福岡地方裁判所 平成5年(ワ)3065号 判決
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、二五六八万三六〇〇円及びこれに対する平成三年九月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、昭和六三年一二月から平成元年三月二〇日までの間、福岡県宗像郡<以下省略>において須多田川災害関連工事第二工区を実施し、工事区域の東端にある橋梁の架替のための基礎工事(以下「本件工事」という。)を行った。
2 原告は、福岡県宗像郡<以下省略>(本件工事の行われた橋梁から約三〇メートル西側の須多田川左岸)において、木造瓦葺二階建の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。
3 平成元年五月ころ、本件建物の浴室タイルにひび割れが生じ、平成二年四月二八日、本件建物の敷地の不同沈下とそれに伴う狂いが見られ、同年一一月には、右不同沈下及び狂いの進行が顕著となった。現在は地盤の沈下は一応落ち着いたものと見られるが、これまでの不同沈下の結果、本件建物には、柱の傾斜、壁のひび割れ、建具の狂い等が生じている。また、本件建物に付属するブロック塀にも、傾斜、隙間が見られる。
4 以上の本件建物の敷地の不同沈下は、本件工事によるものである。本件工事施工場所の地下には被圧地下水帯が存在する可能性が高く、本件工事により被圧地下水帯に穴をあけ、間隙水圧が下がって地盤沈下を起こすほか、地下水帯をはさんでいる不透水層自体が圧密沈下を起こす危険性があり、この地盤沈下によって周辺の家屋に影響を及ぼすことは十分に予見可能であるから、被告はその対策を講じた上で本件工事を施工する注意義務があったのに、これを怠り、十分な調査を実施することなく、漫然と本件工事を実施した過失により、3記載の本件建物及び付属ブロック塀の損傷を生じさせた。
5 (4の予備的な主張)
本件工事の施工場所には、地表から三メートル付近まで自然地下水が上がっているのであるから、本件工事によって自然地下水が流出すれば、周辺部分の間隙水圧の低下を惹起し、二次的に周辺の軟弱地盤の沈下を誘発すること、特に本件建物のように軟弱地盤上に造成した土地上の建物はその影響を受けやすい構造にあることは予見可能であった。被告は、周辺地盤の状況を調査して、掘削による自然地下水の流出が発生した場合には、これによって周辺地域の二次的な地盤沈下が発生しないよう、自然地下水の流水を最小限にとどめる対策を講ずるべき注意義務があった。
6 3記載の損傷の具体的な損害額は以下のとおりである。
(一) 本件建物の建替費用 二〇七九万四六〇〇円
(二) ブロック積替費用 二八八万九〇〇〇円
(三) 予備的主張、土台水平化工事による修補費用 九四一万七三七七円
(四) 調査費用 一八八万四九〇〇円
(五) 弁護士費用 二二五万●●●円
7 よって、原告は、被告に対し、国家賠償法に基づく損害金中、二五六八万三六〇〇円及びこれに対する不法行為後である平成三年九月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は否認する。被告が本件工事を計画して株式会社占部組(以下「占部組」という。)に発注し、占部組が本件工事を施工した。
2 請求原因2の事実は認める。
3 請求原因3の事実中、平成二年四月二八日に本件建物の不同沈下とそれに伴うと思われる建物の歪みが見られたことは認め、その余は不知。
4 請求原因4、同5の各事実は全部否認する。
本件工事と本件建物の損傷との間の因果関係は存在しない。本件建物の敷地の問題(軟弱地盤上の盛り土の造成不良)によるものである可能性が高い。
5 請求原因5の事実はいずれも不知である。
本件建物の壁のひび割れ及び建具の狂いは、建築後の年月の経過とともに一般に生じる軽度のものであり、本件建物を居宅として使用する上の障害ではなく、本件建物のベタ基礎自体にも損傷はない。したがって、建替も土台水平化工事も必要ない。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 認定事実
