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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和50年(モ)317号 判決 1980年3月13日

債権者

村瀬州男

右訴訟代理人弁護士

中村良三(ほか三名)

債務者

アルケン工業株式会社

右代表者代表取締役

沖外夫

右訴訟代理人弁護士

巽貞男

主文

一  当裁判所が当庁昭和五〇年(ヨ)第八五号地位保全等仮処分申請事件について昭和五〇年五月九日にした仮処分決定を認可する。

二  異議後の訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(債権者の申立)

主文同旨

(債務者の申立)

一  主文第一項掲記の仮処分決定を取消す。

二  本件仮処分申請を却下する。

三  訴訟費用は債権者の負担とする。

四  第一項につき仮執行の宣言。

第二当事者の主張

(申請の理由)

一  債務者(以下単に「会社」ともいう)は、尼崎市内に本社工場、姫路市内に姫路営業所を持ち、約一五〇名の従業員を擁し、アルミサッシの製造販売業を営む株式会社であるが、債権者は、昭和四七年一一月一七日債務者に雇われ、製造部製造課に所属して塗装、ボール盤の操作などの作業に従事し、昭和四九年七月一五日に営業部営業課に配転されてからは、大阪の得意先をまわる営業員として働いていた。

二  ところが、債務者は、昭和五〇年四月八日に債権者を解雇したとして、それ以降債権者を従業員として扱わず賃金も支給しない。

三  債権者は、債務者から毎月二五日に平均一か月金九万四、七五〇円の賃金の支払を受けていた。

四  債権者は、債務者から支給を受ける賃金だけで生計を立てており、解雇無効確認請求の本案訴訟の判決確定をまっていては、回復し難い損害を受けるおそれがある。

(申請の理由に対する答弁)

一  申請の理由一の事実は認める。

なお債権者は、採用時において、そのほかに製造課の事務も行っていた。

二  同二の事実は認める。

三  同四の事実は争う。

(抗弁)

一  債務者は、債権者に対して、昭和五〇年三月一四日、営業部営業課から姫路営業所に配置転換する旨内示し、同月一九日に右配転命令を発した(以下単に「本件配転」ないしは「本件配転命令」という)。

ところが債権者は、何ら正当な理由もないのに右命令に従うことを拒否したばかりか、上司に、営業担当の変更にともなう業務の引継ぎをし、また姫路営業所へ視察に行くのに同行するよう言われたのにこれにも従わず、さらに在社命令を受けたにもかかわらず、これを無視して無断外出し、既に会社において後任者との引継ぎを済ませていた得意先へも行って混乱を引起こすなどの業務妨害行為をしたため、得意先からの見積依頼を断られる等会社の信用を失墜させ、会社に損害を被らせた。そこで会社は、同月三一日債権者に自宅待機を命じたが、債権者は、これをも無視して連日出社し、その後無断外出を続けた。

二  債権者は、会社との雇用契約締結の際差し入れた誓約書において、誠実な労務の提供と業務命令遵守を特に約し、また会社の就業規則三三条には業務命令遵守義務が規定されているところ、債権者の前記各業務命令違反行為及び業務妨害行為は、重大な業務命令違反行為等の例示である同規則三九条四号の「故意に業務の能率を阻害し、又は業務の遂行を妨げた時」及び同条一〇号の「上長の命令に反抗し、上長に対し暴行、脅迫を加えた者」に準ずる行為であると言えるから、同条一二号所定の懲戒事由である「其の他前各号に準ずる程度の行為のあった者」に該当する。また前記会社の信用を失墜させた点は、同条七号所定の懲戒事由である「会社の名誉、信用を傷つけた時」に該当する。

三  債権者の、このような就業規則所定の懲戒事由に該当する行為は、情状としても悪質であるから、本来ならば債務者は、債権者を懲戒解雇すべきところ、債権者の将来を考えて、右事実が同規則一五条三号の「業務上止むを得ない事由があるとき」に該当するものとして、同年四月八日債権者に対し、予告手当を提供のうえ、普通解雇する旨意思表示をし(以下「本件解雇」という)、右意思表示は同日債権者に到達した。

(抗弁に対する答弁)

一  抗弁一の事実のうち、債務者がその主張のとおり債権者に対して本件配転を内示、命令し、次いで自宅待機を命じたこと、債権者が本件配転命令を拒否したことは認めるが、その余は争う。

二  同二の事実は争う。

三  同三の事実のうち、債権者が、債務者からその主張の日に、その主張の事由により解雇する旨の意思表示を受けたことは認めるが、その余は争う。

(再抗弁)

一  本件配転命令の無効

1 不当労働行為

(一) 債権者が会社に採用された当時、会社には、機械金属労働組合アルケン分会(以下単に「分会」という)と、会社が職制従業員らに指示して結成させたいわゆる御用組合であるアルケン工業労働組合(以下単に「組合」という)との二つの労働組合が存在していたが、分会は、昭和四七年年末一時金での分会所属組合員に対する差別待遇等の会社からの組織攻撃により、昭和四八年一一月ころ消滅するに至った。

(二) 債権者は、同年五月一九日に組合に加入して以来、組合を自主的かつ民主的なものに変えるとともに、劣悪な労働条件を改善すべく積極的に組合活動を行った。

(三) そして、同年八月二八日の組合役員選挙に、賃金査定の撤廃、職場環境の改善など世間並の労働条件の獲得を公約に掲げて委員長に立候補して当選し、またその時、債権者の働きかけで、同様に組合をよくして労働条件の向上をはかろうとする者七名も立候補して組合役員に当選した。

