福井地方裁判所 昭和40年(ヨ)88号 決定 1965年6月26日
申請人 福井放送労働組合
被申請人 福井放送株式会社
主文
被申請人は、申請人が平和的且秩序ある方法により真摯な態度をもつてする団体交渉を申入れて来たときは、誠意をもつてこれに応じ本件紛争を解決するために必要な事項についての団体交渉を拒否してはならない。
申請費用は被申請人の負担とする。
(注、無保証)
理由
一、最初に、団交を拒否してはならない旨の仮処分を申請できるのかどうかにつき判断するに、憲法第二八条は労働者が団結し使用者と団交をする権利を保障し、これを受けて労働組合法第六条は労働組合の代表者が使用者と交渉する権限を有することを明らかにし、同法第七条第二号は使用者が雇用する労働者の代表者と団交することを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止している。そしてその違反に対しては同法第二七条において訴の提起を含む救済手段を定めているのである。右各法条に照せば、労働組合の誠意ある団交の申入れに対して使用者が正当の理由なく応じないことは、法の認容しないところであること明らかである。換言すれば、使用者は誠実に団交に応ずべき義務を負うており、その反面として労働組合は使用者に対し団交に応ずべきことを請求する権利を有するといつてさしつかえないであろう(このことは労働関係調整法第二条、第四条からも窺うことができる。)。そして右請求権は給付訴訟の訴訟物となることを妨げないものと解する。また労働組合が使用者の不当な団交拒否によつて損害を蒙つたときは、使用者に対しその賠償を請求する権利があることはいうまでもない。
そうとすれば、使用者に対し団交に応ずべきことを求める本件仮処分申請は許されるものと解すべきである。
二、本件疎明によれば
被申請人(以下会社とよぶ。)はラジオ、テレビ放送業を営む株式会社であり、申請人(以下組合とよぶ。)は右会社の従業員が組織する労働組合であるが、両者は昭和四〇年三月頃から待遇改善等をめぐつて労働争議に入つた。そして組合の団交申入れに対し会社が拒否したこともあつたが、五月一三日までは一応団交が開かれていた。然るに会社は、同月一六日午後一一時頃社屋入口附近にバリケードを築き、当時社屋内に居た若干名を除く組合員全員に対し自宅で待機する様に命じ就労を拒否するに至つた。そして同月末から六月初めにかけて四〇名余の組合員に対しては就労拒否を解いたが、なお四名を解雇、二〇名余を出勤停止の処分に附した。これに対し右四〇名余の組合員はストライキに入つた。この間、団交は五月一三日を最後として全くなされていない即ち組合の十数回にわたる団交申入れに対して、会社は交渉委員の都合を理由として数回拒否し、また同月二六日いずれ会社から連絡する旨回答したままで今日に至つている。
との事実を一応認めることができ、これを左右するに足りる疎明はない。
三、そこで会社が団交を拒否する正当な理由があるかどうかを判断しよう。まず会社は、「組合の団交申入れとその指定日時間には殆ど余猶がなく準備もできない実情であつて、到底誠意ある団交申入れとは考えられない。」と主張する。本件疎明によると、組合の団交申入れには日時を指定しなかつたものもないではないが大部分は当日午後或は翌日を指定していることが認められる。しかしながら組合の団交申入れは殆ど連日の様になされていることが認められるので、会社としては最初のうちはともかく後になつては近く団交申入れのあるべきことを予想できた状況にあつた筈である。従つて交渉内容について準備ができないというのは当らないと思う。けれどもさし迫つた団交申入れに対し交渉委員の都合がつかないことは十分考えられるし、会社が数回これを理由に拒否したことも認められる。そもそも団交を設けるにあたつては当事者双方が連絡しあつて適当な日時を決める様に努めるべきであるが、本件では組合も会社もこの点で欠けるところがあつたといわなければなるまい。すなわち組合は日時を一方的に指定するばかりで、予め会社とこの点につき連絡した事実は窺われないし、会社も日時のさしつかえを理由に交渉を拒否するなら単に拒否するばかりでなく進んで組合と連絡をとることを期待されてよいが、その様な事情の疎明はないのである。この様に考えてくると、会社主張の右理由は団交を拒否する正当な理由とはなし難いという外はない。
会社はまた「組合は誠意をもつて団交する意思は全くない。団交の際は人数の制限を申入れても無制限にくり出し、団交の席上では会社並びに会社側職制の批難攻撃をくり返し、会社専務に対し暴言をあびせかけ、会社側から発言しようとすれば一せいに退場する始末である。」とも主張する。本件疎明によると今までに開かれた団交、就中四月一五日や五月一三日の団交において、組合側は数十名出席し、やや行きすぎた粗暴な言動も見られ、また自己の要求が完徹しない以上いかなる妥協にも応じないといつた生硬な態度に走り勝ちであつたことが一応認められる。これに対し会社も、一たん協約を締結しておきながら数日後にはその撤回を主張するなどやや無責任なところが見受けられる。これを要するに今までの団交は組合も会社も誠意をもつてこれにあたつていたとはいい難い。従つて会社の主張も必ずしも一理なしとはしないがそれのみをもつて団交を全面的に拒否するのは妥当とは云えない。組合が人員を適当に制限し、決して喧噪にわたらず真摯な態度で団交に臨むときには、会社も亦誠意をもつてこれに応じ、一日も早く本件紛争を解決し正常にして且平和なる労使の関係を確立するよう極力努力すべきである。
四、次に本件仮処分の必要性につきこれを見るに、本件疎明によると組合員等は既に一ケ月以上も職場を離れたままの状態で会社に対し団交を要求していることが認められ、もし今後も団交の機会のないまま期日を徒過するときには組合及び組合員等において有形無形の甚しい損失を蒙るであろうことが十分に予測できる。右の如き事態を一日でも早く解決する為には何よりもまず会社と組合が交渉する機会をもち、双方が誠意をもつて話合うことが先決であることはいうまでもなく、当事者間に仮の法律関係を定める必要があることは言を俟たない。
五、以上の通りであるから本件申請は理由があるものと認められ且その申請は申請の趣旨並びに疎明に照し、主文掲記の仮処分によりその目的を達することができるものと考えられる。依て申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り決定する。
(裁判官 後藤文雄 高津建蔵 春日民雄)