神戸地方裁判所 昭和62年(ワ)62号 判決 1990年10月29日
原告
パロメス株式会社(旧商号株式会社ダイキ)
右代表者代表取締役
筒井龍彦
右訴訟代理人弁護士
石田好孝
同
久岡英樹
右輔佐人弁理士
折寄武士
被告
エンペックス気象計株式会社
右代表者代表取締役
草川幸雄
右訴訟代理人弁護士
青木康
右輔佐人弁理士
荒垣恒輝
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、別紙物件目録(イ)ないし(ハ)記載の各電子晴雨計を製造し、譲渡し、または貸し渡してはならない。
2 被告は、前項の電子晴雨計を廃棄しなければならない。
3 被告は、原告に対し、金九三万円及びこれに対する昭和六二年一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行の宣言。
二 被告
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有する。
発明の名称 電子晴雨計
出願日 昭和五三年八月四日
公告日 昭和五八年八月二五日(公告番号特公昭五八―三八七三三号)
登録日 昭和五九年五月一一日(登録番号特許第一二〇五一〇五号)、但し、原告の譲渡による権利登録は同六一年八月二五日。
特許請求の範囲
「大気圧の絶対値を、目盛板上を回転走査する指針により指示する気圧計と、前記気圧計の指針軸に弾力的に緩装され、該指針軸に追従して回転する検出プレートと、前記検出プレートの左右回転角度を一定に制御するための一対のストッパーと、前記検出プレートが前記ストッパーの一方に当接したときと、離反したときと、他方のストッパーに当接したときと、離反したときに電気信号を出力するがごとき位置に対設した二組のインタラプターと、前記インタラプターの出力信号を処理して四通りの表示ランプL1、L2、L3、L4、を選択的に点燈させるスイッチング回路からなることを特徴とする電子晴雨計。」(別添特許公報の該当欄参照)
2 本件発明の構成要件及び作用効果は次のとおりである。
(一) 構成要件
(1) 大気圧の値を、目盛板3上を回転走査する指針1により指示する気圧計を有し、
(2) 前記気圧計の指針軸2に弾力的に緩装され、該指針軸2に追従して回転する検出プレート4を有し、
(3) 前記検出プレート4の左右回転角度を一定に制御するための一対のストッパーを有し、
(4) 前記検出プレート4が前記ストッパーの一方に当接したときと、離反したときと、他方のストッパーに当接したときと、離反したときに電気信号を出力するがごとき位置に対設した二組のインタラプター11・12を有し、
(5) 前記インタラプター11・12の出力信号を処理して四通りの表示ランプL1、L2、L3、L4を選択的に点燈させるスイッチング回路16を有すること、の五要件から成る。
(二) 作用効果上の特徴
本件発明によれば、大気圧がほぼ四mb上昇もしくは下降すれば、天気変化に影響を及ぼすとの知見を前提に、大気圧の値の変動が気圧計で検出され、その気圧変動に基づき、弱針軸2が正逆に回転し、指針軸2に追従して検出プレート4も回動し、検出プレート4は最大回動角度が前述の一定量(四mb)に相当するようストッパーで接当規制されており、検出プレート4が左右の各回動エンドにあること、及び各回動エンドから離れて中間にあることが左右のインタラプター11・12で検出され、このインタラプターからの出力信号がスイッチング回路で処理されて四通りの表示ランプL1、L2、L3、L4が選択的に点灯(点滅)する。即ち、大気圧が所定値から一定量(四mb)越えて上昇すると、指針軸2を介して検出プレート4が一方の回動エンドに至り、「天気が良くなる」ことを表示するランプL1が点滅し、気圧が上昇し続けても同ランプL1のみが点滅するだけであり、この状態から気圧が下降すると直ちに検出プレート4が一方の回動エンドから離れ、「天気が悪くなる方向へ転向した」ことを表示するランプL3のみが点滅する。この状態から気圧が更に下降して検出プレート4が他方の回動エンドに至ると、「天気が悪くなる」ことを表示するランプL4のみが点滅し、気圧が下降し続けてもランプL4のみが点滅するだけであり、その後に気圧が上昇に転ずると直ちに検出プレート4が他方の回動エンドから離れ、「天気が良くなる方向へ転向した」ことを表示するランプL2のみが点滅する、といったように、気圧計と検出プレートとストッパーとで大気圧を経時的に計測し、この計測結果に基づいてインタラプターでランプL1、L2、L3、L4を選択的に点燈させ、天気傾向を判りやすく知ることができる。
3 被告は、昭和六〇年一〇月頃から別紙物件目録(イ)記載の晴雨計(以下「イ号物件」という。)を業として製造販売している。
4 イ号物件の構成上及び作用効果上の特徴は次のとおりである。
(一) 構成上の特徴
(1) 大気圧の値を検出し、この検出に基づき正逆に回転する回転軸31を備えたアネロイド型の気圧計を有し、
