神戸家庭裁判所 昭和52年(少)4716号 決定 1978年1月24日
少年 K・H(昭三四・一・三一生)
主文
少年を神戸保護観察所の保護観察に付する。
理由
(非行事実)
少年は、
第一 昭和五二年一〇月二六日午前一時五分頃、神戸市須磨区○○町×丁目×番××号先道路において、信号機の表示する一時停止の信号(赤色の燈火の点滅)に従わないで、第二種原動機付自転車(神戸市試×××乗号)を運転し、
第二 前同月三〇日午前一時三〇分頃、神戸市長田区○○町×丁目×番××号先道路において、法令に定められた消音器を備えつけず爆音を轟かせ、他人に迷惑を及ぼすおそれがある自動二輪車(神戸○××××号)を運転し、かつ自動車登録番号を見やすいように表示しなければ運行の用に供してはならないのにもかかわらず、前同自動二輪車の自動車登録番号標に荷造り用ガムテープを貼り付け、自動車登録番号を隠蔽して運行の用に供し、
第三 A、B、C、Dほか多数の者と共謀のうえ、前同年一一月六日午前一時五〇分頃、神戸市長田区○○町×丁目先国道×号線路上及び付近路上において、少年らの暴走行為のために安眠を妨害されていることに立腹し暴走行為を注意、制止しようと前同所に出てきたK(当時二四歳)に対し、同人を取り囲んで殴る、蹴るの暴行を加え、よつて同人に加療約一ヶ月間を要する歯牙一部破折の傷害を負わせ、
第四 かねてから神戸市内の国道二号線路上などにおいて、自動車で暴走行為を繰り返していたものであるが、最近に至り警察のいわゆる暴走族への取締りが強化され、暴走行為ができなくなつてきたことなどから警察に対し反感を抱いていたところ、前同月一三日A、E、F、C、B、G、H、I、Jと共謀のうえ、警察への報復としてパチンコ玉で警察官派出所の窓ガラスなどを破壊することを企て、二台の普通自動車に分乗して次々に警察官派出所を襲撃することにし、
一 別表(1)記載のとおり、前同日午前四時五分頃から午前四時三五分頃までの間、三回にわたり、神戸市長田区○○町××丁目×番××号所在兵庫県○○警察署○○派出所ほか二個所において、窓ガラスなどにパチンコ玉をいしやり(パチンコ)で打ち、又は手で投げつけるなどして窓ガラスなどガラス合計一三枚(時価合計七七、五〇〇円相当)を破損し、もつて数人共同して他人の器物を損壊し、
二 別表(2)記載のとおり、前同日午前四時一〇分頃から午前四時四五分頃までの間、三回にわたり、神戸市須磨区○○町×丁目×番××号所在兵庫県××警察署○○派出所ほか二個所において、窓ガラスなどにパチンコ玉を投げつけて窓ガラスなどガラス合計九枚(時価三六、五〇〇円相当)を破損し、もつて他人の器物を損壊し
たものである。
(法令の適用)
第一の事実について、道路交通法七条、四条一項、一一九条一項一号の二、同法施行令二条一項
第二の前段の事実について、道路交通法六二条、一一九条一項五号、道路運送車両の保安基準六五条一項同後段の事実について、道路運送車両法一九条、一〇九条一項一号
第三の事実について、刑法六〇条、二〇四条
第四の一の各事実について、刑法六〇条、暴力行為等処罰に関する法律一条
第四の二の各事実について、刑法六〇条、二六一条
(保護の事由)
少年は昭和五一年秋に定時制○○高校を中退した頃から、自動二輪車を乗りまわすようになり、その魅力に取り憑かれて走行を繰り返すうちに運転態度が悪くなり、生活態度もくずれ出し、信号無視などの反則行為や深夜徘徊などの問題行動が目立ち始めている。特に昭和五二年七月頃判示第四の本件共犯者らと知り合い、神戸市須磨区○○○町所在のレストラン○○○○○○寮に出入りし始めてからは殆ど毎土曜日同所に外泊し、本件共犯者らと深夜神戸市内の国道二号線などにおいてジグザグ運転やサーキットレースまがいの暴走行為に参加しているものである。
