西脇市地区計画等の案の作成手続きに関する条例」が可決され、同年七月二八日、右条例は公布、施行された。〔証拠略〕

(八)  同年八月一九日、郷瀬町公民館において、被告西脇市側から地元に対する地区計画に関する二回目の説明会が開催された。右説明会には、地元から一三名が出席した。〔証拠略〕

(九)  同年九月五日、前記条例に基づいて、被告西脇市による本件地区計画の原案の縦覧の公告がされ、同月六日から同月一九日まで一四日間、右条例に基づく本件地区計画原案の縦覧が行われた。これに対して、縦覧者もなく、また意見を提出した者もなかった。〔証拠略〕

(一〇)  被告西脇市では、事前協議のため、兵庫県の出先機関である県土木事務所等を経て、兵庫県知事に対し、本件地区計画の原案を提出し、同年九月三〇日、同知事から回答を得た。〔証拠略〕

(一一)  被告西脇市は、同年一〇月三日、本件地区計画について、都市計画法に基づく地区計画の案の告示を行った(西脇市告示第八一号)。そして、同年一〇月四日から同月一七日までの一四日間、都市計画法に基づく「東播都市計画地区計画、郷瀬地区地区計画」の案の縦覧が行われた。〔証拠略〕

また、これとともに、兵庫県は、右に関する都市計画の用途地域の変更に関する知事案を作成し、同年一〇月三日、これを告示(兵庫県告示第一五〇九号)するとともに、同年一〇月四日から同月一七日までの一四日間、右と同様に右案の縦覧が行われた。〔証拠略〕

右郷瀬地区地区計画及び用途地域の変更に関する縦覧は、被告西脇市の広報である「わがまちにしわき」に掲載され、かつ、縦覧は西脇市役所において行われた。右縦覧において、地区計画については、約一〇名の縦覧者があったが、意見書を提出した者はなく、用途地域の変更については、縦覧者も意見書の提出者もなかった。〔証拠略〕

(一二)  同年一〇月一二日、西脇市都市計画審議会が開催され、被告西脇市の担当者から、審議会の委員に対して、本件地区計画について説明がされた。その中で、右担当者から、地元の土地所有者らから取得した地区計画についての同意に関する書面を提出された。右同意書は、市の担当者が同年九月から一〇月初めにかけて、地元住民に地区計画を十分に周知させるという趣旨で、地元の区長を通じて、住民から署名押印を得たものであるとの説明がされた。そして、審議の結果、右審議会は、本件地区計画について、これを承認する旨の答申をした。〔証拠略〕

(一三)  被告西脇市は、右答申に基づき、県の土木事務所を通じて、兵庫県知事に対し、本件地区計画の承認申請をし、これを受けて、同年一一月二二日、同知事からの承認があり、同年一二月一二日、「東播都市計画地区計画、郷瀬地区地区計画」について告示がされた。〔証拠略〕

(一四)  西脇市議会は、昭和六二年三月二七日、被告西脇市に対して、「地区計画の慎重な対応を求める要望書」を提出した。その中で、同市議会は、本件地区計画が地域住民の合意を得ないまま計画決定したことに遺憾の意を表明し、改めて地域住民の意向を聴取し、その同意が得られるまで、地域内のすべての用途変更に伴う開発行為を凍結するよう強く要望するとの考えを明らかにした。〔証拠略〕

(一五)  西脇市議会は、昭和六三年に郷瀬地区調査特別委員会を設置し、平成二年五月一四日に中間報告を採択した。〔証拠略〕

2  〔証拠略〕によれば、本件地区計画の概要は、次のとおりであると認められる。

(一)  本件地区計画は、その正式名称を「郷瀬地区地区計画」といい、その対象区域は、西脇市郷瀬町字五田井、樋ノ内、庵ノ下、前田、大藪、杖ノ尻、新土手、流期及び欠渡にある約一五ヘクタールの面積を有する地域である。

(二)  右対象地域は、西脇市の市街化区域の北部に位置し、住宅、地場産業の工場等及び農地が存在する地域である。そこで、本件地区計画の目標として、無秩序な市街地形成を防止するとともに、住工混在により発生する弊害の解消に努め、うるおいと活力のある健全な市街地の形成を図ることが掲げられている。

(三)  土地利用の方針として、地区周辺環境への配慮を行うとともに、地区内の居住環境と生産環境が調和した土地利用とするため、当地区を、主として住宅の環境を保全するとともに地場産業の利便を図る住工協調地区、主として沿道サービス業務を促進させる住商協調地区、主として地場産業の利便性を増進させる工業地区に細区分する、とされている。

