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福岡地方裁判所 平成10年(わ)310号 判決 1999年2月18日

主文

被告人を無期懲役に処する。

未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入する。

理由

(犯罪事実)

第一  被告人は、Bと共謀の上、かねて不快の念を抱いていたC(当時二三歳)を逮捕監禁し、同人から金品を強取した上、同人を殺害しようと企て

一  平成一〇年二月六日午後一〇時ころ、福岡市中央区《番地略》甲野六一六号の被告人方において、前記Cに対し、その身体をベッド上に押し倒し、顔面を手拳で数回殴打するなどの暴行を加えた上、両手首に手錠をかけ、両手首、両足首等をガムテープ等で緊縛し、その着衣を脱がせて浴室の浴槽内に座らせるなどし、そのころから翌七日午前五時三〇分ころまでの間、右Cの身体を拘束して、同人を脱出不能な状態におき、さらに、同日午前五時三〇分ころ、前記緊縛状態にある右Cを右被告人方から連行して右甲野出入口付近に駐車中の普通乗用自動車のトランク内に押し込み、同所から同車を走行させるなどして、福岡県太宰府市大字太宰府岩谷一七九〇番地の六所在の四王寺山頂駐車場、福岡市中央区大名一丁目一番九号大名駐車場などを経て、翌八日午後一一時ころ、福岡県糟屋郡宇美町大字四王寺一二六番地の一所在の特別遺跡大野城跡内公衆便所前路上に至り、その間、同人を同車トランク内から脱出不能な状態におき、もって、同人を不法に逮捕監禁し

二  同月六日午後一〇時ころから同月七日午前三時過ぎころまでの間、前記被告人方ほか二か所において、前記一記載の暴行により反抗抑圧状態にある前記Cから同人所有又は管理にかかる現金五万三八三円、三洋信販株式会社及び株式会社キャスコ発行のキャッシュカード各一枚、郵便貯金総合通帳一通、ブレスレット一個ほか一二点(時価合計二二万六五〇円相当)を強取した後、同月八日午後一一時ころ、前記特別遺跡大野城跡内公衆便所付近において、殺意をもって、同人の頚部を両手、次いで水泳パンツの紐で絞め付け、形鋼穴あけ加工機の台座部分(重量約二三キログラム)をその頭部、顔面に投げ付けて命中させた上、同人を同公衆便所の便槽内に落とし込み、よって、そのころ、同所において、同人を頭蓋骨骨折を伴う外傷性脳腫脹により死亡させて殺害した。

第二  被告人は、Bと共謀の上、前記強取にかかるキャッシュカード等を用いて金員を窃取しようと企て

一  平成一〇年二月六日午後一〇時五〇分ころ、福岡市中央区大名一丁目一番一号天神有明ビル四階三洋信販株式会社天神西通り店において、同所に設置された現金自動支払機に前記強取にかかる三洋信販株式会社発行の前記C名義のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ、同店店長D管理にかかる現金一四万円を窃取し

二  同月七日午前八時二〇分ころ、同市博多区博多駅前一丁目二番一号博多駅前ビル七階株式会社キャスコ博多駅前支店において、同所に設置された現金自動支払機に前記強取にかかる株式会社キャスコ発行の前記C名義のキャッシュカードを挿入して同機を作動させ、同支店店長E管理にかかる現金三〇万円を窃取し

三  同月七日午後三時一〇分ころ、福岡市中央区天神二丁目五番三五号岩田屋Zサイドキャッシュサービスコーナーにおいて、同所に設置された現金自動支払機に前記強取にかかる前記C名義の郵便貯金総合通帳を挿入して同機を作動させ、福岡中央郵便局長F管理にかかる現金四万九〇〇〇円を窃取した。

第三  被告人は、法定の除外事由がないのに、平成一〇年二月一六日ころ、福岡市《番地略》甲野六一六号の被告人方において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を加熱して気化させ、これを吸引し、もって、覚せい剤を使用した。

