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福岡地方裁判所 平成2年(ワ)2044号 判決

原告

宗教法人オウム真理教

右代表者代表役員

松本智津夫

右訴訟代理人弁護士

青山吉伸

被告

株式会社西日本新聞社

右代表者代表取締役

青木秀

被告

稲積謙次郎

右両名訴訟代理人弁護士

太田晃

被告

甲野太郎

主文

一  被告らは原告に対し、各自金五〇万円及びこれに対する被告株式会社西日本新聞及び同稲積謙次郎については平成二年一〇月一七日から、被告甲野太郎については同年一一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

事実及び理由

第一請求

一請求金額につき一〇〇万円と主張するほかは、主文第一項と同旨。

二被告株式会社西日本新聞(以下、「被告新聞社」という。)は、原告に対し、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、西日本新聞に、別紙(一)記載のとおりの謝罪広告を、別紙(二)記載のとおりの方法で、それぞれ一回ずつ掲載せよ。

第二事案の概要

本件は、被告新聞社が発行する新聞紙上に掲載した新聞記事(以下、「本件記事」という。)によって、原告の名誉が毀損されたとして、原告が、同被告に対しては名誉回復措置としての謝罪広告の掲載を、並びに同被告(民法七一五条による。)、その被告編集局長及び取材源となった他の被告(同法七〇九条、七一〇条による。)に対して、各自原告に対する一〇〇万円の慰謝料の支払をそれぞれ求めた事案である。

一当事者間に争いのない事実

1  被告新聞社は、新聞の発行等を目的とする会社で、「西日本新聞」(以下、「被告紙」という。)の名称で日刊新聞を発行しており、被告稲積は、被告新聞社において同新聞の編集局長として、同紙の執筆・編集業務に従事しているものであり、被告甲野は、本件記事において、「妻」に該当する訴外甲野花子(以下、「花子」という。)の「夫」であり、「子供」の「父親」である。

2  被告新聞社は、平成二年九月一二日付被告紙において別紙(三)のとおりの内容の本件記事を掲載・頒布した。

二争点

1  本件記事による原告の名誉毀損の成否

2  本件記事に関しての被告らの行為の違法性

(一) 本件記事の公共性及び公益目的性の有無

(二) 本件記事の真実性

3  本件記事の内容を真実であると信ずるにつき相当な理由の存否

4  慰謝料相当額及び謝罪広告の当否

5  被告甲野の不法行為の成否

三争点に対する当事者の主張

1  争点1(本件記事による原告の名誉毀損の成否)について

(原告の主張)

本件記事は、一般の読者に対し、原告が子供たちを拘束し、修行を強要している、あるいは原告が子供までも監禁する凶悪な犯罪者集団であるとの印象を与えるものであり、原告の社会的名誉、信用の低下に甚大な影響を与えた。

2  争点2の(一)(本件記事の公共性及び公益目的性の有無)について

(原告の主張)

本件記事を報道することが公共の利害に係ることはない。本件記事掲載の目的は、原告に対する単なる誹謗中傷にある。

(被告新聞社及び被告稲積の主張)

当時原告(オウム真理教)信者に対する人身保護請求事件がマスコミ各社により全国的規模で報道され社会問題化していたから、本件記事の掲載は公共の利益及び公益目的にも合致する。

3  争点2の(二)(本件記事の真実性)について

(原告の主張)

(1) 本件記事は訴状の内容を伝達するという形を取っているが、一般の読者の通常の読み方を前提とするかぎり、記事の内容自体がその通り事実であるかのような印象を与える結果になることは明らかであり、内容そのものに真実性の立証を要する。

(2) 訴外甲野花子は、夫である被告甲野からたびたび暴力を加えられて家から追い出されたため、子供らを伴い原告を頼って原告の総本部にある道場へ行った。その後、花子及び子供らは、自らの意思で出家者となって修行を行っており、道場内外では自由に過ごしていた。また、子供らは、被告甲野に自分達の居場所が知れることを恐れる等の理由から学校に通っていなかったのであり、原告が通わせなかったわけではない。