証拠(甲第三号証、第六、第七、第一二、第一三、第一九、第二〇号証、乙第一ないし第五号証、第九ないし第一五、第一九号証、証人B、同C、同D、原告本人)を総合すると、次の各事実を認めることができる。
1 本件工事の施工
須多田川が昭和六二年七月に集中豪雨により氾濫したため、被告は、須多田川河川災害関連工事を計画し、本件工事を含む第二工区は占部組が受注した。
占部組は、昭和六三年一一月に工事に着工した。同年一二月一二日から一六日にかけて、占部組の下請である大同コンクリート工業株式会社は、直径四〇センチメートル、長さ一二メートルのコンクリート杭一二本を、中堀最終打撃工法(杭の中空部にスパイラルスクリューを挿入し回転させながら杭先端部の土砂をスクリューで巻き上げ排土しつつ杭を圧入して、計画支持層に達した後モンケンで打ち込んで支持力を確認する工法)によって、橋台天端から一五・四〇〇メートルまで埋設した。その後、占部組は、橋梁の基礎部分の工事空間を確保するため基礎の周辺の地中に土止め用の鉄鋼製矢板を油圧で押し込み、その間に筋張り(支保工)を差し渡した後、矢板の内側の土砂を約四・一メートルの深さまで掘り出した。そして、コンクリート杭上に橋台を立てるための基礎をコンクリートで打設し、その上に型枠を用いて橋脚を打設して、橋桁を載せた後埋め戻して、平成元年三月に本件工事を終了した。
2 本件工事の現場付近の地層及び地下水位
本件工事場所と本件建物の中間地点で、本件建物敷地北東の角から約二〇メートル、本件の橋梁南西先端部から約一〇メートルの位置(以下「地質調査地点」という。)における地層は、地質調査地点の標高(四・六一メートル。以下、この高さを「GL」という。)より四メートルの深さまでは盛土、四ないし五・六五メートルは礫混じり砂、五・六五ないし七・八〇メートルはシルト混じり砂、七・八〇ないし八・九五メートルは粘土混じり砂礫、それ以深は風化花崗岩である。右地層のうち、風化花崗岩以浅の地層はN値(重量六三・五キログラムのハンマーを七五センチメートルの高さから自由落下させて標準貫入試験用サンプラーを三〇センチメートル打ち込むのに要する打撃回数)が五ないし二七を示す比較的耐力の小さい軟弱な地層である。
右地質調査時である平成八年五月二七日における孔内水位はGLから三・二八メートルであり、そのころに湧水圧試験(ボーリング孔内をパッカーにより任意の区間に区切り、測定管内の水位を上昇させ、平衡水位を求める試験)及び水頭測定(人為的に測定孔内水位を変化させ、その回復過程及び平衡水位を測定する試験で、試験区間の透水係数を求めることもできる。)がされた際の孔内水位はGLから三・七五ないし四メートルの深さにあった。
本件工事場所付近の風化花崗岩以浅の地層はいずれも日本統一土質分類では粗粒土に当たる土質からなり、比較的透水性が高く、右水頭測定によれば、最も透水性が低いとみられるシルト混じり砂層(GLから七・五ないし八・〇メートルの部分で測定)でもその透水係数は一・六六×一〇のマイナス四乗センチメートル毎秒であり、特に不透水層と呼べるような地層ではない。
また、右湧水圧試験及び水頭測定によれば、GLから七ないし八メートルの間の層(粘土混じり砂礫)及びGLから一〇ないし一二メートルの間の層(風化花崗岩)において、地下水は被圧されていない。一般に、このように比較的透水性の良い砂質層では地下水の低下から地盤沈下まで時間的遅れはあまりなく、沈下量も比較的小さい。
本件建物は平坦な津屋崎平野に所在し、その地質構造は盛り土を除き、ほぼ地質調査地点のそれと同様であると考えることができる。
3 盛り土及び本件建物の建築
本件建物の敷地の盛土は、昭和六〇年一〇月七日から同月一二日までの間に、有限会社堺土建が造成したものであり、その際、真砂土を一一〇センチメートル埋め立て、三回転圧をかけた。その後、昭和六一年一月五日に建築が始まり、同月二〇日頃に棟上げが済み、同年三月中旬ないし下旬に本件建物が完成した。
4 本件工事時の流水の状況
中堀最終打撃工法を用いてコンクリート杭を埋設した際及び鉄鋼製矢板を打設した際には、特に地下水の流出はなかった。その後の土砂掘削工事の際、鋼鉄製矢板の間等から地下水の流出は認められたが、その量は土砂を掘削した底に水たまりを作る程度であった。