(証拠の標目)《略》

(事実認定の補足説明)

検察官は、判示第一の二の強盗殺人の事実につき、被害者を殺害する旨の共謀は、被害者を逮捕監禁する行為以前に成立した旨主張するのに対し、弁護人は、殺害の共謀は逮捕監禁中又は逮捕監禁後に成立した旨主張し、被告人も公判廷においてこれに沿った供述をしているので、以下検討する。

一  前掲の関係証拠によれば、次の事実が認められる。

1  被告人は、平成九年一一月ころから同年一二月ころまで福岡市博多区所在のファッションヘルス「スーパー乙山」でアルバイト店員として稼働していたが、そのころ、同店でアルバイト店員として稼働していた本件共犯者のB及び被害者のCと知り合い、以後、Bとは、覚せい剤や大麻を一緒に吸うなど親しく交際していた。

同年一一月下旬ころ、Bは、C及び被告人に対し、当時プレミアの付いていた腕時計Gショック(以下「Gショック」という。)を安く仕入れる先があるとして、三人でこれを仕入れた上、転売して儲ける計画を持ちかけ、右仕入れ資金一〇〇万円は資金調達の可能なCが準備することとなっていたところ、同年一二月下旬ころ、Gショックの入手が困難になり右計画は中止されたが、そのころ、Bは、Cから四〇万円を平成一〇年一月末日までに返済する約束で借り受けた。

2  同年一月一〇日ころ、Cから友人とともにGショックの販売をしたいので、一〇〇万円で仕入れて欲しい旨の依頼を受けたBは、前記のとおりこの話は、自分も加わっての儲け話で立ち消えになったものであるのに、Cが、自分を誘うことなく友人と金儲けをしようとしていることをCの裏切りであるとして立腹するとともに、当時Cに対する返済資金等に困っていたこともあって、Cから金品を奪った上、同人を殺害しようと考えるようになった。この点、Bは、自分は金は欲しくなかった旨供述しているが、関係証拠によって認められる当時のBの借金の状況、さらに犯行後の金品の分配状況に照らすと右供述は到底信用できない。

3  同月一〇日ころに、Bは被告人に対し「Cは裏切り者だ。殺して埋めようか。」などと言い、初めてC殺害のことを話した。同月中旬過ぎころからは、Bは被告人に頻繁に「やっちゃおうか。A君も金入るよ。埋めちゃえばわからないよ。」などと言うようになった。これに対し被告人が「ばれたらどうするんですか。」などと犯行の発覚を心配するようなことを言うと、Bは「海に捨てるか山に捨てればわからないよ。顔を潰しておけば死体が出ても分からないから大丈夫だよ。」などと言った。

4  被告人がなおも、逡巡していると、Bは「A君ちを貸して貰うしかない。途中まででもいいから手伝ってくれ、後は俺がやるから。」などと言い、これに対し被告人は「それくらいは考えます。」と答えたりしていた。

5  Bは、被告人が途中まで手伝うことについて考えときますと返事をした後も同月下旬にかけて「Cはむかつく。やっちゃおうか。」などと、被告人に執拗に殺害への加担を持ちかけた。これに対し、被告人は、金品は欲しかったが、Cを殺害することについてはためらいがあり、返事を濁していた。

6  同月下旬ころ、Bは、被告人がなかなか承諾の返事をしなかったことから、被告人に「A君はやりたいことも見つかっているから。やめといた方がいいね。」などと言い、被告人は「今回はやめときます。」と答えた。

7  同年二月三日ころ、CがBの彼女のG子に対し、BがCから四〇万円を借金しているなどと話したが、そのことを知ったBは、これに非常に立腹し、再び被告人に対しCから金品を奪った上、殺害する計画を持ちかけた。その際、被告人が「本当に大丈夫ですかね。」と言うのに対し、Bは「山に埋めちゃえば分からないよ。」と言い、さらに「一人じゃできない。あんとき、A君に言わなければ良かった。」などと言って犯行への加担を強く求めた。これに対し、被告人は「考えます。また電話します。」と答えていた。

