福井地方裁判所 昭和55年(ワ)282号
原告
小沢勝昭
右訴訟代理人弁護士
八十島幹二
同
吉川嘉和
同
吉村悟
被告
京福タクシー株式会社
右代表者代表取締役
織田義雄
右訴訟代理人弁護士
堤敏恭
主文
一 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
二 被告は、原告に対し、金二三六万一四七一円及びこれに対する昭和五五年一一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告に対し、昭和五五年一〇月以降毎月二五日限り、各金二二万三一五七円を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は被告の負担とする。
六 この判決は、第二、第三、第五項にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一、第三、第五項と同旨
2 被告は、原告に対し、金二八六万一四七一円及びこれに対する昭和五五年一一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 主文第一項を除き仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、福井市内において一般乗用旅客自動車運送業(タクシー業)を営む会社(以下被告会社ともいう)であり、原告は、昭和五二年六月一六日に、タクシー運転手として被告会社に雇用され、試用期間を経て、同年八月二日に本採用となった者である。
2 被告会社は、原告が昭和五五年六月二六日午後一一時三〇分ころ、配車係からキャバレー「夢の国」への配車を受け、同所へ赴いたところ、客がキャンセルし、出戻料として金五〇〇円を受け取ったが、原告はこれを日報に記載せず、不正に着服したとして、右事実が就業規則、服務規定、労働協約に抵触するものであるとの理由で、同年七月四日、原告に対し、同年六月三〇日付をもって懲戒解雇する旨の意思表示(以下本件解雇という)をした。なお、その後、右解雇は、同年七月一日付と変更された。
3 本件解雇に至る経緯は次のとおりである。
(一) 被告会社では、昭和五五年六月二七、二八日の両日、従業員を二班に分けて富山県宇奈月温泉で慰安会を行なった。
(二) このため、慰安会時の特別の勤務割が組まれ、原告は、右両日の四八時間中三八時間勤務とされたが、車庫入れ後の納金、洗車等の時間を加えると四〇時間をこえる勤務となり、しかも通常の約半数の一二、三台で仕事をするため約五割増の仕事となり勤務二日目の同月二六日深夜一一時三〇分ころは疲労が極度に達していた時間帯であった。なお、同僚の運転手の中にも、この勤務割による睡眠不足から、運転中にうとうとしてセンターラインを割ったとか、前方を人影が横切る幻覚におそわれた等の訴えが続出した。
(三) 原告は、疲労が極度に達した同月二六日午後一一時三〇分ころ、キャバレー「夢の国」に配車手配を受け、到着してみると、タクシーを呼んだ客がいなくなってしまったとのことで、ホステスがおわびにと金五〇〇円を出してきた。このような場合、出迎え料と基本料金を加えた額(原告の乗車する小型車の場合は、合計金四一〇円)を出戻料として受けることと一応定められているが、顧客に対するサービスと業者間競争のために、これを運転手から請求することはなく、客が好意で支払った場合にのみ、客の出した金額だけを受領するのが通常であり、客からこれを受領しなくても会社との間で何ら問題は生じない。そのため、原告は、右の金五〇〇円をいったん辞退したが、ホステスがさらに促したため、これを受領して自車に戻った。
(四) ところが、当時、「夢の国」付近の駅前南通りは、道路工事中で片側通行となっており、非常に混雑していたため、停車中の原告車両を後続車がクラクションでさかんにせかせていた。このため、原告は、車を早く発進させることにのみ気を奪われ、前記のとおり疲労していたこともあって、出戻料を運転日報に記帳しないまま発進して出戻りであったことを会社に連絡して次の配車手配を受けたまま、右出戻料の記帳を忘れてしまった。
(五) 原告は、勤務終了後、運転日報記載の売上金を被告会社に納金して帰宅したのであるが、出戻料の記載漏れに気づかなかったため、その納金も忘れることとなった。