(四) その後債権者ら組合執行部は、同年九月一五日に組合結成以来初めての組合定期大会を招集して、「一、賃金引上げ、労働時間短縮、労働条件の改善、一、職場の安全、作業環境の改善、一、差別をなくし権利の拡大と団結の強化・拡大」の三つの活動目標と世間並の賃金までの引上げなどの一三の具体的要求からなる活動方針案、組合の民主的運営をめざす組織方針案、及び会社の生理休暇取得妨害への抗議の特別決議案を提案したところ、満場一致で可決されたので、これをふまえて、会社に対し一一項目にわたる要求を提出する等した結果、賃金のアンバランスの是正、有給休暇を好きなときにとること、有給休暇・休日の増加、昼食時間を会社のために使用させないことを実現させ、生理休暇取得の妨害もやめさせることができた。

(五) さらに同年年末一時金闘争においては、同年一一月二二日に、組合結成以来初めてスト権を確立するなどして活発に闘い、その結果、それまでにない高額回答を獲得する等の成果を収めた。

(六) 会社は、債権者が組合委員長に就任して以来、組合が労働条件改善闘争等に取り組み活発に闘ってきたことを嫌悪し、債権者に対する攻撃と、組合に対する支配介入に乗り出した。すなわち、

(1) 年末一時金闘争の最中に、会社代表取締役沖外夫は、昭和四八年一一月一七日の朝礼で全従業員に対し、「入社後わずか一年足らずの組合長が、ゲバ学生のようにアジテーターで純真な従業員をそそのかす。ごちゃごちゃした要求ばかり出しよる。経営方針に従わなければやめてもらう。」などと公言して債権者を誹謗中傷し、またそのころ八十島吉蔵常務取締役は、団交の場で「組合が強くなりすぎたら親会社の三協アルミ株式会社(以下単に「三協アルミ」という)は手を引くから組合活動はほどほどにせよ。」「親会社の労使関係からいえば勤続三年以上の者でないと委員長に立候補しないものだ。」などと発言し、さらに野村義太郎常務取締役も、そのころ朝礼で「組合が強くなりすぎるのは困りものだ。会社の経営方針に従わん者はどしどしやめてくれ。」などと発言するなど組合の運営に介入する言動を行った。

(2) 会社は、昭和四九年一月二四日に、課長代理、主任ら下級職制の手当を増額したが、これは、春闘を前にして職制組合員を優遇して一般組合員との分断をはかり、職制組合員を組合に対する支配介入の手足として使うことを目的としたものであった。

(3) さらにその後も、同年一一月一日発行の社内報で、八十島常務は、「過去二年間アルケン工業の労働組合の執行部の選挙は、必ずしも適任者が選ばれたとは思えない。」と述べ、債権者が会社にとって都合の悪い委員長であったことを自認し、さらに「組合幹部は常識円満な人を選ばねばなりません。組合幹部は、三協アルミのように健全な活動が出来るような人生経験の豊富な<イ>三年以上の勤続者で<ロ>三〇歳以上<ハ>妻帯者の中から選ぶのが一番無難と思います。」などと述べ、組合役員選出の基準まで押しつけ、組合の自主的運営に支配介入した。

(七) 一方組合は、同年三月一四日の組合大会で、四万円の賃上げ等の執行部の春闘要求案を可決するとともに、同月一八日の組合大会でスト権を確立した。

(八) これに対し会社は、債権者が同月二〇日朝配布した、翌日に予定されていた慰安旅行の日程に三協アルミの工場見学が組込まれていることに反対する内容の組合ニュースが、三協アルミを誹謗しているとして、右組合ニュース配布直後に朝礼を行い、野村常務をして全従業員に対し、慰安旅行中止の発言をさせ、組合執行部が責任をとって辞任することを暗に要求し、職制組合員を使って組合大会を開催させて、執行部辞任の動議を出させ、慰安旅行に行きたい組合員の気持ちを利用して右動議を可決させて、執行部を辞任に追い込んだ。

(九) ところが、債権者が同月二八日の組合役員選挙で書記長に選任されたため、会社は、債権者に対するいやがらせとして、既に執行部の辞任によって解決済である前記組合ニュース問題を理由に同年四月二日債権者を五日間の出勤停止処分に処した。

(一〇) さらに、組合の春闘要求に対する会社の低額回答に対し、同月一五日に闘争委員会は、同月一六日正午からの半日スト実施を決定したが、これに対し会社は、同月一五日昼休みに組合が職場討議をしているときに、鍛冶総務課長をして「明日予定されている組合の半日ストは、一部執行部の誤った情報収集による違法ストだから、速やかに業務につくように。ストに参加した者に対しては皆勤手当を剥奪する。」と社内放送させて組合員を動揺せしめ、スト当日の同月一六日午前一〇時ころには、足立俊正総務部長をして食堂の掲示板に、「執行部一部の間違った情報収集であり組合規約を無視した違法ストと解します。皆さん正常に業務に従事して下さい。」との文書を掲示させるなどする一方、職制組合員らをして、スト中止を決議するための組合大会開催を要求させて、同日午前一一時から開催された組合大会でスト中止を決議させるなど、組合の正当なストを妨害した。

(一一) そこで組合は、同月一七日に、前記債権者に対する出勤停止処分と右会社のスト妨害が不当労働行為にあたるとして、兵庫県地方労働委員会へ不当労働行為救済命令の申立を行った。

(一二) これに対し会社は、野村常務らをして、同月二四日の団交の席で組合に対し、「地労委申立をそのままにしておいて賃上げせよと要求しているがそれでは事態がすすまん。」と発言させるなど、右救済命令の申立を取下げるよう強要する一方、職制組合員らをして、同年五月九日の組合主催の学習会を組合大会に切り換えるよう要求させ、その組合大会で右申立取下の動議を出させて取下決議をさせた。

