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神戸地方裁判所姫路支部 平成6年(モ)1862号 決定 1996年6月25日

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別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  相手方は、本決定送達の日から一か月以内に、相手方が申立人らのワラント取引に際して作成した注文伝票を当裁判所に提出せよ。

二  申立人らのその余の申立を却下する。

理由

一  申立の趣旨及び理由並びに相手方の意見

申立の趣旨及び理由は、別紙平成六年一一月四日付及び平成八年四月二三日付文書提出命令申立書並びに平成七年一〇月三〇日付及び平成八年四月二二日付各文書提出命令の申立に関する意見書各記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は、平成六年一二月一六日付文書提出命令申立に対する答弁書及び平成八年四月四日付文書提出命令に対する意見書各記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件の基本事件は、いずれも相手方の顧客としてワラント取引をしていた申立人らが、相手方は公序良俗に反するワラントの勧誘を行った、適合性の原則違反、説明義務違反の違法な勧誘行為を行った、断定的判断を提供し、損失補償、利益保証による不当な勧誘行為を行った等と主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、概ねワラント購入代金相当額の損害賠償を求めている事案であり、本件は、申立人らが、相手方に対し、申立にかかる各文書が、いずれも、民事訴訟法三一二条三号後段に規定する挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書(以下「法律関係文書」という。)に該当するとして、その提出を求めている事案である。

2  法律関係文書とは、挙証者と、所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書の他、右法律関係と密接な関連のある事項を記載した文書も含まれるが、単なる所持人の自己使用目的に基づく内部文書は含まれないと解するのが相当である。

3  以下、申立にかかる各文書が、法律関係文書といえるか否かについて判断する。

(一)  注文伝票について

一件記録によれば、注文伝票とは、証券会社によって若干の違いはあるものの、総じていえば、顧客名、銘柄、扱者、約定日時、数量、単価(ポイント数)、為替レート、注文方法、受渡日等取引に関する基本的事項が記載される書面であること、注文を受けた証券会社の扱者がその取引の過程で顧客ごとに作成し、証券取引法、大蔵省令において提出が義務付けられている文書であることが一応認められる。

このように注文伝票は、顧客の注文の内容が個別に記載され、それに基づいて現実に取引が執行されるという点で、右取引に関しての最も基本的な伝票であることからして、右文書は、挙証者と所持人との間の法律関係それ自体を記載した文書とはいえないにしても、それと密接な関連のある事項を記載した文書であるというべきであり、かつ、それが顧客との実際の交渉過程において作成されることに鑑みれば、所持人との関係において、単なる内部文書ということはできないものである。

相手方は、右文書を提出させることは、申立人らの主張する説明義務違反等の事実の有無を審理する上で、何ら必要性がないと反論する。

しかし、この点については、申立人ら主張のとおり、右文書によって、それぞれのワラント取引の具体的な内容ないし態様が明らかになる側面も存するのであるから、右の反論は失当である。

したがって、本件注文伝票は、法律関係文書にあたり、かつ、基本事件の争点に鑑み、証拠調の必要がある文書と認められる。

(二)  取引日記帳について

一件記録によれば、取引日記帳には、証券会社によって若干の違いはあるものの、銘柄、顧客名、約定日時、数量、単価(ポイント数)、為替レート、売買総価格、受渡日等の取引に関する具体的事項が記載されており、証券会社各支店において、一日の取引内容を包括的に記載したものであること及び証券取引法、大蔵省令において、作成が義務付けられている文書であることが一応認められる。

右文書は、確かにその記載内容においては、顧客との取引に関する基本的事項が記載されたものではあるものの、それは個別的な取引の過程において作成されるものではなく、また、証券会社の一日の取引内容が一覧表として記載されたもので、顧客ごとに作成されるものでもないことに鑑みれば、顧客との関係においては証券会社の内部文書にすぎないものというべきである。

したがって、本件取引日記帳は、法律関係文書にあたらない。

(三)  顧客カードについて

一件記録によれば、顧客カードとは、ワラント取引の顧客の資産の状況、投資経験、取引の種類、取引動機等が記載されるものであることが一応認められる。

申立人ら主張のとおり、右文書が顧客のワラント取引に対する適合性の有無を明らかにする一資料となることは確かであるが、これは個別的な取引の過程において作成されるものではなく、証券会社の顧客に関するチェック文書であるという性質からして、証券会社の自己使用目的に基づいて作成される内部文書という性質を出ないものであるというべきである。

従って、本件の顧客カードは、法律関係文書にあたらない。

(四)  顧客管理規程について

一件記録によれば、顧客管理規程とは、顧客調査、取引開始基準、過当勧誘の防止等について営業員に遵守させる証券会社の社内規則であることが一応認められる。

これは、その性質上まさに証券会社の内規というべきであり、個別的な顧客とは無関係に作成されたものであるから、顧客との関係で法律関係文書といえないことは明らかである。

4  申立にかかる文書のうち、「相手方が定めたワラントの取引開始基準に照らして、申立人らが適格者であるか否かを社内チェックするために作成された文書」については、それが相手方の社内に存在することを認めるに足りる疎明はないから、法律関係文書に当たるか否かについて判断するまでもなく、右文書の提出を求める申立には理由がない。

公正慣習規則九号五条は、日本証券業協会の協会員が、取引開始基準を定め、当該基準に適合した顧客から取引を受託すべき旨を定めているが、顧客が当該基準に適合しているか否かを文書でチェックすることを要するとする規定はないから、たとえ協会員である他の証券会社でそのような文書が存在するとしても相手方会社において存在するものとは推定することはできない。

5  結論

以上のとおり、申立人らの本件申立は、注文伝票の提出を求める限度で理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 森本翅充 裁判官 太田晃詳 裁判官 西村康一郎)

当事者目録

兵庫県芦屋市<以下省略>

甲事件申立人(①事件原告) X1

神戸市<以下省略>

同 X2

兵庫県姫路市<以下省略>

同 X3

兵庫県芦屋市<以下省略>

同 X4

神戸市<以下省略>

甲事件申立人(②事件原告) X5

兵庫県高砂市<以下省略>

同 X6

神戸市<以下省略>

同 X7

右代表者代表取締役 A

神戸市<以下省略>

同 X8

神戸市<以下省略>

乙事件申立人(③事件原告) X9

右九名訴訟代理人弁護士 井関勇司

同 松本隆行

右訴訟復代理人弁護士 内橋一郎

東京都千代田区<以下省略>

甲事件・乙事件相手方(①②③事件被告) 新日本證券株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 宮﨑乾朗

同 関聖

同 山之内明美

右訴訟復代理人弁護士 松並良

同 田中英行

同 塩田慶

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