(四)  具体的な内容として、地区の細区分の目的に応じ、建築物の用途の制限を行うとともに、大規模建築物については、周辺に対して景観上の配慮を行うものとされ、また、居住環境と生産環境の調和を図るため、かき又はさくの構造の制限を行うという方針をとることとされた。

3  都市計画法の条文及び〔証拠略〕によれば、本件訴訟で問題とされている地区計画に関する都市計画法(但し、昭和五五年法三五号による改正後のもの。以下、単に「法」ともいう。)の概要は、次のとおりである。

(一)  地区計画は、法に基づく都市計画の一貫として、建築物の建築形態、「公共施設、その他の施設の配置等からみて、一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し、及び保全するための計画」である。

地区計画は、区画整理事業等の市街地開発事業が行われる区域又は行われた区域、現在市街化しつつあり、又は市街化が確実と見込まれる区域及び既にすぐれた居住環境が形づくられている区域を対象としており、市町村は、これらの区域において、その整備及び保存を図るため必要と認められる場合には、都市計画に地区計画を定めることができる(法一二条の四第三項)。

(二)  地区計画に関する都市計画には、地区計画の目標、当該区域の整備、開発及び保全の方針を定めることとし、その地区整備計画には、地区計画の全部又は一部について、地区施設の配置及び規模、建築物等及び建築物の敷地に関する事項その他土地の利用に関する事項を一体的に定めることとされている(法一二条の四第二項、第四項、第五項)。

(三)  地区計画の区域のうち、地区整備計画が定められている区域内において、土地の区画形質の変更、建築物の建築等を行おうとする者は、その行為に着手する日の三〇日前までに行為の種類、場所、設計又は施行方法、着手予定日等の事項を市町村長に届け出なければならない(法五八条の二第一項)。

市野村長は、これらの届出があった場合において、その届出に係る行為が地区計画に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、その届出に係る行為に関し、設計の変更その他の必要な措置を執ることを勧告することができる(法五八条の二第三項)。

三  原告ら主張の手続的違法事由について

1  陳情書の偽造について

(一)  前記認定のとおり、用途地域の見直しに関する昭和六一年三月一四日付けの陳情書に記載されている郷瀬町の隣保班の各班長の署名中には偽造されたものがあり、被告阿江は、前田延夫の署名押印を偽造したことにより、有罪判決を受けていることが認められる。

しかし、右陳情書の作成者とされた隣保班の班長のうち一部の者が実際には署名押印していなかったのであるが、前記認定の事実から明らかなとおり、自ら署名押印していない隣保班長は、郷瀬町第一隣保班から第七隣保班までの班長のうち三名にとどまっており、かつ最終的に刑事事件において署名押印が偽造とされたのは、そのうちの一名についてのみであって、その他の署名押印に関しては特に刑事事件として立件されていないのである。

また、そもそも、右陳情書中に記載されている隣保班長の署名押印の一部について偽造とされ、刑事事件にまで至ったのであるが、その後の経緯に照らすと、陳情書に記載された内容が、郷瀬町全体の意向を正確に反映していなかったとまで断ずることはできない。

(二)  次に、本件地区計画策定に至る経緯において認定したところから明らかなように、右陳述書が地区計画の出発点であり、これが西脇市議会に提出されたことに始まって、地区計画の策定にまで至ったという評価を加えることは可能である。

しかし、そもそも陳情書自体は、単なる住民意思の表明に過ぎないもので、右陳情書も本件地区計画策定の端著に過ぎず、これに対して西脇市議会において検討を加え、用途地域の見直しに関する意見書を取りまとめ、これを受けて被告西脇市が地区計画の策定作業に入ったのであって、陳情書の記載が地区計画の内容そのものでもないし、陳情書に見られる地元の意向を尊重しつつも、地区計画自体は、被告西脇市において、行政的見地から判断を加えて発案したものであることは当然であり、その上で、市議会の同意を得て告示に至ったものであって陳情書の一部の署名が偽造されたことから、直ちに地区計画の策定及びその内容の違法を導き出すことは早計である。

したがって、陳情書の一部に偽造が認められたことから、直ちに、地区計画の策定及びその内容が違法であるとの結論を導き出すことはできないといわなければならない。

2  説明会の不開催

(一)  原告らは、被告西脇市が、昭和六一年六月一八日、同年八月一九日に説明会を開催したと、市都市計画審議会において担当者に説明させているが、右二回の説明会は架空のものであり、本件地区計画が問題となった後の西脇市議会建設常任委員会において、被告の担当職員がこれを認めている旨主張する。

