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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和28年(ヨ)129号 決定

申請人 藤本潤之助 外七十五名

被申請人 東洋精機株式会社

主文

被申請人が昭和二十八年七月二十三日附書面を以つて、申請人等に対して為した同人等との労働契約は之を解除するとの意思表示の効力は仮りに之を停止する。

本件申請費用は被申請人の負担とする。

(無保証)

事実

申請代理人は申請の趣旨として主文第一項掲記の如き決定を求め、其の原因として申請人等は何れも被申請会社の従業員で且つ、東洋精機労働組合若くは東洋精機第弐労働組合の組合員であるが、被申請人は、昭和二十八年七月二十三日附を以つて申請人等を解雇する旨の内容証明郵便を以つて通知して来た。

元来申請人所属の組合は、共同して昭和二十八年六月初から、夏季手当の要求を被申請人に提出していたが、被申請人は誠意なく、仲々之に応じなかつた。

然るところ同年七月二日突如第一組合に対してのみ、就業規則の改正を行いたいから同月四日迄に意見書を出すようにと申出があつた。

組合では夏季手当の交渉をハグラカすものとして、第一組合は之を後日に延期するよう申入れ、第弐組合は反対ではあつたが一応の意見書を同月八日に提出した(此の改正案は組合活動時間取扱の問題のみを問題にしているように口では云つて居ながら、腹では本件解雇の伏線を含んでいたものである)。

其後七月十日夏季手当の団交中突如百名からの大量馘案を発表し、之に対し組合は会社再建案を作成し協議しようとしたが被申請人は之に応ぜず、遂に七月二十三日前述の様に申請人等の解雇の通知を発したのである。

被申請人は七月二十三日組合に解雇に関する一般的な通告を為し、同時に申請人等に既述の様に解雇通告を出したのであるが、又同時に前記就業規則案は成立したものとして郵送して来たのである。

併しながら右解雇通知は左の理由に依り無効である。

(一)  昭和二十七年五月十三日兵庫県地方労働委員会で、被申請人と労働組合との間に組合員の解雇は、就業規則及労働協約に依らねば行わないとの和解が成立し(労働協約は会社の不誠意の為今猶成立しない、斯様な和解条項は、会社が無茶な首切を強行する恐れがあつた為である)た。

然るに就業規則には解雇に就いて、第三十二条第三十四条第三十五条の規定がある許りで、労働組合との協議や官庁の認定が必要であり、擅な首切りは出来ないことになつている。

其処で無茶な首切をやる為に就業規則の改訂を必要とし、夏季手当の団交中夫れとなく出した改訂案第十一条の(二)業務上の都合に依る場合が之である。

(二)  就業規則の有効なる変更には、労働者の過半数で構成する第一労働組合の意見を聴いていない。

尤も被申請人は意見を組合に求めたが、組合は後日に譲ることを要求し、斯様な改訂の仕方に反対した。

労働者の意見を聴くとは、形式的に聴く意味ではなく、労働条件に就いて、労働者に理解させ「対等の立場で決定」し得る様用意させるものでなければならぬ。則ち客観的に社会通念上「聴いた」と認められるものでなければならない。

本件の様に夏季手当の要求中僅か三十時間位の間に意見を求める遣り方(七月二日午後六時頃提出し、四日迄に意見を求めている)は「聴いた」とは謂えない。(昭和二十三年九月の制定に当つては三ケ月近くも協議された)

(三)  就業規則の変更は、行政官庁に届出ねばならぬし、又常時各作業場の見易い場所に掲示等の方法で労働者に周知させねばならない。然るに所謂新規則は届出ていないし、労働者に周知させていない。