(3) 本件記事に掲載された被告甲野の原告に対する損害賠償請求訴訟(以下、「本件訴訟」という。)の訴状は、原案にすぎず、実際には訴えは起こされていないし、監禁罪による告訴についても、監禁に該当する事実はない。

4  争点3(真実性の誤信に関する相当の理由の存否)について

(被告新聞社及び被告稲積の主張)

本件記事は、その取材記者訴外柴田建哉(以下、「柴田記者」という。)が、被告甲野から原告に対する損害賠償請求(本件訴訟)若しくは人身保護請求等の事件処理の依頼を受けた訴外平田広志弁護士(以下、「平田弁護士」という。)ら複数の弁護士から直接電話取材をした結果、既に完成されていた訴状案に基づき、これを要約して記事化したものである。

また、柴田記者は、平田弁護士から記事にするのは九月上旬まで待って欲しいとの要請があったので、同月一一日まで待ったが、その後右弁護士に連絡が取れなかったため、ほぼ完成していた訴状案を入手して弁護団に参加していた他の弁護士二人に電話し、情報の精度を確認したうえ、記事にしたのである。

右のとおり柴田記者は、法律の専門家たる複数の弁護士に取材して本件記事を作成したのであるから、同人には右記事内容を真実と信じるについて相当な理由があった。

(原告の主張)

(1) 柴田記者は、刑法上の監禁罪に該当する可能性のある事実等を記事として記載していながら、被告甲野から事情を聴取した平田弁護士らに電話で事情を聞いたのみで、本件記事の当事者である原告及び花子その他弁護士以外の関係者には事実を確認する問い合わせなど一切行っていない。また、平田弁護士から、弁護団として記者会見するまでは記事にするのを待って欲しいと言われたにもかかわらず、単に電話がつながらなかったとの理由でこれを確認することを怠り、記者会見前に本件記事を作成・送稿した。

(2) 編集局長である被告稲積は、柴田記者の作成した記事について十分な裏付け調査が行われているかどうかの確認を怠ったまま、編集・掲載した。

(3) よって、柴田記者に虚偽の情報を提供した被告甲野を含め、被告らには、本件記事が真実であると信じたことについて相当の理由があったとは認められない。

5  争点5(被告甲野の不法行為の成否)について

(原告の主張)

被告甲野は、以前から原告に対する誹謗中傷を続けており、当時親密な関係にあった平田弁護士らに告げれば、同人らを通じてマスコミに提供されることを知りながら、原告の名誉を毀損する意図を持って、同人に内容の虚偽の情報を告げたため、本件記事が掲載されるに至り、その結果原告の名誉が毀損された。

このように、被告甲野の右行為は、本件記事の掲載について積極的な役割を果たしており、不法行為を構成する。

第三争点に対する判断

一争点1(名誉毀損の成否)について

1  被告新聞社は、前記のとおり、西日本地方では権威のある新聞報道機関であり、その新聞記事の社会に与える影響の大きさに鑑みて、記事によっていたずらに個人や法人の名誉、社会的信用を毀損・低下させることのないよう注意すべき義務があることは原告の主張するとおりである。

2  別紙(三)(<書証番号略>)によれば、本件記事は、「原告が監禁等の行為に関与した。」などと直接的表現で記載されたものではなく、原告甲野が右記事に記載された内容の訴訟を提起する予定である旨、間接的表現で記載されたにとどまる。

しかし、新聞記事が法人等の名誉を毀損しあるいは社会的信用を低下させるものか否かを判断するに当たっては、本文記事の内容はもとより、その見出し、記事の大きさなどを総合して、その新聞の普通の読者が一般的読み方をして通常受けるであろう印象によって判断すべきものと解するのが相当であるところ、このような読み方を基準とした場合、一般読者に対して、まず、第一に、「見出し」によって、夫が原告を訴えるのは、妻が原告宗教に入信し、原告が子供を奪ったとの事実があるからとの印象を強く与え、第二に「本文」においては、妻が原告宗教に入信して家出し、原告のため子供らは学校にも通えず監禁されていると具体的事実が呈示されているうえ、それに関して具体的な訴額も示して、本件訴訟を提起すること及び父親側が監禁罪で告訴を検討中で、約百人もの弁護団が結成されたことなど、いわば事件について法律的な処置が具体的・現実的なものとして取られている段階に至っているとの記載があることが認められる。