(一三) 会社は、組合に対する前記攻撃によって組合が弱体化したのに乗じ、債権者を組合活動の中心である工場から排除して、次期選挙で組合役員から落選させ、さらには債権者にいや気を起こさせて退職させることをねらって、同年七月一五日債権者を製造部製造課から営業部営業課に配置転換した(以下「第一次配転」ないしは「第一次配転命令」という)。

(一四) 債権者は、右配転命令に従わなければ解雇されるおそれがあったので、やむなくこれに応じたが、会社は、それまで営業経験の全くなかった債権者に、それまでだれにもやらせたことのない、得意先の新規開拓にだけ従事するという困難な仕事を担当するよう指示しただけでなく、営業員のほとんどは会社から車を与えられているのに、債権者には与えられず、右配転に際し会社が費用を半額負担して運転免許を取らせるとの約束も、その履行を拒否するなど、不利な取扱いをした。

(一五) そして債権者は、第一次配転の結果、組合活動を十分に行うことができず、また会社からの介入もあって、同年八月二九日に行われた組合役員選挙では、委員長に立候補したが落選した。

(一六) その後債権者は、会社が昭和五〇年一月二五日に発表した嘱託三名を解雇するとの方針に反対して積極的に活動し、その結果組合は、同年三月一三日の組合大会で、債権者の意見を入れて、会社に対し、春闘の付帯要求として右解雇反対要求を行うことを決議した。

(一七) これに驚いた会社は、債権者を本社から追放すべく債権者に対し、右大会の翌日である同月一四日に本件配転を内示し、同月一九日に本件配転命令を発令した。

姫路営業所は、本社から遠く離れているうえ、当時従業員は二名いただけであり、本件配転により債権者の組合活動は、さらに一層困難なものになる。

(一八) 以上の経過からも明らかなとおり、会社は、まず第一次配転、次いで本件配転を行って、組合の中心となって活動してきた債権者を、組合活動の中心である本社工場から排除して姫路営業所に追いやることにより、組合活動を行うことを著しく困難にさせ、債権者にやる気をなくさせて退職に追い込むか、あるいは本件配転命令を拒否させて解雇することをねらったものであるから、本件配転命令(その前提である第一次配転命令をも含め)は、債権者の正当な組合活動を理由とする不利益取扱として、労働組合法七条一号に違反し無効である。

2 人事権の濫用

(一) 債権者は、明確に現場労働の意思を表示して、会社に採用されたものである。なお債権者は、工場で現場労働に従事していた間、「塗膜品質特性管理日報」等をつけることもしていたが、これは本来の事務作業というよりも、工場作業に付随するごく単純な事務作業にすぎない。

(二) ところが会社は、前記のとおり債権者に第一次配転を命じたが、その理由である営業強化の方針は、何ら具体性のないものであったばかりか、営業の経験も全くなく、営業に配転されたばかりの債権者を、いきなり非常に困難な新規開拓の仕事につけたため、当然のことながら、右配転は、受注に結びつかず、営業強化には全くならなかった。

(三) そしてその後、会社は、同様に営業強化を理由として、債権者に本件配転を命じたが、これもその必要性の全くないものであった。

すなわち、元来会社は、三協アルミの製品の製造下請が受注全体の半分以上を占める、典型的な同社の下請製造会社であり、会社独自の受注比率は低く、さらにそのうちの姫路営業所の受注などは極めてわずかなものにすぎない。また、姫路地区自体も市場性に乏しく、したがって姫路営業所は、大阪や神戸に比べ、会社にとってさしたる重要性を有していなかった。このような営業所に増員することが、会社全体の営業強化に結びつかないことは明らかである。

(四) しかも、本件配転にあたり、会社は、(1)独身であること、(2)大阪での受注実績が低いこと、の二点を基準として人選したというが、仮にそうだとしても、会社には他にも独身者がいたばかりか、姫路営業所勤務者には会社が住居を提供するのであるから、妻帯者であっても特別不都合はない。また、受注実績が低いという基準は、姫路営業所の受注増大の要請とは矛盾する。したがって、本件配転対象者の人選には合理性がない。

(五) このように、本件配転命令(その前提である第一次配転命令も含め)は、要するに、債権者を姫路営業所に追いやるためにのみなされたものであって、営業上の必要性もなく、また人選にも合理性がないから、人事権の濫用として無効である。

二  本件解雇の無効

1 懲戒事由不存在・権利濫用

本件解雇は、実質的には懲戒解雇であるから、債務者に懲戒事由が存することが必要であるところ、

(一) 前記一のとおり、本件配転命令はいずれにしても無効であるから、債権者がこれを拒否したことは正当であり、業務命令違反とはなりえない。

(二) また、本件配転命令は無効であるから、債権者をこれに従わせようとして出された在社命令及び自宅待機命令も無効であるばかりでなく、債権者は、昭和五〇年三月一四日以降も、毎日会社に断って、大阪方面をまわる営業の仕事をしており、しかも会社はこれを黙認していたのであるから、無断外出をしたことにはならない。

さらに、自宅待機命令を受けた後も、債権者は、同年三月三一日は有給休暇で休み、同年四月一日からは毎日始業時に出勤して同命令に抗議し、大阪まわりの仕事をやらせてくれと要求する以外は、すぐに自宅に帰り待機していたから、同命令にも違反してはいない。

