大判例

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神戸地方裁判所尼崎支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人岡山琢美を罰金壱万円に処する

被告人山口松太郎を罰金壱万円に処する

被告人平野豊太郎を罰金壱万円に処する

被告人中村和三郎を罰金壱万円に処する

被告人高橋貢を罰金壱万円に処する

被告人堂本晋三を罰金八千円に処する

被告人堀敏夫を懲役壱年六月に処する

被告人稲生弘を懲役八月に処する

但し被告人堀敏夫及同稲生弘に対しては本裁判確定の日から参年間其執行を猶予する

被告人堀敏夫から金弐万九千九百七拾八円を追徴する

被告人稲生弘から金壱万四千九百四拾七円を追徴する

理由

被告人堀敏夫は昭和二十六年四月二日大蔵事務官に採用され、同日尼崎税務署直税課所得税係、序いて同年六月十六日附にて直税課法人税係に、更に昭和二十七年六月一日附にて名古屋国税局管内中川税務署に各配置換へせられ、

被告人稲生弘は昭和二十六年四月二日大蔵事務官に採用され、同日尼崎税務署直税課所得税係、序いて同年六月十六日同署直税課法人税係、昭和二十七年六月一日名古屋国税局管内中川税務署に各配置換へせられたものであるが、何れも法人税係中、法人税の賦課、減免に関する調査及び其の調査に基く課長を経由した署長の決定の為めにする決議案の起案を、其の職務権限とし、其の担当法人については一応の分担は取極められあるも、事情に従ひ相互の協力及受持の変更並譲渡は、昭和二十七年六月頃迄は之を任意に為し得ることは、上司に於ても当時黙認せられていたものである。

被告人岡山琢美は尼崎市西本町北通三丁目五十二番地豆陽工業株式会社の社長

被告人堂本晋三は、同市昭和通一丁目三十一番地株式会社後藤印刷工所の取締役

被告人山口松太郎は同市西字南川端六百九十三番地不二工業株式会社の代表取締役

被告人平野豊太郎は、同市神田南通三丁目八十六番地有限会社中野商店の代表社員

被告人中村和三郎は、同市神田北通六丁目百六十一番地合資会社中村工業所の代表社員

被告人高橋貢は、尼崎市南城内三十一番地八洲木材株式会社の常務取締役

であつた者であるが、

第壱、被告人岡山琢美は、自己の経営する前顯会社の重役連と相謀り、同会社の昭和二十六年度法人税の基礎たる所得の算出方及、其申告の為めにする資料の取扱につき被告人稲生弘及同堀敏夫を招致して、其の職権上便宜寛大の取扱を受け、之が謝意並今後の便宜を請託する趣旨のもとに

(1)、昭和二十七年二月十四日兵庫県武庫郡良元村湯第一ホテルで、前記稲生弘及同堀敏夫に対し、一人前金壱千四百六拾円に相当する酒食其他の饗応を為し

(2)、同年三月十日大阪府池田市槻木町壱千四拾五番地割烹「魚治」事小林悦子方で、右両名に対し一人前金九百七拾五円相当の酒食の饗応を為し

(3)、同年三月十五日、同市綾羽町二丁目弐千四百六十九番地待合業「中魚治」事小林道子方で、右両名に対し一人金弐千五百六拾八円に相当する酒食其の他の饗応を為し以つて同人等の職務に関して贈賄し

第弐、被告人堂本晋三は、前記後藤印刷工所の昭和二十六年度法人税の資料たる所得調査に赴いた被告人稲生弘外一名の税務署員から金五拾余万円の貸倒れ取扱方に就き、厳重な取調を受けた為め、之が処置につき職務上寛大な配慮を得る請託の目的で、計理士三条一男と相謀り、同年三月十一日尼崎市神田北通三丁目二十五番地旗亭「きよし」事清水糸子方に同人を招致し、以つて一人前壱千三百七拾八円に相当する酒食の饗応を為して同人の職務に関して贈賄し

