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神戸地方裁判所姫路支部 昭和35年(ヨ)17号 判決 1960年4月30日

申請人 金沢清市 外六名

被申請人 高見組合資会社

主文

被申請人が昭和三十五年一月七日申請人等に対しなした解雇の意思表示は本案判決確定に至る迄其の効力を停止する

被申請人は申請人等に対し昭和三十五年二月五日から本案判決確定に至る迄毎月五日(但し十二月は三十日)に日割計算にて夫々別紙目録記載の平均賃金表の金額を同目録の賃金支払方法の通り仮りに支払わなければならない

訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め其の理由として

一、申請人等は被申請人会社製材部に勤務する従業員を以て組織せらるる姫路木材労働組合高見組支部所属の組合員であつて被申請人は土木建築請負及び製材業を営む合資会社であるが、被申請人は昭和三十五年一月七日被申請人に期間の定めなく雇傭されている申請人等に対し懲戒解雇する旨の意思表示をなした

二、併し乍ら被申請人のなした本件解雇の意思表示は左の理由によつて無効である

申請人等の高見組支部は昭和三十二年十二月に結成せられたが被申請人は組合の出来たことを非常に嫌い爾来申立人等を冷酷に取扱うようになつた

本件も亦其の一つでことは年末年始の休日に関することであるが従来正月五日を初出勤日とし五日の午後は被申請人の振舞として宴会が催されていた組合結成の翌年昭和三十三年正月五日は従前通りであつたが其の翌年昭和三十四年正月には宴会は廃止とゆうことになり初出勤日の午後は各人早退届を出して休むことにした申請人等は正月の初出勤日に付いては何程か祝日的意味のあることを思い初出勤日の午後半日は有給の休みとしてもらうべきではあるまいかと考え、被申請人に対し昭和三十四年十二月七日頃昭和三十五年正月の初出勤日はどうするかと意向を質したところ、被申請人は十二月二十九日に至つて申請人等に対しポツンと一月六日を初出勤日とするとの回答をなした

申請人等としては被申請人の真意がどこにあるのか十分納得ゆかぬところがあつたが余りに押しつまつてからのことであり不得要領のまま昭和三十五年一月六日を迎え、申請人等は同日初出勤したが互に年頭の言葉を交し一応の正月気分になり例年の如く初出勤日の明るさと和やかさに浸つたのである而して同日午前中は前年暮からの持越しの仕事をしたが午後は、仕事もないのだから早退にして休もうではないかとゆうことになり申請人等は一人二人と早退した次第である

被申請人としては初出勤日を六日と定め祝日的な意味を考慮することなく全日就業とゆうことを考えていたのであろう、そこえ申請人等が早退をしたので被申請人が一応悪感情を懐いたであろうことは判るが、さりとてこの事を取上げて職場秩序を乱したとまでは言い得ない、況んやこれを理由として解雇するが如きは解雇権の濫用にほかならない。

三、申請人等の本件解雇当時の平均賃金は別紙目録記載の平均賃金表の通りであつて賃金計算期間支払日は同目録記載の賃金支払方法の通り定められている

四、申請人等は被申請人に対し解雇無効確認等の本案訴訟を提起せんとするものであるが申請人等は何れも賃金を唯一の収入源とする賃金労働者であり所謂手から口えの生活をしているのであるから其の支払を得られない結果重大な生活の脅威におびやかされているのでかかる急迫な強暴を避けるため本件仮処分申請に及んだ次第である

と陳述し

被申請人主張事実は之を否認する仮りに被申請人主張の如き終日就業の協定があり且つ仕事があつたとしても初出勤日の午後早退届を出して早退したことは懲戒解雇の事由に該当するものではないと述べた(疎明省略)被申請人訴訟代理人は申請人等の申請を却下するとの判決を求め答弁として

申請人等主張事実中一、三記載の事実は認めるが其の余の事実は之を争う

被申請人会社の就業規則によれば年末年始の休日は十二月三十一日より一月四日迄と定められているが昭和三十三年迄は一月五日午前中出勤し午後は被申請人主催の新年宴会を催して来た

併乍ら昭和三十三年十二月労使双方の協議に基き昭和三十四年一月五日の宴会を取止め其の費用を従業員に手当として支給した而して五日は終日就労する約定であつたが従業員中には早退するものがあつた

そこで昭和三十五年度の年末年始の休暇に付いて昭和三十四年十二月七日組合から次の三方法の一つに決定してくれとの要求があつた

(イ)  昭和三十五年一月五日は午前中就業午後は休業とし賃金は其の日一日働いたこととして計算する

(ロ)  昭和三十五年一月五日は全日就業する

(ハ) 年末年始休暇を一月五日迄とし一月六日より全日就業する

右申出に対し被申請人は昭和三十四年十二月二十九日組合に対し(ハ)に決定したい旨回答し組合は之を了承し申請人等に周知徹底せしめた次第である

而して右休暇は完全に実行され昭和三十五年一月六日の出勤日となつたのであるが被申請人は製材部の従業員たる申請人等に対しては当時急を要する仕事があつたので特定の作業指示をなし十分な仕事を提供したに拘らず、申請人等は之が稼働をなさず同日午後に至つて被申請人の承認を得ることなく集団で業務を放棄して早退し製材業務の遂行を不能ならしめた。申請人等の右行為は就業規則に定められた懲戒解雇の事由に該当する

叙上の次第で被申請人は已むなく申請人等を懲戒解雇したものであるから申請人等の主張は失当である本件解雇の意思表示は正当な経営権の行使としてなされたものであるから解雇権の濫用ではないと陳述した。(疎明省略)