これらの記事からは、一般の読者に対して、右訴えの内容たる事実があたかも真実らしいとの印象を与えると解される。また、本件記事は、原告に関する人身保護請求事件やその活動がしばしば多くの日刊紙で報道され、一般の関心を集めていた折りに掲載されたものであるうえ(<書証番号略>)、本件記事には、原告側の反論が一切記載されていないこと等を考慮すると、あたかも原告が本当に監禁という犯罪行為に該当する行為をした事実があり、そのような反社会的な宗教法人であるかのような印象をその一般読者に与えかねない内容のものということができる。

3  したがって、本件記事によって原告の宗教法人としての社会的評価が低下し、その名誉が毀損されたことが明らかである。

二争点2の(一)(本件記事の公共性及び公益目的性)について

原告は、当時、社会的な耳目を集めて急成長していた新興の宗教団体であり、多数の信徒を有し、その組織、活動内容が社会に及ぼす影響も大きいこと(弁論の全趣旨)に鑑みると、その活動状況等は、公共の利害に関する事柄であるということができる。

また、原告の活動状況は、以前からしばしばマスコミに報道されて当時社会問題化しており、本件記事も、主として問題視されている右活動状況の一環を示す事実を内容としていること、本件記事の内容が原告による監禁など違法行為に関するものであること(<書証番号略>)などからすれば、被告新聞社及び同稲積において、もっぱら公益を図る目的で掲載されたことが認められる。

三争点2の(二)(本件記事の真実性)について

1  真実性の対象について

本件記事は、本件訴訟の訴状の内容あるいはその提訴者である被告甲野や関係弁護士の主張を引用する形式を取って記載されていて、その内容は、概ね、①損害賠償請求の提訴が予定され、監禁罪による告訴が検討されているとする部分と、②訴状の内容(原告らの不法行為)等を引用する部分とに大別できる。

そうして、証拠(<書証番号略>、証人平田広志)によれば、被告甲野が平田弁護士らと相談のうえ、本件記事どおりの損害賠償請求訴訟(本件訴訟)の提起を予定していたこと、さらに原告を監禁罪で告訴することを予定していたことが認められるから、①の点については本件記事は真実であったと認めることができる。

しかし、本件記事において、原告の名誉を毀損しているとして問題とされる主要な部分は、訴状等の内容として引用・記載されている②の部分、即ち、原告によって子供らが監禁された等の部分であることは前述したとおりであるから、その点について真実であることが認められない以上、真実性の証明があったということはできない。

そうして、②の部分は主として本件訴状の内容を引用する形状のものであるところ、一般の読者の理解においては、そのような内容の訴状が存在し、そこでそのような主張がされているということだけでなく、さらに同記事の出所が訴状であり、かつ法律の専門家である弁護士が関わっていること等を併せ読むことによって、訴状等の内容となっている事実そのものまで真実として存在すると認識するのが通常であると思われる。したがって、たとえ引用の形式を取った記事で、その記事が引用した訴状の内容と一致する意味で真実であったとしても、更に、その内容となった事実そのものも真実であることが立証の対象とされるべきである。以下かかる内容の真実性の観点から、②部分の真実性について検討する。

2  真実性について

本件記事で訴状等から引用された内容のうち、問題となる主要部分は、「原告宗教に入信した妻が突然家出をし、原告道場などにこもり、子供らは学校にも通えず、監禁状態に置かれていた。」ことにあると理解される。この記事内容について、

(一) 被告らは、右記事内容は真実である旨主張し、被告甲野やその実姉ら作成の陳述書(<書証番号略>)には、平成元年三月一一日に、甲野花子が原告に入信したうえ、子供を連れて突然家を出ていってしまったこと、その後、同年九月に子供らだけが被告甲野のもとへ帰ってきたこと、そして、子供らは原告道場にいる間、学校に通えず、その内の二人は独房と呼ばれているところに二日間閉じ込められたことなど、本件記事の内容に沿う陳述が見られる。

