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神戸地方裁判所 昭和63年(わ)493号 判決 1991年4月25日

本店の所在地

神戸市東灘区青木六丁目七番一六号

豊栄興産株式会社

右代表者の住所

兵庫県西宮市甲子園口二丁目一五番三五号

氏名 權浩一

国籍

韓国(慶尚南道晋陽郡美川面梧坊里一〇五番地の二)

住居

兵庫県西宮市甲陽園山王町二番一五号

会社役員

権藤道栄こと權道榮

一九二九年一月二〇日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官秋本譲二出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人豊栄興産株式会社を罰金八〇〇〇万円に、被告人權道榮を懲役二年に各処する。

被告人權道榮に対し、未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。

被告人權道榮に対し、本裁判確定の日から五年間、右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人豊栄興産株式会社は、神戸市東灘区青木六丁目七番一六号に本店を置き、遊技場等を経営するもの、被告人権藤道栄こと權道榮は、被告人会社の代表取締役として、その業務全般を統括していたものであるが、被告人權道榮は、被告人会社の業務に関し、その売上の一部を除外して簿外預金をするなどの方法により、法人税を免れようと企て、

第一  昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額は二億一六五五万八八五一円で、これに対する法人税額は九二七八万五六〇〇円であるにもかかわらず、その所得金額の内二億一〇一七万五五二二円を秘匿した上、昭和六〇年五月三一日、兵庫県芦屋市公光町六番二号所在の所轄芦屋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における被告人会社の所得金額が六三八万三三二九円で、これに対する法人税額が一九七万八七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額九二七八万五六〇〇円との差額九〇八〇万六九〇〇円を免れ、

第二  昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額は二億一八四六万七一四二円で、これに対する法人税額は九三六一万二二〇〇円であるにもかかわらず、その所得金額の内一億九二二七万七八三四円を秘匿した上、昭和六一年五月三〇日、前記芦屋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における被告人会社の所得金額が二六一八万九三〇八円で、これに対する法人税額が一〇三五万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額九三六一万二二〇〇円との差額八三二五万六四〇〇円を免れ、

第三  昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額は二億九二六二万一六七〇円で、これに対する法人税額は一億二五六一万一八〇〇円であるにもかかわらず、その所得金額の内二億五六〇六万八七〇二円を秘匿した上、昭和六二年五月二八日、前記芦屋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における被告人会社の所得金額が三六五五万二九六八円で、これに対する法人税額が一四七三万三九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一億二五六一万一八〇〇円との差額一億一〇八七万七九〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人權道榮の当公判廷における供述並びに検察官に対する昭和六三年七月六日付、同月七日付、同月一一日付(三通)各供述調書及び同被告人に対する大阪国税局収税官吏大蔵事務官の昭和六二年一〇月六日付、同年一二月二一日付、昭和六三年一月二六日付、同年二月一五日付、同月二三日付、同月二九日付、同年三月一八日付、同年五月二〇日付各質問てん末書

一  第三回及び第四回公判調書中証人松岡幸雄の各供述部分

一  第五回及び第六回公判調書中証人青山勲の各供述部分

一  証人杉岡昭信の当公判廷における供述(被告人權道榮に対する関係)及び第七回公判調書中同証人の供述部分(被告人会社に対する関係)

一  松岡幸雄の検察官に対する同年六月二九日付(ただし、第九項ないし第一四項を除く。)及び同年七月三日付(ただし、第四項を除く。)各供述調書

一  權吉弘(同年六月二二日付)、許洋基(同月二八日付)、許道淑(同年七月一〇日付)、奈須野幸博、中川久次、中村英光、藤川一彦、和田龍及び許南垠の検察官に対する各供述調書

一  吉川義彦、文硯根、太田富三、玄達道、松村隆幸、木下壽吉(三通)、平井義人、金岡鉄雄、金城憲治(同年六月二六日付)、磯野文亮、平木正孝、崔吉男及び許道淑に対する大阪国税局収税官吏大蔵事務官の各質問てん末書

一  大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の査察官調査書(三四通)及び「現金預金有価証券等現在高検査てん末書」と題する書面(七通)

