大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成5年(ワ)3841号 決定 1994年2月22日

主文

一  補助参加人の本件補助参加を許可する。

二  補助参加についての異議に関する訴訟費用は、被告の負担とする。

理由

一  本案事件の概要

本件の本案事件の概要は、以下のとおりである。

株式会社県庁前ビルは、昭和二二年一〇月三〇日に、被告から、賃貸借期間を昭和五四年六月三〇日までとして、福岡市の中央部分に所在する本件係争土地(訴状添付の物件目録一記載の土地)を賃借した。そして、同社は、昭和二三年ころ、本件係争土地の南側部分に、第一建物(訴状添付の物件目録二記載の土地)を建築し、また、株式会社県庁前ビルの代表者は、昭和二五年ころ、後に原告高野省三が所有することとなつた第二建物(訴状添付の物件目録三記載の土地)を建築した。

株式会社県庁前ビルは、昭和三五年七月ころ、右第一建物を、区分所有の建物として分割し、後に、原告高野省三を除く原告ら及び補助参加人が、それぞれ右分割後の区分所有建物を所有することとなつた。なお、この間の昭和三八年一一月に、株式会社県庁前ビルによる各建物の譲渡に関して、当時の建物所有者と被告との間に、「土地賃貸借契約書」と題する書面が作成されている。

ところが、右各建物について、平成五年五月二三日に火災が生じ、平成六年一月には、これらの建物は取り壊されるに至つた。

原告らは、本案事件において、被告の承諾を受けた上で本件係争土地上の建物の譲渡を受けることに伴つて、その敷地部分の賃借権(第一建物の区分所有者である原告高野省三を除く原告らについては、その底地に関する賃借権の準共有持分権)を取得し、かつ、これらの賃借権は、当初の契約期限である昭和五四年六月三〇日の到来後も、旧借地法(大正一〇年四月八日法律第四九号)六条の規定に基づく法定更新により、その期間は平成一一年(昭和七四年)六月三〇日までとされていたと主張して、それぞれの賃借権の存在の確認を求めている。

これに対し、被告は、<1>被告は、昭和三八年ころ、株式会社県庁前ビルが本件係争土地上の各建物を勝手に分譲していたことを知り、その解決のために、同年一一月二〇日、原告高野省三を除く原告ら又はその前主との間に、新たに、それぞれの所有する第一建物中の区分所有建物の敷地部分について、期間を昭和五四年六月三〇日までとする賃貸借契約を締結し、また、昭和三八年一一月三〇日、原告高野省三の前主との間に、新たに、第二建物の敷地部分について、期間を昭和五四年六月三〇日までとする賃貸借契約を締結した、<2>右の新たな各賃貸借契約の期間は、旧借地法二条の定める最低存続期間よりも短いものであるので、同法一一条の規定により無効であり、結局、同法二条の規定に従つて、第一建物の区分所有者である原告高野省三を除く原告らに関しては、それぞれの賃貸借契約の期限は平成五年(昭和六八年)一一月二〇日となり、第二建物の所有者である原告高野省三に関しては、その賃貸借契約の期限は平成五年(昭和六八年)一一月三〇日となつた、<3>被告は、前記のとおり第一及び第二各建物が平成五年五月に火災にあつた直後に、原告らに対し、本件係争土地上に建物を再築することに異議を述べるとともに、神社の境内を広くし都市の憩いの場として整備する必要がある等の事由により、それぞれの契約期限の満了後の契約の更新を拒絶する意思表示をした、等と主張して、契約は既に終了しているとして争つている。

二  補助参加人の参加理由及びこれについての被告の異議理由

補助参加人は、第一建物の区分所有者の一人だつた者であり、やはり被告から賃貸借契約の終了を主張されているが、これを争つて地代相当額の供託を続けている(以上についての疎明資料として、補助参加申立書に、不動産登記簿謄本及び地代供託書写しが添付されている。)。

被告が、補助参加人の本件補助参加についての異議の理由として述べるところは、補助参加人の主張しようとする賃借権と、原告らのそれとは、相互に独立のものであるから、補助参加人は、原告らに対する補助参加ではなく、別に訴訟を提起した上で争うべきである、というものである。

