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神戸地方裁判所姫路支部 昭和42年(つ)2号 決定

〔主文〕本件請求を棄却する。

〔理由〕本件請求の要旨は、

「被疑者は、姫路検察審査会に勤務する検察審査会事務官である。請求人が実弟広瀬友勝らを暴行罪で兵庫県社警察署に告訴した事件につき、右事件の送付を受けた社区検察庁検察官においてこれを不起訴処分(起訴猶予)にしたため、請求人はこれを不服として姫路検察審査会に審査の申立をし、昭和四一年三月七日同審査会において審査申立人として尋問を受けた。その際、被疑者は請求人の私生活に関することのみを尋問し、審査申立にかかる刑事事件について申述しようとした請求人の発言を封じて審査の妨害をし、もつて公務員の職権を濫用して右不起訴処分の当否の審査を求める請求人の権利を妨害した。よつて請求人は神戸地方検察庁姫路支部に被疑者を右の事実につき公務員職権濫用罪で告訴したところ、同支部検察官は右事件を不起訴処分にした。しかしながら、請求人は右不起訴処分には承服できないので、刑事訴訟法第二六二条により右事件を裁判所の審判に付することを請求する」というのである。

一件記録によれば、請求人は被疑者に本件審判請求の犯罪事実ありとして昭和四一年九月二八日神戸地方検察庁姫路支部に告訴したが、同支部検察官は右事実につき犯罪の嫌疑なしとの理由で昭和四二年一月三一日不起訴処分に付し、請求人は、同年二月二日右の通知を受け、同月八日本件請求書を右検察官に差し出したことが認められる。

よつて本件請求の当否について判断するに、<証拠>を総合すると、次のような事実が認められる。

(1) 被疑者岡本重利は昭和四〇年四月一日付で検察審査会事務官に任命され、姫路検察審査会事務局長として、同審査会長の指揮監督を受けて審査申立事件の事務処理を掌つていたこと。

(2) 同年一二月八日請求人武内好子より、請求人告訴にかかる広瀬友勝に対する暴行被疑事件についての社区検察庁検察官の不起訴処分を不服として、姫路検察審査会に審査の申立がなされたため、被疑者は従来における検察事務官としての執務と同様に、事件審査の開始に当り、不起訴記録その他関係資料の整理検討、捜査記録の謄写摘録、検察審査員に対する審査資料の配布並びに事件内容の説明等を行い審査員に対して審査事件の概要を理解徹底させるとともに、事件の審査に当つて証人などの取調の要否、尋問事項の作成その他審査手続全般の進行に関し助言具申したこと。

(3) 同検察審査会は前記審査申立事件につき前後四回に亘る審査会議を招集開催し、被疑者も会議録の作成その他同検察審査会長の命令に基く補助事務を掌るため右各審査会議の席上に立会したが、昭和四一年三月七日の審査会議に於ては本件請求人に対し審査申立人尋問が行われ、その際主として当時の同検察審査会長辻円治が予め作成された尋問事項書に基き審査事件の背景(本件事案は家庭内の悶着に起因する姉弟間の感情の疎隔が暴行被疑事件にまで及んだものであり、検察審査会が審査申立人らの家庭内情を詳細に尋問調査するのは当然の事理である)、内容等事案全般に亘つて詳細な尋問を行つたほか、被疑者も同審査会議の席上で、事件の核心に触れて審査申立人(本件請求人)に対する尋問を代行したこともあつたこと。

(4) しかるに本件請求人は辻審査会長の尋問事項に対して要領を得た答弁をせず、却つて質問以外の事項にわたつて徒に自己主張を強弁するので、被疑者は質問応答の内容を録取して会議録を作成する自己の職責遂行に支障をきたし、筆記の困難を避けるためやむなく請求人の申述に対し審査会長の尋問事項について答弁するよう注意し、その発言を制したこと。