第参、被告人山口松太郎は、前顯不二工業株式会社の昭和二十六年度法人税決定調査の為め赴いた、前記稲生弘外一名の税務署員から交際費の計上につき取調を受けるや、同会社経理顧問計理士西田博と共謀の上、之が取扱に就き便宜寛大の処置を請託する趣旨で、昭和二十七年四月十一日同人等を神戸市兵庫区湊町四丁目百七十八番地割烹「まねき」事関本とみ方に招致して、一人前金七千六百六拾六円に相当する酒食其の他の饗応を為して同人等の職務に関して、贈賄し

第四、被告人平野豊太郎は前顯有限会社中野商店の昭和二十六年度法人税決定の調査に赴いた前記税務署員堀敏夫から、書類の整備並提出書類の説明要領の教示を受け之が謝意と、猶将来便宜寛大の処置を請託する趣旨とて

(一)、昭和二十七年八月十一日頃右堀敏夫を尼崎市神田北通三丁目七十五番地旅館「富士旅館」事松井ユキ方に招致して一人前四千円相当の酒食其他の饗応を為し

(二)、更に同月二十五日、右堀敏夫を再度右「富士旅館」に招致し、一人前金三千九百七拾五円相当の酒食其の他の饗応を為して同人の職務に関して贈賄を為し

第五、被告人中村和三郎は、前顯合資会社中村工業所の昭和二十六年度法人税決定の調査に赴いた、被告人堀敏夫から金五拾四万円の所得額の記載漏を発見せられ之が、寛大の取扱いを受ける請託の趣旨で、同人を昭和二十七年三月二十七日、大阪市南区東清水町六十番地旗亭「若竹」事吉住義種方に招致し、一人前九千円に相当する酒食其の他の饗応を為して同人の職務に関して贈賄し

第六、被告人高橋貢は、前顯八洲木材株式会社の昭和二十六年度法人税決定調査の為め赴いた、被告人堀敏夫に買掛元帳中約八拾万円の記載漏を発見された為め、之が取扱に就き便宜寛大な取扱い並将来の好意を請託する趣旨で、会計係長住吉政義と共謀の上、右被告人を昭和二十七年十月二十日兵庫県武庫郡良元村宝塚湯元旅館業「水明館」事吉田久子方に招致し、一人前金七千円に相当する酒食其の他饗応を為して同人の職務に関して贈賄し

第七、被告人堀敏夫及同稲生弘は、前記判示第壱記載の如く、被告人岡山琢美が豆陽工業株式会社の昭和二十六年度法人税決定に関し便宜寛大の処置を請託する趣旨を諒して、其提供に係る判示第壱の(一)乃至(三)に照応する贈賄を其職務に関し収受して収賄を為し

第八、被告人稲生弘は判示第弐及同第参記載の如く、其判示各日時、被告人堂本晋三又は同山口松太郎から、夫々後藤印刷工所又は不二工業株式会社の昭和二十六年度法人税決定に関する調査につき同人等が便宜寬大の処置を請託するものであるの情を諒して其各判示の如く夫々同人等から各判示一人前の金員に照応する饗応を受けて其職務に関して収賄し

第九、被告人堀敏夫は

(一)、判示第四の(一)、(二)、同第五及同第六記載の如く被告人平野豊太郎、同中村和三郎及同高橋貢が、夫々有限会社中野商店合資会社中村工業所及八洲木材株式会社の昭和二十六年度法人税決定の為めにする調査に際り、便宜寬大の処置を夫々請託するものであるの情を諒して、其の各判示日時及各場所で、其当該各判示に照応する一人前の金額に相当する酒食其の他の饗応を受けて其の職務に関し収賄し

(二)、昭和二十七年八月下旬、予て尼崎市三反田オバサ百六番地ノ一日本電研工業株式会社の昭和二十六年度法人税決定に関する調査の際、其の売掛代金の操作につき疑点を追究し、其の為め、同会社営業担当者山田泰三が寬大の取扱いを請託して提供するものであるの情を諒して、尼崎市西長洲宮西六百五拾九番地喫茶店「撰」於て同人提供に係る現金壱万円を貸借名下に供与を受け