(2) 右気圧計の回転軸31に基端が片持ち状に連結されて、該回転軸31に固定されて回動するスイッチロッド42を有し、
(3) 右スイッチロッドの左右回動角度を一定に接当規制するためのストッパー手段として、黒鉛(導電体)製の接触端子(以下「接触端子」という。)40・41を有する一対の端子板38・39を備え、
(4) 右スイッチロッドが、一方の端子板38の接触端子40に当接したときと、右接触端子40から離反したときと、他方の端子板39の接触端子41に当接したときと、該接触端子41から離反したときに電気信号を出力し、
(5) 右端子板38・39からの出力信号を処理して四通りの表示ランプL1、L2、L3、L4を選択的に点滅させるスイッチング回路を有する。
(二) 作用効果上の特徴
大気圧がほぼmb上昇もしくは下降すれば天気変化に影響を及ぼす、ということを前提に、大気圧の値の変動がアネロイド型の気圧計で検出され、その気圧変動に基づき回転軸31が正逆に回転し、右回転軸に固定されてスイッチロッド42が回動し、右スイッチロッドは最大回動角度が前述の一定量(四mb)に相応するよう左右一対の端子板38・39で接当規制されており、右スイッチロッド42が左右の各回動エンドにあること、及び各回動エンドから離れて中間にあることが左右の端子板38・39で検出され、この端子板からの出力信号がスイッチング回路で処理されて四通りの表示ランプL1、L2、L3、L4が選択的に点滅する。即ち、大気圧が所定値から一定量(四mb)を越えて上昇すると、回転軸31を介して右スイッチロッド42が一方の接触端子40に接触し、「天気が良くなる」ことを表示するランプL1のみが点滅し、気圧が上昇し続けてもL1のみが点滅するだけであり、この状態から気圧が下降すると直ちに右スイッチロッドが一方の接触端子40から離れ、「天気が悪くなる方向へ転向した」ことを表示するランプL3のみが点滅し、この状態から更に気圧が下降して右スイッチロッドが他方の接触端子41に接触するに至ると、「天気が悪くなる」ことを表示するランプL4のみが点滅し、この状態から気圧が下降し続けても、ランプL4のみが点滅するだけで、その後に気圧が上昇に転ずると直ちに右スイッチロッドが他方の接触端子41から離れ、「天気が良くなる方向へ転向した」ことを表示するランプL2のみが点滅するといったように、L1、L2、L3、L4を見るだけで簡単に天気傾向を知ることができる。
5 本件発明とイ号物件の比較
イ号物件の構成(1)ないし(5)は、次のとおり、本件発明の構成要件(1)ないし(5)を充足し、本件発明の作用効果は、同様にイ号物件においても余すところなく認められる。
(1) 本件発明の構成要件(1)において肝要なのは、気圧の絶対値を気圧計で検出し、これに基づき指針軸を気圧の変化に連動させて回動自在とすることにあるのであるから、イ号物件の構成(1)と本件発明の構成要件(1)とは、実質的にみて同一である。
(2) 本件発明の構成要件(2)において重要なことは、気圧の変動で回転する指針軸2に追従して検出プレート4が回動するようにしたことであるから、本件発明の指針軸2、検出プレート4は、イ号物件のそれぞれ回転軸31、スイッチロッド42に相当する。なお、本件発明において、指針軸に検出プレートを弾力的に緩装したのは、気圧が四mbを越えてもなお上昇又は下降していった際に検出プレートを一方の回動エンドに止めておき、次に逆向きに気圧が転向した際には直ちに各回動エンドから離れるようにするためであるから、イ号物件も回転軸31とばね35付きのチェーン32とが同一の機能を果す関係にある。従って、イ号物件の構成(2)と本件発明の構成要件(2)とは、実質的にみて同一である。
(3) 本件発明の構成要件(3)において重要なことは、一定量(四mb)の気圧の変動に相応するように検出プレート4の左右回動角度を一定に制御することにあり、ストッパーはそのための機能を有するものであれば足り、特に限定されないのであるが、イ号物件では左右に離して配置した端子板38・39の接触端子40・41にスイッチロッド42が接当して該スイッチロッドの回動角度を一定に規制しており、この接触端子40・41がストッパーの機能を果している。従って、イ号物件の構成(3)と本件発明の構成要件(3)とは同一である。
(4) 本件発明の構成要件(4)において、検出プレート4をスイッチロッド42と、ストッパーを接触端子40・41とそれぞれ読み替えればイ号物件の構成(4)と同一である。
なお、本件発明におけるインタラプター11・12とは、単にスイッチというも同じであり、イ号物件の接触端子40・41を有する端子板38・39を明らかに含んでいる。
(5) 本件発明の構成要件(5)とイ号物件の構成(5)は同一である。
以上のとおり、イ号物件は本件発明の構成要件を充足する。
