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神戸家庭裁判所豊岡支部 昭和62年(家)224号 審判 1992年12月28日

申立人 甲野二郎

相手方 甲野一郎 外1名

被相続人 甲野太郎

主文

1  被相続人甲野太郎の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙遺産目録1、2、5、6記載の各土地を申立人の取得とする。

(2)  同目録3、4、7記載の各土地を相手方らの取得(共有持分はそれぞれ2分の1ずつ)とする。

2  上記遺産取得の代償として、申立人は、相手方らに対し、それぞれ金49万9000円ずつを支払え。

3  本件手続費用中、鑑定人○○○○に支払った鑑定費用は、これを10分し、その4を申立人、その3ずつを相手方らの各負担とし、その余の費用は各自の負担とする。

上記手続費用の償還として、相手方らはそれぞれ、申立人に対し、金34万5000円ずつを支払え。

理由

一件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断は、以下のとおりである。

1  相続の開始、相続人及び法定相続分

被相続人甲野太郎(明治27年7月16日生、以下「被相続人」という。)は、昭和51年7月6日に死亡し、相続が開始した。その相続人は、子である本件当事者全員であり、適式な遺言がないので、相続人らの法定相続分は、各3分の1ずつである。

2  遺産の範囲

本件遺産分割の対象となる被相続人の遺産は、別紙遺産目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)と認める。

3  遺産の状況及び評価

本件土地は、位置関係、利用状況、境界の識別の難易から、概ね7か所に分けられる。本件土地の現況は、別紙遺産目録に記載のとおりである。本件土地の位置関係は、別紙本物件所在図のとおりである。

なお、本件1、2、3の(4)ないし(6)の土地には、朝来郡○○村(現朝来郡○○町)の抵当権設定登記が経由されていたが、本件審理中に、相手方らの要請により、申立人が、○○町と交渉のうえ、右登記の抹消登記をすませた。

本件土地の相続開始時及び審判時の価格は、鑑定結果に基づき、別紙遺産目録に記載のとおりと認定する。

4  特別受益

当事者全員について、特別受益は認められない。

5  寄与分

被相続人は、農業に従事していたが、昭和25年ころから、農作業は申立人に任せ、花売りの行商に従事するようになった。しかし、昭和44年ころ、高血圧と心臓病が悪化したことから、花売りの行商を止め、以後は申立人に扶養されていた。昭和48年末ころからは、上記持病に老衰も加わって、寝たきりの状態となった。近隣には入院できる病院はなく、また、被相続人も入院を嫌ったため、自宅療養し、申立人の妻花子が専らその付添看護を行っていた。花子は、被相続人の病状が進行した昭和49年3月ころからは、垂れ流しの大小使の世話のため、30分以上の外出をすることが出来なくなり、被相続人の発作の危険が増した昭和50年12月ころからは、昼夜、被相続人の側に付きっきりで看護した。そのため、花子は、慢性的な睡眠不足となり、被相続人の死後、長期間の看病疲れから自律神経失調症を患ったほどであった。

以上のような花子の被相続人に対する献身的看護は、親族間の通常の扶助の範囲を超えるものがあり、そのため、被相続人は、療養費の負担を免れ、遺産を維持することができたと考えられるから、遺産の維持に特別の寄与貢献があったものと評価するのが相当であるところ、右看護は、申立人の妻として、申立人と協力しあい、申立人の補助者または代行者としてなされたものであるから、本件遺産分割にあたっては、申立人の寄与分として考慮すべきである(なお、本件は、昭和55年法律第51号「民法及び家事審判法の一部を改正する法律」施行前の事案であるが、寄与分を考慮することは、同法律施行前の民法によっても、解釈上是認される)。

上記寄与分の価格は、相続開始時において、120万円と評価するのが相当である(昭和49年3月以降概ね28か月として、死亡直前の6か月を月9万円程度、その余の22か月を月3万円程度が通常の扶助を超える部分の評価とした。)。