理由

申請人等は被申請人会社製材部に勤務する従業員を以て組織せらるる姫路木材労働組合高見組支部所属の組合員であつて被申請人会社は土木建築請負及び製材業を営む合資会社であること

被申請人会社は昭和三十五年一月七日被申請人会社に期間の定めなく雇傭されている申請人等に対し懲戒解雇する旨の意思表示をなしたこと

以上の事実は当事者間に争のないところである

申請人等は被申請人のなした本件解雇の意思表示は解雇権の濫用であると主張するに付き按ずるに成立に争のない甲第二、三号証証人浜谷全朗同橋本基敬の各証言申請人菊川亀次本人尋問の結果(第一、二回)を綜合考察すれば

被申請人会社の就業規則によれば年末年始の休暇は十二月三十一日より一月四日迄となつているが昭和三十三年迄は一月五日を初出勤日とし午前中は出勤し午後は被申請人主催の宴会が催されていたこと

昭和三十四年正月は五日を初勤日としたが右のような宴会は催されなかつたこと

昭和三十四年十二月七日頃申請人等の属する姫路木材労働組合高見組支部は被申請人に対し、昭和三十五年一月の初出勤日の午後は有給休暇として貰いたいと申入れたところ、被申請人は同年十二月二十九日に至り右高見組支部の支部長橋本基敬に対し、昭和三十五年度の初出勤日は六日とする旨の通知をなしたこと

申請人等は昭和三十五年一月六日出勤をし午前中は製材の仕事に従事したが申請人菊川亀次は同日正午過頃被申請人会社事務室に赴き午後は申請人等の早退を認めて貰いたいと申入れたところ被申請人は全日就業の定めであるとして右申入れを拒否したこと

申請人清瀬を除く申請人六名は被申請人会社事務室に早退届を出したが被申請人側の同意を得ることができないまま同日午後本件申請人七名の者は何れも早退してしまつたこと

以上の事実を認定することができる。

而して成立に争のない乙第二号証の一乃至六によれば申請人等(前示清瀬を除き)が被申請人に提出した前示早退届書の早退の事由記載欄には「仕事初め」又は「初出のため」等と記載したものや、何等の記載なく空白のままのものありたることを肯認し得べく申請人等の右早退が疾病其の他の正当の事由に基くものなりしことを認むるに足る疏明はない

何れも成立に争のない乙第一号証、甲第二号証、証人高見昭の証言を綜合すれば

被申請人会社に於ては其の従業員の就業に関し適法に制定せられた就業規則の存すること、右就業規則第二十六条に従業員は早退しようとするときは予め会社の許可を受けなければならない同規則第六十六条に従業員が業務命令に不当に反抗し職場の秩序をみだしたときは、懲戒解雇に処する但し情状により出勤停止に止めることがある旨の定めあること

を認定することができる

叙上認定の事実に徴し被請申人側に於て申請人等の行動に付き不満の念を懐いたであろうことは推測に難くなく申請人等が当日午後特にこれと言う正当の事由もないのに漫然と早退してしまつたことは非難さるべきところではあるが

証人浜谷全朗同橋本基敬の各証言、申請人菊川亀次本人尋問の結果(第一、二回)並びに成立に争のない甲第四、五、六号証により推認し得べき

申請人等は何れも当日午前中は前年暮から持越しになつていた被申請人会社の製材業務に誠実に従事し杉材による廂材料の製品二百数十個以上を製作したこと

申請人等の早退により被申請人会社に対し特に著しい損害を蒙らしめたような事実もないこと

当日は新春の初出勤日であつたため申請人等は幾分いわゆる正月気分に浸つていたものなること

申請人等は何れも相当の年月にわたり、被申請人に雇われ来つたものであつて、従来の勤務成績乃至行状が不良であつた事実などは認められないこと

等の諸般の事情を考慮するときは到底申請人等の前記行動を以て右就業規則に定められた懲戒解雇に該当すべき職場秩序の破壊ありたるものと謂うことはできない

従つて被申請人のなした本件解雇の意思表示は解雇権の濫用に外ならざるものと謂うべく右解雇は無効であり、申請人等は何れも被申請人の従業員たる地位を保有し被申請人に対し賃金を請求し得るものと謂わなければならない

而して申請人等の本件解雇当時の平均賃金が別紙目録記載の平均賃金表の通りであつて賃金計算期間、支払日が別紙目録記載の賃金支払方法の通り定められていることは、当事者間に争のないところである

解雇が無効であるに拘らず、被解雇者として取扱われることは賃金生活者の著しい苦痛であり速かに其の地位を保全させなければ回復すべからざる損害を蒙ることは明かであるから、申請人等が被申請人に対し本件解雇の意思表示の効力を停止する仮処分を求め且つ別紙目録記載平均賃金の支払を求むる仮処分申請を認容すべきものとし、訴訟費用の負担に付き民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 関護)

(別紙)目録

平均賃金表

一ケ月の平均賃金

氏名

七、七七一円

佐野喜一

一五、八九八円

金沢清市

一〇、八九八円

藤本長平

五、五五〇円

清瀬亀蔵

一一、四一六円

菊川亀次

六、四一三円

小倉タネヨ

九、四五一円

福永清

賃金支払方法

計算期間

一月分 十二月二十六日―一月三十一日

二月より十一月まで各月共 一日―末日

十二月分 一日―二十五日

支払日

一月分より十一月分までは翌月五日に

十二月分は十二月三十日に支払う

以上

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