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神戸地方裁判所姫路支部 昭和36年(わ)277号 判決 1962年7月16日

被告人 西川正彦 外一名

主文

被告人室井一城を懲役四年に、被告人西川正彦を懲役三年に各処する。

未決勾留日数中、右各被告人に対し各二五〇日をそれぞれ右各本刑に算入する。

訴訟費用中証人井塚きよに支給した分は被告人室井一城の負担とし、その余の費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は、昭和三五年夏頃知り合い、それ以来お互いに顔見知り程度の間柄であつたが、昭和三六年六月二五日、午后五時過頃、竜野市竜野町水神町一八四番地、喫茶店「ラビー」で偶然会い、被告人室井は、ウイスキーを、被告人西川は、ジユースを、それぞれ飲み、一旦、同店を出た後、被告人両名は、一緒に附近の飲食店で飲酒することになり、まず同市同町大手三丁目七三番地、飲食店「みわぎく」で被告人両名ともビールを飲み同店を出た後、被告人室井が、その所持金の一部を紛失したというので、右両名は附近を探したが見つからず、再び前記「ラビー」に行き、被告人室井はハイボールを、被告人西川はジユースを、それぞれ飲んでいたが、被告人室井は右金員が見つからないため立腹し、乱暴な言動をしたので被告人西川が、店に迷惑をかけることを恐れて、被告人室井を同店から連れ出し、次いで、同市同町水神町二〇九番地、飲食店「高砂」に行き被告人両名らでビールを飲んでいたところ、再び被告人室井は一人で同店を出て前記「ラビー」に行き、ハイボールを飲みだし、被告人西川もしばらくして同店に行つたところ、同店の女給から被告人室井を同店から連れ出してくれるよう目で合図されたので同人を連れ出し、再び前記「高砂」にもどりビールを飲んだ後、

第一、被告人室井一城は、同日午後一〇時過頃、同市同町旭町一丁目一〇二番地、飲食店「思い出」こと藤野さだ方において、かねて顔見知りの前田繁雄(当一九年)に対し声をかけたところ、同人が心よく応答しなかつたとして憤慨し、やにわに平手で同人の顔面部を一回殴打し、もつて暴行を加え

第二、被告人室井一城、同西川正彦は、右「思い出」を出て、附近の料理店「新富」に立ち寄り、同店に来合せていた被告人西川の知人からビール二本をもらい、被告人両名がそれぞれ一本づつ手に持ち、同日、午後十一時過頃、同市同町旭町三丁目五一番地、飲食店「魚清」こと松井喜美子方に行き、その頃、同店に来合せていた中山延行(当二一年)及び金治守(当二〇年)の両名に対し、被告人西川において、所携のビール瓶を右中山の鼻先に突きつけて「これをめんで突き刺したろか」と申し向けて脅迫し、被告人室井において両手で右両名の頭部を同時に一回づゝ殴打し、さらに右両名の首筋を両手でつかみ前後に四回程ゆさぶるなどの暴行を加え、もつて被告人両名共同して右両名を脅迫し、且つ、暴行を加え、

第三、被告人室井一城は、右「魚清」でビールを飲んだうえ同店を出、更に附近の飲食店「丸新」に行く途中、同日、午後一一時過頃、同市同町上河原一一三番地、菅原修一方前路上において、おりから同所を酔余通行中の橋本稔(当二〇年)、土井良二(当二四年)を呼びとめた際、右土井らの応答が気に入らないとして立腹し、やにわに右橋本に対し、平手で同人の顔面部を約三回殴打したうえ、右大腿部を一回下駄ばきの足で蹴り、もつて暴行を加え、