(六) 原告のこのようなミスは、被告会社が、制度上、納金時に売上金を明確にチェックできる仕組みをとっていれば防止できたが、現在の被告会社の仕組みでは、記載漏れの出戻料をチェックすることができない。すなわち、被告会社では、釣銭をすべて運転手個人の所持金の中から用意させ、売上はメーターと運転日報に基づいて納金させる制度となっており、勤務中に釣銭が不足すれば、運転手が個人の小銭を加えなければならず、また客が釣銭分を運転手に対する心付にあてることも日常茶飯時であるから、売上金と個人の金銭とは混同して区別がつかない。売上金中、メーターに現われる乗車料金については、被告会社側でメーターをチェックし、運転手の記載漏れ、入金不足を発見した時は、日報の記載の訂正と追加支払が認められているが、出戻料については運転手自身にも日報の記帳漏れをチェックする方法がない。このミスを防止するには、被告会社側が十分な釣銭を用意して運転手個人の持金との混同を避け、また配車手続の後に出戻りか否か及び出戻料受領の有無を無線で確認し配車係が記帳する等の制度が考えられるが、被告会社は、いずれの方法も採用していない。このような被告会社の納金の仕組みもあって、原告は、納金時にも出戻料の記載漏れに気づかず、出戻料のことをまったく失念してしまった。
(七) 原告は、同月三〇日午前一一時ころ、被告会社の安居支配人から呼ばれ出戻料のことを尋ねられたが即座に思い出せず、当夜の模様を聞かされ、考えた末にようやく思い出したため、当日の多忙、過労の状態、道路が工事中で他車両にせきたてられて出戻料の記載を失念した前記事情を説明して卒直に謝罪した。さらに、原告は、顛末書を提出して釈明する等円満解決に努力したが、被告会社は本件解雇を強行した。
4 ところで、被告会社の就業規則は、反則行為に対する処分として、行為の軽重、改悛の情の有無その他の情状の良否に応じて、解雇から譴責、さらに懲戒免除までの選択権限を被告会社に与えているが、処分の選択は反則行為との権衡を失してはならないと解されるところ、前記本件の経緯、すなわち、本件が原告の過労と道路混雑という悪条件の末、わずか金五〇〇円の記載を忘れたという軽微な事件であって、納金時に原告が気づかなかったのは被告会社の納金の仕組みによるものであること等に加えて、原告が日頃勤務態度も真面目で客の評判の良い優秀な運転手であること、昭和五四年には、被告会社の麻生津営業所を火災から守り、社長から激賞されたこと、本件の納金ミスに対しても卒直に自己の非を認め、謝罪のうえ返金を申し出、正直かつ真摯な態度で一貫していること等の情状を考慮すると、被告会社が、本件について最も重い懲戒解雇をもってのぞんだことは、明らかに行為との権衡を失し、懲戒裁量権の逸脱、解雇権の濫用にあたる。
5 また本件解雇は、以下の事実から明らかなように、被告会社が、労働組合運動に熱心で従業員の信頼もあつい原告を嫌忌したことが真の理由であり、その動機が不当であるから、この点からも本件解雇は解雇権の濫用である。すなわち、
(一) 原告は、北陸コンクリート株式会社に勤務していたころ、同会社労働組合書記長、副委員長、執行委員等組合役員を一二年間務め、さらにセメント労連中央委員、福井県勤労者学習協議会理事など全国的労働組合組織の役員や労働組合労働者教育機関の役員まで務めた豊富な経験と高度の組合理論をもった労働組合活動家である。
(二) 原告は、被告会社に就職後、京観交通労働組合に加入し、労働組合が直面する問題あるいは組合員の労働条件に関する重大な問題について職場集会において多くの提言をなし、これをリードしてきたのである。
まず、原告は、それまで被告会社の年次有給休暇の補償は固定給だけであったので歩合給部分も含めて補償がなされるべきであることを要求した。
また、昭和五四年に発生した麻生津営業所の角田運転手の懲戒解雇事件に際して、福井共同法律事務所を紹介し、同事務所の弁護士から京福労組を介して被告会社の安居支配人と交渉して懲戒解雇を通常解雇にかえさせた。
さらに、原告は、昭和五三年七月一一日に開催された京観交通労働組合第五回定期大会で京福タクシー支部西岡支部長、東執行委員から特別の依頼があり、当日は勤務の日であったにもかかわらず、会社に依頼して休暇をとり、大会議長をつとめた。
次に、昭和五五年、被告会社の労働者にとって労働条件に関する重大な問題があらわれた。すなわち、福井口及び花月の二箇所の営業所を問屋団地に統合するとともに、福井口にあった本社を問屋団地に移転するという本社移転営業所統合問題である。福井口と花月の二箇所の営業所で福井市内を二つに分割して稼働してきた運転手たちは、営業所の統合によって各人の水揚げがどのような影響を受けるかという労働条件に関する重大な不安をいだいた。
ところが、被告会社は、一般組合員に対し、実施直前までこれをかくしたうえ、公表後はたった一回の職場集会で説明を打ち切り、労働者の十分な納得のないまま移転統合を強行しようとした。
これに対し、原告は、署名運動によって職場集会を求めるという民主的な方針を提案し、その中心となって活動した。
(三) 被告会社は、安居支配人になってから、労働者を理由もなく解雇する等労働者に対する締めつけを強めていたが、被告会社を批判し続ける原告を嫌忌し、昭和五四年夏の組合の執行委員補欠選挙の際には役員選考委員会の委員に対し、「小沢だけは出さないでくれ」と圧力をかけ、また本社移転問題から組合の中に幹部批判が起きた昭和五五年六月ころには、安居支配人が職場内で「(組合幹部批判の)文書を書いたのは小沢と違うか。小沢は共産党の弁護士とつながっている」等とことさら発言し、原告に「アカ」のレッテルを貼り組合員を分裂させようとした。
