福井地方裁判所 昭和44年(行ウ)3号 判決 1973年4月27日
原告 岡本百合子
被告 小浜税務署長
訴訟代理人 辻肇 外四名
主文
一、被告が原告に対し昭和四四年一月二三日付でなした昭和三九年および昭和四〇年分贈与税ならびに加算税の賦課課税処分は、いずれもこれを取消す。
一、訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
一、原告
主文第一項と同旨の判決
二、被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二、請求の原因
一、被告は原告に対し、昭和四四年一月二三日付贈与税決定通知書、加算税賦課通知書
(イ) 第四一〇号(昭和四〇年分)により贈与税金一一五、〇〇〇円、無申告加算税金一一、五〇〇円
(ロ) 第四一一号(昭和三九年分)により贈与税金四八〇、〇〇〇円、無申告加算税金四八、〇〇〇円
の賦課決定をした。
二、右決定は、これを要するに、原告が昭和三九年に金一、八〇〇、〇〇〇円、昭和四〇年に金三〇〇、〇〇〇円、合計金二、一〇〇、〇〇〇円の贈与を受けたこと、しかもその申告をしなかつたので無申告加算税を加算して納付すべき旨を決定通知したものである。
三、原告は右決定に不服で被告に対し昭和四四年二月一九日受付書面で異議申立したが、被告は同年三月一八日棄却する旨の決定をしたので、更に金沢国税局長に対し同年四月四日付で審査請求をしたところ、国税局長は同年八月一四日付で棄却の裁決をなし、原告は同月二一日これを受領した。
四、然し、被告のなした前記決定はいずれも失当で取消されるべきものである。即ち
原告は若狭商事有限会社に対し
(一) 昭和三七年七月一七日 金一五〇、〇〇〇円
(二) 同年五月四日 金一五〇、〇〇〇円
(三) 昭和三九年三月一〇日 金五〇〇、〇〇〇円
(四) 同年四月一日 金五〇〇、〇〇〇円
(五) 同年六月一日 金五〇〇、〇〇〇円
(六) 同年六月二三日 金三〇〇、〇〇〇円
(七) 昭和四〇年三年一九日 金三〇〇、〇〇〇円
右合計金二、四〇〇、〇〇〇円を貸付けたが、原告はこれらの金員を実父訴外藤野常治郎から贈与されたのではない。実父常治郎は古くから貸金業を営み農業に従事せず、実母は病弱で農業家事も十分できない状態であつたが、原告は昭和二〇年夫が戦死した後実家に戻り、以来父の経営する農業に従事し家事を手伝つてきたのであるが、その間に父から右労務の対価として貰つた金があり、右金員の一部を前記の如く若狭商事有限会社に貸付けたのである(尤も、貰つたというのは、父から現実に現金を受取つたというのでは無く、その都度占有改定により父に右金員を預託し、その後父が原告を代理して前記日時にそれぞれ右金員の一部ずつを若狭商事有限会社に貸付けたのである)。
五、そこで、原告は約二〇年の労働を全く無視しその間一厘も取得できないとする被告の主張に到底承服できないので本訴請求に及んだ。
第三、答弁
一、請求原因第一、二、三項の事実は認める。
二、被告税務署長は原告の実父藤野常治郎が代表者である若狭商事有限会社(訴外会社)の経理関係を調査したところ、同会社
備付帳簿に昭和三七年より昭和四〇年までの間に原告からの借入金として合計金二、四〇〇、〇〇〇円が計上されていたので、右借入金を調査したところ、右金員は原告が父常治郎より
(イ) 昭和三七年五月四日 金一五〇、〇〇〇円
(ロ) 同年七月一七日 金一五〇、〇〇〇円
(ハ) 昭和三九年三月一〇日 金五〇〇、〇〇〇円
(ニ) 同年四月一日 金五〇〇、〇〇〇円
(ホ) 同日 金五〇〇、〇〇〇円
(ヘ) 同年六月二三日 金三〇〇、〇〇〇円
(ト) 昭和四〇年三月一九日 金三〇〇、〇〇〇円