(三) なお、債権者がまわっていた得意先は、債権者が新規に開拓したところばかりであるが、現実にこれまで受注できたのは、わずか一件八〇万円だけであり、また、もともと会社は、債権者の営業活動が受注に結びつくことを期待してはいなかったのであるから、仮に債権者がまわっていた得意先からの見積依頼が断られたとしても、会社の受ける損害はないはずである。

(四) したがって、本件解雇は、就業規則所定の懲戒事由のいずれにも該当しないのになされたものであるから、解雇権の濫用である。

(五) 懲戒解雇は最も情状の重い事由があることを要するものであるから、懲戒解雇にかえて普通解雇をするときでも、最も重い情状が存在しなければならない。債権者になんらかの懲戒事由が存するとしても、解雇という最も重い処分に相当する事由はなく、本件解雇は、酷に失するものであって裁量の範囲を逸脱し、解雇権の濫用として無効である。

2 不当労働行為

本件解雇は、前記のように債権者が正当な組合活動を行ったことを理由とするものであるから、労働組合法七条一号に違反し無効である。

3 信義則違反

会社は、債権者を懲戒するのが真意であるのに、懲戒事由の立証が困難であるため、懲戒解雇手続を経由するのを回避することを目的として、普通解雇手続によって債権者を解雇したのであるから、本件解雇は解雇手続の選択自体に信義則違反があり無効である。

(再抗弁に対する答弁)

一1  再抗弁一1について

(一) (一)の事実のうち、会社に主張の如き二つの労働組合があったことは認めるが、その余は争う。

(二) (二)の事実は知らない。

(三) (三)の事実のうち、債権者がその主張のころ組合の委員長になったことは認めるが、その余は争う。

(四) (四)の事実は争う。

(五) (五)の事実のうち、その主張の如く組合が初めてスト権を確立したことは認めるが、その余は争う。

(六) (六)の(1)ないし(3)の事実はいずれも争う。

(七) (七)の事実のうち、その主張の日に組合がスト権を確立したことは認める。

(八) (八)の事実のうち、債権者がその主張のころその主張の組合ニュースを配布したこと、その主張の日に組合執行部が辞任したことは認めるが、その余は争う。

(九) (九)の事実のうち、その主張の日に債権者が組合書記長に選出されたこと、その主張の理由で会社が債権者を五日間の出勤停止処分に付したことは認めるが、その余は争う。

(一〇) (一〇)の事実のうち、その主張の日に翌日の半日スト実施が決定されたこと、会社がその主張の日時に、主張のとおりの内容の文書を掲示したことは認めるが、その余は争う。

(一一) (一一)の事実は認める。

(一二) (一二)の事実のうち、その主張の組合大会において、労働委員会への救済命令の申立を取下げる決議がなされたことは認めるが、その余は争う。

(一三) (一三)の事実のうち、その主張の日に会社が債権者に対し第一次配転を命じたことは認めるが、その余は争う。

(一四) (一四)の事実は争う。

(一五) (一五)の事実のうち、債権者がその主張の組合役員選挙で委員長に立候補し落選したことは認めるが、その余は争う。

(一六) (一六)の事実は争う。

(一七) (一七)の事実のうち、その主張の日に会社が債権者に本件配転を内示、命令したことは認めるが、その余は争う。

(一八) (一八)の事実は争う。

姫路営業所に配転されても、同営業所は本社とは通勤圏内の距離にあるうえ、営業会議のため定期的に毎月三回は本社に来ることになるほか、毎日電話連絡できるから、組合活動上さして不自由はないし、経済的には、会社は家賃(月額)一万五、〇〇〇円か二万円程度のアパートを借りて提供することになるから、むしろ利益になり、精神的にも、債権者は他の本社営業員と不仲の気配があったので、その解消に役立つという利益があるなど、債権者にとって本件配転は何ら不利益にはならない。

仮に不利益になるとしても、本件配転は、後記のとおり営業上の必要に基づくもので人選も合理的であり、会社において、組合の活動に支配介入しあるいは債権者をその組合活動のゆえに嫌悪し、ことさら不利益に取扱おうとする意思は全くなかった。

2  同一2について

(一) (一)の事実は争う。

一般に雇用契約を締結するにあたり、勤務場所等を限定しない限り、被用者は採用後行われる勤務場所等の変更について包括的な同意をしているとみるべきところ、本件においては、右のような限定はなかったばかりか、債権者は、立命館大学中退という、工員の中では比類のない高学歴者であったため、会社は、債権者に対し、採用直後、工員として工場である程度製造工程を覚えた場合には、事務所の仕事をさせることを明示すらしていた。

(二) (二)の事実は争う。

(三) (三)の事実は争う。

昭和四九年以降不況の影響により、姫路営業所を含めた会社全体の受注が極端に落ち込んだが、これに対して会社は、営業の充実、強化をめざし、その一環として、昭和五〇年一月ころ営業部内の合議により、市場性の十分認められる姫路営業所を増員して受注をふやすとの方針を打出し、不況の折から新規採用によることなく、現体制の範囲内で受注をふやすべく同年三月上旬の役員会で本件配転を決定したものである。

(四) (四)の事実は争う。

会社は、本件配転の対象者を決めるに際し、(1)独身であること、(2)大阪での受注成績が低く、その者を欠いても大阪の売上げに響かないことの二点を基準として人選した。そして、姫路営業所は本社営業課の所轄であるから、当然同課内で人選を考えるべきところ、当時同課には、債権者以外にもう一人独身者がいたが、同人はかつて姫路営業所に勤務していたとき、売上金に不明朗な点があったので同営業所から引き上げられたという事情があり、本件配転の対象者としては不適当であったから、結局該当者は債権者だけであった。