8  被告人は、Bからの右要求に悩んだ末、同月六日午前三時ころ、Bの携帯電話に電話し、Bが「それでどうする。やる。」と言ったのに対し、「やりますかね。」と答えた。

そして、詳しい話は同日の日中に被告人方ですることに決まった。

9  同日の日中、被告人方にBが来て、被告人とCの逮捕監禁方法や強取の対象・方法などについて話し合った。その際、被告人が「大丈夫ですかね。ばれませんかね。」と言ったのに対し、Bは「山に埋めてしまえばわからないよ。」などと言い、二人で埋める場所などを話し合った。

二1  前記一で認定のとおり、Bと被告人は、平成一〇年一月一〇日以降二月六日に至るまで、専らCから金品を奪った上、同人を殺害し、その発覚を防ぐため死体を処分することを話し合ったことが認められる。確かに、一4で認定のとおり同年一月中旬過ぎころのある時、逮捕監禁まで二人で共同実行し、殺害はBが単独で実行するという話が出たことは認められるが、それは一回切りのことであって、その後もそれを前提とした話は行われず、むしろ同月下旬にかけて、Bは被告人に対し執拗にCの殺害を含む本件犯行への加担を持ちかけている。したがって、Bとしては、あくまで殺害も被告人と共同実行する意思であったことが認められる。

2  被告人が、同年二月六日の午前三時ころに「やりますかね。」と返事をしたのは、直接的には同月三日の話し合い、すなわち、金品を奪った上、Cを殺害することに対してである。そして、同日の話し合いにおいては、被告人は途中まで手伝えば良いという話は全く出ていない。この点、弁護人は同日には、当初の計画と全く別個の計画を立てたというものではなく、当初の計画を蒸し返したに過ぎないのであるから、「途中まででもよい。」という当初の計画における留保も別段の意思表示のない限り、二度目の計画でも復活したものと見るのが自然であると主張する。しかし、Cから金品を奪った上、殺害するという計画は一6で述べたように一月下旬に一度撤回された形になっているのであり、被告人が「途中まででもよい。」という話が復活すると考えるのは不自然である。また、「途中まででもよい。」という話は一月中旬過ぎころに、一度出ただけであり、その後も被告人は殺害への加担を求められていたのであるから、当初の計画に留保がついていたと考えることはできず、弁護人の主張は採用できない。さらに、殺害に加担するか否かは被告人にとって、重大な関心事であり、もし、被告人が途中まで手伝うだけで殺害に加担する意思がなかったならば、Bに対し、その点を明確にするのが自然である。しかし、関係証拠を仔細に検討しても、被告人が前記二月三日及び同月六日の話し合いにおいて、そのことに触れたことを窺わせるものはない。したがって、被告人が二月六日に「やりますかね。」と答えたのは、Cを殺害することをも含む本件犯行への加担を承諾したものと考えるのが自然である。

現に、被告人は、Bとともに、Cを監禁して金品を奪った後、同人を殺害するため、被告人方から車に乗せて四王寺山に連行しているが、被告人とBの当初の共謀の内容が、真に逮捕監禁行為に止まるものであったならば、その際、なぜCを被告人方から運び出すのか疑問に感じてBに問い質す等被告人が何らかのためらいを見せるのが自然であるのに、被告人は、Bに対して何も言わず、躊躇なくBと行動を共にしている。このことは、逮捕監禁に着手する前から、殺害の点についても共謀が成立していたことを強く推認させる行動と評価できる。

三  被告人は、捜査段階においては、逮捕監禁に着手する前から殺害の共謀も成立していた旨一貫して供述している。被告人の殺害の謀議を含む本件犯行についての供述は、具体的で迫真性があり、その内容に不合理、不自然な点はなく、共犯者Bの供述とも主要な点でよく符合しており十分信用できるものである。