(四) 原告の属する京観交通労働組合は、本件直後の昭和五五年七月に役員改選が予定されており、職場内では原告を役員に推す声も強かった。
このような背景の中で、前記のように懲戒裁量権を逸脱してなされた本件解雇は、原告の労働組合活動を嫌忌した被告会社が、軽微な記帳ミスを口実にして原告を被告会社から放逐しようとする不当な動機によってなされたことを示し、これを疑う余地がない。さらに、原告が「夢の国」で出戻料を受領したころ、安居支配人らも「夢の国」にいたこと等の事情からすると、本件出戻料の事件は、被告会社により仕組まれた疑いすらある。
6 以上のとおり、本件解雇は被告会社の懲戒裁量権の逸脱、解雇権の濫用であるから無効であるにもかかわらず、被告会社はこれを有効だとして争っている。
7 給与等
(一) 原告は、本件解雇直前の三か月を平均すると、月額金二二万三一五七円の給与を被告会社から支給されていた。
(二) 被告会社の給与支給日は毎月二五日である。
(三) 被告会社は、昭和五五年七月一〇日に夏期賞与を支給したが、被告会社と労働組合間の協定によれば、原告に支給されるべき賞与は、金一九万二〇〇〇円である。
8 前記のとおり、本件解雇は、解雇の合理的理由がなく無効であるのに、被告会社が、これを知りながら、又は少なくとも知りうべきであるのに調査、検討を怠った過失により強行したものであって、かかる解雇は不法行為に該当する。
9 原告は右不法行為により次の損害を被った。
(一) 慰謝料 金一〇〇万円
原告は、被告会社において売上は常に上位にあり、客受けもよい優良な運転手で前記のとおり営業所を火災から守るため身を挺する等誠心誠意被告会社に尽くしたにもかかわらず、本件解雇により被告会社の本心をまのあたりにして著しい精神的苦痛を受けるとともに、収入の道を断たれ、男手一つで養ってきた老母と四人の子の将来の生活に対する不安に苛まれ、老母も心痛のあまり健康を害するに至った。
本件解雇による原告の精神的損害を償うには、金一〇〇万円が必要である。
(二) 弁護士費用 金一〇〇万円
原告は、本件解雇により、本訴代理人弁護士らに対し、地位保全等仮処分申請事件、本訴請求事件、不当労働行為救済申立事件の提起及び追行を委任せざるを得なかった。これにより弁護士らに支払う費用は、訴訟物の価額、事件の難易度、被告会社の態度等からして金一〇〇万円が相当であり、右は本件解雇と相当因果関係のある損害である。
よって、原告は、被告に対し、雇用契約上の地位を有することの確認並びに昭和五五年七月分から同年九月分までの賃金、同年七月支給の賞与の合計金八六万一四七一円と不法行為による損害賠償金二〇〇万円及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五五年一一月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに昭和五五年一〇月以降毎月二五日限り各月の給与として月額金二二万三一五七円の各支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の各事実は認める。
2(一) 同3の事実中、(一)の事実は認める。
(二) 同3(二)の事実は争う。
被告会社の業務は毎年六月が閑散期にあたるので毎年この時期に慰安会を行なっているが、そのための特別ダイヤは、従業員の属する労働組合のダイヤ委員が主体となり、組合員の総意による自主ダイヤを作成して被告会社に提出し、被告会社は労働省のタクシー運転手の勤務指導要領に抵触しないか吟味したうえ、右の自主ダイヤを採択することとしている。このようにして組まれた昭和五五年の原告の勤務割は、
六月二四日 全休
六月二五日 午前一〇時から翌二六日午前一時まで勤務
六月二六日 午後一時から翌二七日午前八時三〇分まで勤務
となっており、出戻料の受領は六月二六日午後一一時三〇分ころの出来事である。したがって、同日、原告は勤務明けから勤務に就くまで一二時間の休養があり、本件は、就労後一〇時間余りの出来事であるから、原告に不摂生等のことがなければ決して無理な勤務ではない。しかも、前記のとおり、このダイヤは組合のダイヤ委員が作成し、原告もこれに同意しているのであるから、これをもって被告会社を非難することはできない。また、他の運転手から原告主張のような苦情が出た事実はない。
(三) 同3(三)の事実は認める。
(四) 同3(四)、(五)の事実中、原告が運転日報に出戻料の記載をしなかった事実及びその納金をしなかった事実は認め、その余は争う。
当時、駅前南通りの道路は、福井市の下水道工事が行なわれていたが、「夢の国」に至る部分では、そのころ、すでに工事が完了し、残材が若干路端に置かれていた程度のものであったにすぎない。そのうえ、原告の車両は「夢の国」前の路地に駐車していたのであって、移動しなければ、その路地に進入しようとする車両が進入できないだけで、駅前南通りを往来する車両の妨げとなる状況ではなかったのであるから、原告が主張のようにあわてることは考えられない。