(二)  まず、昭和六一年六月一八日に開催された説明会であるが、前記認定のとおり、右説明会には、地元から同町の役員及び隣保班の班長ら一一名が出席している。

ところで、〔証拠略〕によれば、郷瀬町において、役員とは、役員名簿に記載された者三四名を指していることが認められる。

しかし、本件地区計画の対象地に含まれる地域として、地区計画に直接関係を有する地域は、二〇の隣保班のうち、七隣保班に過ぎず、その関係隣保班の役員は、右説明会に相当数出席していることが認められる。

したがって、郷瀬町の役員全員が出席していなかったからといって、右説明会が開催されなかったと同視することはできないといわなければならない。

(三)  次に、前記認定のとおり、同年八月一九日に二回目の説明会が開催され、かつ、この説明会には、地元から一三名が出席したことが認められる。

ところで、右説明会に出席した町民の数について、〔証拠略〕によれば、被告西脇市の今中係長は、本件訴訟に先立つ行政訴訟において、人数が少なく、不安をおぼえた旨証言している。

しかし、今中係長の右証言も、右説明会に出席した住民の人数の少ないことに懸念を表明したものに過ぎず、それ以上に説明会が開催されなかったとか、またはその開催手続に違法不当な点があったということを述べるものではない。

したがって、出席者の数が一三名であることから、同年八月一九日に二回目の説明会が開催されなかったということはできない。

(四)  このように、右二回の説明会は、その出席人数があまり多くなかったのであるが、そのことから説明会が開催されていないと解することができないし、また、都市計画の用途地域の変更及び地区計画の策定に当たり、良好な街づくりを目指す地区計画制度の趣旨に照らすと、住民に対する説明は不可欠であり、その上で住民の意見を聴取し、かつその意向をできる限り尊重すべきであるが、具体的に、地元住民に対し、どのような形で周知徹底を図り、その意見を聞くかについては、法に定められている縦覧等の手続の外は、原則として行政側の裁量に委ねられており、説明会の回数、出席者の人数から直ちにその手続が違法なものとなるということはできない。

3  都市計画法に基づく原案の縦覧に関する広報について

(一)  原告らは、都市計画法に基づく原案の縦覧の広報も全く不十分であり、実質的には縦覧手続をとっていないに等しく、実際に、地区計画案の縦覧をしたのは、被告阿江を始めがまかつと関連を持つ者ばかりであり、原告らを含む一般の市民は縦覧の事実すら知らなかった旨主張する。

(二)  前記認定のとおり、被告西脇市は、昭和六一年一〇月三日、本件地区計画について、都市計画法に基づく地区計画の案の告示を行い(西脇市告示第八一号)、同年一〇月四日から同月一七日までの一四日間、同法に基づく「東播都市計画地区計画、郷瀬地区地区計画」の案の縦覧が行われたこと、これとともに、兵庫県は、右に関する都市計画の用途地域の変更に関する知事案を作成し、同年一〇月三日、告示(兵庫県告示第一五〇九号)をするとともに、同年一〇月四日から同月一七日までの一四日間、右と同様に右案の縦覧が行われたこと、右いずれの縦覧に関しても、被告西脇市の広報に掲載されたこと、縦覧は西脇市役所において行われたこと、地区計画については、約一〇名の縦覧者があったが、意見書を提出した者はなく、また、用途地域の変更については、縦覧者も意見書の提出者もなかったことが認められる。

(三)  右縦覧に関する広報については、〔証拠略〕によれば、同市の広報である「わがまちにしわき」の昭和六一年一〇月号の一六頁に及ぶ紙面の中の九頁目の三段目から四段目にかけて、見出しも含め一五行の記事として、掲載されたことが認められる。

地区計画が地域住民にとって相当大きな関心事であることに照らすと、これに関する広報は、広報誌の中で不当に小さく扱われることがないようにすべきであることは当然であるが、市政全般について市民に広く知らせることを目的とする広報誌にあっては、通常の記事として、法所定の事項が掲載されていれば足り、法所定の事項が掲載されていないとか、閲読する側において見過ごしてしまうほどの小さな記事である等の事情がない限り、特に違法不当は生じないと解すべきである。