一  神戸地方法務局登記官作成の登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実につき

一  陽川政保こと許政保に対する大阪国税局収税官吏大蔵事務官の質問てん末書二通

判示第一の事実につき

一  松岡幸雄の検察官に対する同年七月四日付供述調書

一  芦屋税務署長作成の証明書(昭和六〇年五月三一日付法人税確定申告分)

一  大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲二号)

判示第二及び第三の各事実につき

一  被告人權道榮に対する大阪国税局収税官吏大蔵事務官の昭和六二年一〇月二一日付質問てん末書

一  松岡幸雄の検察官に対する同年七月五日付供述調書(検甲二八五号)

一  孔章に対する大阪国税局収税官吏大蔵事務官の質問てん末書

判示第二の事実につき

一  裴昌河に対する大阪国税局収税官吏大蔵事務官の質問てん末書

一  芦屋税務署長作成の証明書(昭和六一年五月三〇日付法人税確定申告分)

一  大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲三号)

判示第三の事実につき

一  鄭又秀に対する大阪国税局収税官吏大蔵事務官の質問てん末書

一  芦屋税務署長作成の証明書(昭和六二年五月二八日付法人税確定申告分)

一  大阪国税局収税官吏大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲四号)

(事実認定の補足説明)

被告人權は、判示各事業年度において、被告人会社の経営する遊技場の売上金の一部を除外して秘匿し、これを所得として申告していなかつたこと自体は、本件査察調査の当初から認めていたものの、この間右売上除外金と個人の資産を混合して運用していたため、その額は不明であるとして、右売上除外金額の調査に当たつた国税査察官に対して、これを直接明らかにすべき資料を全く提示しなかつたことから、本件において右売上除外額の算定は、先ず、各事業年度における被告人權個人の収支及び個人財産の増減額を明らかにし、その結果判明した収支差額(可処分所得)を上回る被告人權個人の財産の増加額分がこれに相当するとしたものであるところ、被告人權はこれに対して、国税局の査察調査及び検察官の取調べ並びに当公判を通じて、各事業年度期首における被告人權個人の財産に把握漏れがあり、その分右売上除外額の算定には過誤がある旨主張するのであるが、この点についての被告人權の供述は転々として前後一貫しない上、あいまい、かつ、不自然であつて、これを信用することができない。すなわち、被告人權は大阪国税局収税官吏大蔵事務官に対しては、各期末の現金在高について記録などしていないので、正確には判らないが、常時二~三〇〇〇万円の現金を自宅寝室の金庫に保管していた(昭和六二年一二月二一日付質問てん末書)、各期末の現金在高は不明(昭和六三年二月二三日付質問てん末書)、昭和五九年三月三一日の時点で個人の株式取引決済の必要上、一億円か二億円の現金は自宅応接間押入れ内の床下金庫に保管していた(同月二九日付質問てん末書)、前回昭和五九年末で手持ち現金が一億円か二億円あつたと述べたのは間違いで、それ以前二、三年間にした預貯金の解約金三億円か四億円と、それまでに取引先証券会社から受領した現金の残り五・六〇〇〇万円から、それまでに使つた金を差し引いた残金約二億円か三億円ではなかつたかと思う(同年五月二〇日付質問てん末書)などと述べ、検察官に対しては、昭和五九年三月三一日の時点で株式取引の損金の支払いに充てるため手持ちしていた現金は二億円から三億円(同年七月一一日付供述調書・検甲三二三号)、昭和五九年三月末での手持ち現金は株式の信用売買のために準備していた三億円と常時自宅にある約三〇〇〇万円(同日付供述調書・検甲三二五号)などと述べ、当公判廷においては、検察庁に押収されている書類等を検討すれば、査察調査で把握漏れとなつた各期末の現金等の額が明らかになる旨述べていたことから、本件第六回公判期日(平成二年二月二日)ころから、検察官の了解を得て、検察庁に押収されている書類等につき被告人權に検討する機会を与え、更に、第七回公判期日(同年五月八日)ころには右書類等の還付を受けさせ、次回公判期日を六か月先に指定し、この間右書類等の調査をさせたが、その後第一一回公判期日(平成三年三月二八日)に至つても、把握漏れがあるとする個人財産の具体的明細、額等は依然としてあいまいなままである。もつとも、この間被告人權において、信用組合京都商銀本店及び同支店に照会した結果、これまで把握されていなかつた同被告人個人の仮名預金が合計一億五八四三万八三九円存在したことが判明し、その解約金が各事業年度において、被告人会社の土地購入等の際、大阪興銀等からの借入金の裏担保とした仮名預金(税務当局において把握済)となつている(ただし、どの仮名預金となつたかまでは明らかでない。)というのであるが、被告人權は捜査段階においては、それまでに把握された大阪興銀外四行のもの以外に仮名預金はない旨明言していたもので(検察官に対する昭和六三年七月一一日付供述調書・検甲三二四号)、起訴後二年八か月経過したこの段階でようやく右大阪興銀等以外にも仮名預金があることが判つたというのも不自然であり、また、右仮名預金は弟が設定したものであるということからすると、その帰属にも疑問があり、さらに、右供述は、把握漏れの個人財産は株式取引の損金の支払い等のため手持ちしていた現金である旨の同被告人の従前の供述とも食い違うものであつて、結局、各事業年度の期首あるいは各事業年度中における被告人權の個人財産に把握漏れがある旨の同被告人の供述は信用することができず、従つてその分売上除外金額の算定には過誤があるとする同被告人の主張は採用することができない。