(三)、同年九月二十七日、曩に峰機械工業株式会社の昭和二十六年度法人税決定に関する調査の際、約金四十万円の所得額の記載漏を追究し、其の為同会社会計係竹原才治が之が取扱につき寬大の処置を請託するの情を諒して、尼崎市浜田崇德院二百四十四番地旗亭「丸万」に於て同人から現金壱万円を貸借名下に交付を受けて収受し

(四)、同年十月十三日、尼崎市昭和通り八丁目二百九十二番地岡田病院喫茶店で前記竹原才治から右判示(三)記載と同趣旨の許に同人が供与するものの情を諒して、現金壱万円を貸借名下に収受し

(五)、同年九月中旬、尼崎市東富松字池田壱千四拾九番地富士電機株式会社の昭和二十六年度分法人税決定に関する調査の際、帳簿の不整備並諸税約五万円余を欠損に計上せる点を発見し、其の為同会社々員石川環一郎が、同会社の課税上便宜寬大な処置を請託する趣旨である情を諒して神戸市兵庫区福原町五十二ノ四番地接客業「源氏」事柴田健二方で、右石川環一郎の提供する現金壱万円を貸借名下に受取つて収受し

(六)、同年十一月二十日、尼崎市中浜二十八番地栄和運輸株式会社の昭和二十六年度法人税決定に関する調査の際自動車の消却率の不当算定につき追究し、其の為同会社常務取締役桝谷馨が便宜寬大の処置を請託し、提供するものである情を諒して、同市竹谷町二丁目四十八番地旗亭「やまがみ」事山神つた方で、右桝谷馨の提供した金五千円を貸借名下に交付を受けて収受し

何れも其の職務に関して収賄し

たものである

≪証拠省略≫

附加刑たる追徴について按ずるに被告人堀敏夫は判示第九の丸の内(二)乃至(六)の現金収受の分は、全部之を贈賄者に返還していることは、当公廷に提出の当該贈賄者の領収証に依つて明白である。

尤も右は同被告人が受取つた現金其物ではなく、収賄した現金は、一度同被告人に於て費消したことは同被告人の供述調査にも明白である。

斯る場合従来の例に依ると刑法第百九十七条ノ四の解釈に於て、仮令収賄したと同額の現金を贈賄者に返還するも収受した現金其の物に非ざる限り沒収シ能ハザル場合として別に追徴すべきものと解したのであつた。

然れど金銭其の物の個性を強調することは、取引界の通念並に金銭其の物の高度の融通性に照しナンセンスであり、且つ収受現金が所持金と混同した場合の事を考え合せて来ると、之と何程の逕程もないことで飽迄も金銭の個性を追究することは無意味である。

又此の場合追徴すべきものと解するに於ては、収賄者は二重の出損を余儀なくされる反面返還を受けた贈賄者は之を沒収せられず却而収賄者の損失に於て利得する結果となる。若し返還を受けた贈賄者からも、其の返還された現金を沒収するものとすれば、双方から追徴する結果となつて、本来不法性を帯びた財物を何人にも帰属させない為め附加刑となして、其物のみを沒収せんとした立法の趣旨を逸脱することになる。

右の如き不合理は一に金銭の個性を追究せんとする解釈家の無用なる潔癖過多症に在る。

因つて当裁判所は収賄の現金は、消費された後に於ても贈賄者に返還あれば、目的物の不法性は猶依然として継続し、何人にも之を帰属させるべきでないとする立法の精神から返還を受けた贈賄者から追徴すれば足るものと理解する。

仍て被告人堀敏夫が返還した現金は、収受した現金其の物でなくとも、贈賄者に返還した以上、更めて同被告人から追徴しないものとする。

猶被告人稲生弘同堀敏夫に対しては刑法第二十五条を適用す

(裁判官 日下基)

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