既述の様に解雇通知と同時に、郵送されたものである。

被申請人は七月十日効力を発生したと云うが二十三日迄には絶対に効力は発生していない。

(四)  仮りに新就業規則が有効としても、之に依る申請人等の解雇は無効である。其の理由は

(1)  申請人等が新規則を知つたのは解雇の通知と同時である。斯る就業規則に拘束される理由はない。

(2)  新規則の改訂は申請人等を解雇する目的で制定されたものである、

労働条件は対等の立場で決定さるべきであり、就業規則は遵守し誠実に履行さるべきである。

然るに斯様な悪意を持つた突如とした一方的な改訂で労働者の死命を制する解雇をも許すものとすれば資本家に取つては全く切捨て御免である。斯る適用に依る解雇は基準法の精神に反し違法である。

又民法第一条に謂う権利の濫用として無効である。

企業整備の必要からする解雇を許さないと謂うのではない。其の必要の有無は客観的妥当性を以つて判断されねばならぬ。組合は再建案を出し之を協議することを要求しているにも拘らず充分討議をつくさず、組合側を納得させず、僅に両三回の団体交渉で解雇を強行するが如きは妥当でない。

(昭和二十五年春にも企業整備の大量解雇が行われたが、此の際は弐ケ月余協議し組合側も了解したのである、其結果整理予定人員も大巾に減少した)

申請人等は目下解雇無効確認の訴を起すべく準備中であるが、其日暮しの労働者には之をまつことが不可能であるから、茲に取敢えず本申請に及ぶ次第であると陳べ。

猶被申請人は新就業規則を、従業員食堂内に存する会社の掲示板に七月二十二日午後三時頃掲示したと称するが、会社の掲示板は門衛の脇に設置されているので、夫には掲示されず、食堂内の掲示板に二十二日午後三時頃掲示したとしても翌日二十三日の昼食時でなければ一般に之を衆知させることが出来ない旨附陳した。(疎明省略)

被申請人は本件仮処分申請を却下するとの申請を求め、答弁として、答弁書に記載した冒頭の陳述は被申請人の企業整備の必要性につき、第壱として企業整備のやむなきに至つた事由を詳細に陳べているところであるが、之は都合上省略する、又第弐として組合再建案を採択出来なかつた理由として、申請人及被申請人の会社再建につき被申請人の再建案の妥当にして、申請人再建案の採用し難い点並之等を中心にした両者団交の模様について詳述するところがあるが、之も都合に依り省略する。

第参 就業規則改正の事情として、

六月三十日組合が発した闘争宣言は闘争目的が不明確であつたので、組合に説明を求めたところ、(一)夏季手当に関する回答の件、(二)生産計画明示の件、(三)組合活動の時間外労働扱割増賃金に関する件であつた。前弐項は免も角、第三項は既に五月十六、十八、十九日の参回の団交で諒解が出来ていたものを、組合より根本的に覆し、其後機会ある毎に折衝を重ねたが、組合の不誠意の為決定を見ず、六月八日の団交席上組合よりの対案を提出するとて其儘保留されたままとなつていたもので、之を会社の不誠意として闘争目的の中に織込まれることは、平和裏に解決を求めて努力する会社にとつて誠に心外であり、協議に俟つ事は望み得ないとし、止むを得ず就業規則の不明確な字句に修正を加え、一部改訂新設の条文を加えて七月二日団交の席上第一組合長に手交した。意見については三日正副組合長及書記長に予定提出期限を六日迄延期する旨附け加えて案を手交、組合は検討する旨言明して持帰つた。然るに同日別添の通り全面的に反対の文書を提出して来た。

一方第二組合は検討する為めの時間的余裕が少いとの申出があり、会社は之に応じ期限を更に延期したので第一組合に対しても六日午前十時三役に対し此の旨通告したところ「絶対的反対であるから、意見書はつけない、従つて会社申入の延期も全く意味がない」と回答、其後実際上は第二組合の意見書の提出された九日午前中迄待つたことになるが、全然提出されなかつたので、会社としては全面的に反対の文書を以つて意見と考えた次第である。

元来就業規則は使用者がその企業経営の秩序を確立し、之を維持する為め労働関係を集団的、統一的に規律する目的の下に一方的に制定されるものであるから此の改訂は有効である。

