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神戸地方裁判所尼崎支部 平成元年(ワ)412号 判決 1990年11月28日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物を明渡せ。

二  被告らは、原告に対し、平成元年五月二三日以降右明渡済みまで各自一か月二二万円の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、強制競売事件において建物を買受けた原告が、右建物の合体前の旧建物の一つに抵当権を有していたことを理由に、賃借権及び承諾ある転借権に基づいて右買受け建物を占有している被告らに対し、建物の明渡と所有権取得日以後の賃料相当損害金の支払を求めた事件である。

一  争いのない事実

1  原告は、神戸地方裁判所尼崎支部昭和六二年(ヌ)第三六号不動産競売事件において、別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という)を買受け、平成元年五月二三日に代金を納付してその所有権を取得した。

2  被告福田は、昭和五六年一一月二六日、本件建物の当時の所有者であった小松遊亀から、期間を同年一二月一日から三年間、賃料は一か月二二万円の約で本件建物を賃借し(以下「本件賃貸借契約」という)、期間満了後、右契約は更新されて今日に至っている。

被告福兆は、同六一年、小松の承諾を得て、同福田から本件建物の一、二階を賃借し、右部分を占有している。

3  本件建物は、別紙物件目録(二)の1、2記載の建物(以下「旧建物(一)、(二)」という)の間の隔壁を除去してできたものであるが、原告は、旧建物(一)について左記抵当権を有し、その旨の抵当権設定登記を得ていた。しかし、本件建物には、原告の右抵当権の登記はない。

神戸地方法務局尼崎支局昭和五五年九月五日受付第二九一九五号 抵当権設定登記

原因 昭和五五年七月三日金銭消費貸借同年九月五日設定

債権額 一八三〇万円

債務者 小松遊亀

4  本件建物の平成元年五月二三日当時の賃料相当損害金は一か月二二万円である。

二  争点

原告は、次のとおり主張する。

1  小松、被告福田間の本件賃貸借契約は、通謀虚偽表示によるものであるから無効である。

2  旧建物(一)に対する原告の抵当権は、旧建物(一)は物理的に滅失したものではなくその実態は存続しており、抵当権は不動産の交換価値を把握する担保権であるから、当然に本件建物に及んでいる。登記実務が、旧建物(一)、(二)について合体を登記原因として滅失登記をし、本件建物が合体により生じたとして、その表示登記、保存登記をする取扱いをしているのは、建物合体の場合の登記手続が規定されていないため、社会通念上物理的に建物が滅失した場合の登記方法を便宜借用しているにすぎず、右登記手続をとることから、原告の抵当権も消滅すると解するのは本末転倒である。

また旧建物(一)、(二)は、いずれも小松遊亀が所有していたものであり、立割連棟式建物の隣接した二戸の建物で、床面積もほぼ等しくその価値は相等しい。従って、両建物には主従の関係がなく、本件建物は対等不動産の附合により生じたものであるから、民法二四四条、二四七条二項の類推適用があり、原告は、本件建物の価値の二分の一に対し抵当権を有することになる。

原告は、本件建物に抵当権設定登記を有していないが、被告らは、旧建物を本件建物とする改造工事に関与しているから、登記の欠缺を主張できない背信的悪意者である。

従って、被告福田の本件建物に対する賃借権は原告の抵当権に対抗することができず、民事執行法五九条により失効した。

第三  争点に対する判断(以下省略)

(別紙)

物件目録(一)

一棟の建物の表示

尼崎市尾浜町一丁目九〇番地の二、九〇番地の一三、九〇番地の一四、九〇番地の一五、九〇番地の一六、九〇番地の一

鉄骨造瓦葺三階建

一階   一六三・六二平方メートル

二階   一六三・六二平方メートル

三階   一三八・二二平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 尾浜町一丁目九〇番二の三

鉄骨造瓦葺三階建居宅・店舗

一階   六九・九〇平方メートル

二階   六九・九〇平方メートル

三階   五〇・二六平方メートル

物件目録(二)

1 一棟の建物の表示

尼崎市尾浜町一丁目九〇番地の二、九〇番地の一三、九〇番地の一四、九〇番地の一五、九〇番地の一六、九〇番地の一

鉄骨造瓦葺三階建

一階   一四六・三二平方メートル

二階   一四六・三二平方メートル

三階   一三八・二二平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 尾浜町一丁目九〇番二の三

鉄骨造瓦葺三階建居宅・店舗

一階ないし三階   各二六・一一平方メートル

2 一棟の建物の表示

尼崎市尾浜町一丁目九〇番地の二、九〇番地の一三、九〇番地の一四、九〇番地の一五、九〇番地の一六、九〇番地の一

鉄骨造瓦葺三階建

一階   一四六・三二平方メートル

二階   一四六・三二平方メートル

三階   一三八・二二平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 尾浜町一丁目九〇番二の四

鉄骨造瓦葺三階建居宅・店舗

一階    二六・七三平方メートル

二階    二六・七三平方メートル

三階    二四・一五平方メートル

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