(五) (五)の事実は争う。

二1  同二1について

(一)ないし(五)の事実は争う。

2  同二2について

争う。

3  同二3について

争う。

第三疎明関係(略)

理由

一  申請の理由一の事実及び債務者が、債権者に対して昭和五〇年四月八日、就業規則一五条三号により、予告手当を提供したうえ本件解雇の意思表示をなし、右意思表示が同日債権者に到達したことは当事者間に争いがない。

二  ところで本件解雇は、債務者において、債権者に就業規則所定の懲戒事由に該当する行為があり、本来ならば債権者を懲戒解雇すべきものであったが、債権者の将来を考慮して、同規則一五条三号の「業務上止むを得ない事由があるときに該当するものとして、債権者を普通解雇したものであることは、債務者の自陳するところであり、他に特段の資料もないから、本件解雇の実質は、あくまでも懲戒解雇であったものということができる。そうとすれば、本件解雇が有効とされるためには、債権者に懲戒解雇事由に該当する行為のあることが必要である。

三  そこで、債権者に懲戒事由に該当する行為があったか否か、以下に順次検討する。

1  債務者が債権者に対し、同年三月一九日に本件配転命令を発令したところ、債権者がこれに従うことを拒否したことは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、就業規則三三条は、従業員の服務規律として一般的な業務命令遵守義務を規定し、そして同規則三九条は、懲戒事由として、「故意に業務の能率を阻害し、又は業務の遂行を妨げた時」(四号)、「会社の名誉、信用を傷つけた時」(七号)、「上長の命令に反抗し、上長に対し暴行、脅迫を加えた者」(一〇号)、及び「其の他前各号に準ずる程度の行為のあった者」(一二号)を各規定していることが一応認められる。

次に、債権者の採用の経緯をみるに、前記一記載の争いのない事実に、(証拠略)を総合すると、債権者は、立命館大学産業社会学部を三回生で中退した後、会社の従業員募集の看板を見て、昭和四七年一一月一五日これに応募し、二回の面接を経て同月一七日に採用され(但し当初は見習)、とりあえず製造部製造課の塗装作業に従事させられたこと、しかして、右採用にあたって債権者は、会社に対し、現場で技術を覚えたい旨の希望を述べはしたものの、特にこれを雇用契約の内容ないしは条件にしたものではなかったばかりか、逆に会社は債権者に対して、その学歴等に照らし、将来は事務関係の仕事にまわす可能性を示唆し、債権者は特にこれに異議を述べなかったことが一応認められ、債権者本人尋問の結果中右認定に反する部分はにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足る疎明資料はない。

右認定事実によれば、債権者と会社との間の雇用契約では、契約の内容として、職種、勤務場所等は特に定めなかったというべきであるから、このような場合債権者は、自己の労働力の使用を包括的に会社に委ねたものであり、原則として、会社は労働指揮権の行使として、一方的意思表示により債権者に配転を命じることができると解するのが相当である。したがって、債権者が配転命令を拒否することは業務命令違反として、特別の無効事由ある場合を除けば、就業規則三九条一二号所定の懲戒事由に該当することになる。

2  債権者は、本件配転命令が人事権を濫用してなされたものであるから無効である旨主張するので、まず同命令の必要性、合理性等について以下に判断する。

(一)  (証拠略)を総合すると、会社の経営状態等に関して次の事実が一応認められ、これに反する疎明資料はない。

会社は、いわゆる石油危機による日本経済全般に及ぶ不況の影響を受けて、昭和四八年末ころから目立って受注が落ち始め、昭和四九年五月から七月にかけて、一時やや持ち直したものの、同年八月から翌年三月にかけて再び落ち込み、そのため昭和四九年五月ないし七月は毎月三日間の、昭和五〇年二月ないし四月には毎月二日間の臨時休業を余儀無くされる事態となり、これにともなって、会社の営業を強化し、受注実績をあげる必要が生じた。

一方、姫路営業所は、昭和四六年に開設され、昭和四七年末ころまでは、男子従業員二名と女子従業員一名で運営されていたが、その後男子従業員のうち、一名は売上金に不明朗な点があるなどしたため本社に引き上げられ、他の一名も退社したため、暫定的に本社営業課員一名が勤務した後、昭和四九年一月ころからは、姫路で新たに現地採用した男子従業員一名と女子従業員一名の計二名で、専ら代理店を通じての営業を行っていた。なお、姫路営業所は本社営業課の所轄であったことから、昭和四八年七月ころから、西村靖夫営業課長(当時)が姫路営業所長を兼務し、一か月に約二回姫路に出張して代理店へのあいさつまわり程度のことをやっていた。

会社の受注状況をみると、会社の受注額の半分近くは、親会社である三協アルミからのものであり、その余の受注額のうち、姫路営業所のそれの占める割合は、不況になる以前の男子従業員が二名いた昭和四七年でも約一五パーセントで、昭和四八年は約八パーセントに落ち込み、男子従業員が一名となった昭和四九年一月以降翌年三月までの総計では約四パーセントにすぎなかった。昭和四九年末には、八十島常務が、この際姫路営業所を廃止すべきである旨提案したこともあった。

以上のとおり一応認められるが、本件配転が決定された過程について、(人証略)は、昭和五〇年二月ころの役員会で、営業強化の一環として、姫路の潜在的な需要を掘り起こすため姫路営業所の増員が決定され、これに基づいて、かねてから姫路営業所の増員を会社に具申していた西村靖夫営業部次長に具体的な人選を任せたところ、同人は、約一か月後に債権者を推薦してきたので、同年三月上旬の役員会で、債権者を配転することに決定した旨証言し、(人証略)もほぼ同旨の証言をしている(もっとも、同証人は、増員決定がなされた時期については、明確に記憶していないという)。

