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福岡地方裁判所 平成10年(ワ)4229号 判決 1999年7月12日

原告

清水弘崇

被告

自動車保険料率算定会

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、平成四年一二月五日、別紙交通事故の表示(一)の交通事故(以下「第一事故」という。)により、右大腿骨骨幹部骨折等の傷害を負い、福岡記念病院、川浪病院に入通院した。

2  原告は、第一事故で通院中であった平成七年八月二六日、別紙交通事故の表示(二)の交通事故(以下「第二事故」という。)により、第一事故と同一部位に第一事故と同様の傷害を負い、溝口外科、川浪病院に入通院した。

3  原告は、第二事故の発生後、主治医から第一事故による傷害につき、平成七年八月二六日症状固定とする同年一二月二七日付けの後遺障害診断書(甲三、以下「第一診断書」という。)の作成を受けた。

4  被告は、第一事故の加害者が加入していた任意保険会社である興亜火災海上保険株式会社(以下「興亜火災」という。)からの事前認定依頼を受け、第一診断書等に基づいて、第一事故における原告の後遺障害につき後遺障害等級併合第六級と認定した。

5  原告は、平成一〇年三月二八日、主治医から、第一事故、第二事故双方の傷害につき平成九年一〇月二九日症状固定とする後遺障害診断書(甲四、以下「第二診断書」という。)の発行を受けた。

6  原告は、被告に対し、第二診断書等に基づいて後遺障害認定等級に対する異議申立てを行い、これを受けた被告は、原告の後遺障害を後遺障害等級併合第五級と認定した。

二  原告の主張

1  被告は、第一事故による後遺障害の認定に当たり、第一診断書の記載において第一事故後遺障害の症状固定日が第二事故の発生日とされているという不自然さに疑問を差し挟み、症状を主治医に照会するなどして、その時点における事前認定を時期尚早として見送るか、あるいは第二事故をも考慮に入れた後遺障害等級の認定に努めるべきであったのにこれを怠った過失により、安易に第二事故日が第一事故後遺障害の症状固定日であると即断し、後遺障害等級併合第六級との誤った事前認定を行った。

そのため原告は、興亜火災との間で、第一事故につき症状固定、後遺障害等級第六級との前提による示談を強いられるとともに、第一、第二両事故による後遺障害につき改めて等級認定を受けるに当たって困難を極め、多大の精神的苦痛を蒙った。

2  また、被告の担当者は、第一事故につき後遺障害等級第六級との認定をした理由を原告が問い合わせたのに対し、第二事故の発生を知らなかったと発言するなど、いい加減な態度で回答したことにより、原告に精神的苦痛を与えた。

3  以上の精神的苦痛に対する慰謝料は、一〇〇万円を下らない。

三  被告の主張

1  被告は、損害保険料率算出団体に関する法律により設立された法人であり、保険会社からの委託を受けて、後遺障害等級の事前認定を行っているが、かかる認定は、多数の交通事故事案を処理するため、任意保険会社が収集、提出した文書に基づいて行い、特に問題がない限り被告が直接事案の調査を行ったり、任意保険会社に追加資料の提出を求めたりすることはない。

2  第一診断書によれば、原告が平成七年八月二六日に第二事故に遭ったことは明らかであったが、同診断書における主治医の意見に基づけば、同日、症状が固定されていても奇異ではない状況であった。したがって、被告が第一事故につき後遺障害等級第六級と認定したことに何ら過失はない。

3  また、被告は、原告の問い合わせに対し、第二事故の発生を知らなかったなどと回答したことはない。

四  争点

本件の主たる争点は、被告が第一事故につき後遺障害等級併合第六級の事前認定をしたことに過失が存在したか否かである。

第三争点に対する判断

一  乙一の二、乙一の三、乙八、証人平野を総合すれば、被告による事前認定の制度について、以下の事実が認められる。

被告が業務として行ういわゆる事前認定とは、交通事故における自賠責保険金及び任意保険金の請求、支払事務を簡素化するためのいわゆる保険金一括払制度を円滑に運用するために、保険会社が後遺障害等級認定等、自賠責保険の取扱いについて事前に確認を取る必要がある場合に、被告が保険会社からの依頼を受けて右認定等を行う制度である。被告は事前認定に当たり、原則として保険会社から提出された資料の範囲で、保険会社から事前認定を依頼された事項についてのみ判断を行うが、右資料では判断が困難な場合等には、保険会社に資料の追加提出を求めることもある。また、被告は、交通事故の当事者と保険会社との間における示談交渉について、監督、勧告あるいは助言をする立場にはない。

二  また、甲三、甲四、乙二の一ないし一一、乙三、乙四の一ないし一五、乙五、証人平野を総合すれば、被告による本件の事前認定について、以下の事実が認められる。

被告は、興亜火災提出の資料(乙二の二ないし一一)に基づき、前記争いのない事実4の後遺障害等級の事前認定を行った。その際被告の顧問医は、第一診断書(乙二の三)の記載に基づいて、第二事故の存在を認識しつつも、同事故の発生した日である平成七年八月二六日に症状固定とすることについて、医学的に不自然な点は見受けられないと判断した。これを受けて被告は、右資料の範囲内において、後遺障害等級併合第六級との認定を行った。

三  以上の認定事実及び前記争いのない事実を総合すれば、被告による第一事故に関する右事前認定は、その時点において任意保険会社から提出された資料を前提として、被告の業務の範囲において適切に行われたものというべきであって、更に被告が右事前認定を行うに際し、原告の主治医に追加資料の提出を求めたり、症状を照会したりするなどの措置をとることにより、右事前認定を改め、又は見合わせるべきであったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告による右事前認定に過失があるとは認められない。

四  なお、原告は、被告が原告からの問い合わせに対して、第二事故の発生を知らなかったなどといい加減な回答をしたことをも理由に、精神的苦痛に対する慰謝料を請求している。しかしながら、右事実は、仮にそれが認められたとしても、直ちに不法行為を構成するほどの違法な行為であるとはいえず、他に右回答が不法行為を構成するほどの違法な行為であったことを窺わせる証拠もない。

五  以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却する。

(裁判官 森英明)

交通事故の表示(一)

日時 平成四年一二月五日午前三時一五分ごろ

場所 福岡市早良区西新一丁目一―三五

事故車 (1) 訴外宮崎英生運転の普通乗用自動車

(登録番号福岡五八つ三四八一)

(2) 原告運転の自動二輪車

(登録番号福岡や二九四八)

交通事故の表示(二)

日時 平成七年八月二六日午後三時三五分ごろ

場所 福岡市博多区博多駅南二丁目九番二〇号

事故車 (1) 訴外宗岡浩運転の普通乗用自動車

(登録番号山口三三に九九八七)

(2) 原告運転の軽四輪貨物自動車

(登録番号福岡四一き二三二二)

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