他方、被告人は当公判廷において、当初はBから逮捕監禁の加担を求められただけであり、逮捕監禁中にBが怖くなって、結果的に殺害まで一緒にやってしまった旨供述している。しかし、被告人は、捜査段階ではそのようなことは全く述べておらず、前述した逮捕監禁の際のBの言動は被告人にとっては全く計画どおりのことであり、従前の被告人とBの関係からして、被告人がBを怖がっていたということは到底考えられない。したがって、被告人の右公判供述は信用できない。

四  結論

以上の次第で、被害者を殺害する旨の共謀は、逮捕監禁する行為以前に被告人とBとの間に成立したと認定することができ、弁護人の右主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の一所為は包括して刑法六〇条、二二〇条に、判示第一の二の所為は同法六〇条、二四〇条後段に、判示第二の一ないし三の各所為はいずれも同法六〇条、二三五条に、判示第三の所為は覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条にそれぞれ該当するが、判示第一の二の罪について所定刑中無期懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四六条二項本文により、判示第一の二の強盗殺人罪につき、被告人を無期懲役に処する以上他の刑を科さないこととして被告人を無期懲役に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

一  本件は、犯行時一九歳の被告人が成人の共犯者Bと共謀し、共通の知人であるCの金品を奪った上で殺害することを企て、詐言をもって、Cを被告人方に呼び出し、その両手首に手錠をかけるなどして、身体の自由を奪い、約四九時間にわたり、被告人方及び自動車のトランク内に監禁し、その間、Cから現金や腕時計等を奪ったほか、奪ったキャッシュカード等を利用して現金を引き出した上、終局には、Cを人気のない山中に連行し、首を絞めるなどした後、その頭部、顔面に重量が約二三キログラムもある形鋼穴あけ加工機の台座部分(以下、「鉄塊」という。)を投げ付け、まだ息のあるCを公衆便所の便槽に落とし込んで殺害したという一連の凶悪かつ重大な逮捕監禁・強盗殺人・窃盗の事案(以下、総称として「本件強盗殺人事件」という。)のほか、一連の犯行後被告人が覚せい剤を使用したという事案である。

二  被告人の身上、経歴

被告人は、山口県で三人兄弟の長男として出生し、地元の小・中学校を卒業後、高校に進学し、卒業後の平成九年四月に、福岡県太宰府市にある丙川経済大学に入学した。被告人は、大学進学にもともと気が進まなかったこともあり、入学後も講義にはほとんど出席せず、漫然と生活していた。

三  本件強盗殺人に至る経緯

1  被告人は、大学生活が楽しくなかったことや遊興費が欲しかったことからアルバイトをするようになり、平成九年一一月中旬ころから同年一二月中旬ころまで、中洲の風俗店でアルバイト店員として働いていた。Bもほぼ同時期に同じ店でアルバイトをしていたので、被告人はBと知り合い、交友関係を開始した。また、本件の被害者であるCもまた同店でアルバイトをしており、被告人、Bと顔見知りになった。三人の中ではBが一番年長であったが、店ではCが先輩格であった。

2  Bは年下のCが先輩格であることやCが高級な装飾品をしていたことなどから、次第にCに不快感を抱くようになり、また、被告人は元暴力団組員であったBに一種のアウトロー的な魅力を感じ、次第に交友関係を深めていくとともにBの話を聞くうちにCについて良い感じを持たなくなっていった。

3  被告人は同年一二月ころから、爪の装飾関係の仕事であるネイリストに興味を抱き、ネイルスクールに入学しようと考えたが、そのためには受講料として二十数万円が必要であった。また、Bもサラ金会社からの借金や覚せい剤の未払い代金があり、その捻出に苦慮していた。

