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神戸地方裁判所 昭和62年(行ウ)21号 判決 1991年4月22日

原告

株式会社大洋

右代表者代表取締役

尾崎一宇

右訴訟代理人弁護士

有田尚徳

被告

揖龍保健衛生施設事務組合管理者

尾西堯

右訴訟代理人弁護士

新原一世

柳田守正

主文

一  被告が昭和六二年一月九日付けで原告に対してなした浄化槽清掃業の不許可処分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

原告の被告に対する昭和六一年四月八日付け一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の許可申請に対し、被告が昭和六二年一月九日付けにてなした不許可処分をいずれも取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、兵庫県龍野市、兵庫県揖保郡新宮町・太子町・揖保川町・御津町の一市四町で設立された揖龍保健衛生施設事務組合の管理者である(以下、右事務組合のことを「被告」ということがある。)。

2  原告は、昭和六一年四月八日、被告に対し、浄化槽法三五条一項の許可、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)七条一項の許可の各申請をしたところ、被告は、翌六二年一月九日、いずれも不許可とする処分をした。

3  右不許可処分は、龍野市及び揖保郡においては、廃棄物処理法六条一項に定める処理計画により、浄化槽汚泥の収集・運搬が行われており、新たに許可をすると、混乱を生じる、したがって、処理法の申請を不許可とし、その結果、原告は浄化槽から抜き取った汚泥を収集・運搬することができないから、浄化槽清掃業の申請も不許可にするというのである。

4  しかしながら、浄化槽法三五条一項の許可は同法三六条の欠格事由がないかぎり許可しなければならない覊束裁量行為であると解されるところ、被告のように、廃棄物処理業を不許可とし、その結果、汚泥の処理ができないから浄化槽清掃業も不許可にするというのは、理由がなりたたない。

5  また、被告の処理計画によると、廃棄物処理について被告が自ら又は委託によってするのは、その最終処理のみであって、その間の収集・運搬は許可業者によってなされることになっているところ、原告の廃棄物処理業の許可申請の内容は、浄化槽から抜き取られた汚泥の収集・運搬であって、被告の処理計画とは抵触しない。

6  被告が原告の申請を不許可とした真の理由は、既存業者の擁護のためである。すなわち、被告の管轄市町においては、一社又は二社の既存業者の独占のもとに廃棄物の処理が行われているところ、昭和五七年頃、これらの業者から「これ以上業者を増やさないで欲しい」との請願がなされたことから被告は、これに拘束されて、本件申請を不許可としたのである。

7  被告の管轄地域内には、原告が施工した多くの浄化槽があるのに、本件の不許可の結果、原告は、その維持管理、アフターサービスすらできず、住民に迷惑をかけ、多大の損害を被っているのである。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認め、その余の主張は争う。

三  被告の主張

1  廃棄物処理法の不許可処分について

被告は、毎年、前年度中に一般廃棄物処理計画を定め、この処理計画に従って一般廃棄物を収集・運搬・処分している。その昭和六一年度一般廃棄物処理計画によれば、龍野市、新宮町、太子町、揖保川町、御津町の同年度推定人口一一万四二五六人につき、自家処理を除いて、生し尿推定量三万二六一キロリットルを龍野衛生公社、新宮浄化、播州浄水工業の三社が、浄化槽汚泥推定量八七八三キロリットルを龍野衛生公社、新宮浄化、松原清掃、西播環境整備の四社が運搬車両二〇台で処理することになっている。そして、処理場の受入日数が二七二日であるのに対し、収集・運搬の年間必要稼働日数は、汲取りし尿が平均二五〇日以下であり、浄化槽汚泥が龍野市を除いて二〇〇日以下であって、現体制で十分に余裕がある。同年度の廃棄物処理実績を見るに、生し尿が三万九〇六キロリットル、浄化槽汚泥が九二七九キロリットルで、右推定量を若干上回っているけれども、二〇台のバキューム車で余裕をもって処理しており、住民からも苦情はでていない。