第四、被告人室井一城、同西川正彦は、第三の犯行直後、前記橋本が逃走するや、その頃、同所及び前記菅原方西側路上において、居残つた前記土井良二に対し、両名は共謀のうえ、被告人室井において、所携の洋傘でその頭部並びに左首筋附近を約二回殴打したうえ、その左大腿部附近を一回足蹴りにし、被告人西川においても、同人を足蹴りにするなどの暴行を加え、その後同所から東方約五〇メートルの同市同町上河原一〇五番地、福本与七方(岸沢屋靴店)前路上附近では、被告人両名が右土井の両側からその両腕を抱えるようにつかまえ、更に右岸沢屋靴店南側路上において、被告人室井が同人の頭部を洋傘で二回程殴打し、同人が東方に向つて早足で逃げ出したのを被告人両名が追いかけ、揖保川河畔の通称水神社南側路上において、被告人室井が、同人に追いつき所携の洋傘で二回程殴打し、ついで、右土井が、同市同町水神町所属の揖保川右岸県道から同河原の第一底水護岸に通ずる水防用通路に逃げこむや、被告人両名において更にこれを追跡し、同日午後一一時三〇分頃、台風の影響による前日来の豪雨のために第二底水護岸は水没し、県道沿いの第一底水護岸はその上面の近くまで水かさが増し、水勢は激しく、かつ、降雨中で暗く、前方の望見困難な状況下において、被告人西川が、右土井の身辺に立ちその県道への退路をふさぎ、同人の肩をつかみ、被告人室井が同人の後頭部を一回殴打するなど追撃の手をゆるめない態勢を示したため、飲酒していたうえに前記のような被告人らの暴行を受けたため疲労していた右土井をして、陸上での逃路がないと考え被告人らの暴行からのがれるための唯一の手段として、右水防用通路附近の揖保川の流水に飛び込まざるを得ないようにし、よつてその頃同人をしてその濁流に巻き込まれて溺死するに至らしめ、

第五、被告人西川正彦は、同月三日、午后二時五〇分頃、同市同町末政踏切附近県道上において、法令に定められた運転免許を受けないで、第二種自動三輪車(兵六に六六七〇号)を運転し

たものである。

(証拠の標目)

一、第一回公判調書中、被告人両名の各供述記載

更に

冒頭記載の事実について(略)

第一ないし第四の事実について(略)

第五の事実について(中略)

なお、沢田、永田両弁護人は、判示第四の事実について、「被告人らの判示暴行と前記土井良二の溺死との間にはいわゆる因果関係がないから、溺死の点について、両被告人に刑事事任を負わせるべきではない」旨主張するので、この点について判断する。

刑法第二〇五条第一項にいわゆる身体傷害に「因り」人を死に致した。とは、傷害行為の時に、通常人が知りまたは予見することができたであろう一般的事情及び行為者が現に知りまたは予見していた特別の事情を基礎として考えたときに、右傷害行為から致死の結果を発生することが経験則上当然予想し得られる場合をいうと解すべきである(最高裁判所昭和二二年(れ)第二三二号、同二三年三月三〇日第三小法廷判決参照)。

