神戸家庭裁判所尼崎支部 事件番号不詳 決定
少年 N(昭一五・一〇・五生)
主文
少年を特別少年院に送致する。
理由
一、罪となるべき事実
別冊少年調査記録中の本件非行事実を引用する。
二、証拠の標目
一件別冊法律並びに少年調査記録中の関係証拠に依る。
三、適用法条
刑法第二百三十五条、第二百三十六条、第二百三十七条、第二百六十条、銃砲刀剣類等所持取締法第三条、第二十二条、
四、要保護性の認定資料としての資質及び環境状況の症状
少年法第九条並びに少年審判規則第十一条に謳われた少年保護者関係人の行状、経歴、心身の素質、家庭、学業、地域、交友、環境などという資質問題の優劣という料学的鑑別と環境条件の適否に関する社会的調査の結果判明した既住並びに現在の要保護性の症状については別冊少年調査記録中の関係部分を夫々引用する。
五、収容保護処分という保護治療の診断を必要とする理由
少年は昭和三十三年に強盗、強盗傷人等数件併合事件について当庁より検察官送致された公判裁判所より少年法第五十五条に則り再び当庁に保護事件として移送され右事件の審理中に三件併合の窃盗事件を犯すに到つた。然もその被害金額は約二百万円を超え成人の有前料の共犯二名との犯行である。
事案の性質から当然再度検察官送致のうえ実刑による刑事処分を至極相当とする事案である。
ところが大胆執拗な非行少年にも未だ捨て難き人間的美点を留保している。それは昭和三十四年末尼崎拘置監より復雑逃走既遂の五人組の少年未決囚を説得して遂に彼等をして自首せしめたのは本少年である。当裁判所は右の自首勧告の善行を表彰する意味において刑事処分を絶対的に必要とする本件の終決処分を保護処分として特別少年院送致に変更するものである。これは非行少年の人間的改善を本旨とする家庭裁判所の血と涙の豊かな恩恵的処遇である。この破格的な処遇に遭遇して少年は今度こそ根本的に改悛的努力に生きなければならない。
以上の理由により少年法第二十四条第一項第三号、少年審判規則第三十七条第一項、少年院法第二条第四項に則り主文の通り決定する。
(裁判官 藤巻三郎)
別紙 (地方裁判所の移送決定)
主文
本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に移送する。
理由
本件公訴事実の要旨は
被告人は
第一、別表記載のとおり、他と共謀の上或は単独で、昭和三三年八月二七日頃から同年一〇月二八日頃までの間、前後六回に亘り、西宮市○○○○町○○番地附近路上外五ケ所においてそれぞれ他人の財物を窃取し
第二、A、B、Cと共謀の上、大阪市北区○○○○町○○番地広東料理店「金○」店主○金○(当三五年)及び店員○重○雄(当二〇年)の帰途を襲い、その売上金を強奪しようと企て、同年一〇月二四日午前二時頃同所附近において、同人等を徒ち伏せ、もつて強盗の予備をし
第三、右日時同所附近において、法定の除外事由がないのに、(一)、刀渡二四糎の短刀一振を所持し、(二)、刀渡約一二糎のあいくち類以の刀物一振を携帯し
第四、右Aと共謀の上、西宮市中央卸売市場に買出しに来る○本○シ○(当七六年)を襲つて所持金を強取しようと企て、同年同月一四日早朝西宮市○○町○○の○番地附近路上で待機していたが、同日午前五時前頃同人が通りかかつたので、被告人は、その背後から飛びかかり、右手でその口を塞ぎ、左手でその肩の辺りを抱きかかえ、Aは、その胸部を手拳で殴打した上、その両足を手で持ち、両名協力して同人を同所南側○田○よ子方新築家屋の塀の中にはこびこむ等の暴行を加え、その反抗を抑圧し、Aは、その前掛け及び腹巻をさぐつて同人所有にかかる現金三二、〇〇〇円位を強取し
