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福井地方裁判所 昭和34年(ワ)33号 判決 1963年7月19日

原告 公文名和久野土地改良区

被告 伊原一三 外二九名

主文

本件各訴は、いずれも、これを却下する。

訴訟費用は、いずれも、原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立。

原告訴訟代理人は「被告らは、いずれも原告に対し別紙目録のうち、請求金額欄記載の各金員、および、右目録甲、乙、丙各欄記載の各内金に対し、各該当欄記載の起算日から、右完済にいたるまで、それぞれ金一〇〇円につき一日金四銭の割合による金員を各支払え。訴訟費用はいずれも被告らの負担とする。」旨の判決を求め、

被告ら訴訟代理人は「原告の請求は、いずれもこれを棄却する。訴訟費用は、いずれも原告の負担とする。」旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張。

(原告の主張)。

原告訴訟代理人は、請求の原因及び、被告の主張に対する答弁並びに、抗弁として、次のとおり述べた。

請求原因。

一、原告は、昭和三〇年九月二六日、土地改良法にもとずき福井県知事の認可を受けたうえ設立されたところの土地改良区であり、そして、被告らは、いずれも原告の組合員である。

二、ところで、昭和三二年七月二一日の原告第二回通常総会の決議にもとづいて通常経費のほかに、その事業目的のための諸経費――組合員が土地改良区域内に所有していたところの従前の土地のうち、非災害地については一反歩当り金一三、二〇〇円、災害地については同じく金一九、八〇〇円の割合による金員――を附加し、被告らに対し別表(一)(二)記載の計算により算出されたところの各被告欄記載の各該当金員を、それぞれ納付期限を定めて賦課した。しかるに、被告らはいずれもその賦課金を支払わないので、原告は被告らに対し、前記賦課金および、これに対する過怠金――土地改良法第三七条および、原告土地改良区の定款にしたがい賦課金の滞納の日数に応じ賦課金一〇〇円につき一日金四銭の割合――の各支払を求めるため本訴請求におよんだ。

(被告らの主張に答えて)。

被告ら主張のように、前記総会には訴外村中一郎ら七名の組合員に代つて、その同居の家族が、代理人として出席していたことはこれを認める。けれども、つぎのとおり同居家族の者による代理出席が適法なものである以上、前記総会を構成するのに必要な定足数を欠いていたことにはならないから、前記総会の手続には、被告ら主張のようなかしはないものというべく、したがつて、前記の決議は有効に成立したものである。

すなわち、

当地方には、従来から慣習として同一世帯の同居家族の者が本人に代つて部落会などに代理出席することがあり、そのときには、本人からの委任状を持参することのあるなしにかかわらず家族員は、本人のいわゆる包括的代理人として取り扱われてきており、かかる慣習は公序良俗に反しないものであつて、民法第九二条に則り有効なものである。だからこそ、前記総会において原告は、組合員本人たる右村中らの代理人として出席したところのその同居家族に対して、真実の代理権の授与があつたことを認めて、彼らに議決権の行使を許容したものである。

(被告らの主張)。

被告ら訴訟代理人は、答弁および、抗弁として、つぎのとおり述べた。

原告主張の請求原因事実のうち、被告らが原告土地改良区の組合員であるということ、および、原告主張のような賦課処分のあつたということは、いずれもこれを認める。けれども、原告の賦課金請求はつぎの理由によつて失当である。

すなわち、

原告主張の第二回通常総会は、総会構成のための法定定足数をかいたものであるから、該総会の決議は無効である。これを詳言すると、

原告の第二回通常総会議事録によれば、昭和三二年七月二一日敦賀市櫛林所在の栗野公民館において、現在総組合員数一一〇名のうち過半数の組合員に当たる六〇名――実出席者三八名と委任状による出席者二二名――が出席したうえで、原告の第二回通常総会が開催せられ、そこで、それぞれの議案が附議せられ、いずれも、賛成多数を以つて議決成立せられたというようになつている。

