福井地方裁判所 昭和33年(行)8号 判決 1960年3月30日
福井市花月上町一〇七番地
原告
谷口惺雄
同所
原告
谷口淳子
福井市佐柱枝中町五四番地
被告
福井税務署長
内藤薫
右指定代理人
栗本義之助
同
林倫正
同
鈴木伝治
同
早川奎
同
佐野三郎兵衛
同
中川国男
同
野村三郎
右当事者間の昭和三三年(行)第八号贈与税決定取消請求事件について当裁判所は次の通り判決する。
主文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の連帯負担とする。
事実
原告谷口惺雄は「被告が、原告に対し昭和三二年四月二〇日付で為した贈与税額を金一〇六、二五〇円、無申告加算税額を金一〇、六〇〇円とする賦課決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、原告谷口淳子は、「被告が原告に対し昭和三三年一〇月三〇日付で為した贈与税額を金八三、〇〇〇円、無申告加算税額を金二、三〇〇円減額し金八、三〇〇円とする旨の賦課更正決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、原告等は、その請求原因として、「原告両名は共同して昭和三一年一一月六日訴外伊藤猪勢吉から同人の所有に係る福井市花月上町一〇七番地所在の土地及び家屋を金一、三三〇、〇〇〇円で買受けたが被告は右購入資金中、金一〇〇、〇〇〇円は原告谷口淳子の預金から支出したことを認めたが、残額金一、二三〇、〇〇〇円は原告等が他から贈与を受けたものと認定し、原告両名に対し、前記の如き贈与税及無申告加算税を課した。しかし乍ら、右一、三三〇、〇〇〇円中実際に原告等が訴外谷口由松から贈与を受けたのは金二三〇、〇〇〇円にとどまり、金八〇〇、〇〇〇円は原告両名が訴外山田清から昭和三一年一一月五日貸与を受けたものであり残金三〇〇、〇〇〇円は原告等の所持金であつた。従つて、被告の前記認定は真実に反するので右認定に基き為された原告両名に対する前記各決定は不当であるからこれが取消を求める。」と述べ、立証として甲第一号証乃至第六号証、第七号証の一乃至五、第八号証、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証の一、二、第一二号証、第一三号証を提出し、証人山田清の証言を援用し、乙第一一号証の一、二成立のみを認め、その余の各乙号証の成立は不知と述べた。
被告各指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として「原告等がその主張の頃、その主張の土地・建物を、その主張の金額で買受けたこと、被告は右、不動産購入資金に関し、原告等主張の如き認定を為し、その主張の如き贈与税及無申告加算税を賦課したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。即ち右購入資金一、三三〇、〇〇〇円の中、金八〇〇、〇〇〇円は本件課税決定後、原告等が訴外山田清と通謀して為した架空の債務であり、結局右購入資金の中金一、二三〇、〇〇〇円は原告等の父訴外谷口四郎右エ門及祖父谷口由松の金員であつて原告等が本件不動産を購入するに際し原告等に贈与されたものである。従つて被告の課税決定は正当である。」と述べ、立証として乙第一号証乃至第五号証、第六号証の一乃至三、第七号証乃至第一一号証を提出し、証人大谷利隆、松田積造、代継瀬録の各証言を援用し、甲第一号証、第五号証、第七号証の一乃至五、第八号証の成立はいづれも不知、その余の各甲号証の成立は認めると述べた。
理由
原告両名が共同して、その主張の頃、その主張の土地・家屋をその主張の価格で買い受けたこと、被告は右購入資金中金一〇〇、〇〇〇円は原告谷口淳子の預金から充当されたが、その余の金員は他から贈与を受けたものと認定し、原告両名に対しその主張のような贈与税及無申告加算税を課したことはいずれも当事者間に争いがない。
原告両名は右不動産購入資金金一、三三〇、〇〇〇円の中金八〇〇、〇〇〇円は同人等が訴外山田清から借受けたものであり、又金三〇〇、〇〇〇円は原告等の預金からまかなわれたものであると主張するのでこの点について判断する。
先ず、右金八〇〇、〇〇〇円についてみるに、証人山田清の証言及び同証言により真正に成立したと認められる甲第一号証には同人が昭和三一年一一月五日原告等に対し金八〇〇、〇〇〇円を貸与したかの如き記載があるけれども、他方公文書であるから真正に成立したと認められる乙第一号証乃至第五号証、第六号証の一乃至三、第七号証を綜合すると、訴外山田清は、昭和三〇年頃から従前営んで来た電気器具商の営業成績がとみに悪化したので、転業して再起をはかるべく、居住家屋、在庫商品を他に転売してその準備を為していたこと、同人はそれ迄、原告等の父谷口四郎右エ門に取引のこと等で相談したことはあつたが、原告等とは取引上も私生活上もさして深い関係になかつたこと、それにもかゝわらず、右金員貸与に際し、確実な担保もとらず(本件家屋に対し原告と訴外山田清間に売買契約の仮登記が為されたのは、前示甲第一号の日時である昭和三一年一一月五日より遙か後日である昭和三二年五月であることが成立に争いない甲第一一号証の一により明白である。)弁済期限到来後も強硬に返済を請求した形跡がないこと、しかも右金八〇〇、〇〇〇円は訴外山田清の当時の手持金からまかなわれたものか、或は同人の取引先に対する債権を回収してまかなわれたものか、その出所が明きらかでないことが認められるが、右各事実からすれば、前記の証人山田清の証言及甲第一号証の内容は到底措信し難く、結局同人が前期日時に原告等に対し右金八〇〇、〇〇〇円を貸与した事実を認めることは困難である。
よつてこの点に関する原告の主張は採用できない。
次いで金三〇〇、〇〇〇円についてみるに、その内金一〇〇、〇〇〇円が原告谷口淳子の預金であつたことは当事者間に争いがないが残額金二〇〇、〇〇〇円は成立に争いのない甲第九号証によれば、昭和三一年七月七日原告谷口惺雄名義の福井銀行普通預金口座から金三五〇、〇〇〇円が払戻されていることがわかるけれども、他方公文書であるから真正に成立したと認められる乙第一〇号証、第一一号証に照して考えると訴外伊藤猪勢吉は本件土地、家屋の売買代金を昭和三一年九月以降三回に亘り分割して受け取つたこと、原告等の母訴外谷口静枝は昭和三一年七月七日、福井市城ノ橋上町一三番地外一三筆上の建物について訴外笠川薫から所有権移転登記を受け同日同人に対し現金で金三〇〇、〇〇〇円を支払つた事実が窺われるので、前記普通預金口座から払戻された金員が本件土地家屋の購入代金に充当されたかは極めて疑わしく此の点に関し、他に原告等の主張を認めるに足る証拠もない。
更に残額金二三〇、〇〇〇円は原告等が訴外谷口由松から贈与を受けたことは原告等の認めるところである。
なお、公文書であるから特段の事情のない限り真正に成立したと認められる乙第一号証、第二号証、証人松田積造、代継瀬録の証言を綜合すると前記合計金一、〇〇〇、〇〇〇円も右金二三〇、〇〇〇円と同様訴外谷口由松又は谷口四郎右エ門から贈与されたものと推定される。
してみると合計金一、二三〇、〇〇〇円は原告等が贈与を受けたものであるとの被告の認定を覆えすに足りる何等の証拠もないから原告等の本訴請求はいずれも失当であつて、棄却を免れない。よつて訴訟費用について行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 神谷敏夫 裁判官 川村フク子 裁判官可知鶴平は差し支えのため署名捺印することができない。裁判長裁判官 神谷敏夫)