大判例

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福井地方裁判所 事件番号不詳 決定

主文

本件証拠申請を却下する。

理由

一、検察官から、石川与左エ門の昭和四六年五月一日付司法警察員に対する供述調書を、同人の公判廷における証言の証明力を争う証拠として取調の請求があつたが、これに対し、弁護人は「右供述調書は、検察官が、それまでの公判審理の経過にかんがみ証人として石川与左エ門の取調請求が弁護人側からなされることを予想し、あらかじめ警察官に指示し、前記石川与左エ門の取調べをさせて作成したものであるが、このように、近い将来予想される弁護側証人を捜査権限を利用して予め取調べることを許容するならば、捜査権限を有しない弁護人との間に著しい不均衡を生ずるばかりでなく、もし、かかる証拠が弾劾書面として許容されるとすれば、検察官は、証人尋問の際、反対尋問権を行使して証言の証明力を弾劾する労を容易に省くことができ、さらに弁護人申請の証人に対し、無言の圧力を掛けることにもなりかねないのであつて、刑事訴訟法の当事者対等の原則に照らし採証が違法であるから、右証拠の取調は許されない。」旨主張した。

二、よつて、本件記録を検討すると、弁護人は、昭和四六年五月二〇日の第一二回公判期日において、石川与左エ門を証人として申請し、翌五月二七日の第一三回公判期日において右石川証人の取調が行われたが右取調終了直後、検察官から、右証人の司法警察員に対する昭和四六年五月一日付供述調書を刑事訴訟法三二八条の書面として取調の請求がなされたこと、右供述調書は同年四月三〇日の第一一回公判期日の翌日作成されたものであることが認められる。右の事実によれば、検察官は、第一一回公判において証人山口敏光の証言直後、にわかに石川与左エ門の取調の必要を生じ、警察官に指示して同人の取調をさせたこと及び検察官としては、結局同人を証人として請求する意思がなかつたことが推認できる。

ところで現行刑事訴訟法は、公判廷の審理に重点を置く公判中心主義を採つていることは明らかであるが一般に捜査機関が起訴後において、被告人以外の第三者を取調べたとしても、それをもつて直ちに違法であるとはいい難い。しかしながら、本件のように起訴後の公判審理の経過にかんがみ、弁護人から右の第三者を証人として取調の請求がなされることが予想される場合に、その者を検察官などの捜査機関が証人調前に取調べることは、逆に弁護人が、検察官申請の証人に対し、公判期日前に取調べて調書を作成することが事実上不可能であることに照しても公平を失するものであるといえる。したがつて、検察官としては、必要があれば自から進んでその者の証人調を裁判所に請求すべきであるが、あえて、それをしなかつた以上は、反対尋問の機会を適切に活用し証人の証言を弾劾するのが本則というべきであり、かつそれに止めるべきであろう。もし、証人がさきの供述調書と相矛盾した供述をしたとして直ちに、前記のような状況下で作成された供述調書を弾劾証拠となしうるというのでは検察官が、反対尋問における弾劾の労を省き、安易に、公判廷外の書面に依存して証言を弾劾するという弊害を生み、公判中心主義の精神及び当事者対等の原則から遠ざかることとなろう。

よつて、本件においては、検察官申請の供述調書の作成された当時の状況にかんがみこれを弁護人申請の証人石川与左エ門の供述に対する弾劾証拠として許容することは相当でないと解するので、検察官の証拠申請を却下することとし、主文のとおり決定する。

(橋本享典 安倍晴彦 栗栖康年)

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