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神戸地方裁判所尼崎支部 平成9年(ワ)68号 判決 1998年8月10日

原告 X

右訴訟代理人弁護士 小田耕平

被告 日新火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 C

被告 チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー

右代表者代表取締役 D

日本における代表者 E

右両名訴訟代理人弁護士 模泰吉

同 溝呂木商太郎

主文

一  原告に対し、被告日新火災海上保険株式会社は金二四七五万一〇〇〇円、被告チューリッヒ・インシュアランス・カンパニーは金一五六〇万円及びそれぞれに対する平成七年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は一五分し、その五を原告の負担とし、その六を被告日新火災海上保険株式会社の負担とし、その余を被告チューリッヒ・インシュアランス・カンパニーの負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

原告に対し、被告日新火災海上保険株式会社は金二五〇〇万円、被告チューリッヒ・インシュアランス・カンパニーは金三五六〇万円及びそれぞれに対する平成七年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、延焼によって自宅を焼失した原告が、火災保険契約に基づき、保険会社である被告らに対し保険金を請求したところ、被告らが普通保険約款の地震免責条項に当たるとして、原告の請求を争った事案である。

二  判断の前提にすべき事実

1  原告は、被告日新火災との間で、芦屋市<以下省略>所在の自宅(木造二階建て)について、次の二つの火災保険契約を締結した(甲三、四)。

A 契約日 平成六年一〇月二〇日

種類 住宅総合保険

保険金額 建物 一〇〇〇万円

家財 八〇〇万円

保険期間 同月二三日から

平成七年一〇月二三日まで

B 契約日 平成元年九月一三日

種類 長期総合保険

保険金額 建物 五〇〇万円

家財 二〇〇万円

保険期間 同年一〇月二一日から

平成一一年一〇月二一日まで

2  原告は、被告チューリッヒ・インシュアランスとの間で、右自宅について、次の火災保験契約を締結した(甲一、二)。

契約日 平成六年二月二三日

種類 住宅火災保険

保険金額 建物 三五六〇万円

保険期間 同月二八日から

平成七年二月二八日まで

3  右各保険契約の普通保険約款には、地震によって生じた損害(地震によって発生した火災が延焼又は拡大して生じた損害、及び発生原因のいかんを問わず火災が地震によって延焼又は拡大して生じた損害を含む。)に対しては保険金を支払わないと定めている(争いがない)。

4  平成七年一月一七日午前五時四六分、いわゆる阪神大震災が発生した(公知の事実)(以下「本震」ともいう)。

5  その翌日である同月一八日午前五時過ぎ、原告の自宅から一軒おいて東隣りのF方(借家)の二階付近から出火し、右火災は西に延焼して原告の自宅が全焼した(甲八の2。争いがない)。

三  争点

1  本件火災の火元の出火原因は何か。原告の損害は普通保険約款の地震免責条項に該当するか。

(被告の主張)

F方の出火は、地震によって発生した「通電火災」(地震で屋内配線が破損し、これに電気が流れて出火したもの)であり、この火災が延焼して原告の自宅が焼失したのであるから、原告の損害は「地震によって発生した火災が延焼して生じた損害」に当たり、普通保険約款の地震免責条項に該当する。

2  原告の損害額について

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

イ F方(外壁モルタル塗り・木造瓦葺二階建・一棟二戸のうちの東側一戸)は、本震により、屋根瓦がずれ落ち、東側の外壁がめくれ、また、二階南側の六畳和室では二段重ねの整理タンスが倒れ、天井の蛍光灯も下に落ち、一階も家財が散乱するなどの被害が出た。しかし、建物の原形は保たれていた<証拠省略>。

ロ 送電は本震後暫く中断したものの、芦屋市<以下省略>の周辺では、一月一七日(本震当日)午前七時一〇分高圧線による送電が再開され、同日夕方ころには家庭への送電も復旧した<証拠省略>。

ハ 一月一八日(本震の翌日)午前五時二五分、震度三程度の余震があった(乙二)。

ニ その一〇分後ころ、F方二階南側和室付近から「パチパチ」という花火のような音が聞こえ、間もなく炎となって出火した<証拠省略>。

ホ F方は、七〇歳近い老夫婦(夫は会社経営)と娘の三人家族で、二階の和室二間のうち、南側は夫婦の、北側は娘の居室となっている。震災当時、娘は出張で不在。夫も神戸市○○にある会社の様子が気懸りで、一七日一一時ころ○○に出掛け、その日は帰宅しなかった。出火当時在宅していたのは妻だけである(甲八の15、F証人)。