しかしながら、右各陳述書の作成者は、当時いずれも原告や花子と対立する関係にあった者ばかりであり、原告道場内の状況について間接的にしか知りえなかったはずであるし、後記(二)に掲記の各証拠に照らしても、直ちに信用することはできない。

また、訴外甲野次郎の陳述を録取した書面(<書証番号略>)や子供達の陳述を録音したテープの反訳書(<書証番号略>)にも、右記事内容に沿う部分があるが、証人甲野花子及び同甲野雪子らが、各証言及び陳述書(<書証番号略>)において、本件記事内容の事実の体験者本人として、これを全面的に否定して、前記陳述部分に対して具体的かつ詳細な反論を加えており、さらに前掲テープ反訳書(<書証番号略>)を子細に検討すれば、本件記事の内容となった監禁行為についても、監禁された子供らが監禁された事実はないと受け取られる話をしていることが認められるから、右各陳述もたやすく信用することができない。

なお、他に本件記事の内容に沿うものとして証人平田及び同柴田建哉の各証言があるが、平田証言については、同人は、被告甲野及び子供らから事実を聴取しているところ、被告甲野は、道場内の状況についての情報源としては間接的であり且つ公平な立場にないし、子供らから事実を聴取したというその内容・経緯も、証人甲野雪子の証言と食い違う部分があること、柴田証言についても、記事内容の事実に関しては間接的な証言にすぎないことなどに照らし、いずれもたやすく信用することができず、他に前記各事実が真実であることを認めるに足りる証拠はない。

(二) かえって、証拠(<書証番号略>並びに証人甲野花子及び同甲野雪子)によれば、被告甲野は、花子に対し、以前から暴力を振るう傾向にあったところ、同女が昭和六二年一一月原告宗教に入信した後は、同女に脱会を求めてたびたび暴力を振るったこと、そのため、両者間で離婚話が持ち上がり、数か月にわたって連日のように話し合いがなされたが成立せず、平成元年一月同女から離婚調停の申立てがされたこと、同女は同年三月一〇日夜、被告甲野から強度の暴力を振るわれ、「子供を連れて出て行け。養育費は払わない。」などと言われたため、翌一一日子供達を連れて家を出たこと、そこで、同女は子供らとともに、自らの意思で信者や原告を頼って転々としたすえ、最後に原告総本部の道場へ行ったこと、その道場においては、内外を問わず自由に過ごすことができたこと、子供らの内男児二人が修行用の個室に入ったことはあったが、それは本人らの自由意思に基づくもので、いつでも出ることができたこと、子供らが学校に通わなかったのは、母親である花子が被告甲野に自分達の居場所を知られてしまうことを恐れたことや、学校では原告信者関係者に対するいじめがあると聞き、転校を考えていたためであることが認められる。

そうすると、花子らの家出は、同女の原告宗教への入信が契機となっていたにせよ、直接的には被告甲野の暴力や離婚話が原因となっていたものであり、また、子供達が原告に監禁された事実はなかったものと認めるのが相当であり、本件記事は真実ではないというべきである。

四争点3(記事内容が真実であると信じるにつき相当な理由の有無)について

1  今日の社会において被告新聞社のような大新聞社の発行する新聞に対する一般読者の信用は大きく、その記事の影響力も計り知れないものがあり、その紙上に掲載された事実は、一般の読者に真実であると受け取られるのが通常である。したがって、いやしくも人の名誉、信用を毀損するおそれのある事項に関しては、それが公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的で報道しようとする場合に限られるし、かつまた、たとえ新聞報道における報道の自由や迅速性の要請を考慮にいれても、より一層慎重な取材を行い、可能な限り内容の正確性を保つための確認作業をすることが要求され、かりそめにもこれを怠り誤った報道によって人の名誉、信用を不当に毀損しないよう十分に注意すべきいわゆる裏付け調査義務があり、かかる義務を尽くしたうえで初めて、記事内容を真実と信ずることに相当性、合理性があるといわなければならない(最判昭和四七年一一月一六日第一小法廷・民集二六巻九号一六三三頁参照)。