そうすると、右の程度の記事の扱いは、特に違法不当な疑いを生じさせるものではないといわなければならない。

(四)  また、〔証拠略〕には、縦覧者の氏名が記載されているが、弁論の全趣旨によれば、右に記載された縦覧者一〇名のうち、がまかつの従業員は古田春夫、下井良次及び荒木徹の三名であり、他の七名はがまかつの従業員ではないこと、古田春夫は地権者でもあったこと、右一〇名中には他には地権者である西田武も含まれていたこと、が認められる。

そうすると、縦覧者はすべてがまかつの関係者であるとする原告らの主張は事実に基づくものということができず、この点についての原告らの主張は採用することができない。

(五)  したがって、この点について、原告ら主張の違法不当な点を認めることはできない。

4  提出された意見書の取扱いについて

(一)  原告らは、地区計画案の縦覧に対し、意見書が提出されたにもかかわらず、これが都市計画審議会に提出されず、住民は地区計画案に対する意見表明の機会を奪われた旨主張する。

(二)  この点に関して、昭和六二年三月一七日に開催された西脇市議会建設経済常任委員会記録〔証拠略〕には、被告西脇市の大谷康夫課長の発言として、「一〇月一八日から一〇月二四日まで二週間の都市計画法に基づく案の縦覧につきましては縦覧者が一〇名ございまして意見書の提出がなされております」と記載されている。

右記録について、大谷課長は、被告西脇市の代理人に対する陳述書〔証拠略〕において、右は「私の言い間違いであり、正しくは、『都市計画法に基づく案の縦覧については、昭和六一年一〇月四日から一〇月一七日までの二週間行い、期間中の縦覧者は一〇名でした。なお、意見書の提出はありませんでした。』とすべきものでありました。」と訂正している。

(三)  西脇市議会建設経済常任委員会における大谷課長の右発言は、本件地区計画の策定から同日までに至る経緯について説明した際のものであるが、一〇月一八日から一〇月二四日までを二週間としているなど、明白な誤りがある。また、前記認定によれば、右縦覧において意見書を提出した者はなかったと認められる。さらに、甲第二六号証によれば、被告西脇市の担当者である今中敏一係長は、昭和六二年一〇月二一日の都市計画審議会において、縦覧を同月四日から同月一七日まで行い、一〇名の縦覧者がいたが、意見書を提出した者はなかった旨を説明しているのである。

(四)  以上によれば、縦覧において意見書を提出した者はなかったのであるから、この点についての原告らの主張は採用することができない。

5  仮同意書の取付けについて

(一)  前記認定のとおり、昭和六一年一〇月二一日に開催された西脇市都市計画審議会において、被告西脇市の担当者から提出された地元の土地所有者らの地区計画についての同意に関する書面(仮同意書)は、市の担当者が同年九月から一〇月初めにかけて、郷瀬町の地元住民に地区計画を十分に周知させるという趣旨で、地元の区長を通じて、住民から署名押印を得たものである。

そして、〔証拠略〕によれば、都市計画法上、地区計画を定める段階では、住民の同意は要求されていないが、被告西脇市の担当者において、住民に対し地区計画の内容を周知させ、事業の円滑な進行を図ることを目的として、この段階で住民から同意書に押印を得たものであることが認められる。

(二)  〔証拠略〕によれば、被告西脇市の担当者である今中敏一係長は、右都市計画審議会において、仮同意を得た住民の数につき、道路予定地の地権者は五一名、七七筆であり、そのうち、四三名の同意が得られており、その余の八名についても一週間位で同意が得られる見込みである旨説明していることが認められる。

右説明に関して、〔証拠略〕によれば、今中係長は、同意書を実際に見たのは三〇枚程度であって、被告阿江から、四三名の同意が得られており、その余の八名についても一週間位で同意が得られる見込みであることを聞いた旨供述している。また、〔証拠略〕によれば、被告阿江は、二〇数通の同意書を被告西脇市に提出したが、口頭で、四三名の同意が得られる予定であるという話をした旨供述している。

(三)  〔証拠略〕によれば、右同意に関する書面の用紙は、同人が市の担当者である今中係長から受領したものであること、被告阿江が各地権者宅を回って地権者から右用紙に判を得たものであること、各地権者宅を訪れた際、地区計画の縦覧に関する市の広報を持参し、詳細は市に行って縦覧してほしい旨の説明をしたにとどまっていること、右同意に関する書面に押印している住民は、共有者も含め延べ二六名、筆数にして四六筆であること、署名を得た者以外には原告徳岡信からいったん同意の押印を得たが、同人からの申し出により同意書を同人に返還したこと、五、六名の地権者は、被告阿江の要請に応じず、同意書に押印しなかったことが認められる。