また出戻りの場合には、他の運転手より優先して配車手配を受ける特権が与えられているが、原告は、車両を発進させた後、配車センターへ出戻りを報告し、まもなく受けた配車指令を難なく処理してその旨直ちに記帳している。原告が主張のように疲労していたなら、このような特権を行使する意欲は起こらなかったはずである。
さらに、原告の当日の運転日報によれば、出戻料以外は克明に記録され、しかも被告会社が何ら指示教育していないのに、記録を五回ごとに小計して勤務終了時における総集計の便を図っていることからしても、原告は勤務終了時に至るまで、体調的にも時間的にも十分な余裕があったことが窺われる。
右の状況からすれば、出戻料の運転日報への記帳は何時でも何処でも可能であったのに、原告自身主張するような、押問答の末受領したという強い印象の残る出戻料の記載を忘れるということは考えられず、原告提出の陳述書(<証拠略>)をみても、原告は、これをチップと同視し、当初から自己の所得とする意思であったと判断するほかない。
(五) 同3(六)の事実は争う。
運転手が、食事等個人的所要のための所持金を懐中することは当然であるから、被告会社は、個人的所持金と運収との混同を避けるべく運転手全員に納金袋を貸与し、これに運収及び釣銭用の小銭を収納せしめ、個人的所持金との混同を防止する手段を講じている。
(六) 同3(七)の事実中、支配人が原告を呼出し、糾明の末、懲戒解雇した事実は認めるが、その余は争う。
3 同4の事実中、被告会社の就業規則中に主張のような裁量規定の存すること、昭和五四年に麻生津営業所付近の火災の際、消火活動等に努めたことで原告を表彰したことは認めるが、その余は争う。
タクシー業は、利用者から支払を受ける運賃収入によってのみ維持、経営されており、これ以外に収益の途はなく、しかも一回金三五〇円から金五〇〇円程の僅かな収入が積み重なって企業が成り立つのであるから、運賃収入の不正は金一〇〇円であっても経営者にとっては極めて重大な問題であると同時に、このような運賃収入は、運転手と利用者との間で授受せられ、経営者は直接これに関与しないから、とりわけメーターに現われない貸切運賃や出戻料については、運転手の自主的な申告、正確な運転日報を信頼するほかはなく、このような信頼関係なくして成り立たない。このように、運賃収入の不正は、額の大小に拘らずタクシー業にとっての致命的重大事であるから被告会社は出戻料についても指示教育しているのであって、これに反する不正行為は厳重な処分によるほかない。
なお、原告は、真面目で優秀な運転手と主張するが、後記「被告の主張」記載の非違がある。
4 同5の各事実は否認する。
原告は、所属する労働組合の執行委員に選ばれたこともなく、執行部にも属せず、もとより被告会社と対立するような組合運動の実績もないから、被告会社がこれに報復するなど到底考えられない。
なお、本社移転後も、福井口及び花月の営業所はそのまま存置し、利用者の便を図っている。
5 同6の事実は認める。本件解雇は有効であると考える。
6 同7の各事実は争わない。
7 同8、9の事実はいずれも否認する。
三 被告の主張
原告は、昭和五四年一月一九日、夫と口論のうえ家を飛び出した人妻をモテルに連れ込み、同所で同女と何時間か過ごしたため、これを知った同女の夫が原告に強硬に抗議したところ、原告は、その抗議の経過は録音してあり、その内容は恐喝にあたるものだと逆襲して、これをうやむやにしようとした。
この事実は、この件に関係した第三者にも知れ、その結果、被告会社の信用と名誉を著しく傷つけたこと及び人妻と何時間かを過ごし、職場を放棄したことは、いずれも被告会社就業規則七四条の懲戒事由に該当する。
よって、被告会社は、本訴において、原告の解雇事由に右の事実も追加する。
なお、右追加事実は、本件解雇後に被告会社が覚知するに至ったものであるが、解雇の際にその理由を告知することは必ずしも解雇の要件とは解し難く、また解雇の際に明示された理由のみから解雇の当否を判断すべき根拠はないから、客観的に解雇当時存在した事実であれば、訴訟上主張することを妨げないと解すべきである。もっとも、被告会社では労働協約二七条において解雇の手続を規定しているが、本件の場合のように、組合も同意した本件解雇がなされ、組合が原告のビラ配布を非難し、本件解雇と同日付で原告を組合から除籍するに至っては、その後に判明した事実につき組合との間で所定の手続を履む途がなく、組合の右対応からすれば、その必要性もないというべきであるから、労働協約所定の手続による必要のない特段の事情がある。
四 被告の主張に対する原告の反論
1 追加主張する事実は否認する。
