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福井地方裁判所 昭和43年(ワ)47号 判決 1968年4月08日

主文

被告等は各自原告に対し、金一二萬円およびこれに対する昭和四二年七月五日から完済にいたるまで日歩九銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は、主文第一、二項と同趣旨の判決及び仮執行の宣言を求め別紙(一)記載のとおり請求原因を陳述し、被告会社及び被告木村が、抗弁の要旨と題して陳述した別紙(二)記載の主張に対し、「同被告等が右一の項に記載した事実については、債務を完済したとの点は否認するが、その余の同項記載の事実は認める。同二および三の項に記載した事実は知らない。同四の項に記載された事実は否認する。」と答えた。

証拠(省略)

被告斉川は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求めたが、原告の請求原因事実及び甲号各証の成立は、その全部を認めた。

被告会社及び被告木村は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「請求原因一の項に記載した事実は、これを認めるが、その他の請求原因事実はすべて否認する。」と答え、なお、抗弁の要旨と題し、別紙(二)記載のとおり陳述した。

証拠(省略)

理由

被告斉川においてその成立を認め、被告会社及び被告木村において振出人名下の署名押印部分を認める甲第二号証に本件弁論の全趣旨を綜合すれば、請求原因三及び四の項に記載された事実、本件手形が形式上その手形要件を具備し、原告にいたるまでの裏書が形式的に連続する事実、振出人名下の署名捺印が真正になされた事実をともに認めるに充分である。もつとも、被告会社及び被告木村は、本件には、その主張のような事実があつて、原告主張の約束手形は被告会社代表者木村千敏が福井市内において紛失したものであるから、被告会社において、振出地及び受取人白地のまま、本件手形を作成したことは事実であるが、被告会社が右手形を被告斉川に対しては勿論、他の何人に対しても交付した事実はないと抗争する。しかしながら、結論からさきに述べるならば、本件の全証拠によるも右被告等主張の事実を認め得ないから右被告らの前記主張は、これを採用するに由ない。もつとも、前掲甲第二号証に添付された符箋によれば、本件手形の不渡事由は紛失手形であることをその理由とするものであることが認められ、且つまた原告において不知をもつて答えた乙第一号証によれば、高原なる者が手形を割つて使つた旨の木村宛の記載があるが、これらをもつてしては、未だ、右被告らの主張を認めさせるに足りないというべきところ、本件においてはその全証拠によるも、他に右手形振出について特段の事由の存することを認め得ないから、右被告らの前記主張は、これを採用しない。

しかして、原告が本件手形を現に所持していることについては、また弁論の全趣旨によつて明らかであるから、しからば、右被告等の前記の主張を認めるに由ない本件においては、原告は、被告会社及び被告斉川に対して本件手形上の権利を行使し得るというべきである。

ところで、請求原因一の項に記載された事実は、当事者間に争いがないから、してみれば、被告会社は、右手形の振出人として、被告斉川は、その裏書人として、また被告木村は、請求原因一の項に記載した連帯保証人として、各自原告に対し、金一二萬円及びこれに対する本件手形呈示の日である昭和四二年七月五日から完済にいたるまで約定の日歩九銭の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるといわざるを得ない。

よつて、原告の本訴請求は、すべてこれを認容し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条、第九三条第一項を、仮執行宣言については、同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

別紙(一)

請求原因

一 原告は、昭和四一年一〇月一三日、被告木村、同斉川をその連帯保証人として、被告会社との間に、被告会社は、被告会社の振出、裏書した手形で原告が将来取得したものに対しては、その手形債務不履行の場合、右手形金とこれに対する不履行後完済にいたるまで日歩九銭の割合による損害金を原告に支払う旨の手形取引契約を結んだ。

二 しかして、原告は、右契約に基づき、振出人を被告会社、受取人を被告斉川、金額を金一二萬円、振出地支払地をともに福井市、満期を昭和四二年七月四日、支払場所を福井銀行呉服町支店、振出日を同年六月四日、第一裏書人を被告斉川とした約束手形一通を取得した。

三 そこで、原告は、右手形を昭和四二年七月五日支払のため支払場所に呈示したが、その支払を拒絶された。

四 なお、本件被告斉川の裏書については、同被告は、支払拒絶証書の作成義務を免除している。

五 よつて、原告は、被告等に対し、被告等において、各自原告に対し、右手形金一二萬円とこれに対する右手形呈示の日である昭和四二年七月五日から完済まで約定の日歩九銭の割合による遅延損害金の支払をなすべきことを求めるため、本訴請求におよんだ。

別紙(二)

抗弁の要旨

一 被告木村千敏は、昭和四一年一〇月頃相場にこり、その資金工面のため同被告は、代表取締役の職に在つた被告株式会社日毛洋服店の名義で訴外斉川義雄の仲介により、原告から原告主張のような手形取引約定書を差入れて手形貸付を受けた。しかしその債務は既に完済しておりその他に何等の債務も負担していない。

二 ところで、原告が請求原因第二項に記載した約束手形は、被告株式会社日毛洋服店が訴外斉川義雄に振出したものではない。右被告会社の代表取締役である被告木村が、昭和四二年六月中旬ごろ、番号   、額面金一二萬円也、支払期日昭和四二年七月四日、支払地福井市、支払場所株式会社福井銀行呉服町支店、振出日昭和四二年六月四日、振出人福井市乾徳町一丁目一二一二株式会社日毛洋服店代表取締役木村千敏、振出地名宛人いずれも記載なしの約束手形一通を背広上衣のポケツトにいれて福井市内を所用で出歩いていた際何処かで紛失したのである。それで被告会社は右手形を無効にするため昭和四二年七月二五日福井簡易裁判所へ、公示催告並に除権判決の申立を為し、該事件は目下継続中である。

三 ところが、最近被告木村の知人である福井市松本二丁目桜アパート内高原定海が、同被告の背広上衣ポケツトにあつた前記手形を盗み、之を訴外斉川又は原告方において割引したものとみられる事実が明るみとなつた。

いずれにしても右手形は無効である。

四 原告はかかる不法な事情にある手形を調査もせず如何にも有効であるとして、之も債務完済して既に効力のなくなつている手形取引約定書を所持していることを奇貨とし、之に基く手形取引によるもので被告等に支払責任あるとして為す本訴請求は全く不当である。

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