2  そこで、柴田記者及び被告稲積編集局長が本件記事内容を真実と信ずるにつき相当な理由があったかどうかについて検討する。

(一) 証拠(<書証番号略>、証人柴田及び同平田)によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告新聞社の柴田記者は、平成二年八月に被告新聞社社会部の司法担当になって、前任者から平田弁護士らが原告を相手方とする民事訴訟の提起を準備していることを口頭で引き継ぎを受けた。

(2) 柴田記者は、同月中旬ころ平田弁護士に電話取材を行い、同弁護士から「原告宗教に入信した母親が子供五名を連れて家を出て、その間子供達がコンテナーに三日間閉じ込められたことがあり、父親が原告となって原告法人を相手方として慰謝料の支払を求める損害賠償請求訴訟と原告を被疑者とする刑事告訴をする予定であり、本件訴訟については同年九月ころ提訴予定である。」旨聞かされた。

(3) 柴田記者は、同年九月一一日右訴訟の被告甲野の代理人である平田弁護士以外の他の代理人弁護士二名に電話取材を行い、平田弁護士の前記取材内容について具体的に確認したところ、いずれも平田弁護士からの取材内容と一致・一貫しており、特に、その一弁護士は右訴訟の訴状原案(<書証番号略>)に基づいて右取材に応答したことから、平田弁護士からの右取材内容は信憑性が高いと判断して右取材に基づき本件記事を作成した。

(4) しかしながら、柴田記者が行った取材活動は、右のとおり担当弁護士らに電話で話を聞いただけで、それ以上他に独自に取材したり、裏付け取材をしておらず、しかも、その取材も弁護士三人からそれぞれ一〇分ないし二〇分程度聞いたもので、その際取ったメモ(<書証番号略>)は、家出の状況や監禁の状況等に関する事情については断片的なもので、詳しく事情聴取をしたか疑わしいうえ、弁護士が電話口で訴状の原案をもとに応答している様子であることがわかりながら、実際に右訴状原案を確認するような取材もしていない。

(5) 加えて、右訴訟で被告とされた原告は、報道機関等外部からの問い合わせに対応をする広報部門として「外報部」を設けており、当時、他の報道には、原告の主張を右外報部から聴取しコメントして報道していた記事も存在していたことから、本件の場合も原告の外報部への問い合わせ取材が十分可能であった。

(6) しかるに柴田記者は、原告側に対し一切取材を試みようとせず、家出や監禁行為の関係者である花子や子供らに対して事情を確認する努力を全くしていない(なお、右訴訟で原告として訴えた本人(被告甲野)に対し直接取材するための努力もしていない。)。

(7) 柴田記者は、平田弁護士から、訴え提起後に福岡と東京で記者会見をする予定なので記事にするのはそれまで待ってもらいたい旨要請を受けていたし、記事化する前日には、他の代理人弁護士から、明日弁護団会議を行って、提訴につき最終的決定を行う趣旨の話を聞かされながら、右要請に従わず、また弁護団会議まで待たず、その決定を確かめることもなく、本件記事を作成した。

(二)  ところで、本件のように、その報道対象がまだ公表されない段階で、かつ、記事内容に関し対立する当事者が存在するため、一方当事者の供述の中に虚偽の事実や単なる憶測などが含まれやすいことが予想される場合には、単に内部事情に詳しい者の供述であるというだけで高い信用性があると判断するのは相当ではなく、対立当事者本人やその関係者からも可能な限り取材し、その真偽を確かめることを要するというべきである。とりわけ、本件記事内容が監禁行為という犯罪行為に係るものである上、監禁行為等が行われたとする道場内の状況に関する情報源となった平田弁護士らからの柴田記者の取材は、同人らが直接体験した事実ではなくて、被告甲野の子供らから同被告へ、さらに同被告から平田弁護士らへと順次伝達された伝聞事実を取材したというのであり、同記者もこれを認識したはずであったから、右伝聞経路の根幹部分にあたる花子らや原告教団に対する裏付け取材をし、その裏付けを得るべく最大限の努力をすべきことは、本件記事掲載に際して必要不可欠の前提をなすものと解されるし、また、それらの取材が可能であったことは前記のとおりである。