の贈与を受けて、貸付けしたものであることが判明したので、被告は右貸付金発生のときに原告は常治郎から右金員の贈与を受けたものであると認定した。
原告は訴外会社に対する前記貸付資金につき、父常治郎の農業および家事に従事した労務の対価として得たものであると主張しているが、本件課税処分の審査の際係官に対しなした原告の供述内容ならびに当時常治郎は農業所得等の申告に当り原告を自己の扶養親族として控除していること、原告と常治郎とは生計を一にし相互に協力扶助する間柄にありこれらの者の間で労務に対して報酬の授受がなされることは我国家族制度の習俗上まことに不自然であることに鑑み到底承認できないものである。
三、尚、被告は原告に対し決定した税額計算に誤りのあることを発見したので、昭和四五年二月二〇日付で原告に対し昭和三九年分贈与税金四六五、〇〇〇円、無申告加算税金四六、五〇〇円、昭和四〇年分贈与税金一五、〇〇〇円、無申告加算税金一、五〇〇円と更正および税額変更決定をなし原告に告知した。
第四、証拠<省略>
理由
一、請求原因一、二、三項の事実は当事者間に争いがない。
二、そこで本件各課税処分の基本となつた贈与について検討する。
被告の主張によると、訴外若狭商事有限会社の帳簿を調査したところ、答弁三(イ)乃至(ト)のとおりの日時金額で原告からの借入金の記載があり、さらに調査の上、原告に右貸付のときに父藤野常治郎より各貸付金の贈与を受けたものであると認定したというのである。
<証拠省略>によると、
訴外若狭商事有限会社の帳簿上貸主を原告名義とする請求原因四の(一)乃至(七)の借入金記載のあること(したがつて、被告主張の前記(ホ)借入金日時は誤りで昭和三九年六月一日と訂正されるべきである)ことが認められる。
そこで、原告名義の右貸付金が真実原告の貸付金であり、かつ、右貸付のとき原告が父藤野常治郎から右貸付資金の贈与を受けたものといえるか否かについて、審按するに、<証拠省略>によれば、
前記貸付金はいずれも原告の父藤野常治郎が、同人が代表取締役として経営していた、若狭商事有限会社に交付貸付けたものであり、いずれも原告の知らない間にされているもので、貸金証書はすべて右訴外会社の金庫に保管されて原告に呈示交付されたことはなく、利息金の授受、処分も全く藤野常治郎が自由に運用していたばかりでなく、原告は訴外会社の経営とは無関係で出入りもせず、父常治郎とは別居し同人所有の農地等の農耕に従事し同人に経済上扶養されていたものであること、が認められる。
他方、原告は「昭和二〇年以来父藤野常治郎の農業に従事したその労務に対する対価として前記合計金二、四〇〇、〇〇〇円を受領し、これを父に預託していたもので、前記貸金はいずれも原告の既に取得していた右金員を訴外会社に貸付けたに過ぎない」旨主張しているのであるけれども、<証拠省略>およびさきに認定した前記貸付の態様ならびに弁論の全趣旨にてらし、原告の右主張は肯認することができず、右認定に反する<証拠省略>、原告本人尋問の結果は措置できない。
以上認定の事実を総合して考察すると、右認定の貸付は藤野常治郎が、その内心の意向はとも角としても、同人所有の金銭を原告名義を使用して訴外会社に貸付けたものと認めるのを相当とし、したがつて右貸付のときに原告が父藤野常治郎から貸付資金の贈与を受けたものであると認定してなした本件課税処分は贈与行為の存在しないのに賦課したもので、前提を欠く違法な処分といわなければならない。
三、よつて、原告の本訴請求は、更に税額の計算に論及するまでも無く、結局これを認容しなければならないことに帰着するので、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 山内茂克 西岡宣兄 孕石孟則)