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神戸家庭裁判所尼崎支部 昭和48年(家)872号 審判 1973年9月11日

申立人 大沢清子(仮名)

相手方 大沢正夫(仮名)

主文

相手方が申立人に対し昭和四八年二月一日以降別居期間中申立人および長男一男の生活費として負担すべき婚姻費用分担金を一か月金五〇、〇〇〇円と定める。

相手方は申立人に対し、金三五〇、〇〇〇円を即時に、昭和四八年九月末日から別居期間中毎月末日かぎり一か月五〇、〇〇〇円を支払え。

理由

一  本件申立ての趣旨は、「相手方が申立人に対して昭和四八年二月分以降別居期間中支払うべき生活費の額を定めその支払いを命ずる旨の審判を求める。」というのである。

二  よつて調査するに、つぎの事実を認めることができる。

申立人と相手方は、昭和四一年三月二一日から同居を始め同年五月三一日婚姻届出をして夫婦となり、同四二年二月二六日長男一男をもうけたが、相手方が昭和四六年九月ごろ異性関係をもつたことや相手方の日常の帰宅時刻が遅いことに対して申立人が根強い不満をもち、相手方の勤務先にまで不満を持ち込んで相手方の上司や同僚に私生活を暴露する結果となつたことから、夫婦の仲は冷却し、同四八年一月二五日相手方が申立人と長男を置いて別居し、その後申立人も長男を連れて他に転居し、夫婦関係は破綻に瀕している。現在では当事者双方とも離婚を望むに至つているが、申立人が莫大な金員請求をするため合意するに至つていない。

申立人は、小学一年生の長男一男と二人で四畳半一間のアパート住いをしている。収入はなく家賃一二、〇〇〇円で生活は苦しい。生活費は全部祖母が立替えている。相手方は母大沢みねとの二人住いで、○○商事株式会社に勤務し乳製品食品課の課長である。昭和四七年二月から同四八年一月まで一年間の給料賞与支給合計額は一、四四〇、七八一円、月平均支給額は一二〇、〇六五円である。

三  ところで、夫婦は同居し互いに協力し扶助し合う法律上の義務があるわけであるが、別居して双方ともその義務を履行しようとせず、円満な共同生活への復帰は極めて困難な場合に、婚姻費用分担の問題が生ずるか否かは議論の分かれるところであるところ、経済的に相互に独立した状態が続き、社会現象的に離婚と同視されうるに至つた場合は格別、離婚に至る段階であつても、法律上の夫婦である以上経済的に優位に立つ者は生活費に事欠く配偶者に対し婚姻費用分担金として配偶者およびその監護下にある未成熟子の生活費の全部又は一部を負担すべきであると解するのを相当とする。ただその分担額を定めるに当り、別居に至つた事情を考慮することがありうるに過ぎない。

本件の場合これを見るに、別居原因は一方的に申立人側にあるとはいえないし、婚姻費用は恩恵的に与えるべきものではないことを考えれば、申立人の言動に行き過ぎ或は常軌を逸した点があつたとしてもその生活費を減ずるのは適当でない。したがつて、婚姻費用分担金は共同生活を営んでいる場合に準じてしかるべきであろう。

以上の見地から、労研(労働科学研究所)生活費方式により、相手方母も共同生活の一員とし消費単位の計算において相手方に独立世帯の加算をして、相手方の月収のうち申立人および長男一男の生活費に当てるべき金額を算出すると、

120,064円(相手方の月収)×((135(申立人と長男の消費単位)/335(全員の消費単位)) = 48,384円

となる。そこで、相手方が昭和四八年二月当初申立人に毎月約五〇、〇〇〇円の生活費を手渡すつもりでいたこと、近時における消費物価の上昇その他一切の事情を考慮して、昭和四八年二月一日以降別居期間中相手方が申立人の生活費として負担すべき婚姻費用分担金を月額五〇、〇〇〇円と定める。その結果、相手方は申立人に対し、昭和四八年二月一日から同年八月末日までの分担金合計三五〇、〇〇〇円を即時に、同年九月から月額五〇、〇〇〇円を毎月支払うべきこととなるが、相手方が給料生活者であることを考慮して将来の分は各月末までに支払うのが相当であると認める。

よつて、家事審判規則五一条、四九条に従い主文のとおり審判する。

(家事審判官 堀口武彦)

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