大判例

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福井地方裁判所 昭和59年(ヨ)35号

債権者

稗田貴美子

右代理人弁護士

八十島幹二

吉川嘉和

吉村悟

債務者

社会福祉法人福井県福祉事業団

右代表者理事

中川平太夫

右代理人弁護士

金井和夫

主文

一  債権者が債務者に対し労働契約上の権利を有することを仮に確認する。

二  債権者のその余の申請を却下する。

三  申請費用はこれを二分しその一を債権者の、その余を債務者の負担とする。

理由

一  仮の地位の確認を求める点について

双方提出の疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者が退職願を提出するに至ったのは、当時債務者側では債権者を懲戒解雇する意思がなかったのにそうしなければ自分は懲戒解雇され退職金等の受給ができなくなるものと誤信したことによるもので錯誤に基づくものと一応認められ、右動機は債務者において覚知していたものと認められる。また債務者側の態度を併せ考えるならば、債権者において右錯誤に陥るにつき重大な過失があったものと断定することもできない。

なお債務者は退職願の提出から二週間以内にその承認がなされた本件退職手続につき雇用契約の合意解約である旨主張するが、本件疎明によれば債務者は債権者の退職願を承認するまでの間に、債権者に退職の意思がないことを覚知しえたものと一応認められるから右主張は採用できず、本件退職は手続的にも疑問が残る。

そうすると債権者が債務者に対し仮の地位の確認を求める点は一応理由がありその必要も認められる。

二  賃金の仮払いを求める点について

債権者は右の仮の地位に基づき就労し、相応の賃金の支払いを求めることができるのであるが、本件においては債務者が任意に債権者の右請求に応じない可能性のあることが認められる。したがって、債権者はその生活を維持するにつき必要性が認められるならば賃金の仮払いを求めることができるものというべきである。

そこで右必要性につき検討するに、本件は解雇のように使用者の一方的意思表示によりその地位を否定された場合と異なり、錯誤があったとはいえ債権者自らが退職願を提出したのであって、本件疎明によれば、その後、退職金の支給を受け(現在は供託中)、また雇用保険を受給するなど退職願の提出時に債権者が希望していた状況が実現しているものと一応認められ、債権者の予期しえないような困窮状態が生じているとは認められない。さらに債権者の三人の子供はいずれも有職であって債権者がこれらの者のために金員を支出する必要のないこと等も考慮すると債権者において現在ただちに賃金の仮払いを受けなければならない必要性があるものとは認め難い。また他に過去の賃金分を含めて賃金全額の仮払いを求めることの必要性についての疎明はない。

そうすると本件申請中賃金の仮払いを求める点は理由がない。

三  よって申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用したうえ注文のとおり決定する。

(裁判官 石井忠雄)

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