5 事前調査の結果及び本件建物の状況
芳野測量設計株式会社は、被告の依頼により、本件工事前の昭和六三年一一月八日に本件建物と周囲のブロック塀の調査(以下「事前調査」という。)を、工事終了後の平成元年三月二三日、平成二年四月二八日、同年一一月二日及び平成三年八月二七日に四回にわたり測量調査(以下それぞれ「第一ないし第四回事後調査」という。)をそれぞれ実施した。その結果は以下のとおりである。
(一) 不同沈下
事前調査において、本件建物の敷地外の道路の基準点から測定した本件建物の基礎の立ち上がり部分(天端部分)と壁の境目(本件建物新築当時は同じ高さであると考えられる。)の相対的な高さは、本件建物の玄関付近の別紙図面のA点で一〇七九ミリメートル、B点で一〇七二ミリメートル、C点で一〇六〇ミリメートル、D点で一〇四四ミリメートルであった。同様に、本件建物の東側ブロック塀はE点で二三〇五ミリメートル、F点で一九〇二ミリメートルであった。これらの数値を基準にすると、以後の調査におけるAないしF点と右基準点との相対的な高さには次のような変化が見られた。
第一回事後調査では、A点は一ミリメートル、B点は一ミリメートル、それぞれ高く、C点は変化なく、D点は二ミリメートル高くなっていた。E点、F点は変化がなかった。
第二回事後調査では、A点は変化なく、B点は三ミリメートル、C点は五ミリメートル、D点は六ミリメートル、E点は七ミリメートル、F点は五ミリメートル、それぞれ低くなっていた。
第三回事後調査では、A点は一〇ミリメートル、B点は一八ミリメートル、C点は一九ミリメートル、D点は八ミリメートル、E点は一二ミリメートル、F点は二ミリメートル、それぞれ低くなっていた。
第四回事後調査では、A点は九ミリメートル、B点は一六ミリメートル、C点は二一ミリメートル、D点は七ミリメートル、E点は一三ミリメートル、F点は三ミリメートル、それぞれ低くなっていた。
(二) 柱の傾斜
事前調査において本件建物の柱の傾斜を測定した結果は、それぞれ傾斜の存在が認められ、その数値は、第一回事後調査でも変化はなかった。その後、第二、第三回事後調査において、柱の傾斜は、事前調査の測定値に比べて柱の傾斜は複雑に変化した。そして、第四回事後調査においては、ほぼ事前調査及び第一回事後調査における状態に戻った。
(三) 床の傾斜
事前調査の際には、本件建物一階の東南及び中央の六畳和室の敷居(南北方向)と、玄関上がり口(東西方向)において床の傾斜を測定したが、ともに特に傾斜は見られず、これは第一回事後調査でも同様であった。
しかし、玄関上がり口について第二及び第三回事後調査で測定した際には、それぞれ〇・三ミリメートル(一メートルに対する傾斜量、以下同じ)、〇・七ミリメートルの傾斜が見られた。
第四回事後調査では、和室の敷居で〇・二ミリメートル、玄関上がり口で〇・二ミリメートルの傾斜が、それぞれ見られた。
(四) クラック
事前調査の際に、本件建物の外壁・内壁、巾木、浴室タイル及び本件建物に付属する車庫のコンクリート床にクラックのあることが確認された。そして、これらのクラックには第一回事後調査の際は特に変化は見られなかった。
第四回事後調査の時点では、これらのクラックについて長さや幅の拡大が見られ、また事前調査及び第一回事後調査の際には見られなかったクラック又はちり切れが新たに見つかる等の変化があった。
(五) 建付
事前調査においては本件建物の建付に特に異常はなく、これは第一回事後調査でも同様であったが、第二回事後調査において、サッシや障子を閉めたときに隙間ができ(事前調査及び第一回事後調査で確認されていない事項)、第四回事後調査において、建付が重くなっていることが確認された。
(六) ブロック塀
事前調査において、別紙図面のG点のブロック塀同士の境目に幅一〇ミリメートルの目地割れがあり、この幅は第一回事後調査の時も変化はなかったが、第四回事後調査では一四ミリメートルに拡大していた。
6 本件建物をめぐる交渉経緯