4  一一月下旬ころ、Bは知人から若者に人気のある腕時計Gシッョクが安く手に入るとの情報を入手し、一儲けしようと考え、被告人やCにGショックの販売計画を持ちかけたところ、両名も乗り気になり、Cが一〇〇万円の購入資金を用意することに決まり、サラ金会社と貸出基本契約を締結するなどした。被告人とBはCを出し抜いて、自分たちの利益が多くなるようにしようなどと話し合ったが、結局、Gショックを入手することが出来なくなり、この販売計画の話は潰れた。

5  Bは、一二月下旬ころ、彼女であるG子にプレゼントを買うため、Cに借金を申込み、Cはサラ金会社から四〇万円を借り、それをBに貸したが、二人の間で返済期限は平成一〇年一月末日ということに決めた。

被告人は、ネイルスクールの受講料を自分で工面することができなかったので、同年一月中旬ころ、彼女であるH子から三〇万円を借り、ネイルスクールに入学した。被告人は、将来の職業としてネイリストを考えており、そのためには更に上のステップを進む必要があり、その受講料一九万円を払う必要があった。

6  一月一〇日ころ、BはCから友人とともにGショックの販売をしたいので、一〇〇万円で仕入れて欲しい旨の依頼を受けたが、Cが自己をさしおいて友人と金儲けをしようとしていることに立腹するとともに、前に述べたようにBにはCに対する借金もあるなど金に困っていたこともあって、裕福なCから金品を奪った上、同人を殺害しようと考えるようになった。

7  同日ころ、Bは被告人にCから金品を奪った上、殺害するという計画を初めて話した。また、被告人とBはCを騙して一〇〇万円を持ち逃げしようとの話もしたが、Cは騙されないだろうということになり、断念した。

しかし、その後、既に説示したような経緯で、被告人とBは話し合いを重ね、同年二月六日には被害者を逮捕監禁して強盗殺人等の行為に及ぼうとの共謀が成立した。

8  同日の日中、被告人方にBが手錠やガムテープを用意した上やって来て、被告人とCの逮捕監禁方法や強取の対象・方法などについて話し合った。そして、「Bが四〇万円を返すということでCを呼び出した上、Bが話しかけ、被告人が手錠をかける。Cの身体をガムテープ等で緊縛し、金やサラ金のカードを取り上げる。サラ金カードを使って金を下ろした後、Cの家に行って、金目のものを奪い、最後は殺害して山に埋める。」という本件強盗殺人事件についての具体的計画が決まった。

9  Bは、被告人方において、同日午後七時三〇分過ぎに、Cに電話し、金が出来たので被告人方で会おうと言い、Cは承諾した。そして、Cは自ら自動車を運転して、同日午後九時前ころ、被告人方に行き、部屋の中に入った。

部屋の中で被告人、B、Cの三人はしばらく談笑していたが、BがGショックの件やG子の件で因縁を付けたのを合図に、Cをベッドに押し倒した。

以上が、本件強盗殺人事件に至る経緯であり、この後被告人らは判示記載の犯行に及んだものである。

四  まず本件強盗殺人事件は、被害者を長時間にわたって、逮捕監禁し、根こそぎ金品を奪った挙げ句、被害者の命乞いを無視して、確定的殺意に基づいて、鉄塊をその頭部、顔面に投げ付け、ついには便槽内に捨てるという希に見る凶悪な犯罪であり、常軌を逸した残虐なものである。

その動機をみるに、信頼を寄せるBから本件を持ちかけられた被告人が、ネイルスクールの受講料など金に困っていたこともあって、金が入るならばと本件に加担したのであって、Bを裏切れないとの気持ちもあったものの主たる動機は金銭欲であり、自らの欲求を満たすためには人の生命をも顧みない全く自己中心的な動機であり、酌量の余地はない。