しかしながら、前記認定のとおり、姫路営業所も含めた会社全体の受注の減少は、既に昭和四八年末から生じており、それにもかかわらず姫路営業所は、一年以上にわたって、男子従業員は一名のままであったのであり、この間、八十島常務の前記姫路営業所廃止案以外には、会社が同営業所に関して何らかの対策を検討したことをうかがわせる疎明資料はなく、これらのことから考えれば、右証言のような時期に、役員会が営業強化の一環として同営業所の増員を決定したというのは、いささか唐突の感を免れず、その真否のほどに釈然としないものがある。また、姫路に果して潜在的な需要があるか否かは暫く措くとして、仮に会社の受注減少を打開するために、姫路営業所を増員することが、一つの方策として考えうるとしても、(証拠略)によると、本件解雇以後、姫路営業所へは、西村営業部次長が週二回程度応援のために出張しているだけで、増員はされていないこと、昭和五一年に新規採用した営業課員についても、同営業所への配転は考えられていないことが一応認められ、この事実に照らしても、同営業所を増員する必要性が果してどの程度現実的かつ緊急性あるものであったかは極めて疑問である。

(二)  しかして、さらに本件配転対象者の人選についてみると、前記会社の経営状態から考えて、会社が、増員のための要員を、新規採用によることなく、まず会社の現有人員をもって充てようとしたことは、それなりに合理的といえるところ、その具体的な人選に関しては、(人証略)は、(1)独身であること、(2)大阪での受注成績が低く、その者が欠けても大阪の売上げに響かないことの二点が選考基準となった旨各証言し、(証拠略)もこれに沿うかの如くであるが、右基準自体をみても、(1)については、(証拠略)によると、姫路営業所に勤務すれば、会社は住宅を斡旋しその家賃も負担することが一応認められ、そうとすれば、必ずしも対象を独身者に限定する必要はなく、また(2)についても、前記のとおり廃止案すら出ていた同営業所を増員し、潜在的な需要を掘り起こして、会社全体の営業成績の向上に寄与させるというにしては、十分その合理性を肯認しうる基準とはいえないうえ、(証拠略)によれば、本件配転対象者の人選にあたっては、当時本社営業課だけでも、課長代理以下一〇名の男子従業員がいたにもかかわらず、人選を担当したとされる西村営業部次長及び最終的に配転を決定したとされる役員会においても、選考にあたり、債権者以外に現実に検討の対象とされたものはいなかったことが一応認められ、以上によれば、結局本件配転命令は、一定の客観的な基準を設定し、それに従って対象者を選考した結果というよりは、むしろ当初から、債権者を姫路営業所に配転しようとの意図のもとになされたものと推認できるのであり、これと対比し、前記人選基準に従って選考した旨の前掲各疎明資料は措信し難いといわざるをえない。

(三)  そこで、さらにすすんで、本件配転に至るまでの経緯について案ずるに、会社に分会と組合の二つの労働組合があったこと、債権者が昭和四八年八月二九日に組合委員長に当選したこと、組合が、同年一一月二二日及び昭和四九年三月一八日にスト権を確立したこと、債権者が同月二〇日に、翌日に予定されていた慰安旅行に三協アルミの工場見学が組込まれていることに反対する組合ニュースを配布したこと、組合執行部が同日辞任したこと、債権者が、同月二八日に組合書記長に当選したこと、会社が、同年四月二日債権者に対し、三協アルミを誹謗したとの理由で出勤停止五日間の懲戒処分をなしたこと、同月一五日に、同月一六日の半日スト実施が決定され、会社は、同日午前一〇時ころ、再抗弁一1(一〇)記載の文書を掲示したこと、組合が、同月一七日に再抗弁一1(一一)記載の趣旨の救済命令申立を行ったこと、同年五月九日の組合大会で右申立取下の決議がなされたこと、会社が、同年七月一五日債権者に対し、第一次配転を命じたこと、債権者が同年八月二九日の組合役員選挙で委員長に立候補して落選したこと、昭和五〇年三月一四日に会社が債権者に対し本件配転を内示したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)を総合すると次の事実が一応認められ、右各証人の証言中これに反する部分はにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足る疎明資料はない。

債権者が採用された当時、会社には、昭和四七年五月一日に結成された分会と、その後まもなく職制従業員らが中心となって結成した組合の二つの労働組合が存在し、債権者は、昭和四八年五月一九日に後者に加入した。なお分会は、同年一月ころ書記長が懲戒処分(出勤停止)を受けるなどしたこともあって、同年八月ころに一部の組合員は退社し、残りの者は組合に加入したことにより消滅した。

債権者は、かねてより会社の賃金等の労働条件が他社に比べ相当劣悪であると思っていたことから、組合活動に積極的に取組んでこれを是正していこうと考え、同年八月二九日の組合役員選挙において、委員長に立候補して当選した。またこの選挙では、債権者と志を同じくする者が、副委員長、書記長、会計及び執行委員六名中四名まで占めるに至った。

そして、債権者ら執行部は、同年九月一五日に第一回組合定期大会を開催し、再抗弁一1(四)記載のとおりの活動目標、活動方針案及び特別決議案を提案して、満場一致で可決されたので、これに基づいて、会社に対して一一項目にわたる要求を提出して交渉し、さらに、同年年末一時金闘争においては、同年一一月二二日の臨時組合大会で、組合結成以来初めてスト権を確立するなどして、従来とは一変して活発な要求闘争を組織し、その結果、年末一時金支給額及びその査定割合等につき一定の成果を得た。