猶労働協約の締結は両者間に問題が多く、四月十五日会社宛組合警告の発せられた後四月二十七日の団交の席上労働協約、退職金規定、組合活動賃金問題の中、最後のものが取上げられることに諒解が出来たので後廻になつたものであつて、会社の不誠意の為め成立しなかつたものでない。

第四 本件解雇の有効に就いて。以上の如く会社は経営合理化の為已むなく行つた措置であつて、組合の誠意ある協力を求める為組合と協議したのであるが、組合不誠意の為め其協力を得ることは不可能となつたと陳べ、猶第一準備書面と題するものを提出し、

第壱、疎甲第十三号和解条項について、申請人は昭和二十七年五月十三日の兵庫県地方労働委員会斡旋の、本件当事者間の和解条項中「組合員の解雇は就業規則及将来締結せらるべき労働協約の規定によらずして此を行わない」とあるが、本来人事権は会社が之を持つて居るものであるから、労働協約及就業規則に之を制限する旨の定があるときは、其の定に従つて人事権を行使するとの自明の理を定めたに過ぎないものである、又労働協約は前述の様に組合の諒解の許に遷延しているので、協約未締結の場合は協約による云々の問題は起り得ない。況んや協約締結に到る迄経営合理化に依る人員整理を行わないとの趣旨でないことも云う迄もない。

第弐、就業規則について(一部省略)

(1)  労働基準法第九十条が就業規則の作成変更に就いて、組合の意見を聴くことを命じて居るのは、組合の意見に拘束される事を意味するものではない。就業規則の内容如何は労働者の利害に関係するところが大きいから、就業規則の作成変更について労働者の積極的な指示の許に為されることが望ましいので、労働者の意見を聴くと云う手続を取らせることにし、其の違反には制裁を持つて望み、間接に此の手続を強行しているのである。

以上の観点からして労働者の意見を聴くことは、就業規則の作成変更が有効である為の要件でないと解されている。

(2)  行政官庁への届出は就業規則の効力に差異を及ぼすか。

被申請人は昭和二十八年七月十日尼崎労働基準監督署に届出たが、十三日同署から会社に呼出があり持帰る様申渡された、然し検討の結果会社の手続不備とは考えられないから翌十四日再度届出たのである。然るに七月十七日就業規則変更届は作成の手続がなされて居らず適法なものでないとの理由で返送された、然しながら全然届出の手続をしなかつた就業規則と雖も有効とする判決も存する処であつて、本件改正就業規則の如く届出を為した就業規則の有効なることは論を俟たない。

(3)  改正就業規則の周知方法について、

組合並組合員は規則の内容を熟知していることは七月三日以降九日迄の意見書提出の七日間に亙る猶予期間中に於ける組合員の策動及拾日以降の会社の監督署に対する届出に関する見張行為に依つて之に関する関心は非常に強く、殆んど周知方法を講ぜずして之が内容は諒承せるが如き感があつた。

而も会社都合に依る解雇条項は退職規程(昭和二十四年十月一日制定)に明示しているので、経営難よりする企業合理化の場合の解雇を含むことも素より当然である。改正就業規則にこの条項が挿入せられることも当然予想すべきところである旨記載してある、別に本件解雇について就業規則には組合と協議を遂げる義務は規定してないが、円満を期して協議したが組合の不誠意の為め協力が得られなかつた。

百歩を譲つて申請人の謂う如くとしても、企業の存立を前提とする解雇であるから此の場合には就業規則は適用ない、就業規則の改正は早くより意図する処であつて、機会ある毎に組合に交渉したが其具体的なものは七月二日に出したのが最初であつた。

之が周知の方法は従業員食堂に存する会社掲示板に七月二十二日午後三時に完了したと附陳した。

(疎明省略)

理由

被申請人会社(以下会社と称す)が事業不振の為め企業合理化を余儀なくされ、其結果索いて人員整理に立到つて居ることは、会社提出の答弁書の冒頭に詳述するところであり、申請人等に於ても之を認めて争うところではない。