被告人とBは平成一〇年一月中旬過ぎころから度重なる話し合いを重ね、その話し合いの中では、犯跡を隠蔽するために顔を潰すことやCに不審を抱かさずに呼び出す方法などが出ており、また、事前に逮捕監禁の際に使用する手錠やガムテープを購入して入念に準備した上で本件犯行に及んでおり、正に用意周到な計画的犯行である。

次に犯行態様を見るに、逮捕監禁についていえば、被告人らはCを手錠やガムテープで強固に緊縛し、声を出さないように順次靴下、すりこぎ、試験管でさるぐつわをし、全く無抵抗のCをこたつの足や手拳で血まみれになるほど殴打した上、失禁した場合に備えてパンツ一枚にして風呂場の浴槽に座らせ、被告人らが出かけるときは、逃げないようにビニールひもやトイレットペーパーを使って風呂場に固定し、その後、Cの頭部に水着をかぶせ、全身を毛布等で包み込んだ上、同人を自動車のトランクという狭い空間に閉じこめて約四二時間にわたって連れまわしており、しかもその間数回飲み物を与えたのみで、食事は一切させず、放尿はペッ卜ボトルにさせるなど極めて非人間的に扱っており、一方、その間、自らは買い物をしたりネイルアートしたりと平然と生活していたことも認められ、まさに執拗、冷酷無比かつ残忍というほかない。

また、金品の奪取状況については、Cから根こそぎ奪った上、金になりそうなものと不要な物を取捨選択しており、また、Cからサラ金の融資残額等を聞き出した上、ほぼ満額引き出しており、そこには被告人らの金や物に対する執着心やどん欲さを看て取ることができる。

さらに、殺害状況については、長時間の逮捕監禁によって弱っているCに対し、人気のない山中において、命乞いをするのに耳を貸さず、車内で手及びひもで首を絞めて多大の苦痛を与え、苦しさの余りCに「殺すなら楽に殺して下さい。」とまで言わしめ、車外においてなおも、ひもでCの首を絞めたが、Cが最後の力を振り絞って抵抗したため、殺害することができず、ついには、付近に落ちていた重量のある鉄塊を持ち出し、その頭部、顔面に数回投げ付けた後、犯跡を隠蔽するためや殺害を確実にするためにCを公衆便所の便槽内に落とし込んで、糞尿にまみれさせており、鑑定書(甲一四)によれば、便槽内に落とされた時点でCはまだかすかに息があったことが認められ、その凄惨な殺害状況には慄然とした思いを抱かずにはいられない。そこには、極限状態に置かれた被害者の痛みや気持ちに対する思いやりや、ためらいという感情が一切なく、被害者の人間性を全く無視した冷酷かつ残虐非道な犯行であるとしか言いようがない。

被告人らには人間性のかけらや被害者の人間としての尊厳に対する一片の配慮も窺うことができず、殺害状況は言葉による表現を越えた、まさに非人間的で、人心を寒からしめるものがある。

本件における被告人の役割をみるに、Bは謀議段階において、「自分一人じゃできない。」「場所がない。」などと言っており、また、犯行態様からしてもB一人で遂行することは難しく、被告人の加担がなければ本件の実行は不可能になっていたと考えられ、不可欠の役割を演じているものと評価できる。Cやサラ金会社等から奪った金員は、ほぼ折半され、物品については被告人の方がBより取り分が多くなっており、ここにも被告人のどん欲さを看て取ることができる。そして、逮捕監禁においては、被告人はBと一緒に脅迫した上、Cに手錠をかけ、またBの指示でなく自分の判断でCの顔面を殴打し、出血させており、また金品の奪取においてはCが着ていたジャンパーから現金やカードを奪ったり、三洋信販やキャスコに一人で現金を引き出しに行っており、積極的な役割を果たしている。Cの殺害においては、被告人は殺害及び死体を捨てる場所として適当な場所を物色し、本件公衆便所の便槽に錠がかかっていないことを発見し、それをBに伝え、車内でBがCの首を絞めているときは、動くなと言ってCを殴り、車外で首を絞めているときはCの背中の上に乗って押え付けるなどしてBの行動を助け、頭部に鉄塊を投げ付けた後は、「顔を潰さなくていいのか。」と言って、Bの行為を促すなど重要な役割を果たしている。