2 被告が追加主張する事実は、本件解雇の理由とされた事実とまったく別個の事実であり、かつ被告会社の労働協約所定の懲戒委員会の審議も経ず、原告に何ら弁解の機会を与えていない事実であるから、本訴において右事実を追加主張することは許されないと解すべきである。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因1、2、6の各事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件解雇の意思表示の効力について判断する。
(証拠略)並びに当事者間に争いのない事実を総合すると、以下の各事実が認められる。
1 被告会社では毎年六月に従業員の慰安会を催しているが、昭和五五年は、六月二五、二六日と同月二七、二八日に従業員を二班に分けてこれを行なった。このため、この期間は通常とは違った特別の勤務ダイヤが編成されたが、この特別ダイヤ編成は、被告会社の従業員が所属する労働組合のダイヤ委員会が、組合員の同意を得て原案を作成して被告会社に提出し、被告会社がこれを検討し、法令等に違反しないことを確認して決定する例とされており、昭和五五年もこの例により編成された。これによれば、右期間中の原告の勤務時間は、同月二四日の全休の後、
同月二五日 午前一〇時から翌二六日午前一時まで勤務
同月二六日 午後一時から翌二七日午前八時三〇分まで勤務
とされていた。
労働省労働基準局の「自動車運転者の労働時間等の改善基準」によれば、タクシー運転者の場合、始業時刻から始まる一日の最大拘束時間は、時間外労働を含め一六時間と定められており、被告会社においても、通常のダイヤでは一六時間の勤務の後は次の勤務まで三〇時間を確保しているが、右の特別ダイヤにおける原告の勤務は、右基準の最大拘束時間を上回り、またその間の休養時間は通常のそれを大幅に下回るものであったのに拘らず、被告会社は、組合が作成してきたダイヤであるし、年に一度の慰安会のためのものであるからとくに問題はないと考え右特別ダイヤを実施した。
ところで、右特別ダイヤの勤務時間の外に、実際には、出庫前の始業点検及び入庫後の運転日報の記入等にそれぞれ約三〇分を要し、また、この期間は稼働車両が少ないため、被告会社は運転手に対し、できるだけ早く出勤するよう要請していた。そこで、原告は同月二五日午前八時前ころ出勤し、同八時すぎころ出庫して翌二六日午前一時過ぎころ入庫し同二時ころ退社するまで約一八時間勤務した後、自家用車で約三〇分かけていったん自宅に帰って睡眠をとり、再び同日午前一一時三〇分ころ出勤し、同正午ころ出庫してから翌二七日午前八時ころ入庫して同九時ころ退社するまで約二一時間三〇分勤務した。
2 原告は、右特別ダイヤによる勤務中の同月二六日午後一一時ころ、被告会社の配車係から、福井市中央一丁目所在のニュータウンビル四階のキャバレー「夢の国」への配車を受け同所へ向かったが、当時、ニュータウンビルに至る駅前南通りは、融雪工事等のため片側通行になっており、この駅前南通りとニュータウンビル前の路地との間には鉄板が敷かれ車両が一台ずつしか通行できない状況であった。そして、この路地は行き止まりになっているため、原告は、駅前南通りから車両を後進させて鉄板を渡り、右路地に進入してニュータウンビル前で停止し、「夢の国」に赴いたところ、同店のホステスが、配車を依頼した客がすでに帰ってしまった旨述べて、原告に現金五〇〇円を手渡そうとした。原告は、いったんこれを辞退したものの、ホステスがさらに申しわけない旨述べて原告にこれを押しつけたため、結局、原告は、右金五〇〇円をホステスから受領して路地に停車中の車両に戻り、被告会社の配車係に対して出戻りになった旨連絡した。
このように、タクシーが出戻りになった場合、配車を依頼した者が運転手に対して損料を支払うことがあり、右損料は出戻料と呼ばれている。右出戻料は、基本料金(本件当時の原告車両では金三五〇円)と出迎え料金(同金六〇円)との合計金額(同金四一〇円)とされ、これが被告会社の収入となるべきものであり、これをこえる部分は、運転手に対するチップと考えられているが、タクシーを呼んだ客がいなくなりこの支払いを受けられない場合もあり、また被告会社としても、得意先や客へのサービス、世評などを考慮して、運転手にこれを厳格に徴収させることを義務づけていないものの、受領した以上は運賃収入に属するものであり、とりわけ、タクシーのメーターに表示されない収入であるから、出戻料を受領したときは、運転手は、これを運転日報に逐一正確に記入することが義務づけられていた。
ところで、原告が、「夢の国」から停車中の自己の車両に戻った際、駅前南通りから、原告の車両が停車している路地へ進入しようとするタクシーがあり、これがクラクションを鳴らして原告の車両に対し早く路地から出るよう原告に催促したため、原告は、これに気を奪われ、運転日報に受領した出戻料の記入をしないまま直ちに発進し、そのまま右出戻料の受領を失念してしまった。原告は、その後まもなく次の配車指示を受け、これらの処理については運転日報に正確に記入したものの、当日の特別ダイヤによる勤務の疲労もあって、失念した出戻料について思い出すことなく勤務を終えた。