併し其整理の方法として就業規則に依拠したのであるが之は疎甲第十三号昭和二十七年五月十三日の兵庫県地方労働委員会の斡旋に基く和解条項第二項に依るものである。問題となるは同第二項の就業規則を従来のそれとせず、会社の専権に属する就業規則の変更と云う手段が選ばれて、改正された就業規則に依拠した点である。

猶前記和解条項第二項には「将来締結せらるべき労働協約の規定」に依ることを解雇の条件にしているが、右労働協約は今猶締結されていないので、之に依拠する由もないから、之に依る要はない。

扨て茲に問題とせられるのは就業規則変更の当否の点ではない。改正就業規則の効力の問題である。

若し其旧就業規則が有効に変更せられて、其有効な改正に基く就業規則に依拠する解雇であれば、申請人等の本申請は理由なしとして却下されねばならぬ、

按ずるに労働基準法は就業規則の変更の条件について、(イ)労働者過半数の意見を聴くこと(法第九十条第一項)、(ロ)基準監督署長への届出(同条第二項)、(ハ)其周知(法第十五条、同法施行規則第五条)の手続を践ますことを規定してある。

反対の学説及判例あるも当裁判所は少くとも(イ)及(ロ)を以て変更就業規則の有効条件と解する((ロ)に就いては、同法第九十二条第二項に依り、行政官庁から就業規則の変更を命ぜられることがあるから、其変更命令あることを効力の解除条件とするものと解してよい)。

惟うに就業規則は使用者が労働力の提供履行を受領するに当り、其受領の条件を一方的に規定したもので、元来資本主義社会に先駆する封建時代の徒弟制度下の身分的忠勤隷属関係に放置してあつた斯の種のものを、資本主義体制樹立とヒユーマニズム擡頭と共に斯る隷属関係から労働者を解放して、労働契約自体は市民法的契約関係に立たせる一面に、労働力の受領条件は之を使用者の専恣に放任せず、自ら之に一定の基準を自治的に規律することが必要とせられるに至つたものである。

併しながら、債権者たる使用者が縦令一定の基準を制定する義務を負うものとしても、債務の受領条件を一方的に規定し得ると為すところに、封建的残滓たる搾取の片影が猶存するのである。

従つて、労使が真に「対等の立場」に於て契約することが要求せられるものならば、斯る使用者の専恣的権能は抑制せられ、何れ廃止せらるべき運命のものでなければならぬ。

現に社会主義社会国家乃至共産主義社会国家に於ては就業規則を使用者の専権に放任されず、労使当事者の合意及官庁の認可を要するものと規定していると仄聞する。

就業規則にして斯る沿革と本質を有するものであるならば、時代の要求に応じて制定を見た労働基準法の解釈は、叙上の精神に基き時世の推移と要求に則応するものとして之をしなければならぬ。

叙上の点は団交権を労働者の基本的権利とし(憲法第二十八条)労働者の権利を制限した公共企業体労働関係法ですら就業規則を団交の対象としている(同法第八条第二項第二号)(旧法、新法は同法条項第四号で「前各号に掲げるものの外、労働条件に関する事項」とせり)事実に徴しても其の推論の妥当を証することが出来る。

果して然らば法第九十条第一項が労働者過半数の意見を聴くことを要すと規定することは、之を少くとも就業規則の効力発生要件と解さなければならぬ。

茲に意見を聴くとは、労働者過半数の意見が十分に陳述された後、之が十分に尊重されたと云う事蹟が存せることである。意見が十分に陳述されたと云うことは十分に陳述する機会と時間的余裕が与えられたと云うことであり、事実上意見が陳述されたか否かは問わないものである。

次に十分に意見が尊重されたと謂うことは、労働者の意見が採用されることを必要としないことは勿論、反映することも必要でない。唯労働者過半数の意見が使用者に依つて就業規則制定又は変更上に十分考慮され、労働者に質すべきは質し、説明すべきは説明し、労働者の意見の理解及採用に十分の配慮と誠実が傾けられた事蹟の存することを要する。而して其の結果労働者の意見が採用されるに至つたかは問う処ではない。使用者自身に於て之を採用し得ない理由が存する場合もあるからである。併し此の場合行政官庁の変更命令に依り変更を受けることあるは別の問題に属する。