ところが、前認定のとおり、柴田記者は、複数の弁護士に対する取材(右取材は、それなりに評価すべきとしても、これらは、いずれも訴え提起や訴状の内容に関することであり、同内容の真実性に係るものではなかった。)のみで、それ以上、内容の真実性に関する裏付け取材をすることなく本件記事を作成したのであるから、右前提を欠くものといわざるをえない(弁護士は法律の専門家であり、一般的には信頼性があるとしても、訴訟においては一方当事者の代理人となる立場であり、取材に対しては依頼者である被告甲野に不利益とならないようにとの配慮のうえ応答する可能性も否定できないのであるから、取材源が弁護士であることのみをもって、前記必要不可欠な裏付け取材を要しないとする理由とはならない。)。

しかも、本件においては、本件記事がその性質上、さほど早急に作成・報道すべき緊急性があったものとは考えられない。加えて、柴田記者は、前認定のとおり、取材源から公表するまで待ってくれとの要請を受けたり、翌日まで待てば提訴の有無が確実に取材できたにもかかわらず、あえて、その前日早々と記事としたものである。

右によれば、柴田記者が、本件記事の作成にあたり、より慎重な取材を行い、記事の正確性に十分配慮した裏付け調査を尽くしたものとは評価できず、他に客観的な裏付けもないまま、しかも、緊急性もないのに早急に記事化したことに照らせば、同記者に、本件記事内容(訴状引用部分)を真実と信じるにつき相当な理由があったものとは理解できない。

そして、被告稲積編集局長、柴田記者が取材して執筆した本件記事について、その内容から原告の名誉を毀損しかねないことを容易に知り得たはずであるし、緊急を要する記事でもなかったから、記事の掲載を決定する立場にあるものとして、取材経過が前記のとおり必要不可欠な過程(裏付け取材)を経ているか否かを確認し、また、記事掲載の時期について十分配慮すべきであった。しかるに、同被告は、柴田記者に更に右のような事実確認をさせることもなく、前記認定のような取材経過しか経ていない記事を、ほとんどそのまま、しかも早急に記事として掲載させたのであるから、同被告に本件記事内容を真実と信ずるについて相当な理由があったと認めることはできない。

五争点4(慰謝料相当額及び謝罪広告の当否)について

1  弁論の全趣旨によれば、被告紙は、西日本一帯をシェアーとする一般地方紙として発行部数も多く、その社会的影響力も大きく、また、原告の活動について社会問題化した報道が繰り返された背景事情に鑑みると、本件記事がその朝刊社会面に記載されることによって、原告の社会的評価、信用が毀損され、その宗教活動にかなりの期間支障を生じるなど有形無形の損害を少なからず被ったことは明らかである。

もっとも、証拠(<書証番号略>及び弁論の全趣旨)によれば、本件記事掲載から本件口頭弁論終結時までほぼ三年が経過し、原告に対する社会的評価や原告を取り巻く状況もかなり変化・好転し、その信用もある程度回復していることが窺われること、また、本件記事掲載後、その内容となった被告甲野、妻及び子供らに関する人身保護請求事件等一連の事件経過が、前記認定のように妻や子供らに有利な形で展開し、これらについて被告紙も含め多くの新聞等で報道されたことによって、被告紙の一般読者に対して本件記事内容の当否を評価できる材料も提供されたこと等の事実が認められ、これらの事情を総合勘案すると、原告の名誉は事実上相当程度回復されていると解される。

2  そこで、右事情の外、本件名誉毀損行為の内容、違法性の程度、その他本件に顕れた諸事情を総合すれば、原告の右損害を慰謝するには五〇万円をもって相当と認める。

なお、原告は名誉回復処分として被告に謝罪広告の掲載を求めているが、右事情に鑑みれば、右金銭による損害賠償のほか、あえて謝罪広告を掲載させる必要はないというべきである。

六争点5(被告甲野の不法行為の成否)について

1  証人柴田及び同平田の各証言によれば、被告甲野は、直接被告新聞社柴田記者の取材を受け、情報を提供したことはないが、本件訴訟提起にあたって相談を持ちかけていた平田弁護士や同弁護士とともに右訴訟のため結成された弁護団に参加した他の弁護士に対しては、本件記事内容となった情報を提供していたこと、柴田記者は、平田弁護士らに取材して右情報を入手し、それを元に右記事を執筆した事実が認められる。