(四)  〔証拠略〕によれば、右同意書は、印刷部分を除く番号、地名地番、地目、権利の種類、住所及び氏名について、いずれも同一人と思われる者の手により記入されたものであることが認められる。そして、〔証拠略〕によれば、右同意書は、各地権者から押印してもらったに過ぎず、署名をさせたものではないことが認められる。

(五)  以上の事実によれば、被告阿江が道路予定地の地権者から同意書に押印してもらった際に地権者らに対して行った説明は必ずしも十分なものということはできず、地権者らにおいて押印する意味を完全に理解していたとまでいうことはできない。しかし、地権者の中には、同意書に押印しなかった者も数名いること、原告徳岡信は、いったん押印したが後に同意書の返還を求めていること等の事実によれば、地権者らが事情をまったく理解しないで被告阿江の言うがままに同意書に押印したものとも認められない。

また、右同意書の取得に関して、被告阿江が被告西脇市の担当者である今中係長に対して行った説明は、同意をした地権者の人数についてかなり誇張した点が見受けられるが、少なくとも人数又は筆数の上で半数を超える地権者から同意書を得ているのであるから、同意者の数に正確さを欠く説明があったとしても、そのことをもって直ちに都市計画審議会の審議及びその結果について違法な点があったということはできない。

さらに、右同意書は、各地権者から同意書の地権者の名下に押印してもらったものであり、署名までさせたものではないが、右同意は、法律上要求されているものではなく、単に地域住民の動向を知る資料に過ぎないから、その方式として、署名がないからといって、そのことから、同意の効力がないということもできない。

したがって、この点に関する原告らの主張は採用することができない。

6  前記認定及び右に説示したところによれば、本件地区計画決定に至る手続のうち、地域住民の意思を確認する手続において、いささか問題と思われる点が見受けられなくもないが、計画決定に至る手続は、都市計画法及び市の条例に則って行われたもので、違法とまで評する点は認めることができず、原告らの主張はいずれも採用することができない。

四  原告ら主張の実体的違法事由について

1  用途地域の変更のために地区計画制度を利用したとの主張について

(一)  原告らは、本件地区計画は、地区計画の本来の目的である比較的小規模な区域において地域の実情に応じた市街地を形成させたり、有効な土地利用を促進させたりする目的、すなわち、居住者にとって有益な街づくりを進めるという趣旨を離れ、用途地域を変更する方便として地区計画制度を利用したもので、しかも、用途地域変更の目的が達せられた後は、何ら地区整備計画の実行を図らないことが被告の担当者により公言されている旨主張する。

(二)  前記二に認定のとおり、本件において、地元である郷瀬町の区長であった被告阿江を含む住民から最初に提出された陳情書は、同町における用途地域の見直しに関するもの、具体的には、同町内の市民会館横から春日橋に至る国道沿いの地域で住居地域に指定されている地域を準工業地域に変更することを求めるものであり、右陳情を受けた西脇市議会で採択された意見書もまた都市計画用途地域の見直しに関するものであったところ、用途地域の変更について権限を有する兵庫県の担当者との話合いの中で、県側から、限られた地域の街づくりの手法としては地区計画という制度が相当であるとの指導があったため、被告西脇市では、右指導に従い、地区計画を策定する方向で手続を進めたこと、これとともに、用途地域の変更についても所要の手続が進められたことが認められる。

(三)  そもそも、用途地域は、都市計画法に基づき、市街地の土地の合理的な利用及びそれぞれの地域に適合した環境の維持形成を図るため、建築物を媒介としてその利用、容積、形態等に関して一定の制限を加える地域地区制度の中心となる制度であり、多種多様な用途の建築物のうちで利害の共通する種類の用途のものをなるべく同じ地域に立地させ、逆に利害の相反するものをなるべく同じ地域に立地させないようにし、もって用途の混在を防ぐことを目的とするものである。

これに対し、地区計画は、同じく都市計画法に基づく制度であるが、用途地域のように都市全体に関する土地利用計画ではなく、個々の地域において、よりきめ細かく生活環境を整備し保全するための制度であり、具体的には、地区施設の配置及び規模を定めたり、建築物の用途の制限、容積率の最高又は最低限度、建ぺい率の最高限度等建築物及びその敷地の制限に関する事項を定めることを内容とするものである。