若し労働者が全面的に反対して意見を陳べることすら拒否している時は如何の問題がある。

使用者たるものは其の時にこそ、労働者の意見を聴く義務が最も重大視される。労働者が全面的に反対である様な場合は、使用者に最も有利にして、労働者に最も不利な場合が多い、労働者は之を見て「よう云わんわ」的窮地に陥つて何の意見ぞや、唯全面的反対あるのみと云う場合がある。此の際反対も亦意見なり、意見は聴取済みと詭弁を弄したり、又は全面反対者に意見の聴き様がないと称して、之を奇貨とし就業規則を有効視することも許されない。

労働者にして全面的拒否を主張している限り斯る就業規則こそ、使用者に於ては其取扱には慎重を持し、労働者の反対の理由を質し、自己の立場の説明理解に努めねばならぬ格段の義務が加重するのである。

斯る誠意と努力を傾けて然る後猶当初の会社案を已むを得ずと為してこそ、本条に謂ゆる「労働者過半数の意見を聴いた」と云う場合に該当する。

之を本件に則して観ると、昭和二十八年七月二日の団交に於て会社側から第一労働組合に対してのみ就業規則の改正方を発表し、同月四日迄に意見を出されたいと要求し、会社は改正規則を翌三日之を手渡することを言明し、同月三日組合は全面的に反対だから意見書を添附しないと回答し、同月十日会社は所轄行政官庁に就業規則変更届を提出し、同月十四日右官庁が十三日持帰れとして突返えしたが、手続上不備がないからとて再度提出し、之に対し右官庁から同月十五日附にて会社に対し、法第九十条に規定された作成手続がなされておらないとて不受理を申渡されている、猶之に先立ち七月九日第二労働組合から右官庁に宛て、会社の改正就業規則に対し逐条反対の理由及説明が具陳されている。

右に依ると会社が意見を聴いたと云う事蹟は、昭和二十八年七月二日第一労働組合にのみ変更就業規則を発し、第二組合に対して之を発表しなかつた。其の理由は組合活動時間取扱の問題がコヂレているのは第一組合丈だと云うのが言訳であつた。夫れは兎も角組合は翌三日を以つて全面的反対を表明した儘、両者間には何等団交されていない、行政官庁が何故二回迄受理を拒否したかは其の理由は不明であるが、法第九十条の不備を理由とする処から察すると、蓋し、労働者の意見を聴いていないとするものであることは叙上の事実関係からしても察するに難くはない。

新旧就業規則を対照するに、旧は解雇を「制裁」の場合にのみに限り、而も之には行政官庁の認可、又は組合との協議を条件としているに反し、新は右「制裁」の場合以外に、別に第二章雇入、休職、停年及解雇として、第十一条に(一)乃至(七)を以つて無条件に解雇するとして、本件に適当された(二)は「業務上の都合に依る場合」とのみ規定している。

之に対する疎甲第三号の行政官庁に提示している組合の反対意見は「本条新設については解雇は労働条件中の重要な部分であるから、その一般的基準の規定につき労働組合との協議の上規定する必要がある、各号解雇の事由も認定基準、適用範囲の不明瞭、他に規定があつて新設の意味の不明………」と謂うことが謡つてある。

元来制裁に依らない解雇は、対等なるべき労働契約の全面的解約であるから、労働協約の規定領域に属すべきで、専権に属すとなす使用者の就業規則制定権の範囲外であると解すを至当とする。

夫れは兎も角仮りに就業規則で規定し得るとしても、「業務上の都合」で一方的に無条件に解雇が無暴にも有効に出来ると為すが如きは、一切の労働法規を完全に空文化し、労働者の「人たるに値する生活」も、「対等の立場」も有つたものではなく、人類文化の今日迄の苦難も、先覚者の貴い犠牲も挙げて虚無にする暴挙である。何者如何なる解雇も「業務上の都合」でありますと陳べれば夫れでよい事になり、気に入らねば皆之で解雇したらよい。