6 被告は、昭和五六年頃から別紙物件目録(ロ)記載の晴雨計(以下「ロ号物件」という。)を業として製造販売している。
7 ロ号物件の構成上及び作用効果上の特徴は次のとおりである。
(一) 構成上の特徴
(1) 大気圧の変動に連動して回転する指針軸27を有し、右指針軸に固定の指針9が目盛を有する表示板7上を回転走査するアネロイド型の気圧計を有し、
(2) 右気圧計において、大気圧の変動に連動して回転する回転軸38に基端が片持ち状に連結されて、右回転軸に固定されて回動するスイッチロッド43を有し、
(3) 右スイッチロッドの左右回動角度を一定に接当規制するためのスットパー手段として、接触端子47・48を有し、
(4) 右スイッチロッドが一方の接触端子47に当接したときと、他方の接触端子48に当接したときと、これら接触端子47・48から離れたときに電気信号を出力し、
(5) 右接触端子47・48からの出力信号を処理して三通りの表示ランプL1、L2、L3を選択的に点滅させるスイッチング回路を有する。
(二) 作用効果上の特徴
大気圧がほぼ四mb上昇もしくは下降すれば、天気変化に影響を及ぼすということを前提に、大気圧の値の変動がアネロイド型の気圧計で検出され、その気圧変動に基づき、指針軸27及び回転軸38が正逆に回転し、指針軸27の回転で常に大気圧の値が表示板7上を回転走査する指針9にて表示され、一方、回転軸38に固定されたスイッチロッド43が回動する。右スイッチロッドは、最大回動角度が前述の一定量(四mb)に相応するよう左右一対の接触端子47・48で接当規制されており、右スイッチロッドが左右の各回動エンドにあること及び各回動エンドから離れて中間にあることが左右の接触端子47・48で検出され、この接触端子からの出力信号がスイッチング回路で処理されて三通りの表示ランプL1、L2、L3が選択的に点滅する。即ち、大気圧が所定値から一定量(四mb)を越えて上昇すると、回転軸38を介して右スイッチロッドが一方の接触端子47に接触し、「天気が良くなる」ことを表示するランプL1が点滅し、気圧が上昇し続けてもL1のみが点滅するだけであり、この状態から気圧が下降すると直ちに右スイッチロッドが一方の接触端子47から離れ、「天気が変わり目にある」ことを表示するランプL2が所定時間だけ点滅して天気が悪くなる方向へ転向したことが判り、この状態から気圧が更に下降して右スイッチロッドが他方の接触端子48に接触すると、「天気が悪くなる」ことを表示するランプL3が所定時間だけ点滅し、この状態から気圧が下降し続けても右ランプが点滅するだけであり、その後に気圧が上昇に転じると直ちに右スイッチロッドが他方の接触端子48から離れ、「天気が変わり目にある」ことを表示するランプL2のみが点滅するといったように、ランプL1、L2、L3を見るだけで簡単に天気傾向を知ることができる。
8 本件発明とロ号物件の比較
ロ号物件の構成(1)ないし(5)は、次のとおり、本件発明の構成要件(1)ないし(5)を充足し、本件発明の作用効果は、同様にロ号物件においても余すところなく認められる。
(1) 本件発明の構成要件(1)とロ号物件の構成(1)とが同一であることは明らかである。
(2) 本件発明の構成要件(2)において重要なことは、気圧の変動に連動して検出プレートが回動するようにしたことであるから、本件発明の構成要件(2)の指針軸2、検出プレート4は、ロ号物件のそれぞれ回転軸38、スイッチロッド43に相当する。なお、本件発明において、指針軸に検出プレートを弾力的に緩装したのは、気圧が四mbを越えてなおも上昇又は下降していった際に検出プレートを一方の回動エンドに止めておき、次に逆向きに気圧が転向した際には直ちに各回動エンドから離れるようにするためであるから、ロ号物件も回転軸38とばね付きのチェーン39とが同一の機能を果す関係にある。また、ロ号物件では指針軸27と回転軸38とを分けて配置し、ことさら構造を複雑にしているが、右両軸27・38は共に大気圧の変動に伴って回転するものであり、両者を分離することに技術的意義を見出せない。従って、ロ号物件の構成(2)と本件発明の構成要件(2)とは、実質的にみて同一である。
(3) 本件発明の構成要件(3)において重要なことは、一定量(四mb)の気圧の変動に相当するように検出プレートの左右回動角度を一定に制御することにあり、ストッパーはそのための機能を有するものであれば足り、特に限定されていないのであるが、ロ号物件では左右に離して配置した接触端子47・48にスイッチロッド43が接当して右スイッチロッドの回動角度を一定に規制しており、この接触端子47・48がストッパーの機能を果している。従って、ロ号物件の構成(3)と本件発明の構成要件(3)とは同一である。
(4) 本件発明の構成要件(4)において、検出プレート4をスイッチロッド43と、ストッパーを接触端子47・48とそれぞれ読み替えればロ号物件の構成(4)と同一である。なお、本件発明におけるインタラプター11・12とは、単にスイッチというも同じであり、ロ号物件の接触端子47・48を有するスイッチ機構を明らかに含んでいる。