(四)  このように、既に都市計画として定められている用途地域を変更することと、新たに地区計画を定めることは、それぞれ内容を異にするものではあるが、同じ都市計画法に根拠を有する制度であり、最終的には、より良い街づくりを目指すための制度であって、その基盤には共通した面があることは否定できない。そして、本件は、当初、用途地域の変更を求める陳情から始まったのであるが、県の指導により、地区計画という制度を利用し、同計画を策定することとなったのであり、しかも、用途地域の変更についても、被告西脇市の意向を受けて権限を有する兵庫県において手続を進めたのである。

したがって、原告らが主張するように、用途地域の変更に代えて地区計画という制度を悪用したという評価を与えることはできないし、かつ、用途地域の変更についても手続が進められたのであるから、用途地域の変更に代えて地区計画を採用したということもできない。また、本件では、都市計画全般につき権限と責務を有する兵庫県の指導に基づき、地区計画という制度を定める手法を採用したのであるから、被告西脇市の独断によるものでもない。

なお、原告らが主張している、用途地域変更の目的が達せられた後は何ら地区整備計画の実行を図らないことが被告西脇市の担当者により公言されているという点について、被告西脇市は、現在までの手続は無にはできないが、今後に残されている道路計画については白紙に戻し、改めてどこに道路を設置するかは、住民意思を尊重して手続を進めていくという趣旨の提案をしたものである旨主張しており、このような主張は何ら不合理であるということができないから、原告らの主張を直ちに採用することはできない。

よって、この点についての原告らの主張は採用することができない。

2  本件地区計画により利益を享受したのはがまかつのみであるとの主張について

(一)  原告らは、用途地域の変更も、本件地区計画区域内に工場を有するがまかつの工場増設を容易にすることのみを目的としたもので、かつ、実際に本件地区計画により利益を享受したのは、がまかつのみであり、住民の利益は何ら省みられなかった旨主張する。

(二)  前記二で認定した事実及び〔証拠略〕によれば、本件では、まず、用途地域の変更は、以前に二度にわたり、郷瀬町の住居地域内に工場を有する釣針会社がまかつの工場増設のために煩瑣な手続を踏まなければならなかったことが契機となり、同町の市民会館横から春日橋に至る国道沿いの住居地域について準工業地域への用途地域の変更を求める陳情から始まったものであり、その陳情書には、他の商店、事業所とともにがまかつも名を連ねていることが認められる。

(三)  右認定事実から明らかなように、本件では、用途地域の変更の要望は、がまかつの工場増設が契機となったものである。しかし、被告阿江本人尋問の結果によれば、がまかつの工場増設問題は、過去に二度にわたり生じており、その都度、法の定める手続を経た上で建築に至っていることが認められるし、また、右陳情が出された昭和六〇年から昭和六一年ころにかけて、がまかつの工場増設が緊急の課題となっていたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、がまかつの工場増設は、本件において、被告阿江らが行った陳情の単なる端著となったに過ぎず、がまかつの利益のみを図ることを目的としたことを窺わせる証拠はない。

(四)  以上によれば、原告らの右主張は採用することができない。

五  被告阿江の責任について

1  陳情書の偽造について

(一)  前記二で認定のとおり、用途地域の見直しに関する昭和六一年三月一四日付けの陳情書に記載されている同町第一隣保班から第七隣保班までの各班長の署名のうち、第四隣保班長仲埜驥三及び第五隣保班長前田延夫の署名は、右各本人の自署ではなく、また第七隣保班長としての署名があった西田武は、実際には第七隣保班長ではなかったし、被告阿江は、前田延夫の署名押印を偽造したとして、有罪判決を受けている。

しかし、前記「三 原告ら主張の手続的違法事由について」で述べたとおり、右陳情書の作成者とされた隣保班の班長のうち、自ら署名押印していない隣保班長は、郷瀬町第一隣保班から第七隣保班までの班長のうち三名にとどまっており、かつ最終的に刑事事件において署名押印が偽造とされたのは、そのうち一名についてのみであって、その他の署名押印に関しては特に刑事事件として立件されていないし、また、その後の経緯に照らすと、陳情書に記載された内容が、郷瀬町全体の意向を正確に反映していなかったとまで断ずることはできないのである。