6  各自の取得額

相続開始時の遺産総額は、851万8000円であるところ、前記寄与分120万円を除外した額の3分の1にあたる243万9000円(千円未満四捨五入、以下同じ)が各相続人の法定相続分である。申立人の取得分は、これに寄与分120万円を加えた363万9000円であり、各相手方の取得分は、243万9000円ずつである。

そして、審判時の遺産総額は、1115万7000円であるから、申立人の取得額は、その851万7000(申立人及び相手方らの上記取得分の和)分の363万9000(申立人の取得分)にあたる476万7000円であり、各相手方の各取得額は、1115万7000円の851万7000(申立人及び相手方らの上記取得分の和)分の243万9000(各相手方の取得分)にあたる319万5000円ずつである。

7  分割方法の希望

申立人は、本件土地を耕作しており、全土地を取得したいが、多額の代償金の支払いが困難なため、現物分割でもやむを得ないと考えているところ、特に本件1、2、5、6の土地の取得を希望している。本件1の土地は、その地続きの土地を購入して建物を建て、農業用資材の置場としていること、本件5の土地は、被相続人の死亡前の昭和51年6月に県の圃場整備事業が完成した土地であり、右の償還金は、申立人が、昭和50年12月から分割弁済してきたこと(なお、平成9年まで弁済しなければならない。)、このような土地を非農業者が取得すると、集落の者らに迷惑を掛けることになることなどが、希望する理由である。

相手方一郎は、現物分割し、1次的に、相続人全員による全土地の共有取得を希望し、2次的に本件3、6の土地と4または7の土地の相手方春子との共有取得を希望している。特に、本件3の(1)の土地は、相続人らが幼少のころ被相続人と住んでいた土地で、馴染みが深く、本件6の土地は売却が容易と考えられるからというのが、その理由である。

相手方春子は、現物分割し、1次的に、相続人全員による全土地の共有取得を希望し、2次的に本件1、2、5、6の土地の相手方一郎との共有取得を希望している。特に、本件1の土地は、立地条件がよく、評価が高く、本件6の土地は売却が容易と考えられるからというのが、その理由である。

8  相続人らの生活状況

申立人は、住所地で、妻及び長男とともに、農業に従事し、本件土地を耕作したり、他家の委託による農作業をしたりして、生計を建てている。

相手方一郎は、住所地で会社員をしており、妻と二人暮らしである。

相手方春子は、住所地で二子とともに暮らし、カラオケ講師をし、生計を建てている。

なお、相手方らは、本件で土地を取得することになったときは、農業をする(春子)とか、自分で耕作する(一郎)とか、述べているが、現実性に乏しいものと考えられる(このように述べながらも、他方では、前記のように売却の容易な土地を希望している)。

9  当裁判所の定める分割方法

以上の事情を考慮し、次の方法により本件遺産を分割する。

(1)  本件1、2、5、6の土地を申立人の取得とする。

本件3、4、7の土地を相手方らの取得(共有持分はそれぞれ2分の1ずつ)とする。

そうすると、これによって取得した土地の価格は、次の通りとなる。

申立人 577万7000円

相手方ら 各269万0000円

(2)  (1)の取得額と前記6の取得額とを対比すれば、申立人の方が相手方らよりも各50万5000円ずつを過分に取得していることになるので、申立人は、相手方らに対し、その代償金をそれぞれ支払うべきである。

ところで、申立人は、本件遺産分割のため、前記のとおり抵当権設定登記の抹消登記を行っており、その費用として2万1800円を負担しているが、これは相続人ら全員が負担すべき共益費と考えられるので、その清算を併せて図るのが相当である。各相手方の負担額は、2万1800円の851万7000分の243万9000にあたる6000円(千円未満四捨五入)となる。これを、前記50万5000円から控除した49万9000円が、申立人が、相手方らに対し、それぞれ支払うべき代償金の額である。

10  手続費用について

鑑定費用115万円は、申立人が立替えているところ、これについては、受益の程度等を考慮して、主文3項のとおり負担させることとし、その余の手続費用は各自の負担とする。その結果、前記手続費用の償還として、相手方らは、申立人に対し、それぞれ34万5000円ずつを支払うべきである。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 増田耕兒)

別紙 遺産目録<省略>

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