(5) 本件発明の構成要件(5)においては四通りのランプL1、L2、L3、L4を有しているのに対し、ロ号物件は三通りのランプL1、L2、L3を有するだけであるが、ロ号物件のランプL2は本件発明のランプL2とL3の機能を合わせ持つものである。従って、ロ号物件の構成(5)と本件発明の構成要件(5)とは実質的に同一である。
以上のとおり、ロ号物件は本件発明の構成要件を充足する。
9 被告は、昭和五六年頃から別紙物件目録(ハ)記載の晴雨計(以下「ハ号物件」という。)を業として製造販売している。
10 ハ号物件は、ロ号物件と外形を異にしているほか、構成上において回転軸38及び接触端子47・48の配置がロ号物件と異なるほかは、構成上及び作用効果上の特徴はロ号物件と同一である。
11 ハ号物件は、ロ号物件と同様、本件発明の構成要件を充足し、同一の作用効果を奏する。
12 前記のとおり、イないしハ号物件は本件発明の構成要件を充足するものであるが、仮に本件発明の構成要件(4)の「インタラプター」が無接点スイッチに限定され、従って、有接点スイッチを採用するイないしハ号物件は、本件発明の構成要件(4)において欠ける所があるとしても、無接点スイッチと有接点スイッチとはいずれも公知の常識技術であり、そのいずれを選択するかは当業者の単なる設計事項にすぎず、無接点スイッチを有接点スイッチに置換することは当業者にとって容易であり、これにより得られる作用効果も同じであるから、有接点スイッチは均等の範囲内である。
13 被告は、イないしハ号物件の製造販売を、本件特許権の侵害になることを知り又は過失によりこれを知らないで行ったものであるから、原告に対し、これにより原告が被った損害を賠償する義務がある。
14 被告は、イ号物件につき、昭和六〇年一〇月以降現在まで製造販売しており、原告が本件特許権の譲渡の登録を得た同六一年八月二五日以降二か月間の売上高は一〇〇〇万円を下らない。また、ロ号及びハ号物件については、被告は、同五六年頃から現在まで製造販売しており、前同日以降二か月間の売上高は両物件を合わせて二一〇〇万円を下らない。そして、本件発明の通常の実施料率は販売価格の一〇〇分の三であるから、原告は、右各物件の前記二か月の販売期間中に九三万円の損害を被ったことになる。
よって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、イ号、ロ号、ハ号物件電子晴雨計の製造、譲渡、貸渡の差止及びその廃棄を求めると共に、不法行為に基づく損害金として金九三万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六二年一月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の(一)の事実は認めるが、同2の(二)の事実は不知。
3 同3の事実は、製造販売の始期を除き認める。製造販売の始期は昭和六一年三月である。
4 同4の事実は認める。
5 同5の事実は争う。
6 同6の事実は、製造販売の始期を除き認める。製造販売の始期は昭和五九年一月である。
7 同7の事実は認める。
8 同8の事実は争う。
9 同9の事実は、製造販売の始期を除き認める。製造販売の始期は昭和五九年九月である。
10 同10の事実は認める。
11 同11ないし13の事実は争う。
三 被告の主張
1 本件発明の構成要件(2)の「弾力的に」という文言は、「制御ばねの弾力により相互間に摩擦力を生ぜしめるように」と解すべきである。けだし、右文言は、発明の詳細な説明に全然記載がないのに、特許請求の範囲に記載されているものであって、「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」との規定(特許法三六条四項)、また同法施行規則二四条に基づく様式第16の〔備考〕13イは「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とは矛盾してはならず、字句は統一して使用しなければならない。」との規定に照らし、望ましくないことであり、そのうえ「弾力的に」という文言は、抽象的であって一義的に技術的範囲を決めることができないから、発明の詳細な説明の記載を参酌して解釈を施さざるをえないところ、同記載中の「制御バネ9はツル巻き状の弱い押しバネとし緩装筒8に装置されて緩装筒8の底面と挟止具7の上面との間に微少にして一定な摩擦力が生ずるよう調整してある。このため検出プレート4は摩擦により指針軸2の回転に伴って従動するが制御力が働くと緩装筒8と挟止具7および指針軸2はスリップして停止する。」(本件公報3欄26ないし32行)との記載に徴し、前記のとおり解すべきだからである。