債権者ら執行部は、これと並行して、会社との交渉の経緯等について、専ら債権者の起案になる組合ニュースを頻繁に発行する等して、組合員に対する活発な教宣活動を行い、さらにその一環として、同年一〇月二〇日に映画「奴隷工場」を終業後会社内で上映しようと企画したが、会社が、従来例がないとして会場使用を認めず、上映を強行した場合は処分もありうる旨示唆したため、これに抗議しながらも、やむなく上映は中止した。

このように、債権者らによって活発な組合活動が展開されたのに対し、前記昭和四八年年末一時金闘争中の同年一一月一七日の臨時朝礼で、会社代表取締役沖外夫は、全従業員の前で、再抗弁一1(六)(1)記載の内容の発言をして、暗に債権者を批判し、またそのころ、八十島常務も団交の席で、野村常務も朝礼で、いずれも同再抗弁記載の内容の発言をした。なお、八十島常務は、その後昭和四九年一一月一日発行の社内報でも、再抗弁一1(六)(3)記載の内容の発言をして、暗に債権者が組合役員としての適格性を欠く旨述べた。

昭和四九年春闘では、組合は、平均四万円の賃上げ要求を決めるとともに、同年三月一八日の組合大会で、スト権を確立した。

ところが、同月二〇日、翌日に予定されていた会社の慰安旅行に、親会社である三協アルミの工場見学が組込まれていたことに対し、債権者がこれに反対する旨を組合ニュースに書いて配布したところ、会社は、これを親会社を誹謗中傷するものとみなし、同日の緊急朝礼において、組合がこの件の責任を明確にしない限り旅行は中止する旨従業員に申し渡した。このため組合は、同日昼休みに集会をもって収拾策を検討したが、従業員に旅行に行きたいとの希望が強く、また右組合ニュースの表現にも不適切な点もあったとし、組合執行部が総辞職して責任をとることになった。

その後、同月二八日に組合役員選挙が行われ、債権者は書記長に当選したが、会社は、同年四月二日になって、前記組合ニュース問題の責任追及として、債権者を五日間の出勤停止の懲戒処分に付したため、組合は、臨時大会において、この処分に反対することを決議した。

そして組合は、前記スト権確立を受けて、同年四月一五日の闘争委員会で、同月一六日正午からの半日スト実施を決定した。この闘争委員会は、本来組合規約によれば、組合執行委員と職場委員とで構成すべきところ(同規約四五条)、当時職場委員が二、三名しか選ばれていなかったこともあって、組合執行委員のみで構成され、各職場の意見は、職場討議を通じて反映させることとされていた。ところが、同月一五日の職場討議の最中に、会社は鍛冶総務課長をして、再抗弁一1(一〇)記載の内容の社内放送をさせ、さらにスト当日である同月一六日の午前一〇時ころ、足立俊正総務部長をして、食堂の掲示板に、同再抗弁記載の内容の文書を掲示させ、従業員にストに参加しないよう呼びかけるなどして、前記闘争委員会構成上の組合規約違反等のスト実施決定における手続的瑕疵という、本来ストが組合員の意思に基づくものと認められる限り組合内部の問題としてストの適法性に影響しないはずの事柄をことさら取上げて、組合員に動揺を与えてストを妨害しようとした。この結果、同日急きょ開かれた組合大会で、スト中止が決議されるに至った。

そして組合が、前記債権者に対する出勤停止処分及びスト実施決定に対する会社の対応がいずれも不当労働行為にあたるとして、同月一七日兵庫県地方労働委員会に不当労働行為救済命令の申立をしたところ、これに対し同月二四日の団交の席で、野村常務は、再抗弁一1(一二)記載の内容の発言をして、暗に右申立を取下げるよう組合に求めた。組合は、一度はこれに抗議したものの、同年五月九日の臨時組合大会で、右申立の取下を決議した。

同年七月一五日債権者は、営業強化を理由として第一次配転を命じられ、やむなくこれに従ったが、営業課においては、営業員は、既に取引のある得意先をまわりながら、あわせて新規の得意先の開拓に努めるのが通常であるところ、債権者だけは、営業の経験が全くなかったにもかかわらず、新規の得意先の開拓のみに従事するよう命じられた。その当然の結果として、債権者が現実に獲得した受注は、一件八〇万円にすぎなかった。なお、これ以後も、債権者以外に右の如き業務につくよう命じられた営業員はいない。

同年八月に行われた組合役員選挙では、債権者は、再度委員長に立候補したものの、落選して、以後組合役員を退いた。

その後昭和五〇年一月ころ、会社は、定年後も嘱託として採用していた従業員三名の解雇を発表したが、これに対して債権者は、反対を表明して積極的に動き、その結果、同年三月一三日の組合大会で、春闘要求の付帯要求として右解雇反対が決議された。

ところがすぐその翌日、会社は、債権者に本件配転を内示した。

(四)  企業の従業員の配転は、労働契約の際にその職種、勤務場所を限定するなどの合意がなされている場合は別として、一般には企業が労働指揮権の行使として人事上の諸見地からこれをなしうるところであるが、決して企業の無制限な裁量にまかされているものではなく、自ら合理的制約があり、人事上の必要性、合理性を具備し、人事権本来の目的に反しないようにこれを行使しなければならない。これに反し、配転につき、右のような必要性、合理性を肯定することができず、配転が従業員としての正当な活動や利益を妨害する等の不当な動機、目的によってなされたような事情が存するときは、配転は人事権の濫用として無効となるものというべきである。

