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神戸地方裁判所 昭和62年(ワ)807号 判決 1988年12月01日

原告 日本信販株式会社

右代表者代表取締役 山田洋二

右訴訟代理人弁護士 模泰吉

同 大内ますみ

同 三原敦子

被告 岡本博子

右訴訟代理人弁護士 野田底吾

同 羽柴修

同 古殿宣敬

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三一二万三七八〇円及び内金三〇三万三一八〇円については昭和六二年二月二八日から、内金九万〇六〇〇円については昭和六二年五月二八日からそれぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

1  原告は割賦販売の斡旋等を業とする会社である。

2  被告は、昭和六一年一一月一三日、訴外株式会社青山みとも(以下「青山みとも」という)より振袖一点を代金三九一万円で買い受けた(以下、右振袖を「本件振袖」と、右契約を「本件売買契約」という)。

3  原告と被告は、右同日、左記のとおりの立替払契約を締結した。

(一)  原告は、被告のために右代金三九一万円を右青山みともへ立替払いする。

(二)  被告は、原告に対し立替手数料として金一八万〇一八〇円を支払う。

(三)  被告は、原告に対し右立替金及び立替手数料合計金四〇九万〇一八〇円のうち、金三〇〇万円を昭和六二年二月二七日限り支払い、残金一〇九万〇一八〇円を同日を第一回として、毎月二七日限り金三万〇二〇〇円を三六回にわたり割賦弁済する(但し、第一回に限り金三万三一八〇円)。

4  原告は、前項の約定に基づき昭和六一年一一月末頃青山みともに立替払いをした。

5  よって、原告は被告に対し、右立替払契約に基づき昭和六二年二月二七日に支払うべき分割金各合計三〇三万三一八〇円、及びすでに期限の到来した同年三月から五月まで三回分の分割金合計九万〇六〇〇円との合計金三一二万三七八〇円の支払いと、内金三〇三万三一八〇円については昭和六二年二月二八日から、内金九万〇六〇〇円については同年五月二八日からそれぞれ支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1ないし3の各事実はいずれも認める。

2 同4の事実は不知。

三 抗弁(本件売買契約の解除・割賦販売法三〇条の四)

1(合意解除)

昭和六一年一一月一四日朝、被告は青山みともと本件売買契約を合意解除した。

2 (クーリング・オフ解除・割賦販売法四条の三)

(一)  本件売買契約の対象である本件振袖は、割賦販売法二条四項、同法施行令一条にいう「指定商品」である。

(二)  本件売買契約は、青山みともが創業四〇周年記念旅行と銘打って、被告を含む同社の得意客を金沢への旅に招待(以下「本件招待旅行」という)し、和倉温泉加賀屋旅館に宿泊した際、同所で催された加賀友禅の展示即売会の会場において締結された割賦販売契約である。

(三)  被告は、昭和六一年一一月一七日青山みともに対し、本件売買契約を解除する旨の手紙を発送し、右手紙は間もなく同社に到達した。

四 抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は否認する。

2 同2の(一)及び(二)の各事実は認める。同2の(三)の事実は否認する。なお、青山みともが本件招待旅行の後被告から手紙を受けとったことは認めるが、その手紙は、礼状のようでもあり、再考したいという申し出のようでもあり、その趣旨は不明瞭であって、解除の意思表示と解することはできないものであった。ちなみに、青山みともは、慎重を期して、昭和六一年一二月六日頃社員二名を被告方に赴かせてその意思を確認したところ、本件売買契約の締結に異存はないということであった。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

1  請求原因1ないし3の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  同4の事実は、《証拠省略》によりこれを認めることができる。

二  抗弁について

1  抗弁2の(一)及び(二)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  同2の(三)の事実について判断する。

《証拠省略》によれば、被告は、昭和六一年一一月一七日、青山みともに対して乙第四号証の一と同文の手紙を発送し、その手紙は間もなく同社に到達したことが認められ(青山みともが、その頃、被告からの手紙を受領したこと自体は当事者間に争いがない)、右認定に反し、被告からの手紙には本件招待旅行の御礼と本件振袖が自分達にふさわしいものか否か迷っている等のことが書かれていただけであって、本件売買契約を解除したいとの趣旨は書かれていなかった旨の証人近藤喜昭の供述部分は、前掲各証拠に照らして措信できない。すなわち、被告が発送した右乙第四号証の一と同文の手紙は、最後に「何卒御事情御察知くださいまして御了承いただきたく、おことわり傍々お願い申し上げます。」と結んでいるので、本件売買契約を解除する旨の意思は右文言に十分表現されていると思料される。

ところが、原告は、被告からの手紙は、礼状のようでもあり、再考したいという申し出のようでもあり、その趣旨は不明瞭であって解除の意思表示と解することはできないと主張するところ、右乙第四号証の一には確かに本件招待旅行に招待してもらったことについての御礼と感謝の言葉が丁重に述べられているので、なお若干の付言を試みてみるに、《証拠省略》によれば、被告は、被告の二女岡本貞恵、貞恵の友人島田悦子とともに本件招待旅行に参加したものであるが、右旅行中に加賀友禅を買うことになるとはもともと夢想だにしていなかったこと、然るに昭和六一年一一月一三日和倉温泉加賀屋旅館に宿泊した際、同旅館の約一〇〇畳位の和室において加賀友禅の展示即売会が催され、しかも同会場は、じゅうたんが敷きつめられ、九谷焼や立派な壁絵が飾られ、琴の音が流れ、豪華絢爛たる雰囲気が醸し出されて、被告らをして「まるで竜宮城に入っていくような感じ」にさせるに十分であったこと、被告らは午後一時頃会場に入ったが、青山みともの社員二、三人が終始つきっきりで商品の説明や購入の勧誘をしていたこと、そして、舞台中央に飾られていた本件振袖を貞恵が試着するように強く勧めたこと、貞恵は右振袖は玄人でなければとても着こなせないと感じて気が進まなかったが、周囲からはやしたてられて試着をしたものの、やはり気に入らなかったため、試着後は友人の島田とともに部屋に戻ったこと、しかし、被告は依然として青山みともの社長や課長らに囲まれて「お嬢様にぴったりだ」とか「孫の代までの家宝になる」等の言葉で購入を強く勧められ、午後五時頃(その頃には他の客は殆ど引き上げていた)断り切れずに契約書に署名・指印をしたこと、そして、部屋に戻って貞恵にその旨を話したところ、同女が「とんでもない」「絶対着ない」等と言ってキャンセルを強く主張したため、被告は、翌一四日朝、青山みともの課長に対し、「高いし、娘も嫌だと言っているので、昨日のことはなかったことにして欲しい」と申し入れたこと、被告は、右申し入れをしたことで、右課長が被告の気持をわかってくれたものとは思ったが、明確に解約を了承する旨の発言があったわけではないので、不安にかられ、旅行から帰ると直ちに青山みとも宛の前記乙第四号証の一と同文の手紙を書き、同月一七日貞恵に投函してもらったこと、以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》 また、原告は、昭和六一年一二月六日頃、青山みともの社員二名を被告方に赴かせて被告の意思を確認したところ、本件売買契約の締結に異存はないとのことであったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

右認定事実を前提にすれば、前記乙第四号証の一と同文の被告からの手紙が、本件売買契約を解除する意思であること、及び青山みとも側としても右の被告の意思を十分読みとれるはずであることが明らかである。右手紙には、本件招待旅行の御礼や感謝の気持も述べられているが、これは、人間として当り前のことであって、前記説示を何ら左右するものではない。

三  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増山宏)

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