3 被告会社では、運転手個人の所持金と運賃収入の混同を防止するため、各運転手に納金袋を貸与しているが、実際にはこれを使用しない運転手も多く、被告会社は運転手各自の方法に干渉しておらず、また釣銭は運転手各自に用意させているため、運転手個人の所持金と運賃収入の混同は避けられない。そこで、運転手は、被告会社への納金の段階で、メーターの表示と運転日報の記載とをもとに運賃収入を計算して納金している。原告も他の運転手と同様に自己の所持金と運賃収入とをことさら区別せずに勤務しており、右勤務終了後も、通常のように右の計算により算出した運賃収入を納金した。
ところが、前記のとおり、出戻料はメーターに表われない収入であるから、運転日報の記載を忘れると、被告会社はもとより、運転手自身にも自己の記憶のほか確認の方法がない。他県のタクシー会社には、出戻りがあった際に、メーターを一回倒すなどの方法を採用し、記帳を忘れても、納金の際にメーターによって確認すれば、納金の誤りを防止できる制度のところもあるが、被告会社ではこのような方法を採用していない。このため、出戻料の記入を忘れた原告は、納金計算の段階においても、出戻料の記入漏れを自ら確認することができず、右出戻料を失念したままメーターと運転日報の記入により算出した運賃収入を被告会社に納金した結果、出戻料相当額の納金もれを生じた。
なお原告は当日の運転日報に本件出戻料の記載を忘れたほかは、正確に記載しており、かつ五回ごとに小計して納金集計の際の便宜をはかっていた。
4 同月三〇日午前一一時ころ、原告は、被告会社の安居支配人から呼び出され、出戻料のことを尋ねられたが、即座には思い出せず、右支配人や副長から当夜の模様を聞かされてようやく思い出したため、当日は被告会社の慰安会で稼働車両が少なくて忙しく、また特別ダイヤによる勤務で過労状態であったこと、道路が工事中で混雑し、他の車両からせきたてられたこと等の事情を説明して、出戻料の記帳を忘れた旨申し立てて謝罪した。
また原告は、ただちに受領した金五〇〇円を被告会社に提出する旨申し入れ、寛大な処分を請う内容の顛末書を提出した。
これに対し、被告会社は、原告の右弁解を信用せず、原告が受領した出戻料を故意に領得したものと断定し、右は被告会社就業規則に規定する懲戒事由に該当するとして、被告会社労働協約に基づき、懲戒委員会を招集し、同年七月二、三日の両日に右委員会において協議がなされた。右協議においては、組合側委員から本件の処分として懲戒解雇は厳しすぎる旨の意見が出されたが、被告会社側は、運賃収入の不正は額の多寡に拘らず会社にとって重大な問題であるから、本人が辞表を提出するなら格別、そうでない以上、懲戒解雇をするほかないと主張し、結局右委員会では、同月一日付で原告を懲戒解雇処分とすることが決定された。
これに基づき、被告会社は、原告を同月一日付で懲戒解雇処分とした(当初、同年六月三〇日付の懲戒解雇とされたが、のちに同年七月一日付に訂正された)。
以上の事実が認められる。
三 右に関し、被告は、原告が本件出戻料を運転日報に記帳しなかったのは、過失でなく、原告の故意によるものである旨主張する。
前記各証拠によれば、原告は当日の運転日報に本件出戻料以外の収入を正確に記載し、かつ五回ごとに小計して納金集計の際の便宜をはかっており、几帳面な記載がされていたこと、また、出戻りであったことを配車係に連絡してまもなく次の配車指示を受けてこれを処理していること、原告が停車した場所が、駅前南通りそのものでなく、「夢の国」前の路地であること等の事実は前記認定のとおりであるが、これら被告指摘の事実を総合しても、原告が本件出戻料を故意に運転日報に記帳せず、領得したものと認めることはできない。
また、被告は、原告は出戻料をチップと同じように考えていたからもともと記帳する意思がなかった旨主張し、「チップと同じように扱っているのが普通です。他社の運転手に聞いてもそのように言っています」と記載のある原告名義の陳述書(<証拠略>)の存在を指摘する。
しかし、右は、原告が本件解雇の処分が厳しいことを主張するために、出戻料収入が会社にとって不確実なものであり、出戻料とチップとの限界も不明確であることを強調したものにすぎないとみるべきであり、これをもって、原告が本件出戻料の記帳を故意に怠ったことの根拠とすることはできない。
以上の認定判断によれば、本件は過失による記帳ミスと認めるのが相当である。
四 ところで、(証拠略)によると、被告会社は、服務規定において
職員は現金及び物品の取扱いは厳正に行ない、日報、帳簿等の証拠書類との照合は確実にして責任をもってその出納・保管をしなければならない(一〇条)。
乗客の乗車回数毎に日報に所要事項を記入し、其の日の勤務時間が終了したなら、之を整理して現金未収金の別を明示して営業所長に納金報告をしなければならない。この場合現金の過不足はありのままに報告しなければならない(一〇〇条)。