前記認定事実によれば、本件配転命令は、その現実的必要性、人選その他の点で合理性を肯定することができないのみでなく、特に左記のような不当な動機、目的によってなされたものである。すなわち、組合は、債権者が加入し委員長に就任して以後、飛躍的に労働条件改善のための要求闘争を強めるとともに、組合員の、労働者としての権利意識を高めるための種々の活動を活発に行ってきており、その際、債権者ら執行部に若干の行き過ぎがなかったわけではないが、なお全体として正当な組合活動の範囲内の活動であったといえるところ、これに対して会社は、その中心的な役割を果してきた債権者と、債権者ら執行部が指導した組合活動を嫌忌し、一貫してこれに敵対的な姿勢をとってきたことがうかがえる。本件配転命令は、債権者の組合活動その他これに関連する種々の行動に対する会社の嫌悪感ないしは敵対感情、ひいては右活動を妨害することが、その重要な動議、目的となって決定されたもので、しかもそれがなければ、同命令は出されなかったであろうことは容易に推認できるところといえる。そして、右のような不当労働行為的意思を推認させる諸事情は、不当労働行為の成否とは別に、人事権の濫用を肯定する事由にもなりうることはいうまでもない。配転に際しては、労務対策上の考慮として組合活動対策も加味されることは否めないところであるが、それは法令その他社会観念上相当とされる範囲にとどまるべきであり、その限界を逸脱して不当労働行為的意図をうかがわせるような事情が存するときは、人事権の濫用として参酌さるべきことに変りはないのである。

してみれば、本件配転命令は会社の人事権の濫用として無効であると解するのが相当であり、したがって、右命令に応じないことは、就業規則所定の懲戒事由にはあたらないというべきである。

3  さらに、その他の懲戒事由の有無について検討すると、(証拠略)を総合すると次の事実が一応認められ、他に右認定を左右するに足る疎明資料はない。

債権者は、前記のとおり本件配転に従うのを拒否する一方、西村営業部次長が、債権者に対し、後任者との業務の引継ぎをし、姫路営業所への視察に同行するよう指示したのにこれを拒否して、従前どおり得意先まわりの業務についた。会社は、これを禁止するため佐野幹男営業部長等をして、再三にわたり債権者に在社命令を出したが、債権者はこれにも従わなかった。そこで会社は、同年三月三一日債権者に対し、右営業部長名で自宅待機を命じた(同日会社が債権者に自宅待機を命じたことは当事者間に争いがない)が、債権者は、その後も連日のように出勤して、本件配転命令に対し抗議を続けた。

なお、本件配転命令内示後、西村営業部次長は、債権者の後任者をともなって得意先へあいさつまわりに行ったが、右のとおり債権者も従前どおり得意先まわりをしたため、奇異の念を抱く得意先もあった。また、そのころ、債権者が唯一つ獲得に成功した銭高組からの受注が断わられるということがあった。

右認定事実によると、債権者は、在社命令等の会社の業務命令に違反しているものであり、かかる場合、右業務命令には従いつつ配転命令に応じないという柔軟な態度をとり、何らかの処分を招かないようにすることも考えられる方法ではあるが、前記のとおり、本件配転命令が無効である以上、債権者が頑強にその不当性を主張して従前どおりの業務につこうとすることは正当というを妨げないから、これを禁じ、ひいては債権者を本件配転に従わせようとして出された在社命令等一連の業務命令に違反しても、就業規則所定の懲戒事由に該当するものと断ずることはできない。

また、一旦獲得した受注を断られた件が、仮に債権者とその後任者とが重複して得意先まわりをしたことに起因するとしても、本件配転命令自体が無効である以上、右事態の責任の一半は、債権者が本件配転を拒否しているにもかかわらず、後任者に得意先まわりをさせて無用の混乱を生ぜしめ、右配転の実施を強行しようとした会社の方にもあるというべきであり、右事態をもって、債権者の懲戒事由とすることは相当でない。

四  以上のとおり、いずれにしても、債権者には何ら就業規則所定の懲戒事由はなく、また前叙したところによれば、解雇を正当とする事由も認められないのであるから、本件解雇は、解雇権の濫用として無効である。

そうすると、他に特段の主張、疎明のない本件においては、債権者は、会社の従業員としての地位を有するものというべきである。

五  債務者が、債権者を昭和五〇年四月八日に解雇したとして、それ以降従業員としての取扱いを拒んでいることは当事者間に争いがなく、また、債権者が債務者から、毎月二五日に月額平均九万四、七五〇円の賃金(但し税金等の法定控除金を含む)の支払を受けていたことは、債務者において明らかに争わないから、民訴法一四〇条一項により自白したものとみなすこととする。

しかして、(証拠略)によれば、債権者は右賃金を唯一の収入として生活していることが一応認められ、したがって、債権者が会社から従業員としての地位を否定され、右賃金の支払を受けられないときは、生活が窮迫し著しい損害を受けるおそれがあると認めざるをえない。

そこで、債権者が、会社の従業員たる地位を有することを仮に定め、本案訴訟の判決確定に至るまで、右賃金(但し税金等の法定控除金を控除する)の仮払いを認めるのが相当である。

六  以上の次第で、本件仮処分申請はすべて理由があるので認容すべきところ、当裁判所が当庁昭和五〇年(ヨ)第八五号地位保全等仮処分由請事件について昭和五〇年五月九日にした仮処分決定はこれと結論を同じくするので、右仮処分決定を認可することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥輝雄 裁判官 神吉正則 裁判官 岡田雄一)

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