福岡地方裁判所 平成3年(わ)833号 判決 1991年12月19日
本店所在地
福岡市東区多の津一丁目一一番六号
株式会社侶丹
(右代表者代表取締役 日永實富)
本籍
愛知県江南市大字松竹字東瀬古九二番地
住居
福岡市東区八田二丁目四番五号
会社役員
堀孝
昭和一八年八月二八日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官都甲雅俊出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人株式会社侶丹を罰金一二〇〇万円に、被告人堀孝を懲役一年各に処する。
一 被告人堀に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社侶丹(以下「被告会社」という。)は、福岡市東区多の津一丁目一一番六号に本店を置き、衣料品の卸売業を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人堀孝は、昭和五一年一一月から同六二年九月までは、同社の部長として、同月からは、同社の常務取締役として、同社の業務全般を実質的に統括していたものであるが、被告人堀孝は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を隠匿した上、
第一 同六〇年八月一日から同六一年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八九五万九四三一円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六一年九月二六日、福岡市東区香椎駅前二丁目一〇番三三号所在の所轄香椎税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四二二万四七四円で、これに対する法人税額が一三五一万七一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二四二二万五二〇〇円と右申告税額との差額一〇七〇万八一〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を)免れ、
第二 同六一年八月一日から同六二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八〇〇万五三五五円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六二年九月二九日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四一八二万四三一〇円で、これに対する法人税額が一六七三万二二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二三〇〇万四二〇〇円と右申告税額との差額六二七万二〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を)免れ、
第三 同六二年八月一日から同六三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九二七一万五三六七円(別紙(五)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六三年九月二六日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四九九八万九五二〇円で、これに対する法人税額が一九六二万一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三七五五万九一〇〇円と右申告税額との差額一七九三万九〇〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を)免れ、
第四 同六三年八月一日から平成元年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九九九〇万六九三九円(別紙(七)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、平成元年九月二七日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六五四七万一三七七円で、これに対する法人税額が二六一五万六八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四〇六一万六一〇〇円と右申告税額との差額一四四五万九三〇〇円(別紙(八)税額計算書参照)を)免れ、
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人堀孝及び被告会社代表者日永實富の当公判廷における各供述
一 被告人堀孝及び被告会社代表者日永實富の検察官に対する各供述調書
一 柿元嵩及び峰照代の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏の日永誠夫に対する質問てん末書
一 収税官吏作成の脱税額計算書説明資料
一 収税官吏作成の平成三年七月四日付け査察官調査書
一 検察事務官作成の電話聴取書
判示第一の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六〇年八月一日から始まる事業年度のもの)
一 押収してある確定申告書一綴(平成三年押第二三七号の1)
判示第二ないし第四の各事実について
一 収税官吏作成の平成三年七月一一日付け査察官調査書
判示第二及び第三の各事実について
一 収税官吏作成の平成三年八月三日付け査察官調査書
判示第二の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六一年八月一日から始まる事業年度のもの)
一 押収してある確定申告書写一綴(前同押号の2)
判示第三及び第四の各事実について
一 収税官吏作成の平成三年七月一九日付け各査察官調査書
判示第三の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六二年八月一日から始まる事業年度のもの)
一 押収してある確定申告書一綴(前同押号の3)
判示第四の事実について
一 収税官吏作成の脱税額計算書(昭和六三年八月一日から始まる事業年度のもの)
一 押収してある確定申告書一綴(前同押号の4)
(法令の適用)
被告人堀孝の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
被告人堀の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきころ、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一二〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告会社の業務全般を統括していた被告人堀が、四事業年度にわたり、被告会社の合計一億一八〇八万円余りの所得を隠匿し、合計四九三七万円余りの法人税を免れたという事案であり犯行が長期間にわたっており逋脱額が相当多額に上っていること、その手段は、親会社や架空の業者から架空の仕入れを行ったように装ったり、棚卸しを除外するというもので、架空の仕切書や納品書を作成させていることなどを考慮すると犯情は芳しくなく、国民の基本的義務である納税義務を不正に免れた点において、強い非難に値する。
しかしながら、被告人堀は、私腹を肥やすために犯行に及んだとは認められないこと、逋脱割合もこの種事案の中では必ずしも高率ではないこと、本件の摘発後は、すすんで真相を述べ、調査に協力する等反省の態度も窺われること、本件は会社ぐるみの組織的犯行ではなく、被告会社は、既に修正申告をなし、本税等も納付済みであること等被告人らに酌むべき事情も認められるので、これらの事情を総合考慮の上、被告人両名を主文の刑に処するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 井口修 裁判官 梅本圭一郎)
別紙(一)
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙(二)
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙(四)
<省略>
別紙(五)
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙(六)
<省略>
別紙(七)
修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙(八)
<省略>