なお、被告人は当公判廷においては、「殺害現場において、顔を潰さなくていいのかとは言わなかった。顔を潰したかどうかは分からなかった。山を下りる車の中で顔を潰さなくていいのかと言った。」旨供述している。しかし、顔を潰す話は、謀議の段階で何度となく出ていたことであり、その上、犯行の発覚を恐れていた被告人にとっては身元を分からなくするための手段であり、非常に重大な関心事であった。また、顔を潰したかどうか分からないのにもかかわらず、「顔を潰さなくていいのか。」という聞き方をするのは不自然であり、そもそも、Cを仰向けにした後、被告人がずれたバスタオルをCの顔にかけたことは自認しており、顔を潰したかどうか分からなかったという供述は不合理である。したがって、被告人の公判供述は信用できないと考える。

被告人がこのように積極的かつ重要な役割を果たした理由として、被告人が憧れていたBの意を迎えようとしていたことは窺われるが、Bが自己の犯行の企図を被告人に押しつけ、強制した形跡は見出されず、被告人はほぼ対等な立場で本件犯行に加担したと認められる。また、被告人は当公判廷において逮捕監禁中におけるBの言動が怖かったから、ずるずると殺害にまで及んでしまったかのような弁解をしているが、被告人はBが同席していないときにもCが出血するほどの激しい暴行に及んでおり、右弁解は信用できず、被告人自身の残忍な性格や反社会性の故に積極的かつ重要な役割を果たしたというべきである。

犯行後においても、被告人は血の付いたバスタオルを自宅に隠したり、犯行に使用した車を駐車場から一日一回出し入れし、怪しまれないようにしたほか、強取した物品をH子に預けたり、口裏合わせメモを作成するなど積極的に犯跡の隠蔽工作を行っており、その意味においても被告人の果たした役割は重要である。

被告人は何ら落ち度のない春秋に富むCを殺害し、かけがえのない生命を奪ったものであって、その結果が極めて重大であることは言うまでもない。さらに付言すると、Cは昭和五〇年二月二日に広島県において、老舗の醤油製造販売業を営む父親の一人息子として出生し、被害当時、丁原経済大学の卒業を間近にした大学四年生で、すでに大手食品卸会社への就職も内定し、いずれは家業を継ぐことを決意しており、人生の重要な節目を目前にして将来への夢を膨らませていた。そして、Cは家族から深い愛情を寄せられており、殊に実父からは自己の後継者として大きな期待を寄せられていた。その矢先、Cは、悪意のない友人と信じていた被告人らの凶行により、孤立無援の状態のまま助けを求めるすべもなく、死の恐怖に長時間さらされた挙げ句、被告人らによって解放されることに一縷の希望を持ちながら遂に果たせず、恐怖、苦痛、無念のうちに非業の死を余儀なくされ、その死後も寂しい山中の公衆便所の便槽内に約一〇日間にわたって誰にも発見されず捨て置かれたのであり、まことに、あわれと言うほか無く、当時のCの状況を考えれば、その身体的及び精神的苦痛・苦悶並びに恨みの深さはいかばかりのものであったか、これを表現する言葉さえないくらいである。

Cの両親は、二月一三日にCの友人から連絡が取れないという知らせを受けると、すぐさま警察へ捜索願を出し、翌一四日からは仕事を休んで福岡に来て、Bと連絡を試みるなど警察と一緒になってCの行方を必死に捜しながら、Cの無事を祈り続け、心痛の日々を送っていた。そして、二月一八日に、期待も空しく、無惨に変わり果てた息子との対面という悲惨な事態を迎えており、両親の心労・苦痛は想像を絶するものであったと推察される。大事に育ててきた跡取りの一人息子を卒然として手元から取り上げられた両親は、生きる目標を失い、悲しみに暮れる日々を過ごしており、その被害感情、処罰感情は峻烈であり、当公判廷においても被告人に厳罰を求めており、その心情は十分に理解できるところである。