前掲各証拠によれば、(一)、本件において被告人両名が最後に暴行を加えた現場である判示「水防用通路」は、揖保川西岸の県道から川に降りるための通路であつて、コンクリートで舗装されており、幅三・二メートル、約一〇度の勾配があり、その上端部は前記県道に接続し、その下端部は同川第一底水護岸に接続し、その西側は県道に、東側は同川第二底水護岸(本件犯行時水没)に至る各急傾斜の石垣の護岸があり(以上当裁判所の検証調書添付の第八図面並びに写真一五葉(38~52)参照)、本件犯行当時、前記県道の雨水がその上を流れていたから、右水防用通路の途中から県道への石垣をよぢ登るのは困難であること、(二)、前記第一底水護岸は幅約四メートルで割石が敷かれ、揖保川西岸に沿つて続いており、約四五メートル南に行けば県道に上がる石段道があること、(三)、本件犯行当時は前日来の豪雨で揖保川は異常に増水し、右第一底水護岸上面附近まで水かさが増し、降雨中であるうえに、附近の照明設備としては右水防用通路の県道からの降り口東側の角に二〇ワツトの螢光灯が一つあるほか、それより揖保川沿い南約二五メートルごとに同じ螢光灯があるだけで、右第一底水護岸並びに同川流水の南方の状況については、右水防用通路からは望見しがたい状態であつたこと、(四)、被害者土井良二は、当時かなり酒に酔うていたうえに、両被告人から、右水防用通路に至るまで約二〇〇メートルの間にわたり連続して判示のような各暴行を受け、右水防用通路に逃げ込んだのに更に被告人らに追跡されたこと、がそれぞれ認められる。そして、右の各事実は、いずれも、被告人両名において現に知り、かつ、通常人をその地位に置くときはこれまた十分に知り得たであろうと思われるものである。従つて、右のような状況下において、その被害者としては、客観的には、右第一底水護岸沿いに南方へ逃避する方法はないことはないが、それは、いちじるしく困難であると認められるのみならず、被告人らのような屈強の青年二人から、判示のような暴行を加えられ、県道上への退路を断たれたうえ、なおも、追撃の手をゆるめないという態勢を示された場合において、陸上での逃路がないと考え、とつさの判断により、被告人らの暴行からのがれるための唯一の手段として、附近の流水に飛び込み、その結果、増水した揖保川の激流に流され、溺死するに至るべきことは、本犯行の際、経験則上当然予想し得られる場合に当るといわなければならない。

しからば、被告人両名の判示土井に対する暴行と土井死亡の結果との間には、いわゆる因果関係があるから、被告人らは、その結果について傷害致死の罪責を負わなければならない。両弁護人の前記主張は採用することはできない。

(弁護人の主張に対する判断)

沢田剛弁護人は、被告人室井一城について、同被告人は本件第一ないし第四の犯行当時、甚しく酩酊しその程度は心神喪失に近い耗弱の状態にあつた旨主張するが、前掲各証拠によれば、右各犯行当時、飲酒により相当程度酩酊していたことは認められるのであるが、それが心神耗弱の程度に達するものであつたとは認めがたい。

(法令の適用)

被告人室井一城の判示第一並びに第三の各行為は、いずれも刑法第二〇八条に、同被告人の判示第二の行為(中山並びに金治に対する各行為)は、各暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に、同被告人の判示第四の行為は、刑法第二〇五条第一項、第六〇条に、それぞれ該当するところ、中山並びに金治に対する各暴力行為等処罰に関する法律違反の点は、一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、重きに従つて処断すべきであるが、犯情に軽重がないから、単に暴力行為等処罰に関する法律違反の一罪として処断することにし、右の罪並びに暴行の各罪について、いずれも懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、但書、第一〇条、第一四条により最も重い傷害致死罪の刑に併合罪の加重をしたうえで、被告人室井を主文第一項記載の刑に処し、同法第二一条により、主文第二項記載のとおり、未決勾留日数の一部を右刑に算入し、

被告人西川正彦の判示第二の行為(中山並びに金治に対する各行為は、各暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に、同被告人判示第四の行為は、刑法第二〇五条第一項、第六〇条に、同被告人判示第五の行為は、道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一に、それぞれ該当するところ、中山並びに金治に対する各暴力行等処罰に関する法律違反の点は、一個の行為で数個の罪名に触れ場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、前同様一罪として処断することにし、暴力行為等処罰に関する法律違反の罪並びに道路交通法違反の各罪について、いずれも懲役刑を選択し、以上各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、但書、第一〇条により、最も重い傷害致死罪の刑に併合罪の加重をしたうえで、被告人西川を主文第一項記載の刑に処し、同法第二一条により、主文第二項記載のとおり、それぞれ未決勾留日数の一部を右各刑に算入し、被告人両名に対し刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条を適用して、主文第三項記載のとおりその訴訟費用の負担を定める。

(裁判官 山崎薫 桜井敏雄 大石貢二)

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