(5) 同検察審査会が右審査会議における被疑者の言動につき問題を提起したこともないこと。

以上の認定事実に関して、請求人武内好子は検察官に対し、「被疑者は請求人の私生活に関することのみを尋問し、審査申立にかかる刑事事件についての請求人の発言を頭ごなしに封じた」旨供述しているが、同供述は他にこれを裏付けるに足りる証拠がなく、前掲各証拠と対比精査すると、多分に誇張ないし歪曲を含むものでたやすく措信し難い。その他前記認定事実を覆すに足りる証拠はない。

してみれば、被疑者が故意に前記検察審査申立事件についての本件請求人の発言を封じて審査の妨害をし、議決に至る審査員の判断を誤導したという請求人主張の如き違法にわたる所為は全くなかつたというべく、結局、本件においては、被疑者が前記認定の如く、徒に自己主張を強弁し続ける請求人に対し、自己の認識と判断において、その発言に注意を与えた措置の適否が問題となるに過ぎないというべきである。

ところ検察審査会事務官の一般的職務権限を定める検察審査会法、同法施行令によれば、事務官のつかさどる検察審査会の事務のうち、本件で問題とされる審査事件の処理に関する事務は、会議録作成保管のほか収集した資料の整理保管、審査会議の立会などの固有事務と検察審査会長の指揮監督を受けて検察審査会または検察審査会長の補助機関として行う補助事務に分けられる。そして右補助事務の範囲および限界については、検察審査会制度の趣旨、検察審査会の審査事項及び審査手続の内容、検察審査員選定の方式などから考慮すると、公訴権の行使に対する「民意の反映」(検察審査会法第一条)ともいうべき審査の実体面即ち議決の内容に関しては事務官の関与を許すべきではないが、審査の手続面に関しては、その判断と責任が検察審査会または検察審査会長に留保されている限り、かなり広範囲にわたるその補助者である事務官の関与を否定すべきではなく、審査会が事件の内容と問題点を的確に把握し、個々の手続を円滑に運営して事件処理を迅速に進めていくための潤滑油的機能を果たし審査を軌道に乗せるという趣旨限度内においては、その補助によつて事務処理をすることができるものと解するのが相当である。従つて、検察事務官が、検察審査会長の指揮監督を受けて、検察審査会または検察審査会長を補助するため、それらの職務である審査の手続面に関し前記趣旨限度内での事務に自己の認識と判断において従事することは、事務官として当然の職務であるといわなければならない。

そこで本件被疑者の措置についてその当否を審按するに、そもそも検察審査会法が審査申立人尋問を認めたのは、証拠方法として申立人を尋問することによつて不起訴処分に対する不服の理由を聴取し、併せて口頭による供述をとおして審査員が事件の概要を容易に把握するという配慮からである。しかるに前記審査会議に於ける本件請求人の発言は、前認定の如く、単に聴取困難とか前後矛盾とかいうにとどまらず、審査会長の尋問事項以外にわたつて徒にまとまりのない自己の一方的主張を強弁したもので、審査申立人尋問を認めた前認趣旨を全然無視し、審査員の審査事件に対する認識判断を歪め、審査手続の円滑を阻み、事件処理を渋滞させたものといつても過言ではない。さればかかる事態に直面して、被疑者が会議録作成の固有事務並びに審査手続の円滑な進行指揮の補助事務の両面にわたつてその職責遂行に支障を来たしこれを避けるため、前認定の如く請求人の前記発言を制したことは、当時の本件請求人の態度その他の状況から判断して、検察審査会事務官の職務権限に関する前記目標にも相応合致するもので、まことに妥当かつ適切な措置であつたといわなければならない。しかも右措置は審査会議の席上、審査員の面前でなされたもので、その過程で個別的に検察審査会長の指揮を受けてその監督のもとに、検察審査会または検察審査会長の判断を経由してその責任において認容されつつ処理されたものと認められるから、被疑者が右措置をとるにつき特に審査会長に問いただすことをせず、自己の認識と判断に基きこれをなした点も前記事務権限の範囲を逸脱した行き過ぎと非難することもできない。

以上説示のように本件につき被疑者に職権濫用を認めることはできないから、本件に関し検察官のなした不起訴処分は相当であつて本件審判請求は理由がない。よつて刑事訴訟法第二六六条第一号により主文のとおり決定する。(村上喜夫 原田直郎 藤田清臣)

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