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福井地方裁判所 平成8年(ワ)219号 判決 1997年3月28日

原告

原治平外五名

原告ら訴訟代理人弁護士

中島修三

田中史郎

被告

末定豊弘

右訴訟代理人弁護士

井田英彦

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  本件につき当裁判所が平成八年一〇月一日にした強制執行停止決定を取り消す。

四  本判決は、前項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告から原告らに対する福井地方裁判所平成七年ワ第一六八号建物収去土地明渡等請求事件の和解調書の執行力ある正本に基く別紙物件目録一及び二記載の各不動産に対する強制執行はこれを許さない。

第二  事案の概要

原告らと被告とを当事者とする福井地方裁判所平成七年ワ第一六八号建物収去土地明渡等請求事件において、平成七年一二月七日の口頭弁論期日において別紙和解調書のとおり裁判上の和解が成立したことは、当事者間に争いがない。

本件訴訟は、原告らが、右裁判上の和解が無効であるとして、その執行力の排除を申し立てたものであるが、無効原因として、原告らの代理人であった加藤禮一弁護士が特別授権を受けた和解権限を濫用し、原告らの同意を得ることなくして、相手方の利益を図るために、詐術的、背信的に成立させたものであり、公序良俗に反し、無権代理であるから無効であるという。

そして、原告らは、和解権限を授与された訴訟代理人弁護士が、依頼者の具体的な指示に反して和解を成立させた場合においては、訴訟上の和解が授権された権限を越え無効であるか否かを検討するに当たり、訴訟手続の安定及び紛争解決を信頼して行動した相手方(乙)の利益保護の要請と、依頼者(甲)の権利救済の要請との対立を調整する観点から検討する必要があると主張し、利益調整に当たっては、次の諸点を総合的に考慮すべきであると主張し、本件和解についてはいずれの点からみても依頼者(甲)を保護すべき場合であるとする。

1  訴訟上の和解に至る過程における乙の背信性(背信性)

2  訴訟上の和解成立に至るまでに、甲乙間で当該和解内容につき、甲が授権した弁護士からその利害得失につき受けた説明の内容及び程度(説明の欠如)

3  訴訟上の和解の内容が提示されてから成立に要した時間(拙速性)

4  訴訟上の和解成立に至るまでに、甲乙がそれぞれ授権した弁護士が攻撃防御を尽くした程度(成熟性)

5  甲が訴訟上の和解において譲歩した程度及び対象(互譲)

6  双方が十分に攻撃防御を尽くした場合に予想される判決の内容と、成立した訴訟上の和解の内容が食い違う程度(乖離性)

7  甲が成立した訴訟上の和解により質的・量的に受ける不利益、特に生活基盤を奪われるか否か(甲の不利益性)

8  乙が、成立した訴訟上の和解により受ける利益の程度(乙の利得性)

9  成立した訴訟上の和解により、甲乙間の紛争が抜本的に解決されるか或いは後日甲乙間に紛争を残すか否か(紛争解決基準としての安定性)

10  成立した訴訟上の和解が内容的に著しく不当であること(内容の不当性)

第三  当裁判所の判断

原告らの主張するところは、原告らの依頼した加藤弁護士が、和解権限を越え、あるいはこれを濫用して、原告らの意思に反した訴訟上の和解を成立させたというものである。

しかしながら、本件和解は訴訟物である土地賃貸借終了に基づく建物収去土地明渡と未払賃料、使用損害金の請求そのものについての和解であり、和解について特別授権された以上、訴訟代理人が訴訟物について和解する権限を有することはいうまでもない。よって、加藤弁護士に本件和解の内容の和解を成立させる権限があったことは明らかである。

そして、民事訴訟法八一条三項は、「訴訟代理権ハ之ヲ制限スルコトヲ得ス但シ弁護士ニ非サル訴訟代理人ニ付イテハ此ノ限ニ在ラス」と規定しているから、和解をするについて、依頼者が弁護士である訴訟代理人に対して和解の内容を一定の事項に限ったとしても、その効力は依頼者と訴訟代理人との間だけにとどまるのであって、裁判所及び相手方にまでは及ばず、訴訟上の和解の成立においてそのような制限は付さなかったものと扱われる。よって、訴訟代理人が依頼者の意思に沿わない内容の和解をしたとしても、訴訟上の和解の効力を左右するものではない。

原告らは、民事訴訟法八一条三項にも関わらず、訴訟代理人の権限濫用行為の故をもって訴訟上の和解を無効とすべき場合があるとして、種々の要素を挙げるが、いずれも依頼者が抱く主観的な利益もしくは感情、訴訟上の駆け引きを基にした評価にすぎず、客観的なものではない。権限濫用があると主張する場合には、大なり小なりそのような主張がなされることは容易に考えられるところであり、裁判上の和解が有する最終紛争解決機能を否定してまで、裁判上の和解を無効にすべき事情には当たらないし、そのようにすべき理論的な理由付けとしては不十分である。

裁判所の面前で、弁護士がその権限に基づいてした行為、しかも、本件和解の内容自体賃料不払の紛争についてよくなされる解決策であるが、そのような和解を成立させたことが、公序良俗に反すると断ずることはできず、右主張が理由がないことは明らかであり、和解成立の経過について審理するまでもない。

当裁判所は、原告らの主張を採用しない。

以上によれば、原告らの本訴請求は理由がないから、棄却する。

(裁判官野田武明)

別紙物件目録<省略>

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