(二)  同様に、前記「三 原告ら主張の手続的違法事由について」で述べたとおり、右陳情書が、地区計画策定の出発点であったことは確かであるが、そもそも陳情書自体は、単なる住民意思の表明に過ぎないもので、右陳情書も本件地区計画策定の端著に過ぎず、これに対して西脇市議会において検討を加え、用途地域の見直しに関する意見書を取りまとめ、これを受けて被告西脇市が地区計画の策定作業に入ったのであって、陳情書の記載が地区計画の内容そのものでもないし、陳情書に見られる地元の意向を尊重しつつも、地区計画自体は、被告西脇市において、行政的見地から判断を加えて発案したものであることは当然であり、その上で、市議会の同意を得て告示に至ったものであって、陳情書の一部の署名が偽造されたことから、直ちに地区計画の策定及びその内容の違法を導き出すことができないことはいうまでもない。

したがって、被告阿江において、陳情書の一部を偽造した事実が認められたことから、直ちに、地区計画の策定及びその内容が違法であり、かつ、それについて被告阿江が原告らに対して損害賠償責任を負うとの結論を導き出すことはできない。

2  地権者の多数が本件地区計画に賛成しているとの外観を作出したとの主張について

(一)  原告らは、被告阿江が故意に住民に対する説明会を開かなかった旨主張する。しかし、既に述べたとおり、昭和六一年六月一八日に第一回目の説明会が開催され、地元から郷瀬町の役員及び隣保班の班長ら一一名が出席していること、同年八月一九日に開催された第二回目の説明会にも地元から一三名が出席しているのである。

したがって、出席者は町の役員に限られてはいたが、説明会は二度にわたって開催されているのであるから、原告らの右主張は採用することができない。

(二)  原告らは、また、被告阿江が、地権者に対して事前に何の情報も与えないままに同意書を徴求してあたかも地権者の多くが本件地区計画に賛成しているかのような外観を作出した旨主張する。

既に述べたとおり、被告阿江が道路予定地の地権者から同意書に押印してもらった際に地権者らに対して行った説明は必ずしも十分なものということはできないが、地権者らが事情をまったく理解しないで被告阿江の言うがままに同意書に押印したものということはできない。また、右同意書の取得に関して、被告阿江から被告西脇市の担当者である今中係長に対して行われた説明は、同意をした地権者の人数についてかなり誇張した点が見受けられるが、少なくとも人数又は筆数の上で半数を超える地権者から承諾書を得ているのであるから、同意者の数に正確さを欠く報告したとしても、そのことをもって直ちに被告阿江の行為が原告らに対する関係で違法であるということはできない。

六  被告池田の責任について

1  陳情書について

(一)  原告らは、被告池田が、用途地域の変更及び地区計画が住民に利益をもたらさず、かつ住民の大多数がその計画案すら知らない状態にあることを熟知しながら、自らが文案を作成し、被告阿江ほかが提出した陳情書を取り上げて、以後率先して地区計画のために職務上の地位を利用して運動した旨主張する。

(二)  前記二で認定したとおり、被告池田は、昭和六一年二月ころ、被告阿江らからの依頼で用途地域の変更を求める陳情書の文案を作成したことが認められる。

(三)  しかし、被告池田において、住民の大多数が用途地域の見直し及び地区計画の案すら知らない状態にあることを熟知していたことを認めるに足りる証拠はない。

かえって、〔証拠略〕によれば、被告池田は、昭和四七年に市会議員に立候補したときから市街化区域の用途地域の見直しを主張してきたことが認められるから、用途地域の具体的な案はともかく、同被告においては、陳情書が提出された以上、住民の多数が用途地域の見直しを求めていると判断したとしても、やむを得ないといわなければならない。

(四)  また、右事情によれば、被告池田において本件の用途地域の見直しが地元に利益をもたらすと信じていたとしても、これまた、やむを得ないと認められる。

(五)  したがって、この点に関する原告らの主張は採用することができない。

2  意見書の採択について

(一)  原告らは、被告池田が、他の五名の市議会議員とともに、昭和六一年三月二六日「都市計画用途地域の見直し等に関する意見書」を作成し、同意見書は同日採択され、市に対し地区計画策定を県に対して用途地域の変更を求めることとなった旨主張する。

(二)  前記二で認定のとおり、被告阿江ほかから提出された陳情書について、西脇市議会建設経済常任委員会の委員全員の賛成で、市議会の意見書として提出するのが相当であるとの結論に達したこと、被告池田も同委員会の委員であったこと、同委員会の意向を受けて市議会事務局において文案を作成した「都市計画用途地域の見直し等に関する意見書」が、同委員会名で本会議に上程され、右意見書は、昭和六一年三月二六日、西脇市議会で採択されたこと、当時、被告池田は、市議会の議長であったため、意見書の採決には、加わらなかったこと、右意見書は、被告西脇市から兵庫県及び建設省に送付されたが、被告池田は、当時の市議会副議長とともに、兵庫県庁に赴き、担当課に対し、意見書に記載されている事項について、配慮を求めることを口頭で願い出たことが認められる。