平成元年五月ころ、原告は被告に対し、本件建物の浴室タイルにひび割れがある旨連絡し、同年一〇月ころまでに、被告の依頼を受けた占部組が、本件建物の浴室タイルの修理及び本件建物の敷地の東南角の擁壁(この部分は事前調査の対象ではなかった。)の補強工事を行い、その費用約二〇〇万円の約半額を被告が単独土木事業費名目で負担し、その余は占部組が負担した。
被告が芳野測量設計株式会社に本件建物の補修方法の検討を依頼し、右会社は本件建物をジャッキアップしてその下にコンクリート基礎杭を入れるという修復方法を考え、平成二年一二月二五日、被告は当該修復方法に係る見積書を原告に提示し、修補費用を占部組と原告とで負担することを提案した。
7 現在の状況
現在、本件工事により設置された橋梁とそれにつながる道路面との間には右岸側(本件建物とは反対側)にわずかなクラックが見られるものの、特に段差は生じておらず、護岸のコンクリートの繋ぎ目にも特に段差は生じていない。
右認定に反して、原告本人尋問の結果中には、本件工事場所から大量の出水があった旨の供述があるが、その具体的な内容は伝聞によるものであり、直接の検分は水が溜まっていたというものに過ぎないから、右供述は、右認定事実を左右するものではなく、右認定事実の限度では、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
二 本件の主たる争点は、本件工事と本件建物等の損傷との因果関係であるが、この点に関する原告の具体的な主張は、次の点である。
1 本件建物は、昭和六一年三月の新築時から約三年間は異常がなかったのに、本件工事後である平成元年五月ころにいたってタイルのひび割れ、建付の不良等の異常が発生し、平成二年四月の第二回事後調査において不同沈下が見られ、第三回事後調査においてそれが顕著となった。この間の不同沈下の原因としては、昭和六三年一一月から平成元年三月までの本件工事が考えられる。
2 右不同沈下の原因としては、被圧地下水帯に穴をあけたことが考えられる。一般に、被圧地下水を流出させた場合には、当初は地下水圧が下がったことによる沈下が発生し、その後、徐々に地下水帯を挟んでいる上下の保水層から水が補給されて保水層自体が圧密を起こして長期間に亘って地盤沈下が発生するものと指摘されている。本件における地盤沈下を見ると、本件工事が終了してから数か月後に地盤沈下が生じ始め、その後、約二年間に亘って、地盤沈下が進行したものであるから、被圧地下水を流出させたことによる地盤沈下現象が発生したと考えるのが最も合理的である。
3 (2の予備的な主張)
本件工事の施工場所には、地表から三メートル付近まで自然地下水が上がっているのであるから、本件工事によって自然地下水が流出すれば、周辺部分の間隙水圧の低下を惹起し、二次的に周辺の軟弱地盤の沈下を誘発する可能性があった。これが本件の地盤沈下の原因と考える可能性がある。
三 原告の主張する二1の点について検討する。
前記認定のとおり、事前調査の際の基礎の立ち上がり部のレベルを見ると、別紙図面のA点、つまり、本件建物の中央部分と比較して、同図面のB、C点、つまり、本件建物の東西の端部分のレベルが下がっていることが認められる。そして、第二、第三回事後調査において認められる本件建物の不同沈下の結果も、やはり、本件建物の中央部分と比較して、東西の端部分の沈下が顕著であるのだから、本件工事の前から本件建物は東西に下がっていたものが、本件工事後、二年間の間に沈下が一層進行して顕著になったと認定するのが相当であるというべきである。そして、事前調査の段階からタイルのひび割れ、基礎の立ち上がり部分の亀裂、柱の傾き等の異常が認められていたのであって、この点も、右判断を裏付けるものであるといい得る。なお、証人Eの証言中には、モルタルを塗っているので同一水平面上に施工されるとは限らず、事前調査段階での不同沈下は認められない旨の供述があるが、事前調査結果における東西と中央部分とのレベルの差は七ないし一九ミリメートルであって、これをモルタル施工による誤差と考えるのは相当でないし、東西の端部分が一様に下がり、しかも、その傾向が事後調査においても一貫していることが偶然によるものとは考え難いことから、右供述は、右判断を動揺させるものではない。