第五、右A及びBと共謀の上、右市場に買出しに来る○野○蔵を襲つて所持金を強取しようと企て、各自杉丸太を携え、同年同月二八日早朝同市南甲子園○丁目○○番地附近路上で待機していたが、同日午前五時過頃同人が軽自動車に乗つて通りかかつたので、まず、Bにおいて、右自動車の進路に立ち塞つてこれを停車させた上、Nは、所携の右杉丸太で同車の前照燈を叩き割り、A及びBは所携の右杉丸太で同人の頭部等を乱打して同人をその場に昏倒させ、その反抗を完全に抑圧し、Nは、同人が腰にさげていた、その所有にかかる現金二〇、〇〇〇円位在中の革鞄一個を強取したが、右の暴行によつて同人に対し治療約一ヵ月を要する左中足骨々折及び左足部挫傷、左手部挫傷、頭部挫傷の傷害を加え
たものである。
というのであつて、以上の各事実は、本件記録に綴つてある各証拠及び押収にかかる証拠物によつて明かである。
そこで、被告人が本件犯行をなすに至つた動機、その性格、経歴、家庭環境等について、右証拠及び取寄せにかかる少年調査記録を綜合すると、次の事実を認めることができる。すなわち被告人は、実父F、実母M子間の三男として昭和一五年一〇月五日に出生し、その後父母の手に育てられて生育し、○○小学校を経て、昭和三一年三月西宮市立○○中学校を卒業したものであつて、同校卒業後は、自動車修理見習工、或は製びん見習工等をして働いていたのであるが、働く意欲が十分でないため、いずれも余り長続きせず、昭和三三年八月頃からは、定職もない状態であつた。ひるがえつて、被告人の家庭は、父母の外兄弟等九名の多子家族であつて、父Fが、青物行商を営み、また、長兄Rが建具職人として働き、これらの収入によつて生計を立てているが、収入がそう多い訳ではなく、兎に角生活を維持するのに精一杯であつたところから、自然、父母の被告人に対する監督もなおざりになりがちで、日頃、父Fが、「早く仕事を捜せ」と口やかましくいう程度で、被告人の行動には殆んど無関心の状態であつたので、被告人もこれをいいことにして、同年八月頃から西宮市○○に住む実姉S子方で寝泊りしたり、附近の喫茶店に出入りしたりして遊び暮すうち、本件共犯者たる、A、B、D等と知り合い(Cのみは被告人の中学時代の同級生)、これ等不良交友に端を発し、かつ、小遣銭に窮していたところから、本件各犯罪を敢行するに至つた。このように、家庭における監護不十分であるのみならず、また、近隣に不良交友多く、環境不良であり、これらが本件各犯行の一因をなしているのであるが、被告人の知能は良域に属し(IQは一一一)、精神障害なく、性格面においても、情緒不安定で、自己本位的、退行的傾向が認められる等若干の問題点はあるにせよ、概ね正常といつて差支えなく、しかも被告人は、年令ようやく一八年七月に達したばかりで、これまで一回も保護処分を受けておらず、なお、本件各犯行に関しては、深く前非を悔い、反省の色が認められるので、この際一定の期間収容保護し、その間家庭環境の調整を計ると共に、被告人に対し労働意欲を高めさせ、生活規律を遵守させる等性格の矯正を計ることによつて、その社会復帰が十分可能であると考えられる。
なるほど、被告人の本件各犯行のうち特に第四の強盗罪及び第五の強盗傷人罪は、いわゆる兇悪犯であり、その罪質に照らし、一応刑事処分の必要も考えられるのであるが、右強盗罪については、被害者○本○シ○が当裁判所に嘆願書を提出し、寛大な処置を希望しており、また右強盗傷人罪については、被告人は被害者○野○蔵の身体に直接危害を加えた訳でなく、また右犯行の動機、態様その他からみて、被告人が特に主動的立場にあつたものと思われないので、これら事情及び前段認定の事実関係を合せ考慮すると、本件は、刑事々件として処置するより保護処分に付する方が相当である事案と認められるので、少年法第五五条を適用して本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に移送することとする。
よつて主文のとおり決定する。
(昭和三四年六月一日 神戸地方裁判所尼崎支部 裁判長裁判官 日高敏夫 裁判官 浅野芳朗 裁判官 小河巖)
別表 (編略)