しかるに、イないしハ号物件は、そのような構成を有しないから、本件発明の技術的範囲に属しない。
2 本件発明の構成要件(3)の「一対のストッパー」とは、「検出プレート4に明けられた制御窓5に貫通したストッパー」と、同(4)の「ストッパーの一方」、「他方のストッパーの一方」とは、「ストッパーの一側」、「ストッパーの他側」の意味に解すべきである。けだし、「一対」とは、「二個で一組となること」であるところ、発明の詳細な説明及び図面(第1図、第2図)に開示されているストッパー6は一本のみである。特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との間に矛盾があってはならないのに、あることになるが、この矛盾を除去するためには実施例を参照して限定解釈するしかなく、発明の詳細な説明の中には、「検出プレート4は適宜な位置に制御窓5が明けてあり晴雨計支持体に固定されたストッパー6が貫通し回転量を制限するようになっている。」(本件公報3欄33ないし36行)「制御窓5の右側とストッパー6が接触し回転を停止する。」(本件公報4欄28ないし29行)「検出プレート4は制御窓5の左側とストッパー6が接触して回動せず」(本件公報5欄20ないし22行)という記載があり、これらの記載を総合勘案すると、「一対のストッパー」は、「検出プレート4に明けられた制御窓5に貫通したストッパー」と解するほかない。従って、「ストッパーの一方」、「他方のストッパー」という文言も、発明の詳細な説明の記載にないので、「一対のストッパー」に解釈を施した手法にならって、「ストッパーの一方」は「ストッパーの一側」の意味に、そして「他方のストッパー」は「ストッパーの他側」の意味に解すべきである。
しかるに、イ号物件のスイッチロッド42には「窓」は明けていないし、これに加うるに、イ号物件の接触端子40・41は、導電体製であるから、スイッチロッド42の左右回動角度を一定に制御する機能のほかに、接点の機能をも兼備している。従って、接触端子40・41は「一対のストッパー」に該当せず、本件発明の技術的範囲に属しない。
イ号物件について述べた右解釈は、ロ号、ハ号物件についても妥当する。
3 本件発明の構成要件(4)の「インタラプター」とは、発明の詳細な説明に「インタラプター11および12は夫々検出プレート4を挟んで一対の発光ダイオードEとフォトトランジスタDを内蔵し発光ダイオードの放射する光束を検出プレート4の動作が遮断又は通過することをフォトトランジスタが電気信号として第6図電子回路に投入増幅回路から波形整形回路を通り記憶論理回路13を経て表示回路15に到る。」(本件公報3欄42行ないし4欄5行)と記載されていることに徴すると、検出プレート4を挟む発光ダイオードEとフォトトランジスタDとから成る光スイッチを意味する。
(一) 特許法施行規則二四条に基づく様式第16〔備考〕8には、「用語は…明細書全体を通じて統一して使用する。」と規定されているので、特許請求の範囲に記載の用語と、発明の詳細な説明に記載の用語とは同じ意味をもつとみるのが自然である。原告自身、発明の詳細な説明に記載のインタラプターは光スイッチであることを認めているので、特許請求の範囲に記載の「インタラプター」も同様に光スイッチの意味に解するのが自然であり、原告主張の単なるスイッチと解することは許されない。
(二) このことは、発明の詳細な説明に、従来技術は「検出部およびスイッチング機構は有接点方式のため接触抵抗あるいは腐触による接点不良をきたし故障が起き易く」との記載(本件公報2欄28ないし33行)があり、本件発明は、故障が起き易い有接点スイッチをやめて無接点スイッチを採用したものであることがわかる。
ちなみに、「無接点スイッチ」とは、機械的な接触部の断続なしに電気回路の開閉を行なう機能をもったスイッチを指し、発光部と受光部の間の光路を物体で遮断することによる受光量の変化を検知して、電子回路の入力信号として電子的にスイッチする、いわゆる「光スイッチ」は「無接点スイッチ」のひとつである。
(三) 本件発明のスイッチが無接点式であることは、本件発明の出願経過をみても、はっきりする。本件発明の出願当時の明細書の特許請求の範囲三項に「無接点電子検出装置」と記載されていて、出願人は、電子検出装置が無接点式であることを認識していた。その後特許庁から拒絶理由通知書が発せられるに及び、手続補正書で「インタラプター」に改められた。そこにいう「インタラプター」の意味内容を定めるために、出願当時の明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「第1図で検出プレート(4)を挟むようにセットされているインタラプター(11)及び(12)は夫々検出プレート(4)を挟んで一対の発光ダイオード(E)とフォトトランジスタ(D)を内蔵し」と記載されている。補正の特許請求の範囲に記載の「インタラプター」の実体も「光スイッチ」である。