右の処理計画は、過去三か年の動向を基に策定されているところ、区域内におけるここ数年の人口は安定した低上昇を保ち、したがって、生し尿及び浄化槽汚泥の排出量にも著しい変動は見られない。他方、この地域では、公共下水道の整備計画が進行中であって、近い将来、し尿関係の収集・運搬の業務量が激減するものと見込まれ、これに従い、処理体制の縮小が必至である。このようなときに、強いて新たな許可を与えると、既存の許可業者との間で、無用の競争、混乱を生じ、処理計画の遂行を危うくする恐れがある。

2  浄化槽法の不許可処分について

右のとおり、原告の一般廃棄物処理業の申請は不許可とされるから、原告に浄化槽清掃業の許可を与えた場合、業務の結果、産出された汚泥の収集・運搬処理について、原告には適切、有効な方策がなく、汚泥を放置ないし不法投棄するなどの行為に出る恐れがある。この事態は、浄化槽法三六条二号ホに該当する。

この点につき、原告は当初、自ら直接バキューム車で収集・運搬を行うと回答したが、その後の被告の再照会に対し、龍野衛生公社と浄化槽汚泥の引取りに関する業務提携をしており、清掃後の汚泥の処理については同社に委託することが可能であると回答した。しかし、被告が同社に照会したところ、原告がいう業務提携は、原告が施工した揖保郡太子町原所在の鼓ケ原団地の浄化槽の保守、点検を原告が行うについての清掃業務のみのものであって、その他の浄化槽についてのものではないこと、右団地における浄化槽の清掃も過去一〇年余の間にただ一回の依頼があっただけであること、原告から他の区域の汚泥処理の依頼があっても、同社はこれを引き受ける意思はないことが判明した。また、原告からは、他の許可業者に委託するなどの方策について、何の回答も得られなかった。

3  加えて、以前に原告が施工した浄化槽工事に関し、右団地の住民から工事が杜撰であること、維持・管理の不誠実とその費用の高額なことについて苦情があり、住民が原告に対して不満を持っていること、さらに原告が贈賄事件で逮捕され、罰金二〇万円、六か月間の指名停止処分を受けた前歴があることなどから、原告は住民と無用の摩擦を起こす恐れがある。

四  原告の反論

1  下水道の整備計画について

地域内の昭和七〇年度の下水道整備計画は、別表のとおりであって、被告の主張とはほど遠い。

2  浄化槽法三六条二号ホに該当するとの主張について

原告は、一般廃棄物処理業の許可を受けた龍野衛生公社と業務提携をし、浄化槽から引き抜いた汚泥の収集・運搬をすることができる態勢を整えている。

また、被告は清掃業の許可を受けた業者が汚泥を不法処分した場合、許可を取り消すことができる(厚生省見解)ところ、原告は、県下六市一九町から許可を受けた業者であって、これらの許可が取り消されるようなことをする恐れはない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1、2の各事実(被告の地位、被告が原告の本件各許可申請を不許可としたこと)は、当事者間に争いがない。

二一般廃棄物処理業の不許可処分について

1  <証拠>によれば、被告の主張1の事実(昭和六一年度の被告の浄化槽汚泥の処理計画及び実績において、被告管轄区域内の浄化槽汚泥の処理が既存の業者により十分に賄われたことなど)を認めることができる。なお、同年度の龍野市における既存業者による浄化槽汚泥処理の年間必要稼働日数は、計画で二五五日(<証拠>の六頁)、実績で二三三日(<証拠>の一六頁)である。

2  <証拠>によれば、被告の昭和六二年度一般廃棄(し尿)処理計画において、被告の処理場の年間計画受入日数が二七四日であるのに対し、既存業者による浄化槽汚泥処理の年間必要稼働日数は五四日(揖保川町)ないし二二六日(太子町)とされていることが認められる。

3 以上によると、浄化槽汚泥に関するかぎり、被告は、その許可した既存の業者により十分の余裕をもって、収集・運搬をしていたというべきである。そして、被告の管轄区域内において、その余の一般廃棄物の収集・運搬が困難であること(廃棄物処理法七条二項一号参照)の主張・立証はない。