ヘ F夫婦は、本震が発生したとき二階南側和室で寝ていたが、本震直後、二階をそのままにして一階に降り、その後出火まで、二階に上がった者はいない(甲八の2、15、F証人)。

以上認定の事実によると、F方の出火は、本震や余震により二階南側和室辺りの屋内配線が破損し、そのため短絡等が生じたことによるのではないか、と推認することも可能である。

2  しかし、

イ 出火直前に、新聞配達員風の人物が、単車でF方の北側の路地に入って行き、暫くして来た道を南方へ走り去るところを、近所の人に目撃されている(甲八の2、14、G証人)。G証人(甲八の14を含む。)は、その人物が新聞配達員であった旨証言する。しかし、G証人もその人物が各戸に配達している様子を現認した訳ではないし、輸送路の断たれた本震の翌朝のことでもあり、いつものように新聞が各戸に配達されたなどとは甚だ考えにくいことなので、G証人の証言中その人物が新聞配達員であったとする点は、採用しない。

ロ 被告日新火災の依頼を受け現地調査を担当した損害保険リサーチの職員は、F方の近所の住人(女性)から「突然雷のような音がしたので外を見ると、Fさんの家の二階から電気のショートする音が聞こえ、火花が出ており、その後しばらくして火災が発生した」などの説明を聞き、また、芦屋警察署でも、目撃者が「雷のようでした」と話しているとの情報を得た(乙一二、H証人)。そして、H証人は当法廷で、この雷のような音とは「ドドーン」とか「ドカーン、ドカーン、バリバリ」とか、そういう表現だったように思うと証言した。このような擬音は、通常の通電火災時に出す音とは明らかに異質のものである。

ハ 出火直後、Fの妻が、誤って一一九番ではなく一一〇番に電話した後、外に飛び出すと、F方の北側の路地に、一度も会ったことのない二、三〇歳位の男性が立っていた(甲八15)。

ニ 芦屋市消防署の公式見解によれば、F方の出火原因は「不明火」とされている(甲八の2)。

こうした事実に加えて、家庭への送電が既に前日(一月一七日)の夕方ころには復旧していた事実に照らすと、F方の出火はいわゆる通電火災ではなく、不審火による疑いもなくはないと見る余地があるといわねばならない。

そうすると、F方の出火と地震(本震及び余震)との間に相当因果関係を肯定することは相当でないから、右出火が地震によって発生した火災ということはできず、したがって、原告の損害が普通保険約款の地震免責条項に該当するということもできない。

二  争点2について

1  建物について

原告の自宅(木造モルタル塗り瓦葺二階建専用住宅一戸一棟、一三二平方メートル)は火災により焼失したものの、被告日新火災の依頼で内山鑑定事務所が作成した鑑定書(乙一三)によれば、焼失当時の保険価額(時価)は一五六〇万円であることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

2  家財について

原告が芦屋市消防署の聞き取り調査に応じて申告したところ(甲八の30)に基づき、同消防署が損害額を査定した結果によると、原告は本件火災により一七一六万九〇〇〇円相当の家財を失ったこと(甲八の28)が認められるところ、その後原告が被害の一部を訂正したため(原告本人)、この訂正に基づき同様の残存率・減損率を乗じて算定し直すと、原告の家財(動産)の損害額は九七五万一〇〇〇円となる。

他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

三1  遅延損害金の始期について

各保険契約の普通保険約款によると、火災保険金は、いずれも被告らに火災で損害が生じたことを通知し、かつ、その三〇日以内に所定の書類を提出し、更にその日から三〇日以内に支払われることになっている(乙三ないし五)。

ところで、原告は、遅くとも平成七年一月三一日までに被告らに対し火災で損害が生じたことを通知したが、地震免責条項の適用を巡って見解が分かれ、被告らが所定の書類を交付しないため、これを提出できないでいる(弁論の全趣旨)。このような場合、所定の書類を提出しないので保険金の支払時期が到来しないとすることは明らかに不当であるから、原告の通知後遅くとも六〇日以内に保険金の支払時期が到来し、被告らはその翌日(平成七年四月二日)から遅滞に陥ると解するのが相当である。

2  よって、原告の請求は、本件火災によって生じた損害につき、被告らに対し各火災保険契約の保険金額の範囲における保険金とそれぞれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、民訴法六一条、六四条、六五条、二五九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白井博文)

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