(四) しかるに、イ号物件のスイッチは、スイッチロッド42が接触端子40・41に接触するものであり、ロ号及びハ号物件のスイッチは、スイッチロッド43が接触端子47・48に接触するものであり、いずれも有接点スイッチであって、光スイッチを備えていないから、本件発明の「インタラプター」に該当せず、本件発明の技術的範囲に属しない。
(五) 原告は、本件発明のインタラプターは有接点スイッチ機構を含んでおり、少なくとも両者は均等物と主張する。しかし、均等論自体が定説となっているとまでは言い難い。仮に、均等論を肯定するとしても、均等が成立するためには、置換可能性及び置換容易性の条件を充足することが必要であるところ、本件発明のインタラプターの作用効果とイないしハ号物件の有接点スイッチの作用効果とは同一ではないから、右にいう置換可能性の条件が存在せず、インタラプターと有接点スイッチとが均等であるとの原告主張は失当である。
四 被告の主張に対する原告の反論
1 本件発明の構成要件(2)の「弾力的に」とは、「すぐに元にかえることができるように」を意味し、そのためにばね部材を必要としない。「緩装」は「一体固着」の反語であり、この場合は「スリップできるように装着」の意に解しうる。「弾力的に緩装」なる文言は、多少機能的ではあるが、極めて機能的、抽象的な表現とまでは言い難く、特許請求の範囲の記載として許容できる範囲である。
けだし、本件発明において気圧計の指針軸に検出プレート4を弾力的に緩装したのは、気圧の変動で回転する指針軸2に追従して検出プレートが回動するものとした上で、気圧が一定量(例えば四mb)を越えて更に上昇または下降して行った際に検出プレートを一方の回動エンドに停止させておき、次に逆向きに気圧が変動すると直ちに該回動エンドから離れるようにするためであって、つまり、検出プレート4は各回動エンドに至ると指針軸2とスリップする関係にある。本件発明において、指針軸2に検出プレート4を「弾力的に緩装」とはかかる作用を発揮させるための構成であり、そこに疑義の生じる余地はない。確かに発明の詳細な説明中の実施例には制御バネ9、緩装筒8、挟止具7を含む構成が挙げられているが、これらは一実施例にすぎず、特許請求の範囲の記載にはこれらの部材を意識的に除外している。
2 本件発明の構成要件(3)の「一対のストッパー」は、被告主張のように限定して解釈する必要性はない。
けだし、本件発明のストッパーは、特許請求の範囲に記載のとおり「検出プレートの左右回転角度を一定に制御するため」のものであり、左右に一対存在しなければならない。発明の詳細な説明に記載されたストッパー6は、本件発明のストッパーの一実施例にすぎない。従って、本件発明の「ストッパー」は被告主張の「検出プレート4に明けられた制御窓5に貫通したストッパー6」も含むが、ことさらにかかる形態に限定されなければならない必然性はない。
「ストッパーの一方」、「ストッパーの他方」の記載も、右の趣旨に従うと何ら矛盾するところはない。
3 本件発明の構成要件(4)の「インタラプター」とは、電気用語で「断続器」(電気回路の電流を断続する器具でブザのようなもの)を意味するので、最終的な制御出力としてオンーオフのスイッチング出力を得るものであれば、有接点スイッチ機構であろうと、無接点スイッチ機構であろうと、その全てを含む概念である。
発明の詳細な説明に記載された「インタラプター11及び12」は、発光ダイオードEと、フォトトランジスタDとを含むものであり、その実体は被告主張のとおり「光スイッチ」であることを認めうる。しかし特許請求の範囲に記載された「インタラプター」は発光ダイオードやフォトトランジスタを含むものとは限定されていない。かえって本件発明の「インタラプター」は検出プレートの位置を検出して、これからの出力信号がスイッチング回路で処理されるものとなっており、その存在目的、機能は、オンーオフのスイッチング出力を得るためのものにすぎず、被告主張のように「光スイッチ」に限定されず、その実体は単なるスイッチを意味する。
なるほど、本件発明の出願当初の明細書をみるに、特許請求の範囲ではあえて限定せず、実施態様項において「無接点電子検出装置」即ち「無接点スイッチ」が記載されているが、このことは出願人が出願当初から「インタラプター」の中に有接点スイッチも含ませていたことを窺わせる証左であり、ただ、無接点スイッチの方が具体的な実施に際してより好ましいと認識していたことも事実であるが、有接点スイッチを意識的、積極的に排除していないことも明らかである。かような出願人の認識は、その後の補正手続で、特許請求の範囲に「インタラプター」のみ記載し、実施例どおりの「発光ダイオードEとフォトトランジスタDを含むインタラプター11・12」と記載しなかったところに表れている。
