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神戸家庭裁判所竜野支部 昭和37年(家)257号 審判 1962年12月05日

申立人 吉川正男(仮名) 外一名

未成年者 吉川圭子(仮名)

上記申立人らから、未成年者を養子とすることの許可の申立があつたので、当裁判所は、審理の上、本件の申立を理由があるものと認め、下記のとおり審判する。

(なお、記録中に編綴された戸籍謄本によれば、本件の未成年者吉川圭子は、明治三七年七月一日生の吉川いとが、昭和三七年六月一二日分娩した子であると、戸籍上記載されていることが明かであり、右いと及びその夫吉川治郎も、この戸籍上の記載が事実であると供述しているけれども、そうとすれば、五七才の女子が分娩したことになり、産科学的常識に照し、甚だ奇異であるといわねばならない(福岡高裁宮崎支部昭和三四・九・八決定、家庭裁判月報一二巻二号一一七頁以下参照)。圭子の出産届に添付された出生証明書は、医師でも助産婦でもない近親者の吉川こまがこれを作成していること、吉川いとは、五七才になつて圭子を分娩するのに、医師の手も助産婦の手も借りておらず、母子手帳は、分娩後始めてその交付を受けたと供述していることも、上記の疑念を深めるものである。それ故、吉川いとが本件未成年者の実母であるとは、容易に信用することができず、治郎及びいとの代諾による同未成年者と申立人らとの養子縁組が有効であり得るとも、にわかに考えることができないのであるが、こうした事情は、家庭裁判所において、申立人らが同未成年者を養子とすることを許すについて、法律上の障碍とはならないものと思料する。けだし家庭裁判所が民法第七九八条により未成年者を養子とする許可を与えるべきか否かは、もつぱら当該未成年者の幸福のための後見的見地から判断すれば足りるのであつて、自らの裁量によりこの点につき格別の障碍がないと認める限り、養子縁組を許可するのが正しく、こうした許可を得て後日なされるであろう養子縁組が、代諾者の無権限のため無効である公算の大小のごときは、それ自体としては、理論上家庭裁判所の判断事項の範囲に属しないからである。)

主文

申立人らが未成年者吉川圭子を養子とすることを許可する。

(家事審判官 戸根住夫)

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