労働条件を低下さすことは朝飯前であつて、他の一切の法律も義理人情も無用である。

其の故か制裁に依らない解雇が就業規則に於て制定し得られるとしても、他の実際の事例は「天災其他已むを得ない事由の為め事業の継続が不可能となつた場合組合と協議の上解雇する」等の表現になつていて、総て解雇が合理的納得の許に行われることを条件として居る様で、決して使用者の専恣に放任していないのが実例である。

叙上の様な会社の改正就業規則に対し組合が全面的反対に出ることは寔に理由あるところであり、之に対し団交の要なしとするのは当然であり、爾く改正案は無暴なものである。此の場合でも所謂意見を聴いたとするならば、無暴な提案こそ却而容易に法の要求に合致する意見を聴いたことになると云う結果に到る。

考え様によつては既存就業規則よりも労働者に不利な条件を課さんとする就業規則変更の場合は、労働者は既得権を主張して、労働者の同意なくしては之を其の不利益に変更することは出来ぬと解することを妥当とするのである。

何れにしても就業規則の変更には、労働者過半数の意見を聞くことが、其効力発生条件にして、其「意見を聴く」とは前顕の様に意見が十分に尊重された事蹟がなければならないのに、本件改正就業規則には全疎明を以つてしても右の事蹟を認めることが出来ぬから、本件改正就業規則は此の点に於て無効である。

更に本件就業規則は労働者に之を周知させていない。

就業規則が元来使用者の一方的に制定し得るものであればある程、労働者は其成立課程に関与していないから之を諒知するところがないので、之が効力発生については是非とも之を周知させることを必要とする、然らざれば「依らしむべし、知らしむべからず」とする専制政治である。

而して周知せしめることは場所的にも時間的にも、通常の状態に於て周知せしめ得たと一般的に期待される状況下に置かなければならぬ。

然るに被申請人は七月二十二日午後三時食堂に貼出したと謂うのである。左すれば夕食を摂らない労働者は翌二十三日昼食時でなければ、之を知る由がない。

然るに疎甲第一号の解雇通知に依ると七月十日から有効となつた就業規則に依ると記載してある、右の如く、改正就業規則は昭和二十八年七月二十四日正午以後でないと、効力を発生しないから会社の解雇通知は効力を発生してない就業規則に依拠したものであるから、此の点からしても本件解雇は有効なりと断ずることは出来ない。

以上の点に就き被申請人は(イ)会社の都合に依る解雇条項は退職金規程(昭和二十四年十月一日制定)に明示あり、(ロ)改正就業規則は周知方法を講ぜずして組合員の関心及策動に徴し熟知していると争うが(イ)については解雇の場合に於ける給付する退職金の規定であつて解雇の条件を規定したものではない。(ロ)に就いて、法の要求する処は労働関係が組織法たる点に鑑み、周知を一定の基準に従わせ之を画一的に統制せんとしたもので、個々につき事実問題として之を解決せんとするものではない、従つて周知方法に依らずして事実上諒知していたか否かを問うを要しない。

況んや就業規則を見せられたのは組合の幹部の者で、全労働者が之を諒知していると推断することは出来ない、勿論其の点に何の疎明も存しない。

最後に被申請人は就業規則に依拠するのは企業の存在を前提とするが企業廃止の場合は適用なしと謂うが、之に対し異論もあるが本件の場合は被申請会社が全面的に廃業する場合でないから之は無用の論争である。

叙上縷述の次第なる故現時疎明の段階では本件改正就業規則は之を有効なりとすることは出来ない。従つて之が有効を前提とする係争解雇通知は之を有効なりと断ずることが出来ない。

仍て他の許多の争点に対する判断を須ひず、現疎明の程度では、申請人の既存就業規則は変更せられずとの申請事由を理由ありとし、其の申請の趣旨を全部認容し民事訴訟法第八十九条第百四条に依り主文の様に決定する。

(裁判官 日下基)

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