これに対し、補助参加人は、<1>補助参加人は、昭和三八年一一月に、原告ら又はその前主とともに、第一建物の無断分譲問題をめぐる被告との間の「土地賃貸借契約書」の作成に関与しているほか、現時点における状況はすべて原告らと共通であつて、実質的には紛争の当事者として利害関係を有している、<2>ただ、これまでのところ、経済的な問題もあり、原告らとは別の行動をとつていたが、将来的には、自ら訴訟を提起するなどして、原告らと共同の行動を行うことも検討している、と述べた。

三  検討

原告らと補助参加人との関係については、それぞれの主張する賃借権は相互に独立のものであつて、各自の法律上の地位が論理的に結びついているわけではない。この点は、被告の指摘するとおりである。

しかしながら、当裁判所は、本件の紛争の実態に即して考えると、補助参加人の本件補助参加を許可して主張立証の機会を与えるのが、衡平に適い妥当であると判断する。

すなわち、

(1) 本件紛争における被告との関係で、補助参加人の置かれた立場が原告らと共通のものであることは、被告自身においても認めるところであるが、ただ、その同様の状況にある関係者の間でも、各種の事情から、紛争の解決に向けての考え方に相違が生ずることは、容易に推測し得るところである。

(2) ところで、訴訟の紛争解決機能に着目して考えると、本件の原告らと補助参加人との間に見られるように、当面の訴訟当事者と共通する問題を抱えながら、紛争の解決に向けての考え方が必ずしも同一といえない関係者が、補助参加の形で訴訟手続への関与を求めてきた場合に、その関与を認めることは、当該訴訟の審理を通じて、紛争の内容の認識を重層的に深める上で意義があり、紛争の実態に即しての抜本的かつ柔軟な解決方法を見つけだす端緒を探る上でも有効というべきである。

(3) 殊に、本件補助参加人は、本件事案の中心争点と見込まれる、昭和三八年一一月当時の第一及び第二各建物の所有者と被告との交渉に直接関与していることが窺われ(甲二の「土地賃貸借契約書」には、補助参加人の署名押印が見られる。)、補助参加人の本件訴訟手続への関与を認めることは、事案の解明上も有益であると考えられる。

(4) なるほど、補助参加人と被告との間には、本件本案訴訟の結果によつて、補助参加人の賃借権の存否に関して直接的な既判力が生ずるわけではなく、その意味では、被告が補助参加人との間での正式の訴訟を希望することも十分理解できる。

しかしながら、被告と補助参加人との間に社会実態として紛争が存在する状況下において、補助参加人が自ら訴訟を提起しない場合には、被告側において補助参加人を相手方として賃借権不存在確認訴訟を提起することも可能な方法として考えられるところ、被告がこの方途を選択しないのは、被告自身の都合によるところと見ることもできるのであつて(なお、当裁判所は、平成六年二月八日の本件本案の第一回口頭弁論期日において、被告側に対して右のような訴訟を提起する考えがあるかどうか確認したが、被告は、当面右のような行動をとる意思はない旨回答した。)、補助参加人側の事情を一方的に批判することは妥当でないというべきである。

かえつて、たとえ補助参加という中間的な形態にせよ、社会実態として存在する紛争を放置することなく訴訟過程に上程して正式に扱うことは、被告自身にとつても利益な面があるとも考えられる。この点は、仮に本件本案終了の後補助参加人と被告との間に別訴が発生した場合にも、補助参加人が関与した本件本案の裁判資料が当該別訴において有効に活用されるであろうことが十分に予想でき、さらには、本件本案における判断が当該別訴における結論に事実上にせよ大きな影響を与えるであろうことも十分に予想できることを考慮すると、より強く肯定できるはずである。

(5) なお、訴訟関係者が増えることによつて、訴訟手続が煩雑になるとの懸念も、一般論としては考えられなくはないが、本件本案においては、前記のとおり、原告ら及び補助参加人と被告との間で争点は共通しており、しかも、補助参加人は当該争点の解明上重要な役割を有するのであつて、その補助参加を認めることに伴つて、訴訟手続が堪えがたく複雑になり、又は、訴訟の遅滞を招く恐れがあるとも考えがたい。

四  以上のとおりであるから、主文のとおり決定する。

(裁判官 八木一洋)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例