そうすると、原告の一般廃棄物処理業の許可の申請を被告がその定めた処理計画に適合しないとして不許可としたことに違法な点はない。

4  原告は、右不許可処分をした真の理由は既存業者の利益を擁護することにあると主張するけれども、被告が既存業者の利益の擁護のみを目的として右不許可処分をしたと認めるに足りる証拠はない。のみならず、市町村は、清掃、清潔を汚す行為の制限その他の環境の整備保全に関する事項(地方自治法二条三項七号)及び汚物処理場の設置若しくは管理、これらを使用する権利の規制(同項六号)を処理する権限と責務を有し(同条四項、なお、以上のことは同法二九二条により、本件のような市町村の事務組合にも当てはまる。)、その一環として、一般廃棄物の処理は原則として、市町村の義務とされている(廃棄物処理法六条二項)が、市町村自身がその管轄の全域にわたり自ら(直接又は委託によって)一般廃棄物を処理することが困難な場合も考えられるので、処理計画(同条一項)において処理の分担を定め、自ら処理しない部分については同法七条に基づく許可により、一部を業者の責任において実施せしめることが可能とされている。そして、右処理計画において、市町村の行う一般廃棄物の収集等の業務の一部を特定の業者に行わせると定めることも、法が排除しているとは解されないから、その結果として、新規の業者の参入が制限されることになるのは、右処理計画が収集等の需要に照らして不合理であると認められる場合を除き、やむをえないところというべきである。

5  他に右不許可処分が裁量の濫用になる事情についての主張・立証はない。

三浄化槽清掃業の不許可処分について

1  被告は、原告に浄化槽法三六条二号ホに該当する事実があると主張する。そして、浄化槽清掃の結果、引き抜かれる汚泥を収集・運搬するのには、一般廃棄物処理業の許可を要するところ、原告の右許可申請に対して被告が不許可処分にしたことについて、それを取り消すべき事由がないことは、先に見たとおりである。

2  しかしながら、原告代表者の供述及び<証拠>を総合すると、原告はその施工した揖保郡太子町原所在の鼓ケ原団地の浄化槽の保守・点検を行うについて、浄化槽の清掃及び清掃により発生する汚泥の処理につき、一般廃棄物処理業の許可を受けた龍野衛生公社と業務提携をしていることが認められるから、少なくとも右団地の浄化槽から引き抜かれる汚泥の処理に関しては、原告は許可業者に依頼する方策を有しているというべきである。

3  さらに、<証拠>、弁論の全趣旨によると、原告は、汚水処理業、すなわち浄化槽清掃及びこれから排出される廃棄物の処理を業として営む会社であり、被告以外の兵庫県下六市一九町において、浄化槽清掃業及び一般廃棄物処理業の許可を得ていることが認められるところ、原告が清掃の結果の汚泥を不法に投棄などした場合には、右市町から既に得ている許可が取り消される可能性があると考えられる。

4  以上のほか、浄化槽清掃業の許可が一般廃棄物処理業のそれと異なり、浄化槽法三六条に定める欠格事由がないかぎり、許可しなければならないという覊束裁量行為であること、原告は現在は、右2の龍野衛生公社との業務提供しか示さないけれども、将来、引き抜いた汚泥を適法に処理することを可能にするような許可業者との契約を結ぶことができる可能性もないではないことなどを考慮すると、一般廃棄物処理業の許可がないというだけでは、原告は未だ「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」(浄化槽法三六条二号ホ)には当たらないというべきである。

5  被告の主張3について

鼓ケ原団地の浄化槽の工事が杜撰であった等の証人乗田脩の証言は、<証拠>、原告代表者の供述に照して、採用することができず、ほかにこの点に関する被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

原告が贈賄事件にからんで罰金等の処分を受けたことは、原告も争わないが、右3のとおり、原告は現に県下の多くの市町において許可を得て営業しており、原告の営業に関する適格性を左右するものではない。

6  他に浄化槽法三六条所定の欠格事由があることの主張・立証はない。

四結論

よって、本訴請求のうち、浄化槽法の申請を不許可とした処分の取消しを求める請求を認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官林泰民 裁判官岡部崇明 裁判官井上薫)

別紙<省略>

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