本件強盗殺人事件は犯行態様において凄惨、残忍を極め、その上、少年による凶悪かつ重大な事犯であったことから、これが社会に与えた衝撃、不安もまた大きなものがあった。

次に覚せい剤事案についていえば、被告人は本件当時毎日のように覚せい剤を使用していたことが認められ、そこには覚せいに対する親和性、常習性を看て取れ、犯情悪質である。

また、被告人は大学へはほとんど行かず、遊興に耽けるなど生活態度も芳しくない。さらに、当公判廷における供述態度、供述内容等からすると本件について真摯に反省しているか疑問を抱かざるを得ない。

以上の諸点に鑑みれば、被告人の刑事責任は極めて重いと言わなければならない。

ところで、被告人は犯行当時少年(約一九歳七か月・現在は成人)であった。

そこで、犯行当時少年であった者に対する刑事処罰のあり方について、付言する。

少年については、その健全な育成という観点から少年法が設けられており、成人事件と異なる特別の規定が設けられている。したがって、犯行当時少年であった者の刑事事件の量刑に当たっては、これらの点を慎重かつ十分に考慮しなければならないことは言うまでもない。しかし、犯罪の内容が重大、悪質で、法的安全、社会秩序維持の見地や、一般社会の健全な社会感情の面から厳しい処罰が要請され、また、被害者又は遺族の処罰感情が強く、それがいたずらな恣意によるものではなく、十分首肯できるような場合には、それに応じた科刑がなされることが社会正義を実現させるゆえんである。これを看過して、被告人に対し著しい寛刑をもって臨むのは、一般社会の刑事司法に対する信頼を揺るがせるばかりでなく、被告人に対し、自己の刑責を軽視させることにもつながり、被告人自身の更生のためにも適当でない。したがって、量刑に当たっては、少年の未熟性、可塑性などその特性にも適切な考慮を加えつつ、事案の程度、内容等と均衡のとれた科刑がなされるよう特段の配慮がなされるべきである。

以上の点を踏まえて、本件において酌量減軽の措置を施すことの当否を検討するに、確かに、本件においてはBが首謀者であり、計画の立案から殺害の実行に至るまで概ねBの主導で行われていること、被告人が本件に関与するに至ったことについては主体性がないという被告人の性格が多少なりとも影響していること、被告人は本件を認め、現在では一応反省の態度を示し、殺害した被害者の冥福を祈っていること、被告人の両親が当公判廷において被害者及び遺族に対して心からのお詫びの心情や今後も誠意をもって被害弁償の努力をする旨述べていること、窃盗の一部については被害弁償がなされていること、被告人は犯行当時一九歳、現在でも二〇歳の若年であり、その人格に改善更生の余地が全くないとまでは言えないこと等被告人のために斟酌すべき諸事情も認められるが、先に詳述したCに対する一連の犯行の常軌を逸した凶悪さ・重大性、被告人の果たした役割、加害行為の態様、結果の重大性、遺族の処罰感情、社会的影響の大きさ、その他記録に現われた一切の状況及び犯行当時少年といっても一九歳七か月と成人に近い上、犯した犯罪の性質、態様に照らせば分別し難いことがらではないことは極めて明らかであること等を総合考慮すると、なお無期懲役刑を減軽すべき事情があるとは認めることができず、酌量減軽の措置を施すのは相当ではないと考える。

よって、主文のとおり判決する。

(検察官 川口克巳)

(私選弁護人 塩川泰徳)

(求刑 無期懲役)

(裁判長裁判官 照屋常信 裁判官 河本雅也 裁判官 宮本 聡)

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