(法令の適用)

法律に照らすと、判示各所為は、各事業年度ごとに、法人税法一五九条一項(被告人会社については更に同法一六四条一項)にそれぞれ該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人權については所定刑中懲役刑を選択し、以上はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金八〇〇〇万円に、被告人權については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役二年にそれぞれ処し、被告人權に対し、同法二一条を適用して、未決勾留日数中六〇日を右刑に算入し、また、情状により同法二五条一項を適用して本裁判確定の日から五年間、右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、被告人両名の連帯負担とする。

(量刑の理由)

本件は、神戸、西宮、尼崎、明石の各市内でパチンコ遊技店五店を経営する被告人会社の代表取締役であつた被告人權が、三事業年度にわたつて、被告人会社の売上金の一部を除外し、これを仮名定期預金として秘匿するなどの方法により、法人税を免れたという事案であつて、そのほ脱率は九七ないし八七パーセントにも及ぶもので金額も多額であり、またその方法も、右各店の店長に、日々作成する営業総括日報の外に、店長の押印のみで、売上金額欄白紙の営業総括日報用紙を提出させ、これに売上除外をした金額を同被告人自ら記入し、あるいは、経理担当者に指示して記入させ、右営業総括日報を書き改めた上、正規の右日報を破棄させ、他方、売上除外金は仮名で預金するなどしていたもので、巧妙、かつ、計画的で悪質というほかなく、しかも、昭和六〇年一一月ころには、所轄税務署の特別調査を受けて売上除外の存在を指摘され、修正申告をしたにもかかわらず、その後も更に売上除外を継続していたこと及び本件査察調査に着手された後仮名預金の預け先銀行に対して、右預金が同被告人に帰属することを税務当局に秘匿するよう働きかけるなど本件査察調査には終始非協力的であつたこと等に徴すると被告人權の刑責は軽視することができず、実刑に処することも考えられないではないが、他方、同被告人は、本件ほ脱発覚後、更正通知を受けた法人税、県民税、市民税等の本税分総額四億五〇〇〇万円余を平成元年一月頃までに全額納付し、重加算税等についても近日中に納付する旨述べていること、本件起訴後同被告人は、被告人会社の代表取締役を辞任するなど反省の態度を示しており、被告人權にはこれまでに、外国為替及び外国貿易管理法違反の罪で懲役四月・執行猶予二年に処せられた(昭和三七年)前科の外は外人登録法違反、風俗営業取締法違反、傷害等の罪で三回罰金に処せられた前科があるのみであること等の同被告人のために酌むべき諸事情をも考慮し、今回は同被告人に対する刑の執行を猶予するのが相当と認め主文のとおり量刑した次第である。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 近藤道夫 裁判官 奥田正昭 裁判官 森實有紀)

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