以上の検討からすれば、原告の主張する二1の点を認定することは困難であるというべきであって、この点のみを取り上げて考察しても、原告の因果関係に関する主張は採用できないことになる。
四 次に、原告の主張する二2の点について検討する。
確かに、一般的知見として、被圧地下水を流出させた場合には、当初は地下水圧が下がったことによる沈下が発生し、その後、徐々に地下水帯を挟んでいる上下の保水層から水が補給されて保水層自体が圧密を起こして長期間に亘って地盤沈下が発生し得るものと考えられる。しかし、前記認定のとおり、本件建物の敷地の盛り土部分を除いて本件建物の敷地の地層と基本的に同一の地層であると認められる地質調査地点における調査結果によれば、その地層構成は、粗粒土に当たる土質からなり、比較的透水性が高く、水頭測定によれば、最も透水性が低いとみられるシルト混じり砂層の透水係数を見ても、特に不透水層と呼べるような地層ではない。また、被圧地下水帯となり得る可能性の高い深度において実施した湧水圧試験の結果によれば、いずれの深度においても試験区間自然水位が孔内自然水位よりも低く、測定区間が被圧されていないという測定結果となっている。
以上の検討によれば、原告の主張する本件工事地点に被圧地下水帯の存在は立証されていないばかりか、むしろ、その存在の可能性は否定されることとなり、被告の主張する注意義務違反の前提にそもそも理由がないことになる。
五 さらに、原告の主張する二3の点について検討する。
原告の主張する二3の点は、そもそも自然地下水の流出が、どのようなメカニズムによって地盤沈下を惹起するかについての立証がなされていないから、そもそも理由がないことは明らかである。さらに付言するに、自然地下水の流出によって地盤沈下が発生したという推論は、自由地下水は常に周囲の水源(河川、田等)から補給されることが容易に推認でき、広範囲にわたる地下水位の大幅な低下があったとは考えにくく、本件工事現場から三〇メートルも離れた場所において地盤沈下が発生した理由の説明が困難であるし、前記認定のとおり、本件工事直後の第一回事後調査において特に異常が認められず、本件工事後二年間に亘って地盤沈下が進行した理由の説明が明らかでないことから見て、到底採用する余地のないものである。
六 原告の主張二は、1と2又は3が成立して初めて理由があるという構成であるが、右判断によれば、いずれの事実も立証されておらず、かえって、全部についても反対事実ないし相反する事情が存することになるから、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求には理由がないことになる。
かえって、前記認定によれば、本件建物の沈下が、別紙図面のB地点及びC地点で大きく、A地点及びD地点で小さいという傾向にあり、本件工事場所に近接した地点の方が沈下量が大きいという現象が見られず、不同沈下の態様が本件工事場所と関連性を持っていないこと、基礎杭により地下の風化花崗岩に支持されているから沈下することがない橋梁と、それに接続している道路面との間に特に段差等が生じていないこと、本件建物が軟弱地盤の上に盛り土がなされてから短時間に建築されたものである一方で、本件建物の不同沈下が、その敷地である盛り土の中央部分に比較してその両端部分において沈下量が大きいことは、盛り土の沈下の一般的な傾向に沿うものであることという、本件工事と本件建物の不同沈下との因果関係を否定する各事情が存在するものと考えることができるから、この点から見れば、なおさら、原告の請求は理由がないことになる。
なお、前記認定のとおり、被告は、平成元年一〇月ころまでに、占部組に依頼して、本件建物の浴室タイルの修理及び擁壁の補強工事を行い、その費用の半額を負担した事実及び平成二年一二月二五日に本件建物の補修費用の一部を占部組が負担することを提案した事実は、いずれも、被告が、原告の要求の内容を検討して本件工事との因果関係を確認した上で行ったものと認める根拠はないから、右各事実から、原告の請求に根拠付けることはできない。
七 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邉弘)
<以下省略>