(三)  右のとおり、被告池田は、地元から提出された陳情書を受け、市議会建設経済常任委員会の委員として意見書の取りまとめに尽力し、採択された意見書に基づき、兵庫県に対していわば陳情に赴いているのであり、用途地域の変更のために行動したと解することができる。

しかし、意見書の採択及びその後の県に対する陳情という行為自体、西脇市議会議員として特に不審なものではなく、この点に関して、違法不当な点を窺うことはできない。

したがって、原告らの右主張は採用することができない。

3  都市計画審議会での発言等について

(一)  〔証拠略〕によれば、被告池田は、昭和六一年一〇月二一日に開催された西脇市都市計画審議会に委員として出席し、「地元から都市計画の変更についての陳情書が出て議会でそれを取り上げ意見書を提出した。住民に対する説明会を二回している。住民の中では賛成の意見が大半である。私も説明会に出席している。」旨発言したことが認められる。そして、前記二で認定のとおり、右審議会の審議に基づき、本件地区計画案を承認する旨の答申が出されたことが認められる。

(二)  原告らは、被告池田の発言中にある説明会は実際には開かれておらず、地元住民が賛成の意向を表明したというのは全くの虚構である旨主張する。

しかし、前記二で認定したところ及び三の2で説示したところによれば、住民に対する説明会の出席者は、主に役員であったが、二回にわたり開催されているのであり、また、地元から用途変更に関する陳情書が提出されていることも前記認定のとおり事実である。

さらに、住民の大半が賛成であるとの点については、被告池田自身において、住民から直接意見を徴収したわけではないが、〔証拠略〕によれば、右審議会において、被告西脇市の今中係長がそれまでの経過を説明し、かつ地権者五一名中、四三名の同意書をもらっており、その余の人からも一週間以内に同意書が得られるという状況になっているとの説明があり、被告池田はその説明を信用したというのである。

前記三の5で説示したとおり、右説明は必ずしも正しいものではなく、同意を得た人数等につき、いささか正確さを欠く点もあるが、全く誤りというものでもない。そして、右の経過に照らすと、被告池田において、右説明を正当と信じたことについては、やむを得ないものがあるといわなければならない。

したがって、被告池田の発言内容のうち、説明会を開催したという点は事実であるし、地元住民の大半が賛成しているとの点については、そのことをもって違法不当ということはできない。

(三)  以上のとおり、被告池田の審議会における発言に違法不当な点があったとは認められない。

(四)  その他、本件地区計画の策定に関する被告池田の行動について、違法不当な点を認めることはできない。

七  損害について

1  以上のとおり、本件地区計画策定に至る被告らの行為について、違法不当な点を認めることはできないのであるが、原告ら主張の損害についても判断することとする。

2  原告らは、地区計画の実施により環境の悪化を甘受しなければならなくなる旨主張する。

しかし、本件地区計画は、無秩序な市街地形成を防止するとともに、住工混在により発生する弊害の解消に努め、うるおいと活力ある健全な市街地の形成を図ることを目標とするものであるところ、その実施によって地域環境が悪化することを認めるに足りる証拠はない。

3  原告らは、道路予定地になったため、予定道路の建築制限、壁面の位置等の制限を受けることとなり、所有土地の売却困難、地価の下落等の不利益が生じている旨主張する。

しかし、本件地区計画においては、地区整備計画の「地区施設の配置及び規模」において、幅員六・五メートル及び四・九メートルの道路を設置することが計画されているが、いまだ具体的に建築基準法上の予定道路の指定はされていない。したがって、土地の売却が困難となったり、地価が下落するということは現時点ではありえないといわなければならない。

4  原告らは、地域共同体の円滑な運営が破壊された旨主張する。

確かに、本件地区計画の策定に至る経過において、住民の間に意見の相違から対立が生じたことが窺えるが、そのことをもって、被告西脇市に対して損害賠償を求める理由とはならないし、被告阿江及び同池田についても、地区計画に対する賛成又は反対という意見の相違を持って損害賠償を求める理由とならないことはいうまでもない。

八  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 吉野孝義 北川和郎)

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