本件非行はいずれも深夜になされており、判示第一、第二の非行はいかにも暴走族然とした犯罪であり、又判示第三、第四の非行は暴走行為を制止しようとする者に対して暴力で攻撃を加えたもので、いずれも暴走行為への興味が非行の直接の原因となつている。殊に判示第三の非行は少年らの喧噪やる方ない暴走行為を制止に来た被害者を多数で取り囲み一方的に暴力を振い袋叩きにしたものでまさに暴徒のなせる業というべきであり、又判示第四の非行は警察の取締りに対する逆恨み的報復であり、その動機の無法性、行為の危険性甚だしいものがあり、社会的見地からも由由しい事件である。このように少年の犯した罪は極めて悪質で重大なものである。しかも判示第四の非行の直前に警察官やパトロールカーをパチンコ玉で狙い打ちしようとした事実もあり、看過しえない。
しかしながら、少年は警察の取締りに対し反感を抱いてはいたが判示第三、第四の非行では直接実行行為には出ておらず、追従的であること、判示第四の非行はそもそも少年らのグループのリーダー格であるA(当二四歳)の主導にかかり、少年は軽佻浮薄に賛同したものであること、判示第四の非行により逮捕、勾留、観護措置と身体の自由を拘束されたことなどから本件非行の重大性を認識し、自己の従前の生活態度、運転態度全般を深く反省し、所有していた自動二輪車は既に売却し、運転免許も取り消されており、今後暴走行為は絶対にしないと当審判廷において固く誓約したこと、保護者も監督不行届であつたことを反省し、少年の問題点に目を向け今後しつかりと監督していくと述べており、少年からの保護者への不満、離反もみられないことなどの諸事情を考慮すると、本件非行のごとき犯罪は根絶しなければならないことは勿論であるけれども、少年に対して刑事責任を追及することは相当とは思われない。
そこで少年に対する処遇であるが、上記諸事情に加えて、知能は良域にあり、性格にさほど偏倚も認められないものの耐性が弱くて無思慮に非行に加わつていく行動傾向、規範意識の低劣さ、本件事案の悪質、重大性、保護者の保護能力がなお十分ではないことなどを勘案すると、いまだ少年院に送致する必要性はないけれども、少年を神戸保護観察所の保護観察に付して、少年の生活に規制を加え、継続的に指導保護していく必要があると思料される。
よつて、少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 田中俊夫)
別表(1)
番号
犯 行 日 時
犯 行 場 所
被 害 状 況
(時価円相当)
犯行の方法
実行行為者
一
昭和五二年一一月一三日午前四時五分頃
神戸市長田区○○町××丁目×番××号兵庫県○○警察署○○派出所
ガラス四枚
(四、〇〇〇)
パチンコ玉をいしやりで打ち、かつ手で投げつける。
A
C
B
二
同日午前四時一五分頃
同市須磨区○町×丁目×番××号兵庫県××警察署○○○派出所
ガラス三枚
(一三、五〇〇)
パチンコ玉を手で投げつける。
C
B
三
同日午前四時三五分頃
同市長田区××町×丁目×番×号兵庫県○○警察署○○○○○派出所
ガラス六枚
(六〇、〇〇〇)
番号一に同じ
A
C
B
別表(2)
番号
犯 行 日 時
犯 行 場 所
減 害 状 況
(時価円相当)
犯 行 の 方 法
実行行為者
一
昭和五二年一一月一三日午前四時一〇分頃
神戸市須磨区○○町×丁目×番××号兵庫県××警察署○○派出所
ガラスニ枚
(一八、〇〇〇)
パチンコ玉を手で投げつける。
B
二
同日午前四時二五分頃
同市須磨区○○町×丁目×番××号同警察署○○○交通詰所
ガラス一枚
(一二、五〇〇)
同 上
C
三
同日午前四時四五分頃
同市長田区○○○町×丁目×番××号
兵庫県警察署○○○派出所
ガラス六枚
(六、〇〇〇)
同 上
B