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神戸家庭裁判所 平成3年(少)4007号 決定 1991年9月11日

少年 T・T(昭48.11.4生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、平成3年7月27日午後10時ころ、実兄のT・Dとともに兵庫県伊丹市○○×丁目×番地○○マンション○楝西側の○○川河川敷へ赴いた際、その場にいたA(当時19歳)に声をかけたところ、同人の応答の態度が生意気であると因縁をつけ、

第1上記T・Dと共謀の上、右T・Dが上記Aの顔面、頭部を手拳で殴打し、少年が同人の臀部を足蹴にし、所携の金槌の柄で殴打するなどの暴行を加え、よって同人に対し、全治約7日間を要する下口唇部挫創、顔面頚部左下腿部挫創の傷害を負わせ

第2上記暴行の際、背後から少年を制止しようとしたB(当時14歳)に対し、これを投げ飛ばした上、やにわに所携の刃渡り約18センチメートルの包丁で同人の右背部を突き刺すなどの暴行を加え、よって同人に対し、全治約10日間を要する右背部刺創、頭頂部切創、左手左第5指切創の傷害を負わせ

たものである。

(法令の適用)

第1の事実につき刑法60条、204条

第2の事実につき同法204条

(処遇の理由)

本件は、双生児の兄とともに、後輩を迎えに現場に赴いた少年が、その場にたむろしていた被害者らの態度に激昂し、最初兄のT・Dが被害者Aに喧嘩をしかけ、少年がこれに加勢してこもごも殴る、蹴るの暴行を加えて傷害を負わせた上、更に少年らの行為を止めようとした被害者Bに対し、少年が所携の包丁でその背部を刺すなどし、傷害を負わせたというものであり、特に後者の非行は一歩間違えば被害者を死に至らしめ、あるいは回復不能の後遺症を与えかねない危険この上ないものである。

確かに、少年は、本件においては終始兄のT・Dに従属的な行動を取っていたこと、兄に包丁を持たせておくのは危険であるとの判断からこれを取り上げるなどの配慮をしていること、更に包丁で刺した際にも、被害者から羽交い締めにされ、とっさに首を絞められると思って犯行に及んだものであって、兇器を用いた傷害行為自体は偶発的ともいえることなど、少年に有利な事情も認められる。しかしながら、少年は当初から兄とともに包丁、金槌を持参して現場に赴いており、少なくともこれらを用いて相手を脅すという認識は有していたこと、そもそも被害者らにはこのような暴行を受けるいわれはなく、喧嘩を仕掛けた動機自体理不尽なものであったこと、シンナー吸引の影響などによりほとんど無抵抗の被害者Aに対し、一方的に執ような暴行を加えていること、少年が兇器の包丁を取り出したのは被害者Bに羽交い締めにされるよりも前であり、兄と対峙している相手を脅す目的とはいえ安易に兇器を使用しようとする姿勢が見られること、刺突の部位も背部であり、被害者を投げ飛ばした後に背後から刺したもので、決して首を絞められて反射的に行った行為ではなく、行為時に少年自身十分にその意味及び危険性を認識していたと認められることなどに照らすと、本件非行に表れた少年の問題性は軽視できないものがある。

少年の資質、環境等は、鑑別結果並びに家庭裁判所調査官○○作成の少年調査票のとおりであるが、少年はもともと小心な性格であり、従来から粗暴傾向を有していたわけではないことが認められる。それだけに、少年が上記のごとき危険な行為に及んだ背景には成育環境、家庭のしつけ不足などに由来すると思われる年齢に相応した社会認識、常識の不足、行為の結果を見通す能力の欠如などが指摘できるのであって、まもなく18歳を迎えようとする少年にとって上記の点を改善し、健全な社会常識を身につけることが将来にとっての急務である。

しかるに、少年は平成2年10月に前件非行により保護観察の処分を受けながら(同事件の調査の過程においても面接、講習に不出頭を繰り返すなど、消極的な姿勢が目立ったことが指摘されている。)、自分からは一度も保護司を訪問することなく(現在までの保護観察状況に大きな問題はないとの指摘もあるが、理解に苦しむところである。)、保護司からの熱心な訪問、働きかけにより接触が保たれている状況であった。また、両親には少年に対する積極的な姿勢はうかがわれるものの、もともと家庭の監護力は貧弱であり、このような状況の中で本件非行が行われたことを考えると、少年に対してはもはやこのまま在宅処遇を続けることは適切でなく、施設収容により処遇の専門家の働きかけにより上記問題点の改善を目指すことが相当であると認める。

その場合、少年は実質的に今回が初めての入鑑であり、これをきっかけとして内省の深まりも期待できないではないこと、上記のとおり、本件は兄の影響によるところが大きく、少年自身の非行性は必ずしも大きくないとも認められること、前件時の課題とされた生活の乱れも徐々に改善の兆しが見られていたことなどを考慮し、少年に対しては、できるだけ従前の在宅処遇との継続性を維持しつつ、施設処遇の効果を生かすことの可能な特修短期の処遇を選択するのが妥当であると認められるので、別途その旨勧告するものとする。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院へ送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 曳野久男)

〔参考1〕処遇勧告書<省略>

平成3年少第4007号非行事実

別紙

1. 犯罪事実

(1) 被疑者T・Tは実兄(双子)のT・Dと共謀のうえ平成3年7月27日午後10時ごろ伊丹市○○×丁目×番地○○マンション○棟西側○○川河川敷においてA19歳に対し名前を聞いた際答えた態度が生意気と因縁をかけ被疑者T・Tにおいて右臀部を1回足蹴にし、T・Dにおいて右手挙で左顔面を2回、左手挙で右頭部を1回殴打するなどの暴行を加えよって同人に対し全治7日間を要する下口唇部挫創顔面頚部左下腿部挫傷の傷害を負わせたものである。

(2) 被疑者T・Tは実兄のT・Dと共謀のうえ、平成3年7月27日午後10時ころ兵庫県伊丹市○○×丁目×番地○○マンション○棟西側○○川河川敷においてA19歳に対し暴行を加えた際、仲裁に入ったB14歳に対し、被疑者T・Tは所携の刃渡18センチメートル位の包丁で同人の右背部を突き刺す等しよって同人に対し全治10日間を要する右背部刺創頭頂部切創、左手左第5指切創の傷害を負わせたものである。

〔参考2〕少年調査票<省略>

〔参考3〕鑑別結果通知書<省略>

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