福岡地方裁判所 平成3年(わ)712号 判決 1991年10月25日
本籍
福岡市中央区白金一丁目五号七番地
住居
同区大宮一丁目二番三号
古物商
会社役員
杉野繁信
昭和一五年三月五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石井政治出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処する。
一 右罰金を完納することができないときは、金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
一 この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、古物商を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上等の一部を除外して仮名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和六二年分の実際所得金額が三三〇七万四八八二円(別紙(一)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同六三年三月二日、福岡市中央区天神四丁目八番二八号所在の所轄福岡税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の所得金額が三二三万五〇〇〇円で、これに対する所得税額が一九万八三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同六二年分の正規の所得税額一一五九万七八〇〇円と右申告税額との差額一一三九万九五〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れ、
第二 昭和六三年分の実際所得金額が六二四三万五七八円(別紙(三)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、平成元年二月二八日、前記税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の所得金額が三一一万円で、これに対する所得税額が二〇万六〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同六三年分の正規の所得税額二五〇一万六〇〇円と右申告税額との差額二四八〇万四六〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れ、
第三 平成元年分の実際所得金額が一七八五万二七八一円(別紙(五)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同二年三月一日、前記税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の所得金額が二九八万六四〇〇円で、これに対する所得税額が一九万七五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同元年分の正規の所得税額四一六万六四〇〇円と右申告税額との差額三九六万八九〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書
一 菅秀幸、江河直、村田達興、梶原福松及び井上高行の検察官に対する各供述調書
一 村田達興作成の上申書
一 収税官吏作成の脱税額計算書説明資料
一 収税官吏作成の平成三年一月八日付け査察官調査書
判示第一及び第二の各事実について
一 収税官吏作成の各査察官報告書
判示第一の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六二年分)
一 押収してある六二年分の所得税の確定申告書一綴(平成三年押第一九七号の1)
判示第二の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六三年分)
一 押収してある六三年分の所得税の確定申告書一綴(同押号の2)
判示第三の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(平成元年分)
一 押収してある元年分の所得税の確定申告書一綴(同押号の3)
(なお、検察官は昭和六二年分の事業主借は、八七九万五七二六円であると主張し、その根拠として福岡中央銀行長尾支店の村田美保名義の定期預金の同年分の受取利息は、三五万六二一七円とするが、村田達興作成の上申書(添付の村田美保名義の定期預金払戻請求書写参照)によれば右利息は三六万五二一七円と認められるので同年分の所得金額は検察官主張額より九〇〇〇円減額した金額が正当である。)
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するので、所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、右加重した刑期及び合算した金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、古物商を営む被告人が、その所得を隠蔽するなどして、三年度にわたり一億円余の所得を隠匿し、約四〇〇〇万円の所得税を免れたという事案であるが、逋脱額が相当多額に上っており、逋脱率も約九八・五パーセントと極めて高率である。しかも、多数の仮名、借名の口座を設定し、真実の収支を記載した唯一の帳簿を廃棄するなどその態様も悪質であり、国民の基本的義務である納税義務を故意に免れた点において、その犯情は芳しくない。
しかしながら、被告人は、本件の摘発後は、進んで真相を述べる等反省の態度も窺われ、本件以前の分も含めて本税、延滞税等を既に納付済みであること等被告人に酌むべき事情も認められるので、以上の事情を総合考慮すると、被告人を主文の刑に処するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 井口修 裁判官 梅本圭一郎)
別紙(一) 修正貸借対照表(総所得)
<省略>
修正貸借対照表(事業所得分)
<省略>
修正貸借対照表(雑所得)
<省略>
別紙(二)
<省略>
別紙(三) 修正貸借対照表(総所得)
<省略>
修正貸借対照表(事業所得分)
<省略>
修正貸借対照表(利子所得分)
<省略>
修正貸借対照表(雑所得分)
<省略>
修正貸借対照表(総合長期譲渡所得分)
<省略>
別紙(四)
<省略>
別紙(五)
修正貸借対照表(総所得)
<省略>
修正貸借対照表(事業所得分)
<省略>
<省略>
修正貸借対照表(利子所得分)
<省略>
修正貸借対照表(総合長期譲渡所得分)
<省略>
別紙(六)
<省略>