2  以上の事実を前提に、情報提供者たる被告甲野について不法行為の成否を判断するに、記事の材料を提供する者が、当初から故意に当該事項が事実に反し虚偽であることを知り又は過失によって知らずに、自己の情報提供によりその内容に従った記事が掲載される蓋然性が高いことを予測し、これを容認しながら、あえて情報提供をし、かつ右記事が掲載、頒布されれば、記事の内容から当然にある者の名誉が毀損されるに至ることを認識できるような場合には、情報提供行為と記事掲載との間には直接的な因果関係があるというべきであるから、提供者は不法行為責任を負うものと解される。

3  そこで、これを本件についてみるに、証拠(<書証番号略>、証人平田及び同甲野雪子)によれば、被告甲野は、本件記事掲載の八か月以上前から、本件記事の内容となった妻花子の家出と原告が子供達を監禁したことについて平田弁護士に相談したこと、その際、同被告は平田弁護士に対し、同被告が花子に暴力を振るっていたこと、離婚話が続いており、家事調停も継続していたこと及び同被告が花子らに家を出るように申し向けたことなど真実を述べなかったこと、平成二年七月ころから平田弁護士らは、被告甲野の主張通りの内容で原告を告訴することを決めていたほか、原告を被告とする損害賠償請求訴訟を提起するよう準備していたこと、平田弁護士らは、右告訴の提出や、損害賠償訴訟の提訴について、記者会見を開いてマスコミに発表する予定でいたが、被告甲野はそのことに賛成していたこと及び被告甲野は、原告に対し強く反発しており、そのための活動をしていたことが認められる。そして、右訴訟や告訴等の対象たる原告の監禁行為等が真実であるとは認められないことは前認定のとおりであるし、叙上認定の各事実に照らせば、被告甲野は、右真実でないことを知っていたものと推認するのが相当である。

右認定の事実によれば、被告甲野は、虚偽の事実と知りつつ、それがマスコミを通じて記事として掲載されることを予測しながら、本件記事の内容たる情報を提供したものである。しかも、その記事内容からすれば、それが記事となって新聞紙上に掲載、頒布されれば、原告の名誉を毀損するに至ることが容易に認識できたと推測されるのに、被告甲野はあえて右虚偽の情報提供を行い、その結果、被告新聞社と同様に原告の名誉毀損を招来したものであるから、同被告の原告に対する不法行為が成立し、これを慰謝するに相当な額は被告新聞社と同様の理由により五〇万円をもって相当と認める。

(裁判長裁判官川本隆 裁判官永松健幹 裁判官桑原直子)

別紙(二)

(謝罪広告掲載方法)

掲載誌紙名

各新聞

掲載紙面・記事の大きさ

朝刊社会面下段広告欄三段抜き

二六行分縦書き

活字

「謝罪広告」とある部分

32Q

ベタ

ゴナE

14Q

ベタ

行送り26H明朝

「宗教法人オウム真理教代表者麻原彰晃殿」とある部分

14Q

ベタ

ゴナB

「株式会社西日本新聞社」とある部分

14Q

ベタ

ゴナB

別紙(三)

別紙(一)

謝罪広告

当社が発行した「西日本新聞」平成二年九月一二日付朝刊において、「子供奪われ苦痛」「妻がオウム入信、夫、賠償提訴へ」等と銘打ち、オウム真理教に関する記事を掲載しましたが、オウム真理教側に対しては何らの取材もすることなく、甲野太側の発言を鵜呑みにし、報道機関に課せられた公平性、中立性を失したものであります。

当社の発表した右記事により、社会に対して、オウム真理教についての誤ったイメージを植え付け、オウム真理教の社会的信用・名誉を著しく傷付けたものであります。

よって、ここに右記事を取り消すとともにオウム真理教に対して深くお詫び申し上げます。

宗教法人オウム真理教代表者麻原彰晃殿

株式会社西日本新聞社

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