ところが、右議事録のうえで、実出席者となつている村中一郎、藤田長四郎、伊原力治郎、福光初二、稲垣粂五郎、嘉満浤二、伊原音蔵の七名と、委任出席者となつている生水たみ、板谷芳太郎は、いずれも、原告のいうように当該総会には出席したことがないのである。そうすると、該総会は、総会構成のための定足数にみたない五一名で開催せられたことになつて、総会は有効に成立してないのであるから、該総会における決議も、また、無効といわなければならないのである。もつとも、前記欠席者のうち、村中一郎に代つて妻のいし、藤田長四郎に代つて息子の嫁のたつえ、伊原力治郎に代つて養子の大音輝雄、福光初二に代つて父の初太郎、稲垣粂五郎に代つて妻のミサコ、嘉満浤二に代つて息子の稔、伊原音蔵に代つて息子の幸太郎が、いずれも、右総会に出席はしているけれども、同人らは、土地改良法第三一条所定の委任状を持参のうえで出席したものではない。したがつて、同人らを目して適法な代理出席者として取扱うことはできない。そのことから、また、生水たみが藤田長四郎を、板谷芳太郎が伊原力治郎を代理人として取扱われる筋合でないこともあきらかである。

第三、証拠<省略>

理由

まず、職権をもつて本訴における訴の利益について検討すると、本訴原告は土地改良法にもとずいて設立された土地改良区なる法人であるところ、かゝる土地改良区が、その経費にあてるために組合員に対してする金銭等の賦課行為は、その効果からいえば、私法上の財産関係に変更を加えるものであり、したがつて、これに関する争訟は、結局、広義の財産権に干する争訟というべきではあろう。けれども、当該争訟の一方の当事者である土地改良区は、当該地区内にある土地について、土地改良法第三条所定の土地所有者および耕作者らを、その者の意思にかかわらず組合員とし、かつ、また、金銭などを賦課するときの根拠となつているところの定款の作成とか、変更も、組合員全員の意思にもとずくものではないということからみると、その賦課金は土地改良組合が、公権力の主体として組合員に命令し、強制しうる性質のものであつて、土地改良組合の組合員に対する賦課行為は、実定法上、行政処分の性質を有するものであることがあきらかである。

しかし、土地改良区が公権力の主体として、その組合員に対しておこなうところの金銭などの賦課処分は行政処分に外ならないのであるから、当該賦課行為――行政処分――に、取消、または、変更のないかぎり、組合員は、一応、その賦課行為に拘束されるということになり、したがつて、組合員は、賦課された金銭などを給付すべき公法上の義務を負うのである。それにもかかわらず、もし組合員において義務の履行を怠つている場合には、土地改良区は、土地改良法第三八条、第三九条の規定するところにしたがつて、その組合員の居住する市町村に、その――賦課金の――徴収を委任することができる。他方、右のような土地改良区からの委任を受けたところの市町村は、地方税の滞納処分の例による処分、すなわち、差押、公売などにより賦課金債権を確保することができるし、また、市町村において右の手続を怠つている場合には、土地改良区は、都道府県知事の認可をうけたうえで、土地改良区みずからが、地方税の滞納処分の例によつて、差押、公売手続をすすめてその賦課金を徴収することができるのである。

前叙のように、土地改良組合は、その組合員に対してもつところの賦課金債権について、実定法のうえで、行政上の強制徴収の権能を認められているのである。

したがつて、このような強制権能を有する行政主体自身が、裁判所に対し行政上の債権の確定、および、その強制履行を求めるために訴を提起することは、あきらかに、その訴の利益を欠くものといわなければならない。

そして、原告の本件各訴が、右のような賦課処分にもとずくところの賦課金債権を請求するものであるということは、その主張自体に徴してあきらかであるから、本件各訴は、不適法なものとして却下を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤文雄 服部正明 重村和男)

(別紙目録および別表(一)、(二)省略)

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