そもそも、本件発明の主たる作用効果は、遷り変わる気圧の変化、即ち天気の傾向の変化に対応して、天気の傾向変化を表示するランプを点滅させ、一見して天気傾向の予報が判別できるようにした点にある。ここで「インタラプター」はランプ群のひとつを選択的に点滅させるための単なるスイッチ手段でしかない。本件発明の出願前から光スイッチを含む無接点スイッチと、有接点スイッチとはいずれも公知の常識技術であり、そのいずれを選択するかは当業者の単なる設計事項にすぎない。つまり、無接点スイッチと有接点スイッチとは、当業者にとってきわめて置換容易であり、その置換がランプを選択的に点燈させるうえで何ら意味ある効果を有しない。本件発明のインタラプターは、イないしハ号物件の有接点スイッチ機構を含んでおり、両者は均等物である。
第三 証拠<省略>
理由
一原告が本件特許権を有すること、本件発明の構成要件が原告主張(請求原因2(一))のとおりであること、被告が、原告主張(請求原因4、同7、同10)の構成上及び作用効果上の特徴を有するイないしハ号物件を、イ号物件につき昭和六一年三月から、ロ号物件につき、同五九年一月から、ハ号物件につき同年九月から、それぞれ業として製造販売していることは、当事者間に争いがない。
二そこで、イないしハ号物件が、本件発明の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
1 本件発明の構成要件については、同(2)の「弾力的に」、同(3)の「一対のストッパー」、同(4)の「ストッパーの一方」「他方のストッパー」の意義についてもそれぞれ当事者間に解釈上の争いがあるが、これらの点についてはしばらく措き、まず、本件発明の構成要件(4)の「インタラプター」という用語の解釈から考察するに、原告は、それが有する一般的概念である、「最終的な制御出力としてオンーオフのスイッチング出力を得るものであれば、有接点スイッチ機構であろうと、無接点スイッチ機構であろうと、その全てを含むもの」であると主張するに対し、被告は、「光スイッチ」に限定解釈されるべきであると主張する。
(一) まず、特許請求の範囲の記載から「インタラプター」の意味を特定できるか否かについて検討するに、<証拠>(本件特許公報)の特許請求の範囲の記載中には「インタラプター」を定義した文言は存在しない。そして、<証拠>によっても、技術用語としての「インタラプター」を直接定義したものが見当らず、断続器又は断続装置についての説明が存在するだけである。すなわち、<証拠>によれば、断続器Interrupterとして、「電気回路の電流を断続する器具でブザのようなもの。」との記載があり、<証拠>によれば、継続装置interrupterとして、「信号機の一機構で、カム作用、継電器又は半導体回路により信号を断続し、呼出信号の呼出音、話中音等、各種断続信号を発生させる装置をいう。」との記載があるのみであり、一定の機構を表現する技術用語としては成熟したものとは言い難い。従って「インタラプター」という用語の有する一般的・抽象的概念でもって満足するほかなく、<証拠>を総合すれば、「有接点スイッチ又は無接点スイッチによって信号を断続するもの」と一応解さざるを得ない。
(二) しかしながら、右のような「インタラプター」の定義は、機能的、抽象的であり、これをもって特許請求の範囲の意義を明確にしたということはできないので、次に発明の詳細な説明を参酌してその意義を明確にしなければならない。
はじめに、実施例を考察するに、<証拠>によると、「インタラプター」については、「インタラプター11および12は夫々検出プレートを挟んで一対の発光ダイオードEとフォトトランジスタDを内蔵し」(本件公報3欄42ないし44行)とだけ記載があるにすぎない。右記載において、検出プレート、一対の発光ダイオード、フォトトランジスタから成るものが光スイッチ即ち無接点スイッチを意味するという点は当事者間に争いがないところ、右の記載だけからは、「インタラプター」とは光スイッチである旨を示したとも解釈できるし、「インタラプター」の内の一つの手段として光スイッチを例示したものとも両様に考えられるのであるが、あくまで実施例としての記載であることや、「インタラプター」の定義としての記載とは読み取りにくいことから、右記載は、「インタラプター」の一手段の例示と解するのが相当である。
(三) そこで、さらにすすんで、発明の詳細な説明に記載された本件発明の目的、作用効果の観点から考察するに、<証拠>によれば、従来の気圧計又は晴雨計に関し、「検出部およびスイッチング機構は有接点方式のために接触抵抗あるいは腐しょくによる接点不良をきたし故障が起き易く」(<証拠>)という欠点があったので、本件発明は「構造簡単で小型な故障し難い安価な気圧変化の検出表示機構を備えた電子晴雨計を提供する」(<証拠>)ことを目的として工夫されたものである旨記載されており、さらに、本件発明の効果として「本発明の電子晴雨計によれば、アネロイド型晴雨計によって刻々変る気圧の値を指示すると共に、一般大衆が真に求めている天気の傾向予報を新規な機構により、理解し易く、的中率高く、安価で故障少い、ものとして家庭用小型から大規模な野外電光表示燈に到るまで、提供することが可能となった。」(<証拠>)と記載されている。