と規定し、就業規則七四条は、被告会社が従業員を懲戒できる事由として、
営業日報(運転日報)を正確に記入せず又納金を会社の規律指示に従わないとき(一四号)。
会社の諸規則、令達、指示に従はず、職務上の義務に違反し、又はこれを怠ったとき(二一号)。
と規定していることが認められる。そして、(証拠略)によれば、タクシー業は利用者から支払を受ける零細な運賃収入の積み重ねによってその経営が成り立っていることが認められるから、右のように被告会社が運賃収入に関し厳格な規定をおき、その反則を懲戒事由とすることには合理的な理由があるものと認めることができる。
したがって、原告が出戻料の記帳、納金を怠った行為は、被告会社服務規定の一〇条、一〇〇条に反し、就業規則七四条一四号、二一号の懲戒事由に該当するから、被告会社が必要と認めた場合には原告を懲戒することができるものといわなければならない。
五 そこで、懲戒処分としてなされた本件解雇の当否につき判断するに、(証拠略)によると、被告会社は、懲戒の手続について、就業規則において、その七五条で、懲戒は戒告、譴責、減給、停職、解雇の五種類とし、その軽重により処分する旨定め、同規則七三条は、反則が軽微で情状酌量の余地があるか、又は改悛の情が顕著であると認められるときは懲戒を免じ、或は処分を軽減することがあると規定していることが認められ、右各規定によれば、被告会社は、従業員に懲戒事由がある場合に懲戒をなすか否か、またいかなる内容の懲戒処分を選択するかの裁量権を有するものと認められるが、右選択にあたっては、反則行為と処分との権衡を著しく失する処分を選択することはできないものと解するのが合理的であり、とくに従業員たる地位を失わせるに至る解雇処分を選択する場合には、反則行為の軽重や情状事実等右就業規則に規定する事項を慎重に検討してこれを選択しなければならないと解すべきであるところ、前記認定のとおり、原告の反則行為は、被告会社の慰安会期間中の特別ダイヤによる勤務の疲労、「夢の国」前からの発進時に他の車両からせきたてられたこと、自己所持金と運賃収入が混同されやすい状況にあったこと等の事情が重なり過失による出戻料の記帳もれが、納金もれに至ったものであること、右の出戻料として被告会社に納金すべき金額も金四一〇円であること、原告は、安居支配人から指摘され記帳ミスを思い出すと直ちに謝罪し、受領していた金五〇〇円全額を返還する旨申し出たことが認められ、また、(証拠略)及び当事者間に争いのない事実によれば、原告は、被告会社において、タクシー運転手七六名中、平均一〇ないし一五、六位の売上成績をあげ、これまでに同様のミスをしたことはなく、昭和五四年には、被告会社の麻生津営業所付近で発生した火災の際に、同営業所を火災から守ったとして、被告会社から感謝状を受けた事実が認められる。右のような反則行為の経緯及び内容、その結果会社の受けた損害の程度、反則行為後の原告の態度及び原告の日頃の勤務状況等を総合して検討すれば、原告の本件反則行為に対し、被告会社が懲戒解雇処分を選択したことは、著しく権衡を欠く重い処分を選択したものといわざるをえず、右選択の誤りは懲戒裁量権を逸脱するものと認めるのが相当である。
そうすると、本件解雇は、右の裁量権を逸脱した懲戒処分によるものであるから、解雇としての効力を生じないものというべきである。
六 被告会社は、本訴において、本件解雇の際に懲戒事由として示されていない事実(「被告の主張」欄記載)が懲戒事由に該当するとして解雇事由を追加主張する。
右の追加事由は、本件解雇の理由とされた懲戒事由とはまったく別個の事由であることは主張自体から明らかであるところ、(証拠略)によれば、被告会社の労働協約二七条は、会社が、懲戒事由がある者を懲戒解雇しようとするときは、懲戒委員会を設置して組合と協議のうえ決定する旨定めていることが認められ、本件解雇に際しても、その解雇の理由とされた出戻料の件に関し右手続が履践されたことは前記認定のとおりである。しかしながら、本件全証拠によるも、右の手続中で、追加事由として主張される事実が協議の対象となったことも、またこれとは別個に右追加事由について被告会社が組合に対して協議を申し入れたことも認めることができない。
解雇の適否の判断にあたっては、必ずしも解雇の際に明示された解雇事由に厳格に拘束されると解する必要はないが、本件のように、解雇権の適正な行使を担保するために、労働協約において一定の手続が定められている場合に、この手続を経ずして解雇事由を追加主張できるのは、追加主張の事実が、解雇の際に表示され協議の対象とされた解雇事由と密接に関連し、その前提をなし又はこれと一連の事実をなすと認められるなど別個の協議をなす必要性が極めて乏しい場合や会社から協議を申し出たのに拘らず組合側が明示でこれを拒絶して協議ができないなどの特段の事情が認められる場合であることを要し、そうでないときは、追加事由についても労働協約所定の手続を経ないかぎり解雇事由として追加主張することは許されないと解するのが相当であり、本件については、右のような特段の事情を認めることはできない。
