大判例

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福井地方裁判所武生支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人を懲役二年に処する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

本件公訴事実中、被告人が(一)昭和二十二年十二月下旬頃、坂口村農業会事務所で山本惣治郎から同農業会が同人に販売した籾摺機の代金七千八百円を受領保管中、その頃之を右農業会の会計に納入せず擅に自己の用途に費消横領(予備的に着服横領)した」との事実竝びに(二)昭和二十三年六月上旬頃前記事務所で同農業会にある山口庄兵衛の預金中から金一万円を払出し之を同人に交付すべく保管中、その頃同農業会事務所などで之を山口に交付せず擅に自己の用途に費消横領(予備的に着服横領)した」との事実につき、被告人は孰れも無罪

理由

第一、被告人は南条郡坂口村農業会に奉職中

(一)  昭和二十二年十一月十日頃、右農業会事務所に於て、向出勘之助から、同人が右農業会から購入した籾摺機の代金として同農業会に支払うべく託された金一万五千円を預り之を保管中、その頃同所で右金員を同農業会に支払の手続をなさず擅に之を着服横領し

(二)  昭和二十三年一月中旬頃、福井県農業会南条支部預金部から前記農業会の預金三万円の払戻を受け之を同農業会のため保管中、その頃同農業会事務所に於て、擅に之を着服横領し

(三)  同年一月二十六日頃、福井県農業会南条支部から前記農業会の普通預金十万円の払戻を受け之を同農業会の物品購入資金として同組合のため保管中、その頃、同農業会事務所に於て、擅に之を着服横領し

(四)  同年五月末頃、福井県南条地方事務所に於て、同事務所係員から約金二万円位を預り之を保管中、その頃之を右加藤武則外一名に交付せず、擅に被告人方自宅などに於て着服横領し

第二、被告人はさらに前記坂口村農業会の会計主任代行として金銭の出納保管その他の会計事務に従事中、

(一)  昭和二十三年五月二十日頃、右農業会事務所に於て、業務上保管中に係る同農業会所有の小切手中から擅に額面五万円の小切金を発行し之を自宅の住宅修繕用資材の代金として奥山茂に交付して以て前記小切手用紙一枚を横領し

(二)  同年五月下旬頃、前記農業会事務所に於て、同農業会が食糧配給公団福井県武生支部へ支払ふべき食糧代金一万三千三百三十六円五十銭を業務上保管中、その頃同事務所に於て、前記公団へ支払の手続をなさず、擅に之を着服横領し、

(三)  同年六月上旬頃、前記農業会事務所に於て、同農業会が武生肥料公団へ支払ふべき肥料代金一万二百十二円を業務上保管中、その頃同事務所に於て、前記公団へ支払の手続をなさず擅に之を着服横領し

たものである。

(証拠説明省略)

法律に照すと、被告人の判示所為中、第一の(一)乃至(四)の横領の点は夫々刑法第二百五十二条第一項に、第二の(一)乃至(三)の業務上の横領の点は夫々同法第二百五十三条に各該当するところ、以上の各罪は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条により法定刑並びに犯情の最も重い判示第二の(一)の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内に於て被告人を懲役二年に処し、訴訟費用の負担について刑事訴訟法第百八十一条を適用し主文の通り判決した。

尚本件公訴事実中被告人が(一)昭和二十二年十二月下旬頃、坂口村農業会事務所で、山口惣治郎から同農業会が同人に販売した籾摺機の代金七千八百円を受領し之を会計に納入すべく保管中、その頃同所などで之を同会計に納入せず擅に自己の用途に費消横領(予備的に着服横領)したとの事実につき審按するに(イ)被告人は差戻前の原審竝びに当法廷に於て、坂口村農業会が山本惣治郎に籾摺機を販売したことは相違ないが、自分は右山本からその代金を受領したことがないと弁疏しており(ロ)名古屋高等裁判所金沢支部に於ける第二回公判調書中証人野中一雄の証言及び差戻前の原審に於ける第三回公判調書中証人田中留吉の証言竝びに当公廷に於ける証人脇坂豊子の供述を総合して之を検討するに、前記農業会が山本惣治郎等に販売した籾摺機の代金七千八百円は当時同農業会に納入されてなく、従つてこの代金の支払関係が後日村民大会その他で問題となつた際、右山本惣治郎は右代金は同農業会に納入すべく被告人に手渡したものであると主張したが、被告人より右代金を受領した事実はないと強く反撃されるや、同人は「さあ、それでは誰に渡したのかな」とうそぶいて最初の主張を曖昧にし、結局同人から取寄せられた右代金収領書が一応唯一の事実決定の証拠となつたのであつたが右領収書はその文字の形態からみて全く被告人以外の者が作成したものであつたことが認められる。右山本惣治郎は前の公判廷に於て右代金は被告人の手を通じて前記農業会に支払つたと供述しているけれども右認定せられ得る事実と彼之対比検討するときは同人が一応右代金を農業会係員に手渡した事実までは同人の供述通りであるとしても、右代金を受領した係員が被告人であつたとの供述部分は容易に之を信用することが出来ない。従つて被告人が右山本から前示代金を受領した事実のあることを前提とする本件公訴事実は結局犯罪の証明が不充分と謂わねばならない。次に(二)昭和二十三年六月上旬頃前記農業会事務所で同農業会にある山口庄兵衛の預金中から金一万円を払出し之を同人に交付すべく保管中、その頃之を右山口に交付せず擅に自己の用途に費消横領(予備的に着服横領)したとの事実につき審按するに(イ)被告人は差戻前の原審公判廷に於ては、坂口村収入役である山口諭から山口庄兵衛の預金中から一万円払出してくれとの依頼があつたので、その払出しをし、現金は山口諭に手渡した旨供述し又当公廷に於ては自分は左様な払出をしたことはないが、唯農業会の事務員である高木秀子が山口諭の依頼を受けて払出した事実は知つている旨供述しその一貫性を欠いているが、孰れの供述を採つても山口諭が右金員を受領し被告人に於て之を保管していた事実は之を認定することが出来ないのみならず、(ロ)差戻前に於ける第三回公判調書中証人高木秀子の供述によれば、山口諭が山口庄兵衛の貯金払出金一万円を札束にして農業会事務所で受取つた事実を目撃していると供述している点を総合して考えるときは、被告人に於て山口庄兵衛のため右金員を受領保管していた事実はこれを認めることが出来ない。

よつて孰れも刑事訴訟法第三百三十六条により主文に於て無罪の言渡をした。(昭和二六年四月四日福井地方裁判所武生支部)

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