右の「故障し難い」及び「故障少い」との表現は、電子晴雨計全体の機構、回路についての故障全般を指しているのではなくて、有接点方式スイッチング機構の接触不良による故障をいっていると解されるのであって、このことは発明の詳細な説明の記載全体を通してみれば明らかである。
以上のとおり、従来技術、本件発明の目的、本件発明の効果におけるそれぞれの記載からは、有接点スイッチング機構における接触不良を改善せんとする一貫した技術思想が看取されるのであって、これによると本件発明は有接点スイッチング機構を意図的に排除したものであると解される。
なお、原告は、本件発明の作用効果は、移り変わる気圧の変化、即ち天気の傾向の変化に対応して、天気の傾向変化を表示するランプを点滅させ、一見して天気傾向の予報が判別できるようにした点である旨主張している。なるほど、<証拠>によれば、従来技術につき「操作わずらわしく、時間がかかり、急激に移り変る天候に対応できるものでなく」(<証拠>)「天気の上り坂、下り坂の判断ができないのみか、機械的な限界があり街頭などに設置して多数の人々に天気の予報を視覚的に伝達することは不適当である。」(<証拠>)との記載があり、また、本件発明の目的につき「一見するだけで明確に局地的天気の予報を表示ランプなどにより電気的に伝達する新規な機構」(<証拠>)との記載があり、かかる記載によれば、前記原告主張の作用効果が、本件発明の作用効果の一要素であることが認められる。しかしながら、<証拠>によれば、本件発明の目的につき、「本発明の別の目的」(<証拠>)として、「故障し難い」検出表示機構を備えた電子晴雨計の提供を掲記しており、これに伴い作用効果としても、「故障少い」ものの提供が可能になった旨記載されているのである。これによれば、本件発明の目的、作用効果は原告主張のもののみであるとか、あるいは、これを主たる目的、作用効果とし、他は付随的なものにすぎないと解することは相当でなく、原告主張の作用効果と並んで、検出表示機構の故障少い電子晴雨計の提供が可能となった点も本件発明における重要な作用効果と解すべきである。従って、原告主張の作用効果だけでは、本件発明の作用効果として不十分というほかない。
以上のとおりであるから、本件発明の構成要件(4)の「インタラプター」は「無接点スイッチ」即ち「光スイッチ」と限定して解釈すべきで、有接点スイッチはこれに含まれないと解するのが相当である。<証拠>によると、本件発明の構成要件である「インタラプター」は、電流又は光を、機械的、電気的あるいは電子的に繰り返し断続して、断続電気信号を発生する装置であり、「フォト・インタラプター」に限定されないとの見解を示すが、右見解を根拠づける解釈に合理性を欠く嫌いがあり、前記説示を左右しえず、右見解は採りえない。
2 ところで、イないしハ号物件の各構成(4)において採用されているスイッチング機構が有接点スイッチであることは、当事者間に争いがないから、イないしハ号物件は、本件発明の構成要件(4)において欠けることになり、その他の構成要件につき検討するまでもなく、本件発明の構成要件を充足しない。
3 次に、原告は、「インタラプター」が無接点スイッチに限定されるとしても、有接点スイッチは均等の範囲内であると主張するので検討する。
ある技術が特許発明と均等であるといいうるためには、右技術の構成の一部が特許発明の構成要件の一部と異なるが、これと置換しても、特許発明の目的、作用効果において同一であることが前提となるところ、本件発明において無接点スイッチを有接点スイッチに置換した場合、二1(三)で述べたとおり、本件発明の目的、作用効果とは異なるものとなる。つまり、本件発明の目的の一つがスイッチング機構における接点不良の故障防止であるのに対し、有接点スイッチにすると接点不良の故障防止とは相容れず本件発明の右目的からはずれる結果になり、また作用効果についても、右同様異なった作用効果を奏することになる。従って、原告主張の均等論は、これを採用することができない。
4 以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、イないしハ号物件は、本件発明の技術的範囲に属しない。
三従って、被告が業としてイないしハ号物件を製造販売することは本件特許権を侵害するものではないから、右侵害を前提とする原告の本訴請求はすべて理由がない。
よって、原告の本訴請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官坂詰幸次郎 裁判官増山宏 裁判官和食俊朗は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官坂詰幸次郎)