なお、被告の指摘する組合の態度に関する書証(<証拠略>)は、本件解雇が適正かつ公正な手続でなされた旨の記載があるが、これをもってしても、組合が追加事由に関する協議を拒んでいるとは認められず、また被告会社が組合に協議を申し入れたことも認められないのは前記のとおりである。
そうすると、本訴における被告主張の解雇事由の追加は許されないものというべきである。
よって、被告の追加主張は採用しない。
以上の判断によれば、被告の原告に対する本件解雇の意思表示は、その余の解雇無効原因の主張につき判断するまでもなく、解雇権の濫用として、その効力を有しないものというほかないから、原告は被告に対し雇用契約上の地位を有するというべきである。
七 請求原因7の事実は当事者間に争いがなく、その算出方法も相当と認められる。
そして、原告は、被告に対し、雇用契約上の権利を有することは前認定のとおりであるから、被告は、原告に右給与等の支払をなすべき義務がある。
八 前記認定事実によれば、本件解雇は、被告会社が、原告が出戻料の運転日報への記載を怠ったことを原告の故意によるものと判断したことに基づくものと認められるが、その根拠が乏しいことは前示のとおりであって、被告会社が慎重に客観的な判断をしようとしたなら、原告の故意と断定することが極めて困難であることが容易に認識できたものといわざるをえず、それにも拘らず故意と断定した結果、懲戒処分の選択を誤り最も重い懲戒解雇処分を選択するに至ったものであるから、右の判断の誤りにより本件解雇に至ったことは、被告会社の過失によるものであると認められる。
そうすると、被告会社は、原告に対し、右不法行為により生じた損害を賠償すべき義務がある。
なお、原告は、本件解雇の真の理由は、被告会社が原告の労働組合活動を嫌忌した点にあるとして、この点も不法行為の内容として主張する。
(証拠略)を総合すると、原告は、もと北陸コンクリート株式会社に勤務していた当時、同会社労働組合の書記長、副委員長、執行委員等の組合役員を一二年間務めたほか、セメント労連中央委員、福井県勤労者学習協議会理事などを歴任し、労働組合運動の経験を有するものであること、被告会社に入社後、京観交通労働組合に加入し、原告が主張するような組合員としての活動をし、職場内には原告を組合の次期執行委員候補として推す声があったことが認められる。
しかしながら、被告会社が原告の右労働組合の活動を嫌忌し、このような原告を被告会社から排除することを目的として本件解雇が行なわれたとの原告の主張に符合する(証拠略)中の原告本人の供述部分はにわかに措信しがたく、ほかにこれを認めるに足る証拠はない。
したがって、右の主張事実を不法行為の内容として考慮することはできない。
九 右によれば、被告は、原告の被った損害を賠償すべき義務があるところ、本件解雇に至る経緯、原告の勤務状況等の前記認定事実及び被告会社の過失の程度その他本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すると、本件不法行為に対する原告の慰謝料は金一〇〇万円とするのが相当である。
また本件解雇に関し、原告が、原告訴訟代理人らに対し、本訴の提起、地位保全等仮処分の申請、不当労働行為救済の申立を依頼したことは当裁判所に顕著であり、本件事案の内容、訴訟の経緯等諸般の事情を総合考慮すると、本件不法行為と相当困果関係のある損害としての弁護士費用は金五〇万円と認めるのが相当である。
一〇 以上のとおりであって、本件解雇は無効であるから、原告は、被告に対し、雇用契約上の権利を有するものと認められ、右に基づく請求として昭和五五年七、八、九月分の給与合計金六六万九四七一円と同年七月に支給の賞与金一九万二〇〇〇円との合計金八六万一四七一円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である同年一一月四日以降右支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金並びに同年一〇月分以降毎月二五日限り給与月額金二二万三一五七円の支払を求める点はすべて理由があり、また本件解雇に関する不法行為による損害として慰謝料及び弁護士費用の賠償を求める点は、金一五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である同年一一月四日以降右支払済みに至るまで年五分の割合の遅延損害金を求める限度で理由がある。
よって、右の限度で原告の請求を認容し、その余の部分については理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条但書、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高橋爽